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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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閑話・黒白の茶会~間違った知識の仕入れ先~


 神界の一角、色とりどりの花々が咲き誇る空中庭園に二つの影が向かい合って座っていた。
 紅茶の置かれたテーブルで向かい合わせに座る銀白色の髪の女性と少女。ともすれば姉妹の様にも見える両者だが、片や長髪に純白の服に理想的なプロポーションの無表情な女性。片やセミショートの髪に黒の服、幼い少女の様な外見とコロコロ変わる表情。髪と瞳の色以外はまるで正反対と言って良かった。

「ね~シロ、コイバナしよう」
「コイバナ?」
「女の子同士が集まったら、恋愛の話で盛り上がるもんなんだよ!」
「……クロに性別は無かったと記憶していますが?」
「今は女の子の姿なんだから、女の子で良いじゃん!」

 明るい表情で告げるクロムエイナの言葉を受け、シャローヴァナルは抑揚の無い声で淡々と言葉を返す。
 両者は魔族と神族ではあるが、非常に長い付き合いの友人関係であり、頻繁にこうしてお茶を飲みながら雑談に花を咲かせており、今日もいつも通りクロムエイナが突拍子もなく話題を持ち出し、シャローヴァナルが冷静に答えるという形で会話が始まった。

「ほら、シロだって恋愛とかしてみたいって思うでしょ?」
「別に思いませんが?」
「ここは嘘でも思うって答えるの!」
「では、嘘ですがしてみたいと思います」
「うんうん。じゃあ、ボクが相談に乗ってあげよう!」

 全く感情を感じさせないシャローヴァナルの言葉にも、クロムエイナは慣れているのか全く気にした様子もなくどんどん話を進めていく。

「でも、クロも恋愛はした事無いですよね?」
「うぐっ……そ、そんなことないもん。ボクは何度も告白とかされた事だって……」
「私の知る限り、貴女に恋愛感情を抱いているのは全て『女性』ですが?」
「……ボクはモテるもん」
「モテると言うか、貴女の場合は大抵の相手から恋愛感情を通り越して『崇拝』ばかりされてるので、恋愛感情に発展しないのでは?」
「うぅぅぅ……」

 ズバズバと抑揚の無い声で告げるシャローヴァナルの言葉を受け、クロムエイナはガックリと肩を落とす。
 確かにクロムエイナを慕う存在は人族、魔族問わず非常に多い。しかし、シャローヴァナルの言葉通り、その大半は恋愛感情ではなく崇拝や忠誠といった感情であり、クロムエイナ自身が冥王という魔界でも頂点の一角とされる存在である事も起因して、そういった感情を抱く相手がほぼ存在しない。
 故に偉そうに提案してきてはいたが、実の所クロムエイナも恋愛経験など無かった。

「ま、まだ出会いがないだけだから!!」
「貴女は何年生きてると思ってるんですか?」
「……い、一万八千年くらい……」
「私の知ってる貴女の年齢より、大分少ないみたいですが?」
「女の子だもん! ちょっとくらいサバ読んだって良いじゃん!!」
「あまり意味は無いように感じますが……」

 抑揚の無い言葉ながら、微かに呆れた様な表情を浮かべるシャローヴァナル。クロムエイナは一先ず流れを切り替える為、強引に話を進めていく事にする。

「ともかく、今日はコイバナをするの!」
「構いませんが、何を話すんですか?」
「ん~やっぱりまずは、好みからだね! シロはどんな男の子と恋愛したい?」
「そうですね……先ず大前提として、私が興味を抱く相手で無いといけませんね」
「……今の一言で、この世界の殆どすべての存在が候補から外れたんだけど……」

 シャローヴァナルが興味を抱く存在というのは本当に少ない。というか、長い付き合いのクロムエイナですら、片手の指で数えるほどしか知らない。
 つまるところシャローヴァナルのこの返答は、正しく恋愛なんてする気が無いと言うのと同意義だった。

「そう言うクロは、どんな相手が良いんですか?」
「う~ん。ボクはやっぱり、ほら、可愛い子が良いな~何も知らなくて不安そうで、それでも何かを求めてるような、そう言う色々教えてあげたくなる様な子が良いなぁ~」
「それは貴女が好きな雛鳥の定義ですよね」
「うっ、それはそうだけど……やっぱ好きって言うとそういう子が……」
「そう言う相手を見つけても育ててばかりだから、恋愛感情を抱かれないのでは?」
「うぐっ……い、いやそれだけじゃないんだよ! なんかこうその中でも特別な子は、見た瞬間ビビッと来るんだよ! 何か運命を感じるんだよ!!」
「……女性ばかりですよね?」
「うぅぅ……何で男の子でビビッとくる子いないのかなぁ~」

 再び無表情で鋭い突っ込みが入り、クロムエイナはガックリと肩を落とす。
 確かにクロムエイナは今まで何度かその好きな雛鳥の中でも特別な存在と出会った事はある……が、それは全て性別的に女性ばかりであり、男性は一人もいなかった。

「う~ん。恋愛って難しいね」
「そうですね」
「あ、そう言えば気になったんだけど、異世界の子達ってどんな風に恋愛してるのかな? こっちの世界と同じ様なものなのかな?」
「分かりませんね。見てみますか?」
「うん。よろしく~」

 結局恋愛経験の無い両者ではあまり話が広がる事もなく、結局恋愛は難しいと結論付けて話は一端打ち切る。
 そしてクロムエイナはふと思い出した様にシャローヴァナルに異世界の恋愛について尋ね。シャローヴァナルも異世界の事に関しては知らないので、調べてみるかと提案する。
 幸い今年は勇者祭が行われる年であり、現在も勇者役が各地を挨拶の為回っている。
 クロムエイナが頷くのを確認し、シャローヴァナルは指を空中に円を書く様に動かす。すると空間がぼやける様に揺れて、どこかの国で行われているセレモニーの様子が映し出される。
 丁度勇者役がスピーチをしている場面らしく、黒髪の異世界人が騎士の並ぶ壇上に立ち何かを話している最中だった。

「丁度挨拶中みたいだね。ちなみにシロは並んでる男の子の中で、外見だけならどの子が好み?」
「違いが分かりません」
「シロの目はどうなってんの? 芋? 芋に見えてるの?」
「そう言うクロはどうなんです?」
「え? 雛鳥っぽい目をした子はいないみたいだから、ボクは興味無し!」
「……貴女の感想も私と変わらない気がします」

 壇上にいる異世界人と騎士達は両者の好みには当てはまらなかったらしく、どちらも興味なさげに言葉を交わした後、シャローヴァナルは勇者役の青年に視線を移す。

「……ふむ、どうやらこの方は『二次元』という世界の女性と恋愛をした経験があるようです」
「ニジゲン? なにそれ?」
「異世界にある別世界の様な物みたいですね」
「こっちで言う、神界とか魔界みたいなのかな?」
「おそらくは……」

 勇者役の青年の心の中を覗き、シャローヴァナルがその中から恋愛に関するものを拾い上げて口にする。その内容はクロムエイナにとっても聞き慣れないものらしく、興味深そうな表情を浮かべて続く言葉を待つ。

「どうやらその二次元という世界の女性は、相手に対する好意を『好感度』という値で数値化して示すようです」
「えぇ!? 心を数字で表すの? 異世界ってやっぱり凄いんだね~」
「ええ、対象と遭遇したり会話することにより、その好感度という数値が溜まり、一定以上に達する事で『イベント』と呼ばれるものが発生し、相手との関係がより親密になるようです」
「い、イベント!? それはどんな?」

 シャローヴァナルが次々告げる言葉を受け、クロムエイナは興味深々と言った様子で椅子から身を乗り出しながら尋ねる。

「一緒に買い物に行ったり、食事を共にしたりするようです」
「ふむふむ、会ってお話しして仲良くなって、それから一緒に出かけたり食事をしたり……それ、普通じゃない? 別にコーカンドとか無くても、そうなんじゃないの?」
「いえ、どうやらそれだけではなく……好感度が溜まる事によって、強力な武器や冒険に役立つアイテムが貰える事もあるそうです」
「異世界では恋愛して仲良くなると、相手に武器あげたりするの!? アクセサリーとかじゃなくて?」
「ええ、二次元という世界は魔物が現れたりする様なので、中々過酷な場所なのでしょう」
「そ、そうなんだ……異世界にも魔物がいるんだ」

 この時点で、異世界の人間が見れば突っ込み所が満載ではある。とりあえず相手の心から恋愛という単語が関連しているもののみを読みとっていて、尚且つもの事を平等に見過ぎるシャローヴァナルの情報には、致命的な欠点がある。
 そう、それは彼女にはゲームの世界である二次元も、異世界の現実といえる三次元も同じものとしか認識しておらず、そこに優劣を全く付けず必要な情報のみを抽出している為、読みとる相手によっては酷く偏った情報を得てしまう。
 しかし残念ながら、今この場にそれを訂正できる人物はいない。

「しかもそれだけではなく、好感度が上昇する事によって、恋愛対象である女性は強くなる事もあるみたいです」
「えぇぇ!? 異世界の子は、恋愛すると強くなるの!?」
「そのようです。場合によっては魔法を覚える事もあるようですね」
「魔法も覚えちゃうの!? ……コーカンドって凄いんだね!」
「ええ、ですがその好感度は基本的に女性側にしか存在しない様です」
「え? そうなんだ……じゃあ、異世界の男の子と恋愛する時は、ボク達もコーカンドが溜まって、イベントってのを経験したら、プレゼントあげた方が良いんだね」
「ええ、その方が異世界人と親密になりやすいかと思われます」
「へ~覚えておこう」

 こうしてまた一つ、異世界の知識が間違った形でこの世界……その極一部の存在へ伝わる事となった。
 そして幸か不幸か、これより丁度10年後……一人の青年が、この間違った知識を一身に受ける事となるとは、この時点では神すら予想していなかった。











クロの変な異世界知識は、大体シロのせい。
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