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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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全部お見通しだったみたい

 狂信者ルナマリアさんは置いておいて、改めてクロと家主であるリリアさんとの会話が始まる。
 とはいってもクロはもう真面目モードとやらから、通常モードに戻っているみたいなので、ガチガチに緊張しているリリアさんに明るく笑顔で話しかける。

「アルベルト公爵……リリアちゃんって呼んでいい?」
「え? あ、はい。勿論」
「じゃ、改めてよろしくね~ほんと今日は急にごめんね。でも、こんな物々しく歓迎してくれなくても良かったんだよ?」
「い、いえ! 冥王様をお迎えするのには、あまりに粗末なもてなしとなってしまい、申し訳ありません。私の不徳の致すところです」
「いやいや、全然気にしなくて良いよ? て言うか、冥王だとかじゃなくて名前で呼んでくれればいいよ?」
「い、いえ、そんな恐れ多い」

 クロは相変わらずの様子でニコニコと笑顔で喋っており、リリアさんは分かりやすい程に緊張している。

「あ、そっちの子達はカイトくんと同じ異世界の子だね~」
「あ、はい! 楠葵です」
「ゆ、柚木陽菜です」
「アオイちゃんにヒナちゃんね。ボクはクロムエイナ。よろしくね~」

 クロは楠さんと柚木さんにも声をかけ、二人共慌てた様子で頭を下げる。
 かなり戸惑ってるみたいだ……うん。気持ちはホントよく分かる。だってクロって、全然偉い方って雰囲気無いけど、六王の一角だからね。
 俺はもうこの調子のクロに慣れてるから大丈夫だけど、リリアさん達にしてみれば王様がいきなり友達感覚で話しかけてきてるみたいな状況で、どうしていいか分からない感じなんだろう。

「あ、それでね。リリアちゃん、カイトくんから聞いてるかもだけど、今まで勝手に屋敷に入っちゃってごめんね」
「あ、い、いえ!? 勿論構いません! むしろ、今までロクなお出迎えも出来ず……」
「出来ればこれからもちょくちょく来たいんだけど、良いかな?」
「は、はい!? 冥王様がお望みとあれば、いつなりと!」

 あ、リリアさんがテンパりかけてる。もう何かいっぱいいっぱいって感じだ。
 特にさっきクロが今まで勝手に忍び込んでた事を謝罪して頭を下げた時なんて、顔色が青を通り越して真っ白になってたし、その上クロが話すペースが早いので、もう状況に全然付いていけてない感じがする。
 するとそんなリリアさんを助けるかのように、丁度このタイミングで茶菓子が運ばれてくる。

 明らかに一流のパティシエが作ったと思える様な、見た目も芸術的なケーキを筆頭に、色鮮やかな菓子類が並ぶ。
 正しく国賓と呼べる存在の為に用意されたであろう、それを見て、クロは隣にいる俺にだけ聞こえる様な声で小さく呟く。

「うへぇ……食べにくそう……」
「……」

 うん。何となく俺もクロのイメージと違う様な気はしていたけど、こう言った豪華絢爛な菓子類はあまりクロの好みでは無いみたいだ。
 思い返してみれば普段はベビーカステラを食べてるし、本人曰く食べ歩きが趣味との事で、クロは庶民的なお菓子の方を好むイメージがある。
 そんな俺の予想はどうやら的中したらしく、クロは結局義理立て程度にそれぞれのお菓子を一口ずつ食べて、それ以上は手を付けない……どうもお気に召さなかったらしい。

 クロが出されたお菓子を気に入ってないのは、リリアさんも察したらしく、青い表情に冷や汗が流れ始め、何とも可哀想な状態になってきている。
 そしてそんなリリアさんに追い打ちをかける様に、使用人が一人部屋に入ってきて、ルナマリアさんに何かを伝えて退室していく。

「お嬢様、王宮から国王陛下の書状をもった使者が来たそうです」
「ああ、恐らく冥王様に国王が直々に一言ご挨拶をしたいという事でしょうね……冥王様、国王陛下より書状が――ッ!?」

 会話の内容から察するに、この国の王……つまりリリアさんのお兄さんが、是非冥王であるクロに挨拶をしたいと言っているらしい。
 だけどあくまで現在のクロはアルベルト公爵家の来客であり、国王に会いにきている訳では無いので、一度許可を取ってからと使者を送ってきたのだろう。
 リリアさんも国王の意図はすぐに理解し、クロに確認を取ろうとしたのだが、話を聞いたクロの表情から――笑顔が消えていた。

「……うん? えと、リリアちゃん?」
「は、はい!?」
「……『ボクのお気に入りのカイトくん』を、『夜会から除け者にしたシンフォニア国王』が、なんだって?」
「……あ、いえ、その……」

 先程まで浮かべていた笑顔を消し、分かりやすい程不機嫌オーラ全開になったクロの言葉を受け、リリアさんは滝の様な汗を流す。

「よく聞こえなかったから、もう一回言って欲しいんだけど……」
「……失礼致しました。こちらの勘違いでした。ルナ……叩き返しなさい」
「畏まりました」

 クロの意思は十分に伝わったのか、リリアさんは素早く先程の話をなかった事にする。
 そして殺意すら感じられる声で指示を出し、それを受けたルナマリアさんが完全に座った目で、ペキペキと手を鳴らしながら退室していった。

「……また、あの馬鹿兄上……本当にロクな事をしない……」

 明らかに空気が変わってしまったクロから目を逸らし、リリアさんは両手で頭を抱えるようにして小さく、殺意の困った声で呟いていた……リリアさんって、本当に苦労人だ。
 ともあれ、会話が途切れてしまい大広間内の空気が重たいものへと変わってしまった。
 リリアさんは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、チラチラと助けを求める様な目を俺に向けてくる。
 これはつまり、クロの機嫌を何とか元に戻してほしいという意味だろう……え~と、どうしよう? あ、そうだ。アレがあった。

「……そう言えば、昨日クロが好きそうなお菓子見つけて、買って来たんだよ」
「え? カイトくんが、ボクに?」

 あまりにも可哀想なリリアさんのSOSを無視する事は出来ず、俺は昨日買っておいたクッキーをマジックボックスから取り出す。

「おぉ! ジャムクッキーだ!」

 どうやら興味を引く事が出来たらしく、クロは俺が差し出したジャムクッキーを興味深そうに見つめた後、一つ摘んで口へ運ぶ。

「うわっ! これすっごい美味しい! カイトくん、これどこで買ったの?」
「えっと、噴水広場から西の通りにある菓子屋」
「西の? えっと、本屋さんの隣にあるお店?」
「いや、確か隣はパン屋だった筈だけど……」
「あぁ! 向こうの方か……うわっ、こんな美味しいの売ってたんだ。ねね、そこってジャムも売ってた?」
「ああ、色々な種類のが売ってたよ」
「おぉ、じゃあ後で買いに行こ~」

 どうやら気に入ってくれたらしく、クロは表情を満面の笑顔に戻して次々クッキーを口に運んでいく。
 やっぱりこう言う庶民的なお菓子の方が好きらしい。明らかにさっきまでと食べてるペースが違う。
 ともあれこれで少し不機嫌になっていたクロの機嫌も元に戻り、リリアさんとも明るい笑顔で会話を再開する。
 初めは戸惑いと緊張が大きかった様に見えたリリアさんだが、そこは流石クロと言うべきか、明るく楽しげに次々と話題を振っていき、次第にリリアさんの表情にも笑顔が現れ固さが取れて会話が弾んでいった。




















 談笑という言葉がピッタリ当てはまる様に、楽しげな会話が続き、気が付くと時間はあっという間に流れ、クロが帰る時間になり、皆で玄関までクロを見送る。

「じゃ、リリアちゃん。今日は楽しかったよ。ありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございますクロムエイナ様。また、是非いらしてください」
「うん。あ、次はこんな仰々しくもてなしてくれなくて良いからね?」
「ふふふ、分かりました」

 リリアさんもすっかりクロと打ち解け、呼び名も冥王様ではなく名前で呼ぶ様になっていた。
 いや、本当にクロの社交性というかコミュ力は相当なもので、リリアさんだけでなく楠さんや柚木さんともあっという間に打ち解けて、仲良くなっていた。

「アオイちゃんにヒナちゃんも、また話そうね」
「はい。クロム様」
「クロム様、また色んなお話聞かせてくださいね」

 クロに声を掛けられ、楠さんと柚木さんも嬉しそうな笑顔で頷く。
 二人がクロの事を様付けで呼んでいるのは、やはり冥王であるという感覚が強いからだろう。俺も初め出会った時に、クロの事を冥王だと知っていたらそう呼んでいたかもしれない……まぁ、今となってはもう、クロと呼ぶのに慣れてしまったので、今さら変える気もないけど……

「ルナマリアちゃんの淹れてくれた紅茶美味しかったよ。また、飲ませてね」
「は、はい! いつなりと」

 ちなみにルナマリアさんは相変わらずだ。というかこの人の場合は元々クロに対する好感度は振り切れているので、クロに話しかけられるたびに幸福の絶頂にある様な表情を浮かべていて……正直かなり怖かった。

「あ、そうだ。忘れるとこだった……リリアちゃん、これ」
「え、これは――ッ!?」

 そうして一人一人挨拶を交わした後で、ふとクロは何かを思い出した様にコートから一枚の紙を取りだしてリリアさんに手渡す。
 リリアさんはその紙を受け取り一度首を傾げた後、その紙に書かれている内容を見て目を見開く。

「……魔界の方は、ボクが片付けといたから……人界の方は、任せちゃって良いかな?」
「はい。お任せ下さい」
「うん。よろしくね~」

 内容はよく分からなかったが、何やら重要な内容みたいで、リリアさんはクロの言葉を受けて真剣な表情で頷く。
 う~ん。何だろうこれは……クロが皆と打ち解け、今後気軽にここに訪れる事が出来る様になった。喜ばしい事だと思うんだけど、何と言うか少し複雑な気分だ。
 今日も全体でみれば、クロとあまり多く話は出来なかった気がするし……もしかして俺は寂しがってるんだろうか? 
 だとしたら何とも情けない話だけど……困ったことに否定も出来ない。

 クロが誰とでも仲良くなれる性格だってのは分かってた筈だし、むしろだからこそ俺も仲良くなれたんだろう。なのに、いざこうしてクロがリリアさん達と仲良く友達みたいになってるのを見て、自分の優位性が無くなったみたいに感じるのは女々しい話だ。
 クロにとっての俺はあくまで『友達』であり、別段特別な存在という訳ではない。ぼっち歴が長かったせいで、向けられ慣れてない好意を過大解釈する悪癖があるのかもしれない。
 所謂勘違い野郎だ……うっ、自分で考えてて情けなくなってきた。これはちょっと反省して頭を切り替えないと……

「……カイトくん、カイトくん」
「え? うん?」

 そんな事を考えていると、クロが俺に小さく手招きをしているのが見え、それに従って近づくとクロは背伸びをして俺に耳打ちをしてきた。

「……クッキーありがと、凄く嬉しかったよ。今日はあんまり話せなくて寂しかったし、今度は『二人っきり』で、どこか遊びに行こうね」
「……へ?」

 甘く囁く様な声でそう告げた後、クロは花が咲く様に明るい笑顔を浮かべ、大きく手を振りながら去っていった。

 拝啓、母さん、父さん――クロと皆が仲良くなったよ。色々思う所はあったけど、やっぱりクロは――全部お見通しだったみたい。







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