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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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バレンタイン番外編~アイン&エヴァル~

本日十二話目。


 魔界にある大商会。セーディッチ魔法具商会の本店に隣接した位置に存在する、冥王クロムエイナの居城。そのキッチンには、メイドのアインと銀狼エヴァルの姿があった。

「……チョコレートの作り方を教えてほしいと、そういうことでしたね?」
「はい。お願いします。アインの姐御!」
「なぜ、今年に限って?」
「あ、いや、それは……アハトの馬鹿が、その、カイトのことを羨ましがってまして……ま、まぁ、あんなのでもあたしの相棒なんで、偶にはいいかなぁって……けど、あたしはガサツで、料理なんてまったく駄目駄目なので、姐御に教わろうかと……」

 旦那であるブルーオーガのアハトにチョコレートを贈りたいが、料理の経験が無く作り方が分からない。それならばと、エヴァルはアインを頼った。
 アインはその言葉を聞いて少し顎に手を当ててから頷く。

「構いませんよ……しかし、私が指導する以上、半端なもので完成とは認めませんが……よろしいですね?」
「は、はい! よろしくお願いします」
「まぁ、それほど気負わずとも、簡単なものならすぐに作れるようになります」

 確固たる意志で頷くエヴァルをみて、ふっとアインは優しげに微笑んでからチョコレート作りの指導を始める。
 メイドとはあらゆる面において完璧に最も近くなければならない、というのがアインの持論であり、その信念通り彼女は指導者としても一級品だった。

 拙い手つきで料理をするエヴァルに、的確に指示を出しながらチョコレートの完成へと導いていく。
 そして口では「不出来なものは許さない」などと言ってはいたが、やはりアインも家族には少し甘くなる。

 エヴァルが作り上げたチョコは、お世辞にも上手とは言えなかったが、彼女なりにしっかりと努力したのが伝わってくる出来であり、アインは満足げに頷いてから微笑む。

「……まぁ、及第点といったところです。よく頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます!」
「では次に包装ですが……その前に少し休憩しましょう」

 そう告げるや否や、即座にエヴァルの前には出来たての紅茶が用意され、二人は席に座ってお茶を楽しむ。
 そこでふと、エヴァルはある疑問を抱き、不思議そうな表情でアインに尋ねた。

「そういえば、姐御はチョコ作ってませんでしたけど、カイトに贈ったりしないんですか?」
「うん? もう既に完成していますよ……こちらです」
「……は? い、いやいや、ちょ、ちょっと待ってください姐御……これはいったい……」
「チョコレートです」
「い、いえ、そうじゃなくて……この量は……」

 アインが快人に贈るために用意したチョコレートを見て……いや、山のように積み上げられたとてつもない数の包装された箱を見て、エヴァルは絶句する。
 少なくとも百や二百という量では無かった。クロムエイナの居城のキッチン……もの凄く広いこの空間すら埋め尽くしそうな、あまりにも多すぎる量。

「ああ、カイト様の好みに合わせて『百種類』のチョコレートを『百箱』ずつ製作しました。丁度一万ですね」
「い、一万……い、いや、姐御……流石にこれは、多すぎるんじゃ……」
「問題ありません。専用のマジックボックスも用意していますので、いつでも食べることができます」
「……そ、そうっすか……」

 ごくごく当たり前のように百種一万箱のチョコレートを用意したと告げるアインを見て、エヴァルは戦慄したような表情を浮かべつつ頷く。
 しかも百種類全て、快人の好みに合わせているというから驚きだ。

「……し、しかし、姐御。よくそんなに、カイトの好みを知っていますね?」
「そうですね……説明しましょう」
「なんですか? この『図』は……」
「カイト様がいままで食された食事と、食後の様子から好みの傾向を分析したものです。カイト様は好き嫌い自体は少ないですが、味付けとしては単純なものを好む傾向にあります。好きな食べ物はハンバーグで、嫌いな食べ物はピーマンです。そして菓子類の好みですが、くどい甘さより果実系のアッサリとした甘さをこのんでいます。なので用意したチョコレートの内二十種は、ドライフルーツや果汁を使用したものにしてあります」
「……は、はぁ……」

 大きく広げられたグラフの載った図を指差しながら説明するアインに、エヴァルは圧倒され……やや引き気味で頷く。
 どうやって調べたのか分からないが、快人がこの世界で口にした食材のほぼ全てがそこに記載されており、好みを非常に細かく分析してある。

「また、やはり元の世界の菓子類も恋しいのか、そちらを食べたがっているのは調査済みです」
「……カイトがそう言ってたんですか?」
「いえ、ですがカイト様の心中を読みとるなど、メイドである私には容易なことです」
「な、なるほど……そ、そうなんですね……」
「ええ、そして話を戻しますが……異世界の製品化された菓子に関しても、名前の分かるものは全て再現が完了していますので、五十種類はカイト様の世界のチョコレート菓子です。パッケージも完璧に製作しました」
「……あの、質問でいいですか?」
「どうぞ」

 相変わらずのメイド万能理論を展開しつつ、かなり壮絶な内容を説明され、エヴァルの頭はもうショート寸前ではあったが、振り絞るように質問を口にする。

「その、異世界のチョコレートって、どうやって作り方とか、見た目とか調べたんですか?」
「シャルティアを絞め上げ……いえ、誠意をもってお願いしたら、快く教えてくれました」
「絶対脅迫してる!? そ、そこまでするんすか……」
「当然です。カイト様にチョコレートを贈ると決めたのならば、カイト様の知識にあるチョコレートは『全て』作れるようになっておくのが、メイドとして当然の嗜み……そうでしょう?」
「あ、はは、はい! その通りっす!」
「結構……そして、残りの五十種類はこの世界にもあるチョコレートですが、こちらも世界中のパティシエを脅……協力を願い、現存する全てを把握して習得しました」
「脅しっていった、いま絶対言った!?」
「気のせいです。さて、改めてカイト様のチョコレートの嗜好に関してですが、食す際の動作も含め……」
「え? それ、別に知りたくは……」
「……なにか言いました?」
「い、いえ、是非教えてください!」

 決死とすら言える覚悟でバレンタインに臨んでいるアインを見て、エヴァルはもう完全に恐怖を感じていた。
 なにせ自分と違いすぎる。エヴァルもチョコレートには、旦那であるアハトへの愛を込めたつもりだが……アインのはソレは文字通り桁が違う。

 そのことを理解し、どうやってこの恐ろしい空間から逃げようかと考えつつ、エヴァルはアインには聞こえない小さな声で呟いた。

「……カイト、頑張れよ。姐御の愛は……とんでもなく、重いぞ……」

 この壮絶な愛を一身に受けるであろう存在の安否を心配しつつ、さらに新たな図を取り出しているアインを見て、エヴァルは全てを諦めた表情で話を聞き続けた。



アインさんの愛は重い。
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