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バレンタイン番外編~フィーア&ノイン~

本日九話目。



 シンフォニア王都の一角、診察所に隣接した家のキッチンでは、家主であるフィーアが困った表情を浮かべていた。


「どうかしましたか、フィーア? 表情が優れませんが……」

「いや、おかしいよね? ここ私の家だよね? なに当り前のように、エプロン身につけて料理してるのかな?」

「いえ、これはエプロンではなく割烹着です」

「へぇ……って、そういう問題じゃないからね!?」


 割烹着を身に付けたノインは、明日のバレンタインのために料理をしており、何故か自分の家のキッチンを貸すことになったフィーアは溜息を吐く。


「……家で作ればいいのに」

「……は、恥ずかしいじゃないですか……」


 ノインはクロムエイナの家で、多くの家族と共同生活をしており、そこでバレンタインの菓子を作るのは恥ずかしいらしく、こうしてフィーアの家で料理をしていた。

 フィーアはクロムエイナと和解したが、シンフォニア王国で医者を続けており、家族とは離れて暮らしている。

 親友であるノインにとっては利用しやすい環境だと言え、フィーアもそれが分かっているのか、あまり強くは文句を言っていなかった。


「……それで、ヒカリはなに作ってるの? チョコレート……じゃ、ないよね?」

「え? ええ、私はちょこれいと……洋菓子はよく分からないので、おはぎを作っています」

「おはぎ? マンジュウってのとは違うの?」

「ええ、ちょっと違いますね」


 ノインは和菓子を好んで食べるため、洋菓子については知識もさほどなく、美味しいものを作れる自信がない。

 そのため、作り慣れた和菓子……おはぎをバレンタインに贈ろうと製作している。

 逆にフィーアは和菓子に関しては、ノインに聞いて少し知っている程度なので、そのおはぎ作りを興味深そうに眺めていた。


 そのまましばらく作業を眺めた後、フィーアもいくつかの材料を手に持ち調理を開始する。


「……フィーアは、なにを作ってるんですか?」

「うん? ハーブクッキーだよ」

「ちょこれいとではないのですか?」

「あ~うん。だってほら、きっとミヤマくんはチョコレートいっぱい貰うだろうし、優しいからしっかり食べようとすると思う。だから、甘さ控えめでお腹に優しいハーブクッキーを作って贈ろうかな~って思ってる」


 手際よく調理を進めながら……いや、時々恒例のドジで容器を落としかけたりしながらも、フィーアは快人へ贈るハーブクッキーを作っていく。

 沢山チョコレートを貰うであろう快人を気遣ったお菓子選び、そして一つ一つ丁寧に仕上げていく様子を見ながら、ノインは穏やかに微笑む。


「……快人さんのこと、よく考えてるんですね」

「そりゃ、もちろん。大好きな相手のことなんだから、しっかり考えるに決まってるよ」

「……だ、大好きって、そんなあっさり……」

「うん? 私なにか、おかしいこと言ったかな?」


 当り前のように快人を好きだと口にするフィーアに、ノインの方がやや照れながら尋ねるが、尋ねられたフィーアは不思議そうに首を傾げる。


「い、いや、そんな堂々と……恥ずかしくないんですか?」

「なんで? 私はミヤマくんのことが好きで、愛してるよ? その気持ちは、なにも恥ずべきものじゃないと思う」

「そ、そうかもしれませんが……」

「う~ん。ヒカリは恥ずかしがり屋だからねぇ……そんなんじゃ、私がミヤマくんを独占しちゃうよ?」

「え? だ、駄目です!」

「ふふふ」

「あっ……いや、その……」


 おどけたように告げるフィーアに、慌てて反応したノインは、すぐに自分の発言が恥ずかしくなったのか顔を俯かせてしまう。

 その様子を微笑ましげに見つめつつ、フィーアはクッキーをオーブンに入れて焼き始める。


「……まぁ、愛情表現なんて人それぞれだよ。私は、ミヤマくんのことが好きで、その気持ちをいっぱい伝えたいって思ってるし……ミヤマくんを好きだって口にすることに、恥ずかしさは感じないってことだね」

「な、なるほど……フィーアは、その、凄いですね」

「そ、そうかな? 私は単純なだけだと思うよ」

「ああ、それはそうかもしれませんね」

「そ、そこは否定してくれないんだね……ま、まぁ、ヒカリはヒカリらしく、ミヤマくんに好意を伝えればいいさ」


 愛情表現の仕方は人それぞれ、躊躇なく好きだと口にするフィーアも、あまり発言するのは恥ずかしいとおもうノインも、快人想う気持ちは変わらない。

 それが分かっているからこそ、こんな風に二人で互いに同じ想い人のことを話し合える。


「……そうですね。私は私らしく……ですね」

「うんうん」

「なんか、今日のフィーアは、いつもよりカッコイイですね」

「そ、そうかな? そう言われると照れちゃうよ……さぁ、クッキーが焼けるまでお茶でも――ふぎゃっ!?」


 ノインにカッコイイと言われたフィーアは、少し照れながら頬をかき、紅茶を入れようと移動しかけて……例によって例の如く、テーブルに足を引っ掛けて派手に転ぶ。


「あぅ……痛い……」

「その、ドジなところは……相変わらずですよね」

「うぅ、私も、好きでドジ踏んでるんじゃないのに……」

「まぁ、それもフィーアらしさ、ですね!」

「え? ドジ踏むのが私らしさ? なんか、やだ……」

「快人さんにクッキーぶちまけたりしないで下さいよ?」

「だ、大丈夫……ま、魔法で浮かせとけば、こけてもクッキーは落ちないから……」

「……そもそも、こけることを前提に対策を練ってるあたり、もうどうしようもないですね」


 顔を床に打ちつけて、涙目になっているフィーアを見て、ノインは微笑ましげに苦笑する。


「……ヒカリ、絶対ばかにしてるでしょ?」

「いや~相変わらず抜けてて安心しました」

「むぅぅぅ……い、いいもん! そういうこと言うなら、私にだって考えがあるから!」

「考え?」

「この……『前にヒカリが書いてボツにした手紙』をミヤマくんに……」

「なぁっ!? なんで、そんなもの持ってるんですか! プライバシーの侵害ですよ!!」

「どっかの誰かが、人の家の恋愛相談所みたいにしたあげく、ロクに片づけせずに帰ったから私の手元にあるんだよ?」

「……うぐっ……そ、その件に関しては……非常に申し訳なく……」


 フィーアの言葉に、ノインは痛いところを突かれたと視線を逸らす。


 親友同士だからこその軽口。愛情表現の仕方は正反対でも、やはり二人はどこか似ているみたいで……その日も最後まで、そんな調子で会話しながら、同じ相手に向けて菓子作りを行った。





フィーア先生の愛情表現はストレート。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今になって最初から読んでいるものですが、時系列が掴めないです これは、もう全てが終わったあとの話ってことでいいんですかね
[一言] …これ番外編とかって本編が一段落ついたあたりで読んだ方がいいんかな?|ω' )
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