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まだまだこの一日は続くみたいだ



 雑談をしながらアリスとの食事は進み、「~夏風の香りを添えて」だとか「なんとかソース仕立て」だとか、一度聞いただけでは覚えられない名前の、非常に美味しい料理を食べ進める。

 リリアさんの家でも、流石は公爵家と言った感じの豪勢な料理は出たが、リリアさんの性格上贅をこらした料理というのはあまりなく、こうしたいかにも高級料理というのは初めて食べた。


 どれもこれも非常に複雑ながら美味しく、同時にとても新鮮で、目で舌で存分に堪能した。


「う~ん。美味しかった」

「ふふふ、そう言ってもらえると勧めたかいがありますよ」


 食後のお茶を飲みながら、まったりと会話をしつつ……気になるのはお値段だ。

 流石に今の俺の所持金で払えないということはあり得ないだろうが、こんな高級店に来るのは初めてなので、一体どのぐらいの値段なのかが気になる。


 そう思っていると、お茶を飲み終えたアリスがそろそろ出ようかと言ってきて、俺もそれに頷いて立ち上がりつつ、待機している店員に話しかける。


「すみません、会計を……」

「ノーフェイス様から、先程いただきました。どうぞ、そのままお帰りいただいて結構です」

「……え? あ、いや……」

「ご馳走様でした。シェフにも、美味しかったと伝えてくださいね~」

「ちょっ、アリス!?」


 料金は既に受け取っていると言ってくる店員に俺が戸惑っていると、アリスは全く気にした様子もなくスタスタと歩いて出口に向かう。

 まるで初めからこうするつもりだったみたいな反応……慌ててアリスを追いかけると、アリスはこちらを振り返りニヤリと笑う。


「まぁ、そういうわけですので……ここは私に奢られちゃってください」

「……もしかして、アリス。お前、最初っから」

「……ま、まぁ、その……ディナー奢ってくれとかは、その、デートしたい口実でしたし……こ、このぐらいお礼をさせてください」

「……お礼って、なんの?」

「絶対分かってて聞いてますよね!?」


 残念。少し不意を突かれたお返しにからかおうと思ったのだが、簡単に見破られてしまった。

 顔を赤くして不満そうに告げるアリスだが、その表情はすぐに苦笑に変わり、どちらからでもなく手を繋いで歩きだす。


 このまま真っ直ぐアリスの家に帰るのもいいが、なんだか心地良い雰囲気だし……もう少しこのまま、食事の余韻に浸りたい思いがある。


「……さて、カイトさん……折角ですし、浜辺でも散歩して帰りませんか?」

「そうだな、食後の運動にもいいかも」


 どうやら、アリスも同じことを思っていたみたいで、近くの浜辺を散歩しないかと提案してくれ、それを受け入れて店の外に出た。








 夜の浜辺には押しては返す波の音と、砂浜を踏みしめて歩く俺達の足音が響く。

 今日は月が綺麗に出ていることもあって、海に反射した光でそれなりに明るさを感じる。


「……ねぇ、カイトさん?」

「うん?」

「……なんか、あっと言う間に時間が過ぎちゃいましたね」

「ああ、凄く楽しかったな」


 指を絡めた……いわゆる恋人繋ぎで歩きながら、穏やかな口調で会話をする。

 手から伝わってくるアリスの体温と、柔らかい雰囲気の声がとても心地良く、月明かりに照らされる浜辺というシチュエーションも相まって、なんだか凄く幸せな気分だ。


「……はい。本当に、楽しかったです。こんなに楽しいのは、いつ以来だったか……思い出せないぐらいです」

「アリスが楽しんでくれたなら、俺も嬉しいよ」

「……カイトさん」

「うん?」

「……また、こうして、一緒に出かけてくれますか?」

「勿論、いくらでも」


 ああ、頬を撫でる海風も、耳に聞こえてくる波の音も、確かな温もりも……どれも、本当に心地良い。


 アリスとのデート……一日の間にいろんなことがあった。

 芸術広場でメギドさんの意外な一面を見て、慌てる可愛らしいアリスを見れた。昼食を恥ずかしさを感じながら食べさせ合って、ギャンブルで一勝負して……そして今も、隣にアリスが居る。

 本当に、デートが終わることに寂しさを感じるぐらい、とても、楽しかった。


「……カイトさん」

「うん?」

「……好きです」

「……俺も、アリスが好きだ」


 互いに好きだと伝えあい……そして、殆ど同時に足を止め、俺はアリスに、アリスは俺に視線を向けて見つめ合う。


「……カイトさん。えっと、ほら、私、そういうのはまだ早いって言いましたけど……」

「うん」

「で、でも、その、き、きき、キスくらいは……いいと、思うんです」

「……いいのか?」

「はい……その、いい雰囲気ですし……凄く、幸せで……カイトさんとキス……したいです」

「……アリス」


 まるで引き寄せられるように、アリスの肩に左手を置き、右手でアリスの仮面を外す。

 サファイアみたいな青く美しい瞳に俺の姿が映り、月明かりに照らされる金色の髪が、幻想的な程に美しく見えた。


 一秒、十秒……少しの間見つめ合い、アリスがそっと目を閉じたのを合図に、俺はしゃがむようにしてアリスに顔を近づける。

 ゆっくり、この瞬間の彼女を脳裏に焼き付けるように近付き、俺達の距離がゼロになる。


「……んっ」


 ぷっくりと柔らかいアリスの唇……その甘美とすら言える感触を、温もりを、余すことなく味わう。

 アリスの手が俺の首の後ろに回され、俺もまたアリスの背に腕を回す。

 

 まるで今だけは世界に二人だけのような、そんな気持ちを感じつつ……俺達は時を忘れて、想いを重ねあった。









 浜辺を散歩した後は、互いに無言のままでアリスの家に戻ってきた。

 体が火照るように恥ずかしく、かといって嫌な気分ではない。そんな、くすぐったい気持を感じながら、アリスに勧められて先にお風呂に入ることにする。


 湯の温もりで一日歩いた体の疲れを癒しながら、脳裏に浮かぶのは先程のアリスの姿。

 記憶にしっかりと焼きついたソレを思い出すと、気恥ずかしさと一緒に再び幸せな気分に浸らせてくれた。


 どこか悪友のような感じだったアリスとの関係は、こうして大きく変わり……今の俺にとって彼女は、愛おしい恋人へと、存在感を増して心の中にいる。

 なんとなく明日からもまた、楽しくなりそうだと……そんな風に感じていると、控えめなノックの音が聞こえてくる。


「……カイトさん、湯加減はどうですか?」

「え? う、うん、丁度良いよ」

「そ、そうですか……で、では……し、しし、失礼します!」

「へ? なぁっ!?」


 浴槽に浸かりながら返事をすると、直後に決意を固める様な声と共に扉が開かれ……恥ずかしそうに体にタオルを巻いたアリスが入ってきた。

 え? ちょっと、待って!? なにこれ、どういう状況!?


「あ、ああ、アリス!? い、いったいなにを……」

「そ、そそ、その……で、ですから……か、カイトさんに……『ご褒美』を……」

「ご、ご褒美?」

「は、はい。こ、ここ、こんな、び、美少女のアリスちゃんに、せ、背中を流してもらえるんですから……ご、ご褒美なんです!!」

「……へ?」


 拝啓、母さん、父さん――名残惜しさを感じつつも、アリスとのデートは一段落して、アリスの家に戻ってきた。しかし、それで終わったと思っていたのは甘い考えであり――まだまだこの一日は続くみたいだ。





この圧倒的なヒロイン力ですよ。

ノクターンの壁「ガタっ!?」

シリアス先輩「もうやめてぇ!? もう私のライフはゼロよ!!」


明日は休みなので、たまりにたまった感想返信は明日纏めて行います。

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― 新着の感想 ―
ノスタル爺「儂が壁を破壊すればええのかのぅ?」
[一言] ノクターンの壁|((⊂︎(`ω´∩︎) しゅっしゅっ 壊せ壊せ!!
[良い点] もうやめて!シリアス先輩のライフはもうゼロよ!
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