挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

311/526

抵抗を諦めた



 なんとかアリスを落ち着かせることができたが、かなり恥ずかしい思いをした。

「お、お見苦しいところを……」
「う、うん。とりあえずさっきのことは忘れよう」

 微妙に気まずさを感じつつ、話題を切り替えようとすると、丁度いいタイミングで料理が運ばれてきた。

「お待たせいたしました。前菜の『グロウシェリプと野菜のアスピックとズードシェルのマリネ』です」

 なんとなく高級フレンチ感のある料理名を告げつつ、店員は俺とアリスの前に皿を置く。
 グロウシェリプとズードシェルってのは、たぶんエビと貝かな? アスピックってのがなにか分からない。

「……アリス、アスピックってなに?」
「肉や野菜を煮たブイヨンをゼリー状にしたものです」
「な、なるほど……」

 よく分からないが、つまりこの皿にある星の形をしたゼリーが、アスピックらしい。確かに中を見ると、エビの身らしきものが入ってる。
 アリスの方をチラリと見ると、アリスは微笑みを浮かべながら「どうぞ、食べてみてください」と手を動かす。

 俺もこの世界に来てもう半年近く……ナイフとフォークでの食事にもすっかり慣れ、コース料理も優雅に食べることが……あっ、いや、みっともなくない程度に食べることができるだろう。
 そんなくだらないことを考えつつ、アスピックを口に運ぶと……うん、なるほど。上品な味だ。でも、ちょっと味が薄いかなぁ……。

「カイトさん、ソースに付けて食べた方がいいと思いますけど?」
「……う、うん」

 さ、先に教えてほしかったかなぁ、そういうのは……。
 改めて皿に模様のようにかけられているソースに付けて食べると、先程感じた上品な味がソースによって強調され、何倍も美味しく感じた。

 その美味しさを実感しつつ、アリスの方に視線を向けると……アリスは、普段の様子からは想像もできない程優雅に料理を食べていた。
 悔しいが、完璧な所作だ……顔に付けた仮面さえなければ。

「そういえば、アリス。最近、クロやアイシスさんが忙しそうな感じなんだけど……やっぱり、六王祭の準備が忙しいのかな?」

 料理を食べながらの雑談の話題に、俺はアリスも関係している六王祭のことを振ってみた。
 というのも、最近クロが俺の元を訪れる時間が減っている。今までは毎日3時間以上は居て、雑談したり魔法の練習をしたりしていたが、最近は1時間程度で帰ってしまう。
 いや、まぁ、それでも毎日来てるんだけど……。

 そしてアイシスさんも、二度ほど遊びに行っても留守だったことがあり、やはり六王祭の準備が忙しいと思っていたわけだが……アリスは、六王なのに割と暇そうだよな?

「あ~。カイトさんがなに考えてるか分かりましたけど、私も結構忙しいですよ」
「そうなの?」
「ええ、今も分体アリスちゃんが20体ぐらい働いてます」
「な、なるほど……」

 どうやらアリスは分体に作業を任せて、本体は俺と一緒にいるらしい。

「クロさんは、今回の発案者で総指揮ですから、忙しいのは仕方ないでしょうね」
「ふむふむ、アイシスさんも?」
「あ、えっと……アイシスさんは、その……が、頑張ってますよ?」
「え? なにその微妙な言い方」

 何故かクロの時とは違い言い淀むアリスに尋ねると、アリスは微妙な顔のまま言葉を続ける。

「いや、アイシスさんはある意味クロさん以上に張りきってるんですよ。まぁ、アイシスさんはずっと勇者祭以外で、こういったお祭りの主催側に回ることはなかったですし、それはもう嬉しそうでした」
「……良いことなんじゃないの?」
「……アイシスさんはですね。壊すのは超得意なんすけど、作ったり直したりはもの凄く下手でして……」
「あっ……」

 困ったような表情で呟くアリスの言葉を聞いて、以前マグナウェルさんに会いに魔界に行った時のことを思い出した。
 壊れた岩山を直すリリウッドさんを手伝い、直すどころか新たな岩山を壊していた時のことを……。

「特に今回は、アイシスさんが張りきってまして『いっぱい手伝う』とか、まぁ私達にとっては絶望的な言葉を告げてきたわけですよ」
「……」
「で、クロさんもそんなアイシスさんを無下にもできず、作っては壊れ、直しては壊れが繰り返されたわけです」
「な、なるほど……だからあんなに忙しそうだったんだ」
「ええ、最終的にクロさんが『アイシスはリリウッドの専属補佐に任命する!』っていって、なんとか作業が進むようになりました。まぁ、リリウッドさん泣いてましたけど……」

 リリウッドさん、なんて、不憫な……。
 しかし、そうか……アイシスさんも頑張ってるんだ。なんか、凄くはしゃいでる姿を想像して、微笑ましくなってくる。実害受けてるリリウッドさんは、たまったものじゃないだろうけど。

「そっか、でも、それはひとまず置くとして……六王祭が楽しみになってきたな」
「ええ、今回は『カイトさんとのお祭りデート』の為だって、クロさんも張り切ってますよ。まぁ、カイトさん的には『殆どの予定が埋まって』大変でしょうけど」
「……うん? ちょっと、待って。お前今、なんて言った?」
「え? で、ですから……カイトさんは六王祭の時に、基本的に主催の六王と回ることに……クロさんから聞いてないんですか?」
「……聞いてない」

 え? ちょっと待って、どういうこと? 六王祭の時に、基本的に主催の六王と回る?
 確か六王祭って、六王がそれぞれ一日ずつお祭りをプロデュースするんだよね? その主催と回る? それって、アレじゃないのかな……滅茶苦茶注目されるやつじゃないのかな?

「まぁ、尤もサイズ的に不可能なマグナウェルさんと、『俺が一緒じゃ楽しめねぇだろ? 歓迎ぐらいはするが、付きまとったりはしねぇよ』って、メギドさんは一緒には回らないって言いました。なので、クロさん、アイシスさん、リリウッドさん、私になると思います」
「……リリウッドさんはOKしたの?」
「ええ、御迷惑でなければ是非って言ってました」
「ふむ……」
「ま、まぁ、抵抗は無駄です。諦めてください!」
「悪役の台詞だからね、それ!?」
「あはは、ま、まぁ、きっと楽しいですよ……皆さんそれぞれの個性を生かした祭りを計画してますし」
「……ちなみにどんなのかだけ、聞いてもいい?」

 うん。俺もそろそろ分かってきた。こういう展開において、抵抗など無意味であると……まぁ、それに確かに、アリスの言う通り、楽しそうではある。

「クロさんはオーソドックスな祭りを計画してます。メギドさんは、まぁ、予想通りでしょうけど闘技大会みたいなやつです。リリウッドさんのは宝樹祭に近い形になりそうですね。マグナウェルさんは魔物との触れ合いをテーマにするらしいです。アイシスさんは、フリーマーケットに近い感じになるんじゃないですかね? 私のは、当日のお楽しみってことで」
「……フリーマーケット? 俺としては楽しそうではあるけど、他の来賓的にはどうなの?」
「開催前からもの凄く期待が集まってますよ。アイシスさんが集めた品々も並ぶとかで……カイトさんなら知ってるでしょうけど、アイシスさんって昔から気に入った本の中に出てきた品を集める趣味があるんですよ」
「うん。アイシスさんから聞いた」

 気に入った本の中に登場した花や宝石を集めるのは、アイシスさんの趣味で、俺も保管している部屋を見せてもらったけど、もの凄い数だった。

「その中には、もう絶滅した草花とか、伝説級の鉱石もあるんですけど……なんと今回、アイシスさんがその『全て』を手放すと宣言しまして」
「え? な、なんで!?」

 アリスが口にした衝撃的な言葉を聞いて、俺は食事中だと言うことも忘れて身を乗り出す。
 だって、あの品物はアイシスさんにとって思い出の品々で、宝物の筈だ……それを全部手放すって……。

 慌てて尋ねる俺を見て、アリスはどこか微笑ましげに俺の方を見つめ、ゆっくりと口を開く。

「……『もう……これは……いらない……これからは……ここに……カイトとの……思い出を……いっぱい並べる』……そう言って、保管庫を綺麗に片づけた後で、カイトさんと一緒に採ったアイスクリスタルなんかを大切そうに並べてましたよ。愛されてますね~」
「……アイシスさん」
「アイシスさんにとっては、今までの何万年もの過去よりも、カイトさんと歩くこれからの方が、ずっとずっと、大切だってことでしょうね」

 アリスの言葉を聞いて、ふっと肩から力が抜ける。そして同時に、言いようのない幸せな気持ちが湧きあがってきた。
 この期待には、是非とも応えてたい。アイシスさんとの思い出をいっぱい作って、あの保管庫に入りきらないぐらい思い出の品が、増えるといいな。

 拝啓、母さん、父さん――アリスから六王祭に関しての話を聞いたよ。なんか、俺がそれぞれの六王と祭りを回ることが決定しているらしい。それに関しては、うん――抵抗を諦めた。



タイトル見て、理性がついに崩壊かと思った人、怒らないから挙手。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ