表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/2395

俺の傍で煌いてくれるだろう



 アリスの話を聞いてみて、彼女が抱えてきた苦しみ、その全てを理解……出来たとはとても言えない。


「……アリス。俺も昔、両親を亡くしたから……残される側の苦しみってのは、少しぐらいは分かると思う。けど、俺が今まで過ごしてきた年月なんて、アリスの足元にも及ばない。だから、気安くアリスの気持ちが分かるなんて、言う事は出来ない」

「はい」


 21年と少し……俺が生きてきた年月なんてのは、せいぜいそれぐらい。それでも俺は、両親を失い色々な事を諦めてしまっていた。

 もしこの世界に来る事が無ければ、状態が延々と続く一人ぼっちの毎日に嫌気が差し、最悪の未来を選ぶ可能性だって、ゼロだとは言えない。


 アリスはそんな気持ちを何年抱え続けてきた? 元の世界で数万年、この世界で数万年……想像する事すら出来ない、気の遠くなるような長い年月……親友の残した願いだけを生きる理由にして、苦しみ続けてきた日々。

 気持ちが分かるなんて、口にする事すら出来なかった。


「……カッコつけて、アリスの心を守りたい、なんて言ったけど……実際、俺がアリスにしてあげられる事なんて、数える程度にしかないと思う」

「……」

「けど、まぁ……『コレからも一緒にいる事』は、出来る」

「……ぁっ」


 言葉に想いを込め、同時にアリスを抱きしめている手の力を強くする。

 その小さな身体を、温もりを、逃すまいと……強く、抱きしめる。


「俺にとって、アリスは……馬鹿で、駄目で、ふざけてばかりの困った奴って印象なんだけど……」

「……酷いっすよ。カイトさん」

「……けど、明るくて、頼りになって、肩肘張らずに接する事ができて……もう、傍に居ないのは、考えられないような、そんな大切な存在なんだ」

「っ!?」


 息を飲むような言葉にならない声が聞こえ、腕の中のアリスが微かに動く。


「……俺は絶対にアリスを一人残したりはしないって、約束する。だから、これからも変に飾らず……『アリス』として、俺の傍に居て欲しい」

「ぅぁ……はぃ……貴方が……望んでくれるなら……私は……いつまでも、傍に居ます」


 震える声と共に俺の背に小さな手が回される。きっと気持ちは俺と一緒で、今ここにある温もりを逃さないように、繋ぎとめるように……共にあると確かめるような、そんな抱擁。

 アリスを一人残さないという約束、それはただの人間である俺には難しいのかもしれない……でも、必ず守ってみせる。


「……俺は不老じゃないから、難しいかもしれないけど……ノインさんが人間から魔族になってるんだし、そういう方法とかで……」

「……え? カイトさんは『不老』ですよ?」

「……え?」


 あれ? おかしいな? 今俺結構な覚悟で、ビシッと人間を辞めてでもアリスと一緒に居るって宣言したつもりなんだけど……なんで「なに言ってるんだコイツ?」みたいな反応が返ってくるの?

 俺が不老? ははは、こんな時にまでふざけるとは困った奴だ……え? マジで?


「……シャローヴァナル様から、聞いてないんですか?」

「……なにを?」

「い、いえ、ですから……祝福の効果を……」

「……さぁって首傾げられたんだけど……」


 ここで出てくるシロさんの名前、おかしいな……リリウッドさんに出会った時もそうだったけど、なんで祝福受けた張本人である俺や、シロさんより周りの方が詳しいの?

 というか、シロさんの祝福って不老になる効果まであるの?


「……そ、そうなんですか。いえ、私はクロさんから聞いたんですが……シャローヴァナル様の祝福は、全神族の祝福の完全上位に当たるので、神族の祝福で得られる恩恵は、全て得る事が出来るらしいです」

「そうなの? というか、不老になる祝福とかあるの?」

「リリア公爵が受けた、クロノアさんの本祝福がそうですよ」

「……」


 おっとなんか更に衝撃発言が聞こえたような……不老になる効果は、クロノアさんの祝福によるもので、リリアさんも不老らしい。

 と、ともかく、俺は不老らしい。おいこら、天然女神……そんな事聞いてないんだけど……

 

(私の祝福の効果は全神の上位『らしい』です)


 遅いわっ!? しかも当の本人が、らしいとか……クロの方がよっぽど把握してるじゃねぇか!?


(驚きですね……では、快人さんに『追加で施した術式』は無駄でしたか……)


 おい、なにサラッと他にもなんか仕込んでますみたいな事言ってんの? 俺の知らない所で、俺の体が超改造されてるんだけど!?


 心の中でシロさんに突っ込みを入れつつ、キョトンとしているアリスの顔を見る。


「……そっか、俺、不老なんだ……」

「……ですねぇ……ふ、ふふ……」

「……くっ、ははは……なんだこれ、肝心な所で締まらないなぁ俺……」

「まぁ、カイトさんらしいですよね!」

「ちょっと待て、こら……」


 なんだろう、大事な所で締まらない……そんなどこか抜けたような会話が、なんとも俺とアリスの関係らしく、ついつい互いに顔を見合わせて笑ってしまった。


「……まぁ、でも、不老だって言うなら、アリスを悲しませなくて済むし、良かったかな?」

「……でも、不死ではありませんよ?」

「そこはほら……『守ってくれる』んだろ?」

「……そうきましたか……敵いませんね。はい、任せてください。私は守るって事に関してだけは、無敗ですからね。その代わり、私が肩肘張り過ぎちゃったり、焦ってしまわないように……『守ってください』ね?」

「ああ、約束する」


 俺はアリスに身を守って欲しいと告げ、アリスは俺に心を守って欲しいと告げる。

 その言葉は互いを補うようで、とても優しく……安心出来る約束だった。


「……アリス。好きだ。これからも一緒に居て欲しい」

「……カイトさん。好きです。どうか、傍に居させてください」


 そして確認し合うような言葉を交わし、互いに引き寄せられるように……そっと、口付けを交わす。

 柔らかく、心地良く、互いの温もりを交わしながら、想いを通じ合わせた。


 そしてどちらからともなく唇を離すと、アリスの目には涙が浮かんでいた。


「……怖がって、損しちゃいました」

「うん?」

「私は親友たちの居る場所に行く為……死ぬ為に恋をしようとしてました。だからそれが叶ったら、死にたいって気持ちが強くなるんじゃないかって……そんな不安があって、中々一歩踏み出す勇気が出てこなかったんです」


 涙を流しながら、アリスは俺の首に手を回し、まるでしがみ付くみたいに抱きついてくる。


「でも、私は親友たちの居る場所には行けないみたいです……カイトさんを好きになって、その想いを受け止めてもらって……死にたいなんて気持ちは、どこかに消えてしまいました。これからも、ずっと、一緒に居たい……私は、貴方を歩む未来を『生きたく』なりました」

「……うん」

「……カイトさん、一度だけ……この名前を呼んでくれませんか?」


 そうしてアリスは俺の耳元で囁くように一つの名前を告げ、俺から体を離して、真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。

 その名前がなんなのかは、すぐに理解出来た。

 この名前はかつて一つの世界を救った英雄の名前で、彼女がこれから本当の意味で決別する……過去の己自身。


「……『アリシア』」

「……」


 俺が告げた名を聞いたアリスは、そっと目を閉じ、少しの間沈黙する。

 そして、目を開いたアリスの美しい碧眼には、強く確たる意思が宿っていた。


「……ありがとうございます。今をもって、異世界で英雄と呼ばれた少女……アリシアは、本当の意味で死にました。そして、これから貴方と共に歩んでいく私の名前は『アリス』です。改めて、これからもよろしくお願いします」

「うん。こちらこそ……」


 過去の己に別れを告げ、アリスは満面の笑顔を浮かべる。

 異世界の英雄でもなく、幻想の欠片でもなく、顔無き王でもなく……この世界に生きる一人の少女、アリスとして……

 それはまるで、太陽のように明るく力強く……彼女の親友が願った、心の底からの笑顔だった。


 拝啓、母さん、父さん――アリスの想いを受け止め、俺自身も素直な気持ちを伝える事が出来た。紡いだ絆はより強く、固く。新しくなった彼女と共に、これからも――俺の傍で煌いてくれるだろう。



 


シリアス先輩「あ、あぁ……もうだめだ……おしまいだ……」


【次回より激甘開始】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず、まずは泣く(´;ω;`)ブワッ
[一言] アリスのヒロイン力と切ない過去に涙してたら流石の創造神様の天然で笑っちゃった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ