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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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想いを受け止めたいという気持ちだ



 アリスの告げた言葉……それに俺が反応するよりも早く、アリスは話を続け出した。
 それは、今はまだ先程の発言に関しては触れないで欲しいという事だろう。

「前にも少しだけ言いましたね。シャルティアというのは、私の住んでいた世界で『一欠片の幻想』という意味があったんです」
「……幻想……か」
「はい。心が砕け、何者でもなくなってしまった私に残っていたのは……長い年月を生きても叶えられていない願い。幻想のようなそれだけが、生きる意味でしたからね」
「……うん」

 幻想か……アリスはこの世界に来るまで、気の遠くなるような時間を過ごしてきたんだと思う。だからこそ、彼女にとって親友の願いは、本当に叶う未来が想像できない。正しく幻想だったじゃないかな?

「この世界に来たばかりの頃は、凄く期待しました。クロさんをはじめ、この世界には私と同じように不老の者が多く居る。ここでなら、私は親友の最後の願いを叶えられるんじゃないかって……」
「けど、今まで叶わなかった?」
「……はい。考えてみれば当然なんです。私は親友の願いを叶えるって想いが強くて、その為に無理やり恋愛をしようとしていた……今となっては、そんな心持ちで恋なんて出来る訳ないって、よく分かりましたよ」

 そういって自嘲気味に笑うと、アリスは冷めてしまった紅茶を飲み、話を続けていく。

「私はいつしか幻王ノーフェイスと……顔の無い王と呼ばれていました。上手いものですよね。私は皆を失ってから、ずっと虚ろでした。姿をコロコロ変えて、暗躍したり、ナニモノかを演じたりしました……どこにも確かな形なんてない。そんな存在でした」
「……アリス」
「……その、本当の事を言っちゃいますとね。この『アリス』という存在は、あの時……カイトさんを誘拐した後で、『消える予定』だったんです」
「……え?」

 そういって、真っ直ぐに俺を見つめるアリスの青い瞳を見れば、ソレが嘘偽りで無い事は強く伝わってきた。
 アリスは、俺を誘拐した後に消える予定だった? ソレは一体どういう意味なんだろう?

 そう考えながら首を傾げる俺を見て、アリスは苦笑を浮かべる。

「カイトさんは、私にとって恋をする為に近付いた存在じゃなくて、クロさんへの恩返しを兼ねた見極めが目的で接触しました……変に意識して無かったのが良かったんでしょうかね? 過去の私、ファインプレーですね!」
「……う、う~む」
「……まぁ、冗談は置いておくとして……本当はもっと、浅い付き合いにする予定でした。少なくとも一緒にアルクレシア帝国に行ったりするつもりは、無かったです」
「予定が変わったって事?」
「いえ、どちらかというと……予想外だった。ですかね? その事に関しては、私はカイトさんに謝らないといけません。ごめんなさい……」
「え? い、いや、なんで急に……」

 謝らなければならないと告げ、俺に深く頭を下げるアリスだが、謝られる理由が分からない。
 そのままアリスは少しの間頭を下げ続け、ゆっくりと顔をあげてからその理由を説明する。

「……二度目に会った時、でしたっけね? カイトさんが私の事を叱った時……カイトさんが、『親友と重なって見えた』んです」
「アリスの、親友……それって、さっきの話に出てきた?」
「はい。私が馬鹿やって、親友が私を叱るってのが定番の流れで、よく怒られました……それで、親友は怒り終わった後、いつもどこか呆れたような微笑みを浮かべてくれて……その仕方のないやつだって言ってるみたいな、どこか温かい苦笑が……凄く好きでした」
「……」
「説教を終わらせた後に、カイトさんが溜息混じりで浮かべた苦笑が……親友のそれと凄くよく似てて、なんだか、昔に戻ったみたいで……嬉しかったんです」

 昔を思い出すような表情で告げた後、アリスはなにやら不安げな表情に代わり、何度か視線を動かす。
 そしてしばらく言葉を探すようにした後、微かに顔を伏せながら告げる。

「……私は、カイトさんを親友と重ねてました。カイトさんに叱られたくて、ワザと馬鹿な事を言ったりもしました……私はずっと、カイトさんを親友の代替品みたいに扱ってたんです」
「……そっか」
「あっ、い、今は違いますよ! カイトさんを親友の代わりだなんて思ってません!」
「あ、うん。そんな、慌てて否定しなくても大丈夫だって」
「あぅ……」

 俺の言葉を聞いて、傷つけてしまったと思ったのか、アリスは大慌てで弁明してきた。
 しかし別に俺は、アリスの言葉を気にしていた訳ではなく、単に先程のアリスは消える予定だったというのが気になっているだけだ。

 それをアリスに説明すると、アリスはホッとした様子で息を吐き、話を続ける。

「……今言った通り、初めは私はカイトさんを親友の代わりとして、接していました。けど、何度もカイトさんと言葉を交わすうちに、悪い意味じゃなくて良い意味で……カイトさんと重なっていた親友の姿がブレ始めました。親友の代わりとして、ではなく、カイトさんだから一緒にいて楽しいんだって……そう、思うようになりました」
「……」
「でも、この『アリス』というキャラクターは、最後にカイトさんを裏切って姿を消す。それでもカイトさんが、他者を信じる心を失わないかどうか……それが、四つ目の試練だったんです。勿論、カイトさんが怪我をしないように、あの誘拐場所には配下を潜ませていましたけどね。そしてカイトさんが試練を乗り越えたら、私はアリスとしてではなくノーフェイスとして、ただの部下として貴方と接するつもりだった」
「……でも、アリスは助けてくれた」
「……はい。それが私にとって、一番大きな誤算で……一番嬉しい奇跡でした」

 そう告げたアリスの表情は、どこか優しげに見える苦笑で……こちらへの信頼が現れているみたいで、なんだか温かく感じた。
 アリスが求めていたのは、こんな風に笑いかけてくれる存在だったんじゃないかと、そう思えるほどに……

「あの時、予定通りに裏切って、別れを告げた私に……カイトさんは微笑みましたよね? 私に裏切られたと理解した上で、それでもしょうがないなぁって……その笑顔を見た時、私の中で親友とカイトさんが、完全に別の存在になりました。この人は誰の代わりでもない、唯一無二の存在だと……」
「……」
「気が付いたら、自分で閉じた筈の扉を壊していました。一度降りた舞台に昇りました。シャルティアとしてでもなく、ノーフェイスとしてでもなく、消える筈だった『アリス』として……その瞬間から、アリスは私の演じるキャラクターでは無く……新しい名前になったんです」

 少女から英雄に、英雄から幻想の欠片に、幻想の欠片から顔無き王に、そして顔無き王から……アリスという俺のよく知る少女に、目の前の彼女は変化していった。
 それを聞いて……なんだろう? ホッとした。今のアリスは偽りでは無く、ちゃんとした彼女自身だと、そう理解出来たから……

「……そして私は、カイトさんに恋をした訳なんですが……情けない話ですけど、急に怖くなってきちゃったんです」
「怖く?」
「はい。親友の代わりとして扱ってきた事を知られたら、嫌われてしまうんじゃないか……いえ、それ以上に、カイトさんに恋している私は……本当に『カイトさんを好き』で恋をしているのだろうか? それとも、親友の願いを叶える為に、丁度良い相手を見つけただけなのかって……本当の私の願いはどっちなんだろうって、ずっと悩んでいました」
「……」

 そうか、アリスの根底には親友の恋をしてくれという願いがあった。
 俺を好きになった結果、その願いが叶うのか……願いを叶えようとした結果、俺を好きになったのか……たぶん、それについて悩んでいたんだろう。
 だから、自分からは愛だのなんだのとふざけながら言っても、俺が乗ったりすると慌てて逃げていたのか……

「……そして、あの神が現れ、カイトさんが死ぬかもしれないと、そう思った瞬間……どうしようもなく恐ろしくなりました。カイトさんが死んだら、もう私は二度と立ち上がれない、二度と笑えない……それを自分自身で理解したから、その……アレから少し様子がおかしかったんです」
「……」
「色々回りくどい話をしてすみません。貴方に対して負い目があった。今の幸せな関係が、変わってしまうのが怖かった。色々言い訳は出来ます。でも結局、ただ私が臆病で……中々、カイトさんに自分の事を教えられませんでした」

 そこで一度言葉を区切り、一度目を閉じてから……アリスは真っ直ぐに俺を見つめながら、言葉を締めくくる。

「……これで、私の話は終わりです。どう、受け取ってもらっても構いません……もう、覚悟は出来ました。情けない奴だと思われても、酷い奴だと言われても大丈夫です。嫌いになられても、仕方な……え?」

 なぜ、そんな事をしたんだろう? よく分からないが……気が付いた時には、俺は席から立ち上がり、アリスの小さな身体を抱きしめていた。
 まだ、頭の中で今聞いた話の全てを整理し終えた訳ではない。上手い言い回しなんて出来ないと思う。

 だけど、それでもなにかを伝えたいという思いだけは、溢れるほどにあった。

「……ありがとう。アリス。話しにくい事だったろうに……全部教えてくれて」
「……カイト……さん?」
「上手くは言えないかもしれないけど……少しこのままで、俺の話も聞いてくれるか?」
「……はい……いくらでも……ぶっちゃけ、もう泣きそうですけど……」

 拝啓、母さん、父さん――アリスがその小さな身体に抱え続けていた想い、そして苦しみ……それを聞いた上で俺が返す言葉。飾る必要はない、なにより大事なのは、俺の中に生まれている――想いを受け止めたいという気持ちだ。



シリアス先輩「くそっ、あの着ぐるみ女……よくも、バリケードなんて……さ、さあシリアス展開が! ……え? もう次回で終わり? その次からゲロ甘? え? え、えぇぇぇぇ!?」
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