表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
288/2406

『神穿つ絆の巨心』



 それは幾重にも煌く星の奔流……光はまるで流星群の如くアリスの周囲をめぐり、大気を震わせる膨大な魔力と共に顕現する。

 その魔法はこの世界には存在しない魔法、かつてアリスが生まれ育った世界に存在した……『強き心を武器と化す魔法』……彼女の切り札。


 数多の光を纏ったアリスは、一瞬で快人の前に移動し地球神に向けて刃を構える。


「アリスッ……」


 なにかを意識したわけではない、ただいつもとは明らかに雰囲気の違う……初めて剥き出しの感情を顕わにしたアリスを見て、そのただならぬ様子に思わずその名を呼ぶ声が出た。

 しかし、今のアリスにその声は届かない……今の彼女の心は、快人を守り抜くという立った一つの思いだけで埋め尽くされていたから。


「……足りない……まだ……」


 膨大な魔力を暴風のように荒れ狂わせるアリスを見ながらも、地球神は特に動きを見せる事はなく、ただ静かにアリスを見つめていた。

 それは絶対強者だからこその待ちの体勢。アリスがどんな攻めをしてきても対応できると、そんな確たる自信に裏付けされた対応。


 そしてそれは、事実であり、アリスも自覚していた。

 アリスが全力を出して尚、目の前の地球神は遥かに格上……尤も、それは彼女にとって……いや、かつての彼女にとっては、別になにも珍しい事では無かったが……


「戻れ……戻れ……あの頃の私に……『弱者』だった頃の私に……」

「アリ……ス?」


 己に言い聞かせるように呟きながら、アリスはスッと身を低く構える。


「対峙する敵は、遥か格上ばかり……それでも! 『全てを守り抜いた』あのころの私に!!」

「ッ!?」


 そしてアリスは、解き放つ。もはや遥か遠い昔の己を……死んだ者として封印した『本当の自分』を……

 直後、暴風のように迸っていたアリスの魔力が、まるで波一つ無い海のように静まり、ほんの僅かな静寂に包まれる。

 アリスから威圧感が消え……それで初めて、地球神は『臨戦態勢』をとった。

 翼が迎え撃つように大きく広がり、そして、地球神の体は白い空間の彼方に向けて吹き飛ばされる。


「速度、想定、凌駕……脅威、認識、迎撃!」


 しかしそれでもあくまで淡々と呟き、物理法則を無視した動きで空中で停止した後、地球神は20枚の羽を大きく広げる。

 すると羽の先に光が宿り、眩い閃光となって超速で接近するアリスに向けて放たれ、アリスは両手に持ったナイフを迫る閃光に添え、全く減速することなくそれを逸らす。


「手数、不足、攻撃、増大」


 アリスの動きを見て、20発の攻撃では足りないと判断した地球神は、即座にアリスの速度を計算し、先程の10倍以上の数の光弾を放つ。

 もはやそれは攻撃などという生易しいものではなく、光の速度で降り注ぐ破滅の雨。


 アリスはそれを見て、即座に進路を変え光と光の間をすり抜けるように回避。しかし、回避した先にも光の雨が降り注ぐ。

 地球神はまさに砲台といった感じで空中に停止し、絶え間なく光弾を放ち続ける。


 光弾のサイズは小さいが、それは最高位の神の放つ攻撃……一発一発に『島一つを消し飛ばす』程の威力が込められており、一発でも当たれば即座に形勢が決まるだろう。

 それを絶え間なく放ち続け、逃げ場をなくす……しかし、それでも、その光はアリスには届かない。

 アリスは進むべき道が見えているかのように、進路を変えながらも速度は緩めず、光の雨を掻い潜って地球神に肉薄し、ナイフを振るう。


「……感嘆」


 そんなアリスの攻撃を見て、地球神は腕に切り傷を作りながらも、心底感心したような表情を浮かべていた。

 そして再びアリスに光弾を放つと、それを読んでいたアリスは、即座に地球神から距離を取る。

 離れていくアリスを追う事もせず、地球神は軽く手を叩く。


「汝、戦闘、芸術」


 引き続き膨大な数の光弾を放ち、アリスとの戦闘を継続しながら、地球神の心に沸き上がった感情……それは、惜しみない賞賛だった。

 繰り返しになるが、単純な能力においては地球神の方が遥かに格上。故に、先程の光の雨も、一発でも被弾していればアリスは敗北していただろう。

 しかしアリスはその全てを捌き切り、見事地球神に一撃を加えた。その戦闘技術は、地球神にとって感動すら覚えるものだった。


 一体目の前の少女は、どれだけ膨大な数の戦闘をくぐり抜けてきたのだろうか? どれ程の死を覆してここに存在しているのだろか?

 光弾を逸らす角度がほんの数ミリでもずれていれば被弾していた。幾千幾万の光弾を捌く手順を一つでも間違えれば間に合わなかった。ほんの0コンマ数秒でも心に迷いが生まれれば飲みこまれていた。

 

 地球神の見立てでは、アリスが自分の元に到達できる確率は1%も無かった。しかし、彼女はその全てを間違えることなく、あまりにも容易くその奇跡を掴みとった。

 それを見て地球神は確信した。これこそが先程この少女から感じた脅威の正体……間違いなく、これから先も彼女は間違えない。1%の確率だろうと、逃すことなく最善を掴みとる。


「……美麗」


 そう、目の前にいる少女は、まるで奇跡の体現者のようで、その戦いは素晴らしいの一言。

 逸らせる攻撃は逸らし、回避できる攻撃は回避する……口にするのは簡単だが、それを己より基礎能力において遥かに上回る相手に対し、実行して見せるのはどれ程困難か……まさに、戦いの境地。


「攻撃、密度、上昇」

「ッ!?」

 

 そう考えながら地球神は、更に光弾の数を『数百倍』に増やした。

 成程、彼女は僅かな可能性すら掴みとる紛れもない強者……しかし、可能性が無いものはどうだろうか? 1%と0%の差、それはあまりにも大きい。


 地球神が新たに放った『数億発』の光弾は、先程までとは違い一直線にアリスには向かわず、その周囲を虫一匹通れぬほどにガッチリと固め、一斉にアリスに向かって収束する。

 一発一発の威力も更に上げた。回避は出来ない、防御も不可能、この数を逸らすには二本のナイフでは全く足りない。


 さあ、今度はどうする? と、そんな風に思いながら、光弾を透過してアリスを見ていた地球神の視線の先で、アリスの纏っている数多の光の内の一つが、アリスの体に吸い込まれ、アリスの姿が変わる。

 『髪は赤紫のツインテール』に『瞳は金色』に……


「『逸れる!』」

「……因果律、生成……」


 僅かな可能性すらないならどうする? そんな問いかけの籠った地球神の攻撃に対し、アリスは『可能性を生み出す』という回答を返してきた……『運命神・フェイト』に姿を変えて。

 迫る光弾が、まるでなにかに導かれるように逸れていくのを見ながら、地球神は翼を大きく広げ……今度は数では無く質、視界を埋め尽くすほどの砲撃を放つ。


 すると今度は別の光がアリスの体に吸い込まれ、また姿が変わる……今度は『緑葉の髪を持つ女性』に……

 そして直後になにもない空間から巨大な木々が現れ、迫りくる砲撃を防いだ。


 大きな爆発に包まれる光景の中……今度は数メートルはあろうかという巨大な杖を持ち、灰と黒色のツートンカラーの髪の少女に姿を変えたアリスが現れ、その杖を構える。

 するとアリスの魔力が、爆発的に上昇し杖の先端に収束していく。


「呑め、暴獣――アポカリプス!」

「ッ!?」


 まるで先程の意趣返しだとでも言いたげに、巨大な漆黒の魔力砲撃が地球神に迫る。

 それを静かに見つめながら、ようやくというべきか……地球神は『初めて』手を動かし、その砲撃を横に弾き飛ばした。


「驚愕、汝、力量、測定、困難」

「……いつまで、そうやって余裕で居られるかな? 貴女がどこの神だかなんて知らないけどさ、神を殺すのは……初めてじゃないんだよ!」


 『かつての口調』に戻り、威嚇するように鋭い目で告げるアリスの言葉を聞き、地球神は先程切られた右腕の傷が再生していない事に気づく。


「……不可解、再生、不可?」

「そういう事が出来る武器もあるんだよ」

「納得……対処、容易」

「なっ!?」


 アリスの言葉を聞き、この腕の傷は治せないと認識した地球神は……一切の躊躇なく、肩から自分の腕を切り落とした。

 そして切り落とした腕を閃光で消滅させ、肩に『新しい腕』を造り出す。


「戦闘、続行」


 神殺しの英雄であり、不死の相手を殺す術を持つアリス……そして、今だ底を見せない異世界の神……その戦いは、更に苛烈になっていった。





タイトルは誤字にあらず。心の武器ですからね。


シリアス先輩「……こういうのを……待ってた……私は、アリスを全面的に支持する」←少し前まで天敵とか言ってた人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あっ、思い…出した…( ꒪꒫꒪)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ