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真面目な努力家だったよ



 光永君としばらく、この世界の事や元の世界の事、葵ちゃんや陽菜ちゃんの事を話して、丁度1時間ぐらい経った辺りで、光永君は懐中時計を取り出し、時間を確認してから立ち上がる。


「……すみません、宮間さん。僕そろそろ……」

「あっ、ごめん、忙しかったかな?」

「いえ、そんな事はないですし、楽しかったです……けどこれ以上話していると、勉強する時間が無くなっちゃうので……」

「……勉強?」


 光永君の口から出た勉強という言葉を聞いて、俺は首を傾げる。

 勉強とはなんの勉強だろうか? 高校のって訳ではなさそうだし、反応から察するに結構重要な事だとは思うけど……


「ええ、アクエリオス……あっ、この街の特産品や歴史についてですね」

「うん? それは、もしかして勇者役としての勉強って事?」

「はい」

「……勇者役って、そんな事もするの?」


 勇者役が世界の各地を巡礼するというのは知っていたし、演説を行うというのも聞いていたが……各地域の特産品や歴史の勉強までするというのは初耳だった。


「義務ではないですね……けど、勉強しておかないと『会談』で困りますからね」

「会談?」

「はい。勇者役は各街の……町長だとか、領主だとかと、演説前に必ず会談するんです。その会談では暗黙の了解として、僕達の居た世界の事は尋ねないみたいで、必然的に街の感想を聞かれたりしますからね」

「……それは、なんか大変そうだね」


 各地を訪問するたびに、その土地の権力者と会談をするというのは、聞くだけで随分大変そうな気がする。

 ましてや光永君は16歳の高校生……お偉方との会話なんて、それだけで結構な疲労になりそうだ。


「……確かに、正直言って精神的に結構プレッシャーがあります。この世界には長命な種族も多いですし、なにより僕の前には、偉大な英雄である初代勇者様と100人の先輩がいるわけですから……どうやったって比べられますよ」

「……」

「勇者役には、街に着いて一日自由時間が与えられます。僕はこれは勉強のための時間だと思ってます。今日が丁度その自由時間ですね……そして明日、この街の議員さん達と会談して、その翌日に演説をしてから次の街へ向かいます」

「……そ、それってつまり、一つの街に滞在するのは三日ぐらいって事?」

「……それは結構勇者役によって差があるみたいです。僕は出来るだけ多くの街を回りたいと思っているので、スケジュールは詰めてもらってますけどね」


 移動して街について、一日勉強して翌日に権力者と会談をして、そのまた翌日に演説を行って別の街へ移動する……過密とも言えるスケジュールだけど、どうやらそれは光永君が希望してそうなっているらしい。

 なんていうか、凄いな……光永君って、頑張り屋だったんだ。


「勿論楽をしようと思えばいくらでも出来ます。さっき言った通り、勉強だって強制は一切されてませんからね。あくまで自由時間に僕が勝手に勉強してるだけです」

「……大変じゃない?」

「大変じゃないと言えば、嘘になりますが……勇者召喚は人界の三国が順番に行っています。そして、どうしたって前の勇者役とは比べられる……たとえ口に出さなくても、『今年の勇者役は駄目だな』なんて思われたら、折角よくしてくれてるカトレア王女やシンフォニア王国の方々に申し訳が無いですし、出来る限り頑張ります!」

「そっか……なんていうか、素直に凄いと思う」

「あはは、それでも失敗しちゃう事もありますけどね……でも、僕、今凄く充実してるんです。勉強は大変ですけど、この地域の人達はこんな生活をしてるんだって知ってると、そこに住む人達と話すのも楽しくなりますし……その、なんていうか、カトレア王女も喜んでくれますから」


 そう語る光永君の表情は、確かな力強さを兼ね備えていて……きっと、これが本来の彼の姿なんじゃないかと思った。

 色々あって歪んでしまっていたかもしれないけど、光永正義という青年は真面目で頑張り屋な子なんだろう。

 俺も見習わないといけないな……


「うん……頑張って、俺に協力出来る事があったらいつでも言って」

「ありがとうございます。とても心強いです」

「っと、ごめん。引きとめちゃったね」

「いえ、宮間さんと話せて良かったです……あっ、もし明日の昼過ぎぐらいに時間があるなら、もう一度会えませんか? カトレア王女も宮間さんに会いたがっていましたし」

「うん、勿論いいよ……じゃあ、場所はここで良いかな?」

「はい。14時から時間が取れますので、良かったらその時に」

「了解」

「それでは、失礼します!」


 明日また会う約束をしてから、光永君は明るい笑顔を浮かべて去っていった。

 その後姿は、以前見た時よりずっと大きく逞しく見えて、彼の成長というのを感じられた気がした。


 拝啓、母さん、父さん――人は変わる事が出来るっていうのは、俺自身よく分かってるつもりだ。光永君もこの世界で大切な存在と出会い、大きく成長したんだと思う。だからだろうか? 元々の先入観が無い分、俺から見た光永君は――真面目な努力家だったよ。










 ハイドラ王国の王城に用意された広く豪華な客室には、議会を終えたシアとハートの姿があった。


「……やはり一日では終わりませんでしたね」

「しょうがないよ。直しだってあるんだし、どうしたって数日はかかる」

「ええ、しかし、流石は運命神様……予定より何倍も早く話が進んでます。普段からこの調子なら、時空神様も頭を痛めたりしないでしょうに……アレだけ有能なのに、なぜ普段はサボってばかりなんでしょうね?」

「……」


 今日の正しく神の如しと言えるフェイトの姿を思い出しながら、普段とのギャップをため息交じりに語るハートを見て、シアは少しの間沈黙した後で口を開く。


「……君は、運命神様とあまり話した事無かったっけ?」

「え? えぇ、私のような下級神が直接お話しする機会など、まずありませんよ。上級神を仲介せず直接会話したのなんて、今回が初めてです……それが、なにか?」

「……少し、教えてあげようか……運命神様について」

「……え?」


 静かながら透き通るような声で告げながら、シアはゆっくりとハートの方へ視線を向ける。


「……運命神様は、一番初めにシャローヴァナル様が造り出した神族。言ってみれば、運命神様は神族の中で最もシャローヴァナル様に近い存在って言える。その、性質も含めて……ね」

「性質?」

「そう、まず前提から話しておこうか……運命神様は、配下の神族の事も、人族の事も、魔族の事も……『道端の石ころ』と同じ程度にしか思ってない」

「……え?」


 淡々と語るシアの言葉、それを聞いたハートも真剣な表情に変わりながら耳を傾ける。


「運命神様にとって、この世界の殆どの物は自分の思い通りに動かせる……人形となにも変わらないし、その程度の価値しかない。『つまらない存在』でしかないんだよ」

「……」

「……これだけは、しっかり覚えておいて。今日、君が見た運命神様は『物凄く機嫌が良い状態』なんだって……運命神様が『おもしろい』と思っている存在が近くに居たから、あんなに気さくだったんだって……」

「……」









 辿り着いた豪華すぎるとすら感じられる宿……そこに荷物を置いて、なんだかんだで時間を潰していると夕方と言っていい時間になっていた。

 晩ご飯はどうしよう? なんて事を考えながら、広い部屋のソファーに座っていると……ノックの音が聞こえてきた。


「は~い」


 その音を聞いて扉の方に歩いていく。

 現在この宿は貸し切りになっているみたいなので、訪れるのは宿の従業員かフェイトさん達ぐらいだ。

 そして扉の外から感応魔法によって伝わってくる魔力は、間違いなくフェイトさんのものであり、俺は特に警戒無く扉を開いた。


「カイちゃあぁぁぁぁん!!」

「がっふっ!?」


 そして扉を開いた瞬間、弾丸のようなスピードでフェイトさんが突っ込んできた。

 ここで重要な事が一つある……フェイトさんは非常に小柄であり、突っ込んできたフェイトさんの頭は、吸い込まれるように俺の鳩尾にクリティカルヒット。

 まるで肺の中にある空気が全部吐き出されるような衝撃を受けて悶絶する。


「カイちゃん! 疲れたよぉぉぉ! 仕事一杯したぁぁぁ! 癒して~甘やかして~」

「げほっ、ごほっ、ふぇ、フェイトさん……ちょ、離れて……」

「やだぁ! 今、私は、足りないカイちゃん成分を補充してるんだい!」

「げふっ……い、意味が分からな……ごほっ……」


 ハイドラ王国に来て一日目……どうやら、そう簡単に今日という日は終わってくれないみたいだった。





シリアス先輩「なんでそんなことするんだ!! 折角もう一人の私が頑張ってシリアスの雰囲気にしてたのに……なんで最後に、これから甘くなりますみたいなの入れたんだあぁぁぁ!!」


【この作品の宿命】


シリアス先輩「……これが……絶望か……」

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[一言] ええ子や…(´ー`*)
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