茶会の話~胃痛なる者⑭~
エリスさんの提案で一緒に昼食を食べることになり、エリスさんが行く予定だったという店に向かって移動する。
正直結構迷っていたので、エリスさんの方から提案してくれたのは本当にありがたかった。というか、実を言えば俺も昼食にエリスさんを誘いたいと思っていたのだが、果たしてそこまで付き合わせてもいいものかと考えていた。
元々エリスさんとは事前に約束をしていたりというわけではなく、街中で偶然会って俺がお願いする形で一緒にジムの体験に行ってもらったわけだ。
その際にエリスさんは散策をするつもりだったので問題ない的な発言をしていたが、それでも元々行こうと思っていた場所とかもあるだろうし、そう考えるとこれ以上俺の都合に付き合わせるのは申し訳ないという思いもあった。
エリスさんは優しいので多分俺が誘えば了承してくれたとは思うのだが、逆にこちらが提案したら多少都合が悪くても付き合ってくれる可能性が高いだけで躊躇していた部分があった。
なので、エリスさんの方から提案してくれたのは非常にありがたい。エリスさんは本当に話し上手というか、いろいろな話題の引き出しがあって、話していると本当に楽しいので俺としてももう少し話をしていたいと思っていたところなので、まさに渡りに船という感じだ。
「……へぇ、そうなんですね。アルクレシア帝国って貴族の力が強いって聞いてましたし、イメージ的に貴族が好みそうなワインとかもたくさん作ってるのかと思ってました」
「その辺りの農作物の質ではシンフォニア王国の方が上ですからね。貴族というのは見栄を張りたがるものですから、質も値段も高いワインを他国から仕入れているというのを一種の自慢のようにしている者も居ますね。あと、アルクレシア帝国にはドワーフ族が多いので、ワインよりもっと強い酒類が需要が高いというのも要因かもしれません」
「あ~確かに、ドワーフ族は種族的に酒に強くてアルコールの強い酒を好むんでしたね」
「ええ、代表的なところで言えばドワーフ族の火酒がありますね。火を近づければ燃えるほどに強い酒という名前の由来通り、とてつもなく強い酒なのですが……特に酒に強い魔族などからの需要が高く、売りに出す際には樽単位で大量に売れますね」
「そういえばメギドさんも大量に買ってましたね」
「戦王様も酒好きとして有名ですからね」
エリスさん自身が凄く知識豊富というのもあるが、なによりも俺に分かりやすいように話してくれるのが上手いというか、結構俺が聞いたことがあったりするものを例に挙げてくれるので分かりやすい。
たぶんだけど、以前にアルクレシア帝国の建国記念祭の際にドワーフ族の店の近くに出店を出していたから、今回分かりやすい例として火酒を上げてくれたのだろう。
そういうことをサラッと自然にする辺り、本当に話し上手だと思う。
「俺もドワーフ族の出店の方に貰って飲みましたが、確かにかなり強い酒でしたね」
「飲んだのですか? それは凄いですね……私も以前少しだけ飲んでみたことがありますが、数口飲んだだけで頭が痛くなってしまいました」
「俺はシロさんの祝福があるので、酔いを無効化できるんですよ。仮祝福だと分かりませんが、ライフさんの祝福も同じようなことはできそうな気がしますね。たぶん、最高神の祝福の状態異常完全無効に関連した効果だと思うので……」
「……なるほど、酔いを一種の異常、アルコールを毒と捉えて防ぐ形ですかね。確かにそれでしたら、本人の認識次第で出来そうな気はします。よいことを聞きました。今度試してみることにします」
「エリスさんは、お酒は苦手な感じですか?」
「味が苦手というよりは、酔うことが苦手と表現すべきでしょうか……酔って思考が鈍る感覚がどうにも嫌で、あまり飲むことはありませんね。鈍った思考で判断を間違えてしまうと……と思うと、不安になってしまうんです。少々、小心者過ぎるかもしれませんが……」
「いや、なんか自分をしっかり律してるって感じでカッコいいと思いますよ」
「ふふ、ありがとうございます。そんな風に自然とこちらを気遣ってくださるカイト様の優しさは、本当に素敵ですね」
社交辞令とかではなく本心からの褒め言葉を返してくれているのが伝わってくるあたり、エリスさんの性格の良さが伝わってくるというか……やっぱり話していて楽しい。
そのまま、俺とエリスさんは他愛のない雑談をしながら飲食店を目指して移動していった。
快人とエリスが仲良く会話を楽しみながら飲食店に向かっていた頃、マグナウェルが視察していたジムに有る存在が現れていた。
「おぅ、マグナウェル! 来たぞ!」
「……うん? なんじゃ、お主も呼ばれとったのか?」
「ああ、俺の都市にもニーズベルトが作ったからな、人界の方も見に来たわけだ。いや、流石アイツが考えるだけあって、いい施設だな。流石に俺が使えるような強度のものはねぇが、配下共の鍛錬にはかなりいいぜ」
「ふむ、高評価なようならなによりじゃ……しかし、惜しかったのぅ。先程まで、ミヤマカイトが居たのじゃが……」
「なに!? カイトが来てたのか、チッ、そりゃ失敗したな……カイトの魔力は広域探知に引っかかられねぇから、探せねぇしな……残念だ」
マグナウェルの言葉を聞いてメギドは快人と行き違いになったこと悔やむ様な発言をする。するとそのタイミングで、マグナウェルの近くにいたナミルが口を開いた。
「兄貴は恋人と一緒に出て行ったので、そっちの方の魔力なら察知できるかもしれません」
「ああ、デート中なのか、そりゃ邪魔したら悪いな……カイトと会うのは今度にするか」
「うん? エリス・ディア・ハミルトンはミヤマカイトの恋人なのか?」
「あ、いや、でも、兄貴は違うとか言ってたような……けど、ふたり一緒にジムの体験に来るぐらいですし……う~ん」
前提として快人はちゃんとナミルには、エリスとは恋人ではなく仲のいい友人であると伝えてはいた。ただナミルの目から見てふたりはかなり仲がよさそうではあったし、一緒に汗を流しに来るぐらいの仲ならかなり親密ではとも考えて首を捻る。
「まぁ、別にどっちでもいいさ……マグナウェル、ジム見学する前に軽く飯でも食いにいかねぇか?」
「うん? ああ、構わんぞ、どこに行くんじゃ……」
「そうだな……おっ、そうだ、カオリの店に行こうぜ!」
「以前言っておった異世界人の店か? ミヤマカイトに紹介してもらう予定じゃったが……」
「俺もカオリとは顔見知りだし、俺が紹介しても問題ねぇだろ。カイトとはまた普通に飯食いに行けばいいさ」
「ふむ、それもそうか……ではいくとするか」
基本的にあまり細かなことを気にしないメギドは、思い付きで香織の店に行くことを決め、マグナウェルもメギドに紹介してもらう形で問題ないと頷いたことで、香織にとっては悲劇ともいえる状況が確定し……それをベンチに座って見ていたアリスの分体は、思わずワインを飲む手を止めて「え? そっち?」と言いたげな表情を浮かべていた。
胃痛の悪魔「許さねぇぞ……胃痛ってタイトル入れながら、ほのぼの展開にしやがって……胃痛にしてやる」
リリア「ヤバいですよ、エリスさん!」
エリス「……くっ!」
香織「貴族は大変ですね……」
胃痛の悪魔「絶対に胃痛にしてやるぞ……水原香織!」
香織「ふぁっ!?!?」




