茶会の話~胃痛なる者⑪~
竜王であるマグナウェルに家名も含めた名乗りを許され、もちろんエリスにのしかかるプレッシャーは大きい。しかし、エリスもハミルトン侯爵家の嫡子として厳しい淑女教育や跡取りとしての教育、策謀渦巻く社交界を乗り越えてきた者であり、すぐに姿勢を正し緊張や畏縮を表情や体に出さないようにしつつ礼と共に自己紹介を行う。
「あまねく竜種の偉大なる王に挨拶申し上げます。エリス・ディア・ハミルトンと申します。アルクレシア帝国貴族ハミルトン侯爵家の嫡子でございます」
「ふむ……マグナウェル・バスクス・ラルド・カーツバルドじゃ。ミヤマカイトの友人たるお主には、名で呼ぶことを許そう。しかし、そうか、ハミルトン侯爵家の娘じゃったか……なかなか優秀な貴族であるとワシの耳にも届いておる」
「光栄の極みにございます」
マグナウェルは現在の特殊な分体を手に入れるまでは、建国記念祭などの行事への招待には配下を代理として向かわせていたため、貴族の顔をあまり知っているとは言えない。
だが、代理で参列した配下などから話は聞いており、主要な貴族家の名や評判は頭に入っている。
(……魔力にブレはある。緊張や畏縮はしているようじゃが、表情や態度に出さぬのは見事じゃな。街に赴く故に魔力は抑えておるが、ワシを前にしかと言葉を紡げるならなかなかの胆力といってよいじゃろうな。流石にほぼ加減無しのワシの魔力に晒されながら一呼吸で全て飲み込んで抑えきるミヤマカイトには及ばぬが、それは比較対象が悪かろう。十分に見どころのある貴族じゃな……)
エリスの挨拶はマグナウェルにとってなかなか好印象だったようで、満足げに頷いたあとで快人の方を向いて尋ねる。
「以前に誕生日パーティーに来ていたことは覚えておるが、ミヤマカイトは、エリス・ディア・ハミルトンと親しくしておるのか?」
「ええ、単純に俺に貴族の知り合いが少ないというのもありますが、クリスさんを除けばアルクレシア帝国貴族の中では一番話したことがある人ですし、信頼もしてますね。う~ん、なんていうか、リリアさんみたいな感じの方って印象です」
「……ほぅ」
マグナウェルに尋ねられて、快人は率直に己の感想を伝えた。それは即ち、同じ貴族として表現するならリリアのように親しみやすく話しやすい相手であると、そういう意味合いでリリアみたいな存在であると伝えた。
そこにはエリスに対する純粋な信頼があり、当然のことながら悪意など一切ない高評価である。
だが、悲しいかな……口に本人が伝えようとした意図が、必ずしも相手に伝わるというわけではない。すれ違いというのはそう言ったものから生まれるのである。
(……リリア・アルベルトに匹敵するときたか……見たところ肉体や魔力はリリア・アルベルトには遠く及ばぬ印象じゃが、となると知性や人柄、あるいは運などか?)
そう、マグナウェルは快人の「リリアみたいな存在」という言葉を、六王からも一目置かれる稀代の天才であるリリアに匹敵する『才覚』の持ち主という意味合いで受け取った。
(少なくともこうして、ニーズベルトの新施設の体験に共に訪れるぐらいには親しくしておるようじゃし、恋仲……ではないにせよ、かなり親しく信頼する間柄というのは間違いないじゃろう。ミヤマカイトの人を見る目は確か……注目しておくべきじゃな)
まさか、街中でたまたま会って思い付きで誘ったとは思い至るはずもなく、快人がまったく意図しないところでマグナウェルの中でエリスの評価が急上昇した。
「なるほどな……エリス・ディア・ハミルトンか……その名、しかと覚えておこう」
「!?!?」
その言葉の意味合いはエリスにはハッキリ理解できた。それは単純にマグナウェルがエリスを評価したというだけではなく、暗に「今後の付き合いも視野に入れる」という意味合いが含まれており、なぜ挨拶をしただけで己がそこまで高評価になったのか分からず混乱していた。
(え? な、なぜ? 私は普通に挨拶しただけで、カイト様も特に過度に私を持ち上げたりしたわけではありません。な、なんでこんな高評価を?)
エリスにしてみれば快人の言葉に違和感は覚えなかった。というのも、事実として己の立場で言えば、快人から見れば貴族という点でリリアに近い存在であるのは間違いない。
それは必然というべきか、リリアが六王たちから高く評価されて一目置かれていること、快人の言葉をマグナウェルが別の意味で受け取った事、ふたりが偶然会ってこの場に来たことをマグナウェルが知らないという情報、それらがすべて集まってようやくマグナウェルの勘違いに気付けるわけで、気付きようがないと言えばその通りである。
そして、現在この場に居る中で唯一快人やマグナウェル、エリスのやり取りにおけるすれ違いと勘違いを正しく理解しており、誤解を解けるであろう存在であるアリスは……ジムのベンチに座って、優雅にワインを傾けていた。
快人「リリアさんみたいな存在(話しやすさ的な意味で)」
エリス「確かにリリア公爵のような立場(貴族的な意味で)」
マグナウェル「リリア・アルベルトのような存在か……(才覚的な意味で)」
アリスちゃん(愉悦中)「まぁ、リリアさんのような存在ってのは間違ってないっすね(胃痛的な意味で)」




