茶会の話~胃痛なる者⑧~
ナミルさんの推定ではあるが、ベンチプレス200㎏オーバーというパワーがある様子の俺ではあるが……流石に俺もこれを自分の力だと思うほど能天気ではない。
魔法を使っているのならまだしも、素の身体能力でベンチプレス200㎏オーバーは俺の筋肉量では絶対に無理だ。
「……これ、まず間違いなく俺の素の力ってわけじゃなくて、他に原因がありますよね。200㎏なんて上げれるようなら、俺の腕はもっと丸太みたいに太い筈ですし……」
「魔力による筋肉変異を考慮するにしても、失礼ながら兄貴の魔力量は人族の基準と照らし合わせて巨大というわけではないので、ここまでの変異は発生しないでしょうし、他の要因と考えるべきですね」
「……魔力による筋肉変異?」
聞き慣れない言葉が出てきたので首をかしげると、近くに居たエリスさんが軽く説明するように口を開いた。
「潜在魔力における長期的進化論と呼ばれる理論に関わるもので、簡単に説明しますと生まれながらに巨大な魔力を持つ者は、いわば体に常に巨大な力が接触しているに等しく、その力に引っ張られるように肉体も進化して基礎身体能力が向上するという理論です」
「主に人族に見られる変化ですね。魔族はそもそも筋肉の構造自体が人族とは違いますし、生まれた瞬間から身体能力は完成している者もいますしね。たとえば、兄貴の身近な方で言えばリリア殿なんかは、魔力の影響で基礎身体能力もかなり高くなっていると思います」
「ああ、なるほど……そんな変化があるんですね」
リリアさんが身体強化魔法を使わなくても力が強かったりするのはそれが要因か……。
「とはいえ、リリア殿ほど桁違いに強大な魔力の持ち主ならともかく、平均やそれより少し多い程度の魔力では実感できるほどの変化は起こらないですね。なので、兄貴のベンチプレスに関しては他の要因かと……」
「う~ん、となるとやっぱり祝福ですかね?」
「その可能性はあると思います。私もライフ様の仮祝福のおかげで身体能力が向上していますので……」
そう、結局のところ祝福のおかげと考えるのが一番自然ではあるのだが……だとすると、それはそれで疑問が残るのだ。
そんなに身体能力が向上するなら、いままでにもっと早く気付けていてもおかしくないのだが……そういうのは……いやでも、確かに最近はベルのブラッシングとかもかなり楽に行えるというか……てっきり慣れによるものだと思っていたが、基礎身体能力の向上が影響している可能性は十分にある。
……う~ん、でもそうだとすると『比較的最近に基礎身体能力が向上した』ということになるので、シロさんの祝福の影響ではない気も……う~ん、分からない。
「祝福のおかげだとすると若干の違和感も……アリス、原因分かるか?」
「そんなの、頭おかしい数の祝福のせいに決まってるじゃないっすか……シャローヴァナル様に配慮してるのか、ひとつひとつは極小の効果しかない些細なものですが、チリが積もりすぎて山脈みたいになってるんすよ」
「……頭おかしい数の祝福?」
「カナーリスさんとかが言ってたでしょ、世界創造主たちの中にカイトさんのファンが多いって、その辺りがやったんでしょ……」
「あ、あ~なるほど……」
つまりイレクトローネさんとかティアナさんとかが、ささやかな祝福をしてくれて……それがものすごい数積み重なったことで基礎身体能力が明確に向上しているって感じか……なんかとんでもないことになってるが……とりあえず俺に害はないよな? 力がコントロールできないとか、そんなこともまったくないし……それなら身体能力が上がって困ることは無いし……。
説明してくれたアリスにお礼を言って、アリスが軽く手を振って再び姿を消した後でナミルさんが明るい様子で話しかけてきた。
「……兄貴! 基礎身体能力が高いのはいいことですよ。基礎身体能力が高いってことは、身体強化魔法での上がり幅も凄いですしね! 他にいくつか体験してもらった後で身体強化魔法ありの器具に移るんですが、その際の参考に教えてください。兄貴の身体強化魔法はどのぐらいの倍率ですか? 平均的なところだと5~10倍ってところですが……」
「……1.5倍です」
「……え?」
「……いや、その、だから……1.5倍……です」
俺身体強化魔法に関しては本気で才能は皆無みたいで、冗談でもなんでもなく最大強化状態で1.5倍である。元がベンチプレス200㎏だとして300㎏……ちなみに葵ちゃんあたりは10倍越えなので、基礎身体能力がベンチプレス40㎏だとしても400㎏以上……倍率の差が酷い。
俺の言葉を聞いたナミルさんは、若干気まずそうに視線を彷徨わせた後で、グッと拳を握りながら口を開く。
「……魔法の得手不得手なんて誰にでもありますよ! 兄貴は基礎身体能力がベンチプレスだけ見ても平均の3~4倍あるわけですし、1.5倍の身体強化魔法だったとしても、平均的な身体能力の男性が5~10倍の身体強化魔法を使うのと、実質的な能力はさして変わりませんよ!」
……俺は正直、ナミルさんの事を誤解していたかもしれない。言動が舎弟っぽく、声がやたら大きいこともあって無意識にブロッサムさんとかランツァさんと同じような枠で見ていたが……思えば最初から説明などは分かりやすかったし、先ほどの分析などでも頭の良さは伝わってくる。
俺の様子を察して元気付けてくれたりを気遣いもしてくれる優しい方であり、そもそも考えてみればフレアさんが己の不在時の代表を任せるぐらいに信頼している部下なので、力も知性も優れたかなり有能な方なんじゃないかと思う。
いやまぁ、ブロッサムさんも思い込みが激しめなだけで考え無しとかでは無いし、UTA合戦の採点の時や日本舞踊を再現した時など、知性を感じる面も多く優秀な方なので、そもそも枠として一括りにすることが間違いと言える。
ランツァさんは……えっと……うん……元気があって真っすぐで……いい人だと思う。
ナミル:言動に舎弟感があるだけで、性格、能力共にかなり優秀。
ブロッサム:思い込みが激しく馬鹿っぽい雰囲気はあるが、能力はかなり高いし、考え無しというわけでもない。
ランツァ:迸る馬鹿。
シリアス先輩「……さすが、唯一明確に馬鹿と言及されている女だ……格が違う」




