茶会の話~胃痛なる者②~
アルクレシア帝国首都のアレキサンドリアは、首都らしくかなり広大な都市である。広い首都の中で、主に他国であるシンフォニア王国を活動の中心とする快人と、なんの約束もなくましてや高級店街でもない普通の通りで、偶然遭遇する確率など本来は考慮する意味もないほどに低いだろう。
……だが、それで狙いすましたかのように遭遇するのが、宮間快人という特異点である。
「こんにちは、本当に偶然ですね。エリスさんは普段とは違う格好ですが……そういえば、最初に建国記念祭で出店に来た時も似たような恰好でしたね」
「え、ええ、その……市井の生活を知るのも大切な学びですし、私自身もよい息抜きになるので度々こうして足を運んでいます。カイト様の出店に立ち寄った際も同様でした。カイト様は、買い物かなにかでしょうか?」
とんでもない確率での遭遇ではあるが、エリスも幾度となく快人の常識外れ具合は目にしているので、相手が快人なら偶然遭遇するのもあり得る話だと、そう考えた。
だが、快人の目的はイマイチ不明なままであり、そのことに関して尋ねてみることにした。
(……カイト様は確かにたびたびアレキサンドリアにも足を運んでいると情報がありますが、主にペット関連の店を目的としているはずですが……この辺りにペット関連の店はありません。他にもあまり、私が知る限りではこの辺りにカイト様の知り合いが住んでいるというわけでもありませんし……)
エリスと快人が偶然遭遇したこの通りは、それなりの大きさはありいくつかの店舗もあるが……大通りと呼べるほどに賑わっている場所ではなく、快人が目的とするような店も無いように感じられた。
「ああ、俺は知り合いに店のお試し……えっと、近い内に開く予定の店を実際に使ってみて感想を貰えないかって言われて、その店に向かってるところですね」
「なるほど、そうでしたか……私も高級店街や貴族が関わる店ならある程度把握していますが、この付近に新規で開く店までは把握しておりませんでした」
「まぁ、店というか……施設というか……えっと……」
エリスの言葉を聞いて、快人は少々考えるような表情を浮かべた。そのまま少しの間沈黙した後で、少し申し訳なさそうな表情で口を開く。
「……あの、エリスさん。いきなりで申し訳ないんですが、いま時間とかあったりしますか?」
「え? えぇ、特に予定などはありませんが?」
「俺が行こうとしている店というか施設は、俺の居た世界のジムって施設を参考にして作られたもので、凄く簡単に言うと運動に使える魔法具とかがいろいろ置いてあって、月にいくらかのお金を払って運動をしに行く場所みたいな感じなんです」
「なるほど……運動自体はやろうと思えばどこでもできますが、しっかりした魔法具などの設備を個人で揃えてとなるとそれなりの金銭がかかりますし、それが用意されている施設に行って運動をするというのは理にかなっていますね」
快人が現在向かおうとしているのは、ニーズベルトが作ったジムであり、元々は快人との雑談の中から着想を得たものである。
試験的な意味合いも兼ねて、魔界と人界にひとつずつジムをオープンしてみることにしたニーズベルトは、魔界ではそう言ったものを好む戦王配下が多いバトルシティに、人界では竜王陣営がアルクレシア帝国と関わりが深いこともあってアルクレシア帝国にオープンすることに決めた。
そして、実際に異世界のジムを知る快人に、問題ないかどうか実際に体験して意見を出してほしいと頼み、それを了承した快人がオープン予定のジムに向かっているところだった。
「ええ、それで人界のジムは人族用に作ったものなので、出来れば人間の男女それぞれに体験してもらいたいって話なんですよ。最初は葵ちゃんとか陽菜ちゃんを誘おうと思ったんですが、冒険者の研修の日程と被って予定が合わなかったのでひとりで向かうところだったんですが……」
「私が問題ないのであれば、人族の女性として実際に体験をしてみて欲しいということですね。問題ありませんよ。私もそのジムという施設には興味がありますし、運動も苦手ではありませんから」
「ありがとうございます。それじゃあ、一緒に向かいましょう」
快人の申し出をエリスは快く了承した。元々気分転換を兼ねての外出だったので、体を動かして運動するのもいい気分転換になるだろうとそう思ったからだ。
「エリスさんは、日頃から結構運動をしてるんですか?」
「貴族と言ってもある程度の体力は必要ですからね。ダンスなどもありますし、あとは簡単な護身術ですね。もちろん戦闘が行えるというほど上等なものではありませんが、護衛がすぐに割って入れない場面などで最低限己の身を守れる程度という感じです」
「……興味本位で聞くんですが、実際そういう分に狙われたり襲撃を受けたりってあるんですか?」
「まず無いですね。少なくとも私は一度も経験した事はありません。もっとずっと昔に、帝国内で皇位争いが激しかったころには、暗殺なども横行していたようですが、いまはそのような話は聞いたことが無いですね」
快人とエリスは並んで歩きつつ雑談を交えながら、一緒にジムに向かって道を歩いて行った。
シリアス先輩「運動しても胃は鍛えることが出来ないのが、なんとも悲しい話である」




