前途多難である
試練……それは古来より人が成長する為に乗り越えてきたもの。一説には、それは神によって与えられるとも語られる。
神は乗り越える事の出来る試練しか与えないという言葉もあるが……本当にそうだろうか? 少なくとも俺は、神々から与えられた現在の試練を乗り越えられる自信が全くと言っていいほどない。
現在俺は白色の濁り湯の温泉を前にして、もたらされるであろう艱難辛苦を想像して、戦々恐々としていた……嘘だ。
やはり俺も男の子……頭の中は、これから目にするであろう四方の色っぽい姿ばかりが気になってしまっている。
温泉に入る事になり、クロノアさんを除く三方は……事もあろうに、一緒に着替えようと訳の分からない事を言い始めたが、そこは温泉には一緒に入るという事で、なんとか納得してもらった。
そして先に行って待つか、後から来るかの選択になったのだが……後になると正直踏み入れる気がしない、というか十中八九逃げてしまいそうなので先に行って待つ方を選んだ。
まだ湯船には浸かっていない……浸かると、速攻で頭が沸騰して気絶しそうな気がしたからだ。
しかし、まぁ、なんで皆さんあんなにノリノリなのか……いや、唯一の良心であるクロノアさんだけは最後まで抵抗していたが、悲しいかなシロさんに命令されればNOと言えないクロノアさんは、世界が終わったような表情を浮かべながらも混浴を了承した。
……うん。クロノアさんの反応が正常だよね?
「……お待たせしました」
「ッ!?!?」
そんな事を考えていると、聞き慣れた抑揚のない声が響き、微かな足音が聞こえてくる。
クロノアさんはともかく、フェイトさんとライフさんの声も聞こえないという事は、やはり一番最初に入ってくるのは頂点であるシロさんという事だろう。
そうそう、流石に全裸で来られると、俺は即座に撃沈する自信があるので……クロノアさんを味方につけて、タオルを巻いてもらう事だけは了承してもらった。
その気の緩みもあったのだろうか……シロさんの声が聞こえて、つい俺は反射的に振り返ってしまい……それをとんでもなく後悔する事になった。
「なっ!? ちょ、え? し、シロさん?」
「どうしました?」
「な、なな、なんで……たた、タオル……」
「ちゃんと巻いてますよ?」
「『腰だけ』にじゃないですかあぁぁぁ!!」
そう、登場したシロさんは……確かに俺がお願いした通り、タオルを巻いていた……男性が巻くような形で……お陰で、シロさんの豊かなで形の良い膨らみと、その頂点にある生唾ものに美しい突起が顕わになっており、一瞬で顔に血が上る。
シロさんは常に予想の斜め上を行く……俺の認識が甘かった。
というか……さ、流石シロさん……あまりにも美しすぎる。美の化身という表現すら生ぬるい、その美しい肢体と、黄金比とすら言えるプロポーション……め、目を逸らさなくちゃ行けない筈なのに、全然体が言う事を聞いてくれない。
「し、しし、シロさん!? とと、とにかく、胸、隠して下さい!!」
「なぜ?」
「なぜって……それは……」
「快人さんは喜んでいるみたいですか?」
「変な所で心読まないで下さい!! ともかく、隠して!!」
「……? 分かりました」
喜んでいないと言えば……それは、確かに嘘になる。
だって絶世の美女であるシロさんの半裸だ……それはもう、一瞬で脳裏に焼き付いた。
シロさんは不思議そうに首を傾げながらも、俺の言葉に従い指を軽く振る。するとタオルが大きくなり、しっかりと胸までタオルに隠れた。
あ、危なかった……入浴して、ものの数分で鼻血を吹き出すところだった……シロさん怖い。
そしてホッと息を吐いたのも束の間、すぐに温泉に隣接した脱衣所の扉が開き、フェイトさんとライフさんが姿を現す。
「カイちゃ~ん。おまたせ~」
「~~!?」
フェイトさんは以前、自分は小柄だけど胸はあると語っていたが……正しくその通り、身長はクロやアリスと変わらない程度に小柄なのに、タオルが巻かれている胸はかなりの大きさ……陽菜ちゃんぐらいあるかもしれない。
いわゆるロリ巨乳というやつで……個人的には若干邪道よりとか思っていたけど、実際目にすると即座に掌は引っくり返り、身長とのギャップが背徳感を際立たせていて破壊力が凄まじいと感じた。
「……温泉というのは、初めてですが……なかなかどうして、良さそうな雰囲気ですね」
「~~~~!?!?」
そしてライフさんは……もはや、筆舌に尽くし難い……アレはもはや、兵器だ。
今まで見てきた中で、リリウッドさんと並んで尤も大きな胸は、タオルに隠れていても尚、圧倒的な存在感で君臨しており、歩くたびに零れ落ちそうに弾み、もう目線がそこにしか行かない。
も、もうこの時点で限界が近いんだけど……頭が熱暴走しそうなんだけど……
「では、治します」
「へ?」
シロさんがそう告げて指を振ると、今にも気を失いそうだった頭の熱がスッと引いていき、そして再びシロさん達の姿を目に映して熱が上がってくる。
そして再びのぼせそうになると、熱が引いて行き……しばらく経つとまた顔が熱くなり始める。
え? なにこれ? なんなのこれ? 気恥ずかしさとかは全然消えないのに、限界向かえそうになると強制的にクールダウンされるんだけど!? もはや拷問なんだけど……気絶という逃げ道も塞がれたの!?
「はい」
この方、本当は女神じゃなくて悪魔なんじゃないだろうか? こちらの逃げ道をことごとく潰していく手腕に戦慄すら覚える。
退路が完全に塞がれたという絶望感を味わいながら、続く試練に身構えようとして……ふと気がつく。
「……あの、クロノアさんは?」
「……時空神~早く来てよ! シャローヴァナル様を待たせるなんて、不敬だよ!」
「わ、わわ、分かっておる……いい、今、行く……」
フェイトさんがクロノアさんを呼ぶと、脱衣所の方から消え入りそうな震え声が聞こえてきて、意を決したようにクロノアさんが姿を現す。
引っかかる所がなく、手を離せば巻いているタオルが落ちてしまいそうな程スレンダーながら、クロノアさんは他の三方とはまた違った趣で、非常に高身長である為か、タオルを巻いている姿がやたらきわどい……歩いたら見えてしまいそうな気がする。
クロノアさんはタオルを巻いた上で、胸の前で両手を交差させていて、顔は既にのぼせているように赤く、体は生まれたての小鹿のようにプルプル震えていた。
なんだろう、うん……必死に羞恥心を堪えているクロノアさんには、とても申し訳ないんだけど……なんか癒される。
他の三方がオープンすぎるからってのもあるが、この恥じらう正常な反応に思わずドキドキとしてしまった。
「なな、なんだ! み、ミヤマ! わ、笑うなら笑え!!」
「あ、いや、えっと……その、あまりに綺麗で、つい見とれてしまいました」
「なぁっ!?」
いきなり、なに言ってるんだ俺? どうやら相当混乱しているらしい。
俺の言葉を聞いたクロノアさんは、ただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にしながら、口をパクパクと動かす。
「……きき、貴様!? そそ、そのような甘言を……ふ、ふしだらな!!」
「す、すみません。つい」
「あっ、い、いや、すまぬ。お、お前を責めるつもりでは……その、我は、そのような言葉には、慣れておらん……」
「時空神、ずるいよ。来るなりカイちゃんといちゃつくなんて」
「いちゃついてなどおらんわ!!」
頬を可愛らしく膨らませながら文句を言うフェイトさんに、クロノアさんは必死の形相で叫び、その声が俺達以外には誰も居ない神域に木霊した。
拝啓、母さん、父さん――いよいよ、四方と混浴をする事になったんだけど、出だしからいきなりとんでもない攻撃を喰らった気分だ。これからの事を考えると頭が痛いが、気絶する事さえ許されない。本当に――前途多難である。
シリアス先輩「がふっ……きゅ~」