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シロさんのせいだと思う



 土の月19日目。俺は今ただ茫然と流れる景色を見つめていた。

 昨日は色々な事があった。アリスが六王の会議とやらで俺の護衛から一時的に外れ、昨日一日はアインさんが護衛についてくれていた。

 そしてルナマリアさんの母親が来る事になり……それがまさか以前出会ったノアさんだったとは、いや、本当に驚いた。


 ノアさんは1時間程度リリアさんの屋敷でお茶を飲みながら雑談をした後、また来ますと言って帰っていった。

 ノアさんの話の殆どはルナマリアさんの事で、昔のルナマリアさんがどうだったとか、家族のエピソードを惜しげもなく語ってくれて楽しかった……ルナマリアさんの目は死んでたし、また来るといったノアさんにもう来るなと叫んでいたけど……


 まぁそんな感じで、慌ただしい一日だったなぁと寝る前に思ったものだが……正直、翌日にさらに予想していない出来事が発生するとは思っていなかった。

 広く豪華な馬車の客車……窓から視線を外し、目の前に居る方に声をかける。


「……あの……なんで俺は、朝食もロクに食べないままで拉致されたんでしょうか? クロノアさん?」

「……それに関してはすまぬ、手配にかなり手間取ってな、事前伝達まで手が回らなかった」

「……はぁ」


 そう、現在俺は朝食を食べる直前といっていい時間に、突如現れたクロノアさんに連れられ、馬車でどこかへ移動していた。

 いきなりもいきなりの展開だったが、クロノアさんは来るなり俺に「すまん! 時間が無いのだ。なにも聞かずについて来てくれ」と悲痛な表情で頭を下げてきたので、断る事は出来なかった。


「……ま、まぁ、それは良いんですけど……これ、どこへ向かってるんですか?」

「神界だ」

「……へ?」

「シャローヴァナル様の意向でな、お前を神界へ招待する」

「……は?」


 シロさんが俺を神界に招待する? そう言えば、前にそんな感じの事を言っていた気がするけど……な、成程、それでクロノアさんが迎えに来てくれたのか。


「な、成程。目的地は分かりました……ところで、なんか、クロノアさん……やつれてません?」

「……シャローヴァナル様が、可能な限り早急に招待するようにと仰られたのでな……様々な手続きの為に、駆け回った……」

「ご、ご愁傷様です」


 疲れ果てているようにみえるクロノアさんに声をかけると、相変わらずシロさんの無茶振りで苦労しているみたいだった……この方は、本当に不憫すぎる。

 だって、相手、あのシロさんだからね? こちらがジャブ打てば、ミサイルランチャーでアッパーかましてくるようなド天然だからね。

 しかし様々な手続き……魔界に行く際も、発行に一週間かかる許可証が必要だったし、神界も同様に思い付いて即訪れる事が出来る場所では無いのかもしれない。


「本当にお疲れ様です……というか、やっぱり、神界って行くのに色々手続きが必要なんですか?」

「『下層』だけなら、そう難しくはない。神殿に申請し、許可証を発行すれば訪れる事が出来る。ただ、今回ミヤマが行くのは、『上層』だからな……」

「下層? 上層?」

「ふむ……神界の大地の形は認識しているか?」

「はい……中心の空いた円状ですよね? 地図で見ました」


 神界はドーナツ状の大地であり、魔界や人界に比べるとかなり小さかったと記憶している。

 俺の言葉を聞いたクロノアさんは、一度頷いた後で軽く説明をしてくれる。


「うむ、その通りだ……ただ、地図では分かり辛いだろうが、神界の大地は中心に向かって『三つ』に分かれている」

「三つ……ですか?」

「ああ、少し待て、地図を用意する」


 そう言ってクロノアさんは、以前リリアさんに見せてもらったのと同じ地図を取り出し、俺に差し出してくる。

 それを受け取って、以前はそれほどしっかり見ていなかった地図を改めて見てみると、確かに円状の大地は、三つの大きさの違う円が重なっているみたいで、少し隙間が見えた。


「まず一番外側の大地を下層と呼び、そこには下級神とその配下、そして神殿に仕える神官が暮らしている……そこに関しては、人族や魔族でも許可証さえあれば自由に訪れる事が出来る」

「……ふむふむ」

「そして一つ内側の大地……地図では高低差は分かりずらいであろうが、そこは下層から見ると高い位置に二つ目の大地『中層』が存在している……ここは主に上級神の住む地であり、最低でも人界の王程度の地位と信用が無ければ、立ち入る事は出来ん」


 どうやら神界は、地図では山を上から見ているイメージになるらしく、中央の穴に近付くほど高い位置に大地があるらしい。

 そして中層には、基本的に国王クラスでなければ立ち入る事は出来ない……って、残る上層は?


「……そして、最も中央に近い場所に『上層』と呼ばれる大地が存在している。ここは最高神とその部下以外は、神族とて立ち入る事は許されぬ場所であり、人族がここを訪れるのは初代勇者に次いで、二人目……異例中の異例といって良いだろう」

「……それは、やっぱり、シロさんが住んでいるからですか?」

「正しくは少し違う。シャローヴァナル様が住んでおられるのは、地図には記載されておらんが、神界の中心……天空に浮かぶ島で『神域』と呼ばれている。そこへは、我であってもシャローヴァナル様の許可なく立ち入る事は出来ん」

「……」


 あれ? おかしいな……物凄い場所ってのは伝わってくる。最高神であるクロノアさんでさえ、許可なく立ち入る事が出来ない場所……文字通り、この世界で最も訪れる事が難しい場所。

 しかし、空中に浮かぶ島? それって……俺が初めにシロさんから祝福を受けた場所じゃないの?


(その通りです)


 あ、やっぱりそうなんですね……じゃあ、わざわざこんな仰々しく連れていかなくても、最初に祝福をしてくれた時と同じように、俺だけ転送してくれれば良かったのでは?


(……言われてみればそうですね)


 おい、こら、天然女神……単純に思い付かなかったの!? ちょっと、クロノアさん疲労困憊って感じになってるんだけど!?


(では今から、転移させ……)


 やめてあげて!? 折角のクロノアさんの苦労を、無に帰さないであげて!? ちゃんと、クロノアさんの案内で遊びに行きますから、そこで待っててください。


(条件があります)


 ……なんで、要望に答えてる側の俺が条件出されるの? ねぇ、なんで? 自由なの?

 なんだか釈然としなかったが、シロさんにいっても無駄である事は分かっている……とりあえず、その条件とやらを言ってみてください。


(クロだけずるいので、私とも一緒に温泉に入ってください)


 ……ナニイッテンノコノカタ? 温泉? 温泉っていった? 神界にそんなものあるんですか?


(造りました)


 シロさん、本当になにやってんの!? 自由すぎるだろ!?

 というか……って事は、本気で俺と一緒に温泉に入るつもりなの? いやいや……それは流石に……


(クロだけずるいです)


 いや、だってそれは、えっと……


(クロだけずるいです)


 ……水着、とかで、妥協しません?


(しません)


 ……これ、俺に断る選択肢無いやつですか?


(はい)


 言いきりやがった。了承するまで延々リピート再生みたいに言い続けるって、宣言しやがった!?

 む、むぅ……コレは非常に悩み所である。シロさんは、それはもう素晴らしいプロポーションに、絶世の美女といっていい容姿……本気で理性を押さえられる自信が無い。


 さらに問題なのは、シロさんは俺の心が読める……なんか、俺が必死に耐えようとしているのを見越した上で、その理性を粉砕しに動いて来そうで怖い。

 だがまぁ……残念ながら拒否権はない。了承するまで無限ループするだけなので、結局了承するしかないという……理不尽すぎる。


(快人さんは……私と一緒に温泉は、嫌ですか?)


 その聞き方はズルすぎると思う。相変わらず声には抑揚無いけど、それでもダメージが滅茶苦茶デカイ。

 分かりました……入ります。入ればいいんでしょう!


(ありがとうございます。では、楽しみにお待ちしています)


 う~ん、やっぱり、どうもこう……シロさんって、声に抑揚が無いからだろうか、意図を掴み辛いし、感応魔法も効かないので、なに考えてるのかよく分からない。


「シャローヴァナル様との話は終わったのか?」

「え、ええ、まぁ……えっとですね……」


 シロさんと話していた事を察して黙っていたらしいクロノアさんが声をかけてきて、俺はクロノアさんにゆっくりと今シロさんとした会話を伝える。

 発端に関してはお茶を濁したので、クロノアさんの苦労は無駄にはならなかった筈だが……何故かクロノアさんは、先程よりも光を失い死んだ魚のような目に変わる。


「……そうか……」

「あ、あの、クロノアさん? どうしました?」


 てっきり、そんなふしだらな真似は許さん! とかそんな反応かと思ってたが……なんだろう、この全てを諦めたかのような顔は……


「……ミヤマ……後生だ……シャローヴァナル様の島についた後は、我の事は居ないものとして扱ってくれ……頼む、なにも記憶に残さないでくれ……」

「……は? えっと……はい」


 拝啓、母さん、父さん――急展開とでも良いのか、突然現れたクロノアさんにより神界に連れていかれる事になったよ。クロノアさんは何故か死んだ魚みたいな目をしていたけど、たぶん大体は――シロさんのせいだと思う。





シリアス先輩「……創造神様回……なんだ、天敵か……おうち帰ろ……」

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― 新着の感想 ―
クロノア様も一緒に入ることが確定してるからか…
[一言] ( ー̀∀ー́ )
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