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また新しい出会いがあったよ

 土の月10日目。俺は朝からリリアさんに時間を作ってもらい、リリアさんの執務室に来ていた。


「それで、カイトさん? お話しというのは?」

「……えっと、ですね」


 今回リリアさんに報告しようとしているのは、クロとアイシスさんと恋人同士になった事……まぁ、プライベートな事情でもあるので、報告が義務という訳ではないが、後で知ってリリアさんが驚愕する前にちゃんと説明しておこうと思った。


 首を傾げるリリアさんに、俺は順番にクロと恋人になった事、自分の居た世界とこちらの世界の違いに悩んだが、結局順応する事にしてアイシスさんとも恋人になった事を説明する。


「……っと、言う訳です」

「……」

「……あの、リリアさん?」

「…………」

「お嬢様?」

「………………」


 俺の話を聞き終えたリリアさんは、真っ直ぐにこちらを見つめたまま硬直し、沈黙していた。

 その様子に俺とルナマリアさんが首を傾げながら声をかけるが、リリアさんからの反応は返ってこない。


「……気絶してるみたいですね」

「なんていうか、その、ごめんなさい」


 新しいパターンではあるが、どうやらリリアさんは目を開けたまま気絶しているらしい……何とも器用ではあるが、大変申し訳ない。












 しばらく経って気絶から立ち直ったリリアさんは、頭を抱えて茫然とした表情を浮かべていた。

 片手には小さな瓶を抱えており、その中から錠剤らしき物を取り出して飲みながら口を開く。


「……い、いつかは、そうなるかもと思ってましたが……」

「お嬢様、あまり多量に胃薬を飲まれては……」

「飲まなきゃやってられないですよ!! こんなの!!」

「まぁ、お気持ちは分かりますが……」


 悲痛な表情で叫ぶリリアさんだが、俺がクロ達と恋人になる可能性自体は予測していたみたいで、特に俺を怒ったりする事は無かった。

 ただ、何やら戦々恐々としているというか、顔色は優れない。


「……これ、とんでもないですよ……本当に、馬鹿な貴族辺りがカイトさんに不敬でも働こうものなら……国が消し飛びます……兄上とか、兄上とか、後、兄上とか……」

「……え、ええっと……」


 むしろライズさんは大変心強いアドバイスをくれて、俺としては非常に感謝してるんだけど……忌々しげなリリアさんの表情を見ると、以前ルナマリアさんが言っていたリリアさんの前では馬鹿になるという言葉を思い出した。


「……まぁ、その辺りを抑えるのは私の仕事ですし、ここは素直に祝福ですね……カイトさん、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」


 頭を抱えていたリリアさんだが、やはり優しい人なのですぐに表情を切り替え、微笑みを浮かべて俺を祝福してくれた。

 そしてルナマリアさんも俺の方に一歩進み、恭しく礼をする。


「やはり、ミヤマ様は素晴らしい方ですね。このルナマリア、己の事のように嬉しく思います」

「……えっと、ありがとうございます」

「……ルナ、本音は?」

「冥王様が頻繁に訪れてくださりそうで、物凄く嬉しいです」

「……でしょうね」


 ルナマリアさんは安定のルナマリアさんだったが、ともあれこれで報告は完了したので、俺はリリアさんにもう一度お礼を言ってから退室した。














「……ところでお嬢様、嬉しそうですね?」

「へ? な、なにがですか?」


 カイトが去った後、少し間を開けてからルナマリアが呟き、リリアは動揺した様子で振り返る。


「……さぁ、いえ、ミヤマ様がこちらの世界の常識に馴染むなら……お嬢様にも可能性はありそうですね~っと」

「な、なな、何の事ですか!? わわ、私は別に……」

「そういえば、先日お嬢様が『男性物の服』を購入したという情報を掴んだのですが……」

「にゃ、にゃんでそれを!?」


 続けて放たれたルナマリアの言葉を聞き、リリアはボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤に染める。

 確かにルナマリアの言う通り、リリアは少し前にこっそり一人で街に出かけ、男性ものの服……少し高価な礼服を購入していた。

 それこそ貴族の夜会などに着ていっても恥ずかしくない物を……


「べ、べべ、別にアレはそういうのではなくて……ひ、日頃お世話になってるお礼で……」

「ああ、やはりミヤマ様に贈るおつもりなんですね」

「~~!?」

「いやはや、お嬢様もすっかり恋する乙女になって……可愛らしいものです」

「ルナァ!!」














 リリアさんに報告をした後、俺は少し買いたいものがあって街に出かける事にした。

 別に大したものを買うのではなく、間食用のお菓子……部屋で食べる用に何か買おうと思った程度で、特にどことも目的は決めずに散策してみる事にした。


 ついでにアリスの雑貨屋に寄るのも良いかもしれない。

 アリスは普段俺の護衛についており、その間店はどうしているのか疑問だったが……どうやらアリスは分身みたいな事も出来るらしく、店番はアリスの分身体が行っているらしい。

 まぁ、最も客は全然来ないみたいだが……


 そんな事を考えながら大通りから少し逸れ、裏路地という程でもないが人通りが少なめの道に入ると、気になるものが見えた。

 俺の進行方向の先、道の端辺りで小柄な女性がうずくまっている。後ろからでは表情は見えなかったが、何やら体調が悪そうな感じだったので少し慌ててその女性の元に駆け寄り声をかける。


「あの、どうされました? 大丈夫ですか?」

「……え? ええ、申し訳ありません……少し貧血で……」


 振り返った女性は春の青空みたいな水色の美しい長髪で、翡翠色の目と病的に白い肌が特徴の美少女だった。

 着ている上品なドレスにサラサラの髪と、どこかの貴族の令嬢だろうか? 気品を感じる顔立ちをしているが、その顔は真っ青だった。


「貧血!? え、えっと……ど、どうすれば……な、何かお手伝いしましょうか?」

「お気遣い、ありがとうございます……ですが、丁度病院に向かう所ですので、大丈夫です」

「い、いや、でも……歩けるんですか?」

「……ちょっと難しそうです」


 ……おい。全然大丈夫じゃないじゃないか……だ、だけどどうすれば? 俺は貧血になった事はないし、医学的な知識もないからどうすればいいか分からない。

 転移魔法で運ぶ? いや、屋敷に連れていくより病院に連れていく方が良いだろうし……

 一瞬アリスを呼ぼうかとも考えたが……アリスは仮にも幻王。体調の悪い人の前に幻王の姿で現れたら、ビックリしてより大事になりそう……だからと言って放っておく事は出来ないし……


「えっと、その病院は遠いですか?」

「い、いえ、すぐ近くです」

「……分かりました」

「……え?」


 病院がすぐ近くにあるという女性の言葉を聞き、俺は女性の前に周りこんでしゃがむ。


「すみません、他に方法が思いつきません。嫌かもしれませんが、俺が病院まで運びます」

「い、いえ、そんな!? 初対面の方にご迷惑をかける訳には……」

「申し訳ないですが……性格上無視はできないので、無理やりにでも手助けさせてもらいます」

「……お優しい方なのですね……申し訳ありません。では、御厚意に甘えさせていただきます」


 女性をいきなりおぶって運ぶなんて失礼な提案かもしれないが、残念ながら良い方法も思いつかないし、悠長に考えていてはもっと体調が悪くなるかもしれない。

 貧血とはあくまで女性の弁であり、もしかしたらもっと悪い病気の可能性もあるのだから、ここは一刻も早く運ぶべきだろう。


 そんな思いが伝わったのか、女性はお礼の言葉を告げた後で俺の背中におぶさってくる……って、軽っ!?

 見た目からして華奢な感じではあったが、実際その体は驚くほどに軽く、非力な俺でも十分に運べる。


「……本当に……何とお礼を言っていいか……あの? 重くないでしょうか?」

「いえ、全然軽いですよ。それで、病院はどこでしょうが? 俺は道が分からないので、案内をお願いします」

「……はい。この先の角を右に……」


 やはり体調は悪いみたいで、女性の声はどこか弱々しく、俺は少し早足になりながら女性の案内に従って病院を目指した。











 女性の言葉通り、先程の路地から数分歩くと目的地らしき場所に到着した。


「……えっと、ここですか?」

「……はい」

「……『教会』に見えるんですが?」

「ええ、先生は教会の司祭もしていますので……」


 辿り着いた場所は病院というより教会みたいな外観……というか教会そのもので、道を間違えたかと思って尋ねてみたが、どうやらここで合っているらしい。

 確かにRPGとかだと僧侶は回復役ってイメージがあるし、魔法が一般的なこの世界では司祭が医者なのは自然なのかもしれない。


 まぁ、どちらにせよアレコレ考えている暇はない。早く入って診察してもらわないと……

 そう考えつつ女性を背負ったままで教会の扉を開けると、神々しいとすら感じる光景が広がった。

 壁一面に所狭しと飾られた十字架、それをステンドグラスから差し込む光が照らし、まるで満天の星空のような光が満ちている。


 そして視線の先祭壇の前には、深い藍色に金の刺繍が入った法衣を見に纏い、両膝をついて祈りをささげている女性が見え、周囲と相まってまるで絵画でも見ているみたいに美しかった。

 その女性は扉が開く音が聞こえたのか、俺達が中に入ってすぐ祈りの手を解き立ち上がりこちらに振り返った。


 深みのあるダークグレーの髪はモミアゲ部分が非常に長く、腰辺りまで伸びていて銀色の髪留めで止められている。

 後ろ髪は法衣と同じ色のベールに隠れて見えなかったが、なんというか徳の高いシスターといった雰囲気の女性で、深い琥珀色の瞳が神秘的な雰囲気をより際立たせている。

 その神秘的な美しさに思わず息を飲むと、女性は見る者を魅了する穏やかな微笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「……いらっしゃい。今日はどうし――ふぎゃっ!?」

「……へ?」


 そして歩いている途中で、長い法衣の裾を踏み……物凄い勢いで床に顔を打ちつけた。

 えっと、どうしよう……なんか、物凄く見てはいけないものを見た気がする。さっきまでの神秘的な雰囲気とか、その辺全部台無しだよ。

 というか、思いっきり顔打ってたけど、大丈夫なんだろうか?

 そんな疑問が頭に浮かぶと同時に、司祭の女性は顔を手で押さえながら起き上がる。


「顔……いひゃい……」

「……えっと、大丈夫ですか?」

「う、うん。恥ずかしいとこ見せちゃったね……えっと、それで、今日はどうしたのかな……って、ノアさん?」

「ご無沙汰してます。『フィーア先生』」


 こけたのが恥ずかしかったのか、軽く頬をかきながら起き上がった司祭の女性は、俺が背負っている女性を見て驚いた表情に変わる。

 どうやらこの方が医者で間違いないみたいで、背負っている女性……ノアさんは、安堵した様子で司祭の女性の名前を呼んだ。


 拝啓、母さん、父さん――街を散策している途中に体調の悪そうな女性を見かけ、成り行きからその方を病院に連れていく事になった。本当に人生何が起こるか分からないもので、たまたま出た先で――また新しい出会いがあったよ。





シリアス先輩「ヒロインは、一人って言ったじゃない!! うそつきいぃぃ!! なんで、口の砂糖も溶けきらない内に、追加で二人もひっかけてるんだぁぁぁぁ!!」


実はノアも今まで存在だけはほのめかされていた存在。

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― 新着の感想 ―
最後.....最後....?
[一言] そういや言ってたな生きてた魔王に出会っても…とかなんとか ところでどっちが最後?
[一言] 魔王ちゃんじゃん
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