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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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物凄く相性が良いみたいだ



 街中で偶然見かけたノアさんを連れて辿り着いた病院兼教会。そこには司祭服を着たフィーア先生という医者の方がいた。
 フィーア先生は俺が背負うノアさんを見て、どこか呆れた様子で呟く。

「……ノアさん、もしかして……」
「あ、はい。貧血で……」
「はぁ……何度も言うけど、無理してでも『血を飲まないと』駄目だよ」
「分かってはいるんですが、なかなか難しくて……」

 えっと、これは一体どういう会話だろうか? え? 俺が知らないだけで、貧血防止には血を飲む方法が一般的な……いや、そんな訳はないか。
 ともかくノアさんはここに頻繁に訪れているみたいで、フィーア先生も事情は分かっている感じだった。

「……ノアさん、自分が『ハーフヴァンパイア』だって自覚ある?」

 フィーア先生が呆れながら告げた言葉を聞いて、俺は内心結構驚愕していた。
 ハーフヴァンパイア? って事はつまり、ノアさんって半吸血鬼ってこと? な、なんだろう、この……ドラゴンを見た時に沸き上がったのと同じ感動は……流石異世界。

「お恥ずかしながら、あまりないです」
「そこは、嘘でもあるって言って欲しいかなぁ……まぁ、ともかく先に治療しよう。えっと、君は……」
「あ、えっと、宮間快人です」
「ミヤマくんね。うん、それじゃあ悪いんだけど、ちょっとこっちの診察室までノアさんを運んでもらえるかな?」
「分かりました」

 う~ん、こうして話していると、流石医者だけあって出来る大人の女性って雰囲気だ。
 さっき転んでたのはたまたまだろうし、フィーア先生も恥ずかしいだろうから今後は触れないでおこう。

 そう考えながらフィーア先生に続いて診察へと移動を開始……しようとした瞬間、歩きだしたフィーア先生の足が、教会にある木のベンチにぶつかった……しかも小指部分が……アレは痛い。

「ぎゅぅ……いっ、いたぃ……」
「え、えと、フィーア先生? 大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫。あ、あはは、どうも私って昔っからドジでね……さ、気を取り直してこっちだよ」
「あ、はい」

 俺の言葉を聞いたフィーア先生は、指で頬をかきながら子供のように苦笑する。
 平均より高いであろう身長とのギャップもあって、なんだか可愛らしい方だと感じた。










 大病院のというよりは、町医者の診療所といった雰囲気の診察室で、俺とノアさんは丸椅子に座り、フィーア先生の準備が整うのを待つ。
 フィーア先生はテキパキと準備を進めながら、俺がノアさんを背負ってやってきた経緯を尋ねてきたので、簡単に事情を説明する。

「へぇ~じゃあ、ミヤマくんは初対面のノアさんを心配して声をかけたんだね。うん、困ってる人に自然と手を差し伸べられるのは、とても素敵だと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
「私からも改めてお礼を言わせて下さい。ミヤマさん、本当にありがとうございます」
「いや、そんな……えっと、どういたしまして」

 そこまで大層な事をしたつもりはないが、お礼の言葉を受け取らないのも失礼だと考え、素直に受け取る事にする。
 まぁ、俺も一応は男だし……フィーア先生にノアさんと美女二人から褒められると、当然嬉しい。

「よっし、それじゃあノアさん。点滴するからね」
「えっ!?」
「……へ?」

 準備が整ったみたいで、フィーア先生が注射器を持って現れたが、何故かノアさんは驚いた声を上げ、頬を赤くしてチラチラと俺の方を見てくる。

「ノアさん? どうかしたの?」
「えっと……その……い、いくら、素敵な方とは言え、まだ出会ったばかりの男性の前で脱ぐのは……」
「……いや、点滴だからね? 袖だけ捲ってくれればいいからね?」
「あら?」

 えっと、なんて言うかノアさんって、シロさんとは違った意味で天然なのかな? なんかフィーア先生も脱力してるし……
 と、ともあれ、フィーア先生の言葉でノアさんも納得してくれたらしく、落ち着いた色合いのドレスの袖をまくり、点滴をしてもらっていた。

「そういえば、ノアさん。今日はルーちゃんは一緒じゃないの?」
「ええ、今日はお仕事があるみたいです」
「ルーちゃん?」
「あ、私の娘です」
「娘っ!? え? ノアさん、えっと、ご結婚されてるんですか?」

 フィーア先生が告げたルーちゃんという名前に首を傾げると、ノアさんが自分の娘だと説明してくれたが……大変失礼ながら滅茶苦茶驚いて、思わず聞き返してしまった。
 ハーフヴァンパイア……魔族という事は頭では理解しているつもりだったが、12~14歳ぐらいにしか見えないノアさんの容姿で、娘がいると告げられると驚いてしまう。

「ええ……とは言っても、夫は死去しておりますが……」
「あっ、す、すみません!」
「いえいえ、もう50年以上前の事ですし、お気になさらず」

 どうやらノアさんの旦那さんは既に亡くなっているみたいで、悪い事を聞いてしまったと頭を下げたが、ノアさんは気にした様子もなく穏やかに微笑む。
 するとそのタイミングでフィーア先生が、話を切り替えるように口を開く。

「……ノアさん。何度も言うようだけど、血液内の魔力は時間が経てば経つほど抜けちゃうからね。点滴じゃなくて、新鮮な血液を経口摂取しなきゃ駄目だよ?」
「分かってはいるんですが……やはりどうも、血を飲むのは苦手でして……」

 気遣う様子で話すフィーア先生の言葉を聞き、ノアさんは申し訳なさそうに頭をかく。
 血を飲むのが苦手で、貧血気味のハーフヴァンパイア……なんというか、それは種族的にどうなんだろうか?

 そんな俺の疑問を察したのか、フィーア先生は軽く微笑みを浮かべて俺の方を向く。

「ヴァンパイア族って、どんな血で飲むってイメージがあるんだけど、結構相性ってのがあってね。合わない血だと拒絶反応をおこしちゃう事もあるんだよ」
「そうなんですか……」
「ええ、私の場合は……えっと、皮肉な話ですが夫の血と相性が悪くて……一度拒絶反応を起こしてから、どうにも血を飲むのが苦手になってしまいましてね」
「……」

 サラッと苦笑しながら告げられた重い言葉……最愛の相手の血で拒絶反応を起こした。
 ノアさんは気にしてない様子で語っているが、たぶんその当時は凄くショックだったんだと思う。

「夫の血を引いていますので、必然的に娘の血も相性が悪くて……そうなると、私は普段ほとんど出歩かないので、血を飲む機会というのが無いんですよ」
「……ノアさん。動物の血でも良いんだよ?」
「……その、動物の血は……苦いので……」
「まぁ、こんな訳で、ノアさんはかなり血の好き嫌いが多くて……主治医の私も困ってるよ」

 子供がピーマンを苦手とでも告げるような表情で、動物の血は美味しくないというノアさんを見て、思わず苦笑してしまう。
 それにより少し空気が和らいだのを感じ、フィーアさんも苦笑しながら溜息を吐く。

「ともかく、それで何度も貧血になってたら、ルーちゃんも心配するよ。早い所、定期的に血を分けてくれる相手を見つけないと……」
「それは、そうなんですが……私は知り合いも少なくて、血を分けてくれるような優しい方は……」
「そうだねぇ、献血程度の量とは言え、あまり親しくない相手にでも分けてくれるような人の好い……」
「……」
「……」
「……え?」

 困った様子で言葉を交わしていた二人は、何故か途中で話を止めて俺の方を向く。
 美女二人からジッと見つめられているという、何とも落ち着かないシチュエーションに困惑していると、フィーア先生がゆっくり口を開く。

「……ミヤマくん、ものは相談なんだけど……少しだけ血を分けてもらえないかな?」
「えっと、それはつまり、ノアさんにという事ですか?」
「うん、ちょっとノアさんとの相性を試してみたいなぁって……勿論、無理にとは言わないよ!」
「ええ、会ったばかりでこのようなお願い、図々しいを通り越して無礼と承知しています。断って下さって構いません」

 つまりフィーア先生の言いたい事を要約すると、ノアさんが俺の血を飲めるなら少し分けてあげて欲しいという事らしい。
 献血程度の量って言ってたし、ノアさんが貧血で苦しんでいるのは顔色を見ればよく分かる……偶然とはいえ関わってしまった訳だし、俺としては途中で放り出すのは気が引ける。

「ええ、構いませんよ」
「本当に!? 言っておいてなんだけど、本当にぶしつけなお願いだよ?」
「はい。俺に出来る事でしたら協力します」
「……ミヤマさん……本当に、何とお礼を言って良いか……」

 俺の了承の言葉を聞いて、ノアさんは本当に申し訳なさそうな表情で何度も頭を下げてくる。

 とは言え、まだこの話は確定した訳では無く、ノアさんが俺の血を飲む事が出来ればなので、まずは相性を確かめてみるらしい。
 相性が悪くて拒絶反応を起こしたらどうしようかと思ったが、フィーア先生が付いているのでその辺は安心ということだ。

 という訳で一先ず俺の指先を軽く切り、血を一滴ノアさんの飲ませてみる事になった。
 傷は後でフィーア先生が治癒魔法をかけてくれるらしいので、指先をナイフで少し切ってもらい、口を開けて待つノアさんの少し上に指をかざす。
 見た目が幼い少女である事もあって、光景がなにやら背徳的な気がする。

 そして俺の指から血が一滴落ち、ノアさんの口に入ると……

「……んっ、あっ、え? ふぁぁぁぁぁ……」
「の、ノアさん?」
「ッ!? はむっ!」
「えっ!? ちょっ!?」

 口に血が入ったかと思うと、ノアさんは突如大きく目を見開き、俺の手を掴んで傷のある指を口に入れた。
 あまりに突然の事に反応出来なかったが、すぐに我に返って手を動かそうとするが……力つよっ!?

「んんっ、じゅっ、ちゅぱ……」
「なぁっ!? の、ノアさん!! 一体何を!?」

 そして次の瞬間少しザラッとした柔らかいものが指に触れ、ノアさんは物凄い勢いで俺の指をしゃぶり始める。
 一体何が起っているのか分からなかったが、色々と大変な事になってるのは分かる……分かるけど、手ピクリとも動かない!? やっぱ半吸血鬼だから力も相当強いのか!? 

「……ノアさん、ストップ」
「あっ……も、もっと……」

 慌てている俺と夢中で指を舐めるノアさんの間に割って入り、軽々とノアさんを引き剥がしてくれるフィーア先生……あの力を軽々と引き剥がすって、もしかしてフィーア先生も相当強いんじゃ……

「ノアさん?」
「あぅ……はっ!? あ、も、申し訳ありません! こ、こんな美味しい血を飲んだのは初めてで、つい我を忘れてしまいました。ミヤマさん、本当に申し訳ありません」
「あ、い、いえ……大丈夫です」

 よく分からないが、どうやら俺の血はノアさんにとってとても美味しいものだったらしく、それで先程の奇行に及んでしまったらしい。
 顔を真っ赤にしながら何度も頭を下げてくるノアさんに、気にしないでと言葉を返す。

「ミヤマくんの血……そんなに美味しかったの?」
「え、ええ……天上の蜜かと思う程甘く、蕩けるように滑らかで……あんな味を知ってしまっては、もう他の血なんて飲めなくなってしまう程です」
「……う~ん、どれどれ?」

 どこか恍惚とした表情で語るノアさんの言葉を聞き、フィーア先生はノアさんの頬に触れてなにかを確認するように視線を動かす。

「……確かに、顔色も良くなってるし、魔力の循環も凄くスムーズになってるね」
「えっと、つまり、どういう事ですか?」
「いや、偶然ってあるものだね。どうやらミヤマくんの血は、ノアさんにとってこれ以上ないほど相性が良いみたいだよ」

 成程、要するにヴァンパイアにとって相性の良い血は美味しく、相性の悪い血は不味く感じるらしい。

「……うん。これならノアさんの慢性的な貧血も治るかもしれないし、これだけ相性が良いなら本当に少量で大丈夫……ミヤマくん、もし良ければ10日おきぐらいにここにきて、数滴で構わないからノアさんに新鮮な血を飲ませてあげてくれないかな?」
「数滴で良いんですか?」
「うん」
「分かりました、良いですよ」

 それでノアさんの体調が良くなるのであれば、俺の方には全く問題はない。
 流石に毎回指を舐められたら困るが、そこ辺りは今回の反応で学んだし、事前に注意も出来るだろう。

「ありがとう、助かるよ……あっ、勿論治療に協力してもらう訳だから。ちゃんとお金は払うよ」
「え? あ、いや、別にお金とかは……」
「貰っといてよ。じゃなきゃ、ノアさんの方も気が引けちゃうだろうからね」
「……わ、分かりました」

 フィーア先生の言葉に了承の意を返しながら、ノアさんの方を向くと……ノアさんはなにやら熱い視線を俺に向けている。
 視線は熱いながらも瞳は揺れて焦点が合っておらず、惚けているようにさえ見える。

「……次から、ちょっと、薄めて飲まそう……貧血治る前に中毒になっちゃいそうだし……」

 そんなフィーア先生の呟きと溜息が聞こえた。

 拝啓、母さん、父さん――偶然知り合ったノアさんとフィーア先生の話を聞き、ひょんな事からノアさんの貧血治療に協力する事になった。どうやら、俺の血はノアさんにとって――物凄く相性が良いみたいだ。



フィーア先生……元魔王、司祭、医者、ドジっ子。
ノア……半吸血鬼、病弱、見た目幼女の未亡人、『ルナマリアのママン』
+注意+
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