この笑顔を守っていきたい
俺は真剣な表情で隣に座るアイシスさんを見つめ、アイシスさんは不思議そうに首を傾げる。
「……伝えたい事?」
「……はい」
覚悟は決めた筈だが、やはり緊張は半端ではない。
バクバクと心臓の音が聞こえ、アイシスさんの声もやけに大きく聞こえた。
気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をして……しっかりと自分の想いを伝える為に口を開く。
「……アイシスさん、俺は……クロが好きです」
「……っ……うん……分かってる」
まず一番初めに告げた言葉を聞き、アイシスさんは少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
それは以前話した俺の居た世界では一夫一妻制が当り前という言葉を思い出しての事だろう。
アイシスさんに真摯に向い合う為に必要な前置きだとは言え、少し心が痛んだ……だけど、本番はこれからだ。
「だけど、俺は……あ、アイシスさんの事も、好きです。勿論、一人の女性として……」
「……え?」
「不誠実なのかもしれません。優柔不断なのかもしれません。でも、俺の心の中で、アイシスさんは本当に大きな……かけがえの無い、愛おしい存在になってるんです」
「ッ!?」
俺の告げた言葉を聞き、アイシスさんはその美しい目を大きく見開き驚愕する。
ルビーみたいに赤く美しい瞳は、動揺しているのか激しく揺れていた。
「……う、嘘……だって……私は……化けも――「関係ない!」――ッ!?」
自分は死の魔力を纏う化け物だと言いかけたアイシスさんの言葉を遮り、俺はアイシスさんの手を強く握る。
この想いが伝わるようにと願いを込めながら、握った手を胸の前まで移動させ、両手で包み込むように握りながら言葉を続ける。
「……死の魔力だとか、六王だとか、そんな事は関係ないんです。優しくて、可愛らしくて、いつも俺の事を心から想ってくれる貴女を……アイシス・レムナントという女性を、俺は好きになったんです」
「……あっ……あぁ……」
「だから、俺はアイシスさんにいつも笑顔でいて欲しい、幸せになって欲しい……こんな頼りない俺ですけど、絶対にアイシスさんを今以上に幸せにしてみせます! だから……俺と付き合って下さい!!」
「ッ!?!?」
言いきった……アイシスさんへの想いを、好意を、言葉に変えて伝え終わった。後はアイシスさんの返事を待つだけ……
たとえうぬぼれでは無く、アイシスさんが俺に好意を抱いてくれている事が分かっていても、それでも告白というものはどうしようもなく緊張するもので、自分の心臓の音がやけにハッキリ聞こえてくる。
クロの時は俺自身がむしゃらで、そんな事を考える余裕はなかったが……今は全身を針で刺されるような緊張の中にいる。
ライズさんが言っていた返事を貰うまで生きた心地がしないって言うのが、本当によく分かった。
俺の告白を聞いたアイシスさんは、大きく目を見開いたまま硬直し……少しして、その瞳から大粒の涙を溢し始める。
「……夢……じゃ……ないんだよね……私に……私なんかに……こんな……幸せな事が……」
「アイシスさん……もう一度言います。貴女の事が好きです……返事を、聞かせてもらえますか?」
「……はい……私も……カイトが好き……誰よりも……何よりも……これからも……カイトと一緒に……居させて」
「はい。喜んで」
「~~!? カイトッ!!」
「うわっ!?」
俺の言葉を聞いて、嬉し涙を流し、アイシスさんは勢いよく俺に飛びついて来た。
不意打ちだった事と、俺が貧弱だった事もあり、その勢いに押されてアイシスさんに抱きつかれたまま仰向けに倒れる。
俺が下に、アイシスさんが上になった状態で、アイシスさんは少しも俺から離れたくないと言いたげに、その小さな身体の全てを俺にくっつけながら涙を流し続ける。
「……うっ……ぅぅ……嬉しぃ……こんなに幸せなの……生まれて……初めて」
「……アイシスさん」
「……カイト……カイトォ……好き……大好き」
「俺も、アイシスさんが好きです」
涙交じりの声で、何度も俺を好きだと告げてくれるアイシスさんの言葉を受け、想いが通じた嬉しさを感じながら、その体を少し強く抱きしめる。
するとアイシスさんはその動きに反応し、そっと顔を上げ……目を閉じた。
俺はその美しい頬に煌く涙を指で拭ってから、アイシスさんの首の後ろに手を回し、ゆっくりと顔を引き寄せる。
「……んっ」
俺とアイシスさんの影がピッタリと重なり、丘に吹く風が頬を撫でる中で、俺達は……通じ合った想いを……時間を忘れて重ねあった。
心地良い風が吹く丘の上で、アイシスさんと並んで座り景色を見つめる。
アイシスさんは俺に甘えるようにもたれかかり、頬を染めて幸せそうに目を細めていて、その姿を本当に愛おしく感じながらアイシスさんの肩を抱く。
「……いいのかな? ……私が……こんなに……幸せで」
「良いに決まってます。それに、ここが終わりなんかじゃないですよ……もっと、もっと、幸せにします。絶対に……」
「……うん……カイトが傍にいてくれるなら……私は……ずっと笑っていられる……もっと……ずっと……幸せになれる」
「はい」
穏やかな声で呟きながら、アイシスさんはゆっくり俺の体に手を回し、ぎゅっと密着してくる。
全身で感じるアイシスさんの体温に、気恥ずかしさと共に幸せを感じていると、アイシスさんが優しい声で呟く。
「……でも……私……だけじゃない」
「……え?」
「……カイトも……幸せにする……私を好きになってくれた事……後悔しないように……私も……もっと……カイトに……好きになってもらえるように……頑張る」
「後悔なんてしませんけど……はい。お互いにこれから、もっと、沢山、絆を深めていきましょう」
「……うん」
アイシスさんに告白されてから、今日まで随分と時間がかかり……アイシスさんを待たせてしまった。
だけど、時間をかけてゆっくり考えたぶん……しっかりと決意は出来たと思う。
もう、アイシスさんの事は手放さない……勿論、クロの事も……
どちらの事も好き、俺が出した答えは、そんな優柔不断なものではあったけど、優しく……そして幸せに満ちた答えだったと感じる。
「……っと、そう言えば食事の途中でしたね」
「……あっ……うん……カイト……一緒に食べよ」
「はい」
「……また……私の家に……遊びに来てくれる?」
「勿論、むしろ結構な頻度で行っちゃうかもしれませんよ?」
「……ふふ……うん……いっぱい……来て」
俺の腕に抱かれ、幸せそうに笑うアイシスさん。
この笑顔を決して曇らせたりしないと、心に沸き上がる愛おしさと共に、強く、誓った。
「……カイト」
「はい?」
「……だ~い好き!」
拝啓、母さん、父さん――ここまで時間はかかってしまってけど、無事アイシスさんに想いを伝え、恋人同士になる事が出来た。やっぱり、アイシスさんには笑顔がとても似合うと思うし、俺自身見ていると幸せな気持ちになれる。だから、これから先も――この笑顔を守っていきたい。
シリアス先輩「……お、終わった……」
【誰がアイシス編が終わりと言った?】
シリアス先輩「ふぁっ!?」
【次回、アイシス宅訪問2回目】
シリアス先輩「ああぁぁぁぁぁ!? いやぁぁぁぁぁ!?」




