挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

183/525

アイシスさんに告白する



 土の月5日目。現在俺はシンフォニア王都の東門の前に来ていた。
 石造り? 焼き石? 見ただけで分かる程俺に知識はないが、重々しく堅牢な壁と大きな門は、こうして改めて見ると中々に荘厳だ。

 王都を覆う防壁には結界魔法の術式が施されている為、基本的に魔物は近付けず門は開かれている状態らしい。
 例外はワイバーン等の一定以上の力を持ち、尚且つ飛行可能な魔物ぐらいだが、魔界ならいざ知らず人界にそのレベルで飛行能力を持つ魔物はほぼ存在しないとの事だ。

 リリアさんの屋敷は貴族らしく王都中央付近にある為、あまり門の近くには来た事がない。
 東門に来るのは初めてだが、普段は行商等で賑わっていると聞いたけど……現在は門番すら最低限の人数で、昼前とは思えないほどの静寂に包まれている。

 その理由は単純で、間もなくここにアイシスさんが来るから……俺自身は感応魔法のお陰で死の魔力に恐怖を抱いたりはしないが、それはあくまで俺が特殊な例であり、アイシスさんがどこかの街に訪れる場合は遅かれ早かれこういった状況になるらしい。

 手元にある懐中時計が11時を示し、アイシスさんとの待ち合わせ時間になると同時に、俺の前に氷柱が現れ砕けた氷が花びらのように舞う中、アイシスさんが姿を現した。

「……カイト……こんにちは」
「アイシスさん! こんにちは、今日は出向いてもらってありがとうございます」
「……ううん……でも……いいの? ……迷惑じゃ……ない?」
「迷惑なんて、一度もそんな事思ったことないですよ」

 何が迷惑かアイシスさんは具体的には言わなかったが、チラチラと震える門番達に視線を動かしている事から想像はできる。
 自分が王都に出向いて来て、俺に迷惑がかからないかと心配してくれているみたいだ。

「突然の誘いしてしまってすみません……えっと、前に宝樹祭で助けて頂いた時、俺が言ったこと覚えてますか?」
「……う、うん」

 俺が微笑みながら告げた言葉を聞き、アイシスさんはやや戸惑った様子で頷く。
 そう、今回俺がアイシスさんを王都に呼んだのは……以前宝樹祭でアイシスさんに助けてもらった時に、一緒に食事に行きましょうと誘った件だ。

「……で、でも……私……普通のお店に行くと……」
「大丈夫です。その辺りもちゃんと考えてきました」

 そう、これは俺も後になって気付いた事なんだが……アイシスさんは常に死の魔力を纏っていて、近くにいる生物を無意識に威嚇してしまう。
 なので仮に普通の飲食店に行ったとしたら、給仕は怯え、他の客達も距離を取るとそういった感じになってしまう……アイシスさんも、そんな状態では楽しめないだろう。

「なので、アイシスさん。今日は俺と『ピクニック』に行きましょう」
「……ピクニック?」
「はい。知り合いから聞いたんですが、東門の先には王都を一望できる小高い丘があるみたいですし、そこに行きましょう。お弁当もちゃんと用意してきました」
「……カイトの……迷惑に……ならない?」

 そう、今日の日の為に俺が考えてきたのは、ピクニックだった。
 これならアイシスさんも周りの視線や反応を気にしなくて済むだろうし、告白するにしても自然と二人きりになれるので良いと思ったからだ。
 ただやはりそれでもアイシスさんは俺の事を気にしてくれているみたいで、心配そうな表情を浮かべていたので、俺は出来るだけ優しい笑顔で口を開く。

「迷惑どころか……実は、俺の方がアイシスさんに助けてもらう感じです」
「……え?」
「ほら、俺って弱っちぃので、一人で街の外には出れませんから……アイシスさんに守って頂けたらなぁ、なんて都合の良い事考えてたりします」
「……ふふ……うん……大丈夫……私が……カイトを守る」
「ありがとうございます。じゃあ、行きましょう」
「……うん」

 どうやら俺の意図は伝わってくれたみたいで、アイシスさんは嬉しそうに微笑んで頷く。
 そして俺とアイシスさんは東門から外に出て、街道から少し外れて丘を目指して移動を開始する。











「今日は、良い天気で良かったです」
「……うん……最近は……暖かいね」
「そう言えば、この世界にも季節……えっと、暖かい月とか寒い月があるんですか?」

 なだからか丘を歩きながら、アイシスさんにこの世界の事について尋ねてみた。
 現在の気候は日本で言えば春ぐらいの気温だが、この世界にも四季はあるのだろうか?

「……うん……光の月が……一番暖かくて……天の月が……一番涼しい……魔界は……地域毎に違う」
「へぇ、じゃあ、今はちょうど真ん中位の気候って事ですね」
「……うん」

 天の月30日と言えば、俺がこの世界に召喚された日……そこから新年にかけての気温は精々秋ぐらいだったから、この世界は日本ほど気温差は無いみたいだ。
 俺は寒いのは結構平気なんだけど、汗をかきやすい体質みたいで暑いのはちょっと苦手だから、春と秋ぐらいの気温であるこの世界はとても過ごしやすい。

「……たまにはこうして、出かけるのも良いですね。って、アイシスさんは収集したりで色々な場所に行ってましたね」
「……うん……でも……誰かと出かけるのは……本当に久しぶり……」
「そう、なんですか……」
「……だから……今日はカイトが一緒で……凄く……嬉しい」

 そう言って幸せそうな笑みを浮かべるアイシスさんは、やっぱり笑顔の似合う可愛らしい方だと再認識できた。
 そしてアイシスさんは少しだけ恥ずかしそうに頬を染め、小さな声で呟くように告げる。

「……その……カイト……手……繋いでも……いい?」
「……はい。勿論です」
「……あっ……あったかい……」

 控えめに希望を口にするアイシスさんに笑顔で答え、俺はアイシスさんの手を優しく握る。
 俺の手にすっぽりと収まる小さく柔らかい手は、体温が低く少しだけひんやりとした感覚がしたが、すぐに俺の手の体温と混ざり暖かな感触がした。











 アイシスさんと楽しく雑談をしながら1時間程歩くと、草のカーペットとでも言うべき広い場所に到着した。
 視線を動かしてみるとそれなりに高い位置で、美しい王都の街並みが緑の大地に映え、絶景と言っていい光景が広がる。

「綺麗ですね」
「……うん……今日は天気も良いから……王都が良く見える」

 丘の上でアイシスさんと並んで立ち、眼下に広がる景色を見つめる。
 アイシスさんはピッタリ俺に寄り添い、微かに触れている体から感じる体温を感じ、これからの事も考えるとどんどん緊張が大きくなる。

「そ、そろそろ良い時間ですし、お昼を食べましょう!」
「……え? ……うん」

 緊張しながら告げたせいか、思わず声が上ずってしまい、アイシスさんは不思議そうに首を傾げる。
 そんなアイシスさんの前で、俺はマジックボックスからレジャーシート……もとい、綺麗めな布を取り出して地面に敷く。
 そしてアイシスさんが座るのを確認してから、弁当を取り出す。

「……えっと、ですね。う、上手く出来て無かったらごめんなさい」
「え? か、カイトが……作ってくれたの?」
「は、はい……俺、料理はそんな得意じゃないんですけど、料理の美味い知り合いがいて、最近教わってて……せ、折角、アイシスさんへのお礼なので、自分でと思って……」
「……あっ……ありが……とう」

 そう、実は今回のお弁当は俺の手作り……まぁ、とは言っても、俺は難しいものなんて作れないので、ジークさんに指示してもらいながら、なんとか形になった感じだ。
 創作物の世界とかだと、主人公が一人暮らししてただけで料理の達人だったりする事がままあるけど……残念ながら俺は違う。
 一人暮らしはしていたけど、料理なんて野菜と肉に焼肉のたれをかけて炒めたりする程度だったし、凝ったものなんて作れる訳が無い。

 いや、やっぱ経験値って大きいよ……同じ材料、同じ分量で料理しても、やっぱりジークさんの作る料理の方が何倍も美味しいし……今後も要練習だ。
 う~んこんな風に女性に手料理を振舞う機会が来るって分かっていれば、もうちょっと練習してたんだけど……

「えっと、不格好かもしれませんけど……ちゃんと味見はしてるので、そこそこ……」
「……ううん……カイトが……私の為に作ってくれた……凄く……凄く……嬉しい」

 頭をかきながら告げる俺に、アイシスさんは本当に心から嬉しそうな笑顔を浮かべ「いただきます」と告げてから料理に手を伸ばす。
 な、なんか、やたら緊張する……ジークさんは上手く出来てるって言ってくれたけど、それでもやっぱりアイシスさんの口に合うかどうか不安だ。

 アイシスさんは卵焼きを半分に切ってフォークで刺し、片手を添えて小さく開いた口に運ぶ。
 食べ方一つとっても、どこかの馬鹿アリスとは違い女性らしく美しい。

 そしてまるで惜しむように咀嚼してから、アイシスさんは一筋の涙を流した。

「え!? ご、ごめんなさい! 美味しく無かったですか?」
「……ううん……違う……本当に……美味しい……今まで食べたどんな物より……ずっと……美味しい」
「……アイシスさん」
「……心が暖かくて……幸せで……」

 そう言ってアイシスさんは、ポロポロと真珠のような涙を溢す。
 俺の拙い手料理を、本当に心から喜んでくれているアイシスさんを見て、俺の心もじんわりと暖かくなってくる。
 そして、同時に思った……伝えるなら、今だと。

「……あ、アイシスさん!」
「……え?」
「つ、伝えたい事があります……」

 緊張で声が震えるのを実感しながら、俺は真っ直ぐにアイシスさんのルビーのように美しい目を見つめる。

 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんと一緒にピクニックに来た。やっぱりアイシスさんは女性らしく、とても可愛くて……いやがおうにも緊張は高まった。だけど、もう覚悟か決めた。俺はこれから――アイシスさんに告白する。



???「何か軽やかにディスられた」

次回のネタバレ……甘い。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ