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この想いを伝えるだけだ



 夜の帳が降り、すっかり深夜と言っていい時間帯。普段ならもう寝ている筈の時間ではあるが、俺はベッドに寝転がったまま暗い天井を見つめていた。

 寝付けない……訳ではない。だけど、今はまだ眠る気になれなかった。


 ライズさんに言われた、優先して考えるべきは俺がアイシスさんをどう思っていて、これからどういう関係でいたいのか……それをずっと考えていた。


 アイシスさんと初めて出会った時は……怖かった。

 己の常識の及ばない未知の存在とでも言うのか、得体のしれない恐ろしさ……今になってみれば死の魔力だったと分かったが、あの時はほぼ不意打ちだった事もあり、理解できない恐怖に震えた。


 ただ、幸運な事に俺には感応魔法という力があり、そのおかげでアイシスさんの心の奥底にある孤独……それを微かながら感じる事が出来た。

 きっとあの時、もし俺がクロと出会い、救われていなかったら……俺はたぶんアイシスさんに手を伸ばさなかった。恐れ慄き情けなく逃げ出していたと確信できる。

 しかし実際は俺はクロと出会って救われ、踏み出す勇気というものを取り戻す事が出来ていて、恐怖を感じながらもアイシスさんの手を取ろうとした。


 ……思い返してみると、アイシスさんは俺にとって、初めて自分から関わろうとした相手なのかもしれない。


 そしてアイシスさんの手を取り、自己紹介をしたら……告白された。

 生まれて初めての告白だった事もあり、その時は戸惑い半分で、正直言って本気にしていなかった。


 それから、俺とアイシスさんは友達になり、その後でアイシスさんが死王である事、死の魔力という力を持っている事を知った。

 だけど、その時はもう、俺にとってアイシスさんは怖い存在では無くなっていて、リリアさん達の怖がりようを見てもピンとこなかった。

 それどころか、クロノアさんがアイシスさんを性質が悪いと評した事に、内心苛立ったりもしていた。


 だって、本当のアイシスさんは……寂しがり屋で大人しくて、控えめで優しい、本当に可愛らしい方だったから……


 アイシスさんの抱えてきた苦しみは、親しくなった今となっても完全に理解する事は出来ない。

 だけど、アイシスさんには悲しい顔より笑顔の方がずっと似合うと確信している。


 アイシスさんは初めて出会った時から、ずっと俺に対し真っ直ぐな好意を向けてくれた。それは恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、アイシスさんと話していると妙に緊張したのを覚えている。

 本当にいつも、いつも俺の事を大切にしてくれて……俺が怪我を負った時は、本気で怒って、心から心配してくれた。


 アイシスさんが俺に向けている好意がとても強いというのは、いくら鈍感な俺でも理解できている。

 ただ、その好意は決して押し付けるようなものでもない。

 告白の返事を保留にして欲しいといった時も、アイシスさんの居城を尋ねる時も、アイシスさんはいつも俺の事情を気にしてくれ、そして尊重してくれた。


 それだけ一途に想われて……嬉しくない筈が無い。

 ああ、そうだ……俺はアイシスさんに好意を向けられて、嬉しいと感じている。

 今までモテた経験なんて皆無だった事もあって、どう応じて良いのかなんて全く分からなかったし、クロを好きだって気持ちが強かったからずっと曖昧なままにしていた。


 ライズさんの言う通り……答えは、元々俺の中にあったのかもしれない。


 もし、これが俺の居た世界での話であれば……本当に一人だけを選ばなければならないのなら、俺はクロを選んだと思う。

 アイシスさんに悲しい思いをさせる事に胸を痛め、涙を流しながら、苦しい取捨選択をしていたかもしれない。


 だけど、今俺がいる世界は違う。

 どっちも好き……そんな優しい選択を選ぶ事が出来る世界……オーキッドが言った通り、この世界では好意に順列をつける必要なんてない。

 なら、後は俺の気持ちだけだが……それだってもう、答えは出ている。


 アイシスさんに好意を向けられて嫌な訳が無い……アイシスさんと過ごす時間が楽しい……アイシスさんの仕草にドキドキする。

 俺がアイシスさんをどう思っているかなんて、ずっと前から、頭で考えるより先に心に現れていた。


「……俺は……アイシスさんが、好きだ」


 ポツリと暗闇の中で溢すと、とたんに気持ちが楽になったような感覚がした。

 そう、迷う必要なんてない。俺はアイシスさんが好きだ、アイシスさんにずっと笑っていて欲しい、幸せでいて欲しい……幸せに、してあげたい。


 ゆっくりと上半身を起こし、微かに差し込む星の光に目を移す。

 アイシスさんを諦めなくてすむことに、心からの安堵と感謝を感じながら……












 夜が明け、まだ早朝と言っていい時間帯に、俺はジークさんの元を訪れた。

 ジークさんは昨日夜勤だったのでこの時間にも起きており、無事食堂で紅茶を飲んでいるジークさんを見つける事が出来た。


「おはようございます。ジークさん」

「おはようございます。随分早いですね?」

「はい。えっと、ジークさんに折り入ってお願いがあるんですけど……」

「お願い? ですか?」


 ジークさんは俺の言葉を聞いて首を傾げた後、真っ直ぐに俺の方を見て微笑みを浮かべる。


「……心は決まったみたいですね。良い目をしています」

「……はい」

「分かりました。私に出来る事なら、なんでも協力します」

「ありがとうございます!」


 快く了承の言葉を返してくれたジークさんにお礼を告げ、改めて俺は頼み事の内容を伝える。

 ジークさんは俺の言葉を静かに聞き、納得した様子で頷きながら口を開く。


「……成程。分かりました。では、今日にでも必要なものを揃えに行きましょう」

「はい……って、ジークさん、寝なくても大丈夫ですか?」

「問題無いですよ。エルフ族は数日程度寝なくても、全く問題ありませんから」


 優しい微笑みを浮かべるジークさんに、心からの感謝を感じながら、俺はアイシスさんと出かける準備をする事にした。

 以前宝樹祭の時にした約束……そのタイミングこそが、返事に相応しいと考えながら……


 拝啓、母さん、父さん――色々な人達の助言のお陰で、アイシスさんへの想いを見つめ直し、実感する事が出来た。後はしっかりと勇気を出し、準備をして――この想いを伝えるだけだ。










「……と、ところで、カイトさん? さ、参考程度にお伺いしたいんですが……」

「はい? なんですか?」

「か、カイトさんは、例えば……えと、エルフ族とかって、れれ、恋愛対象になったりするんでしょうか?」

「……それは例えばジークさんみたいな方ですか?」

「そそ、そうですね。私みたいな純血のエルフです」


 どこか慌てた様子で、落ち着きなく目線を動かしつつ尋ねてきたジークさんに、俺は首を傾げる。

 エルフ族は宝樹祭で沢山見たけど、俺にとってエルフ族と言えばジークさんの印象が強い……何でそんな質問をするのかは分からなかったが、一先ずジークさんを頭に思い浮かべて考えて見る事にした。


「……正直、あまり種族とかって気にした事が無いんですが……例えば、エルフ族とか関係なく、ジークさんは美人で優しいですし、家事とかも万能なので、交際出来たら嬉しいなぁとかは思いますけど?」

「ッ!? そそ、そうですか!」

「ところで、この質問にどんな意味が?」

「い、いい、いえ……えっと、え~と……そ、そう! 今後の参考のためにです。ほら、リリがあんな感じなので、今まで私の周りには恋愛をしている人ってあまり見なくて、男性である快人さんの意見を聞いてみたいな~っと」


 何故か先程までより更に慌てているジークさん……長い耳がピクピク動いていて可愛らしい。


「……えっと、参考になりました?」

「ええ、ありがとうございます……私にも可能性があるみたいで、ホッとしました」

「え? 今、最後の方、声が小さくて聞きとれなかったんですが……」

「な、なんでもないです!!」



 


快人が主人公っぽいような……だが爆ぜろ。


そして前回の後書きで誤解されている方もいるみたいなので捕捉を。

前回の後書きに書いたメンバーはあくまで今の時点で、構想が出来てる……話の流れが決まっているメンバーですので、勿論それ以外のヒロイン達の話もちゃんとあります。


そして色々考えた結果アイシス編の次はジーク編⇒リリア編⇒アリス編にする事にしました。その後はまた考えます。

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