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アイシスさんとどういう関係になりたいかだ


 土の月2日目。アイシスさんへの告白の返事、そして俺の世界とこの世界との常識の違い……ジークさんの勧めで、俺は同性であるオーキッドに相談してみようと王宮を訪れていた。

 第一王子という身分だし色々忙しいんじゃないかと思うが、ハミングバードを送ってすぐ翌日に時間を作ってくれたオーキッドには感謝の言葉も無い。


「……成程、カイトの悩みは分かりました」


 豪華絢爛という程ごちゃごちゃと物がある訳では無く、簡素ながら上品さを感じさせるセンスの良い私室で、ジークさんにしたのと同じ説明をオーキッドに話してみた。

 するとオーキッドは俺が何に悩んでいるのかは分かったと告げた上で、難しそうな表情を浮かべる。


「どう、なのでしょうね? 正直やはり文化の違いというものは大きいと思いますね」

「うん、正直どうしたらいいのか……」

「カイトも知っているかもしれませんが、私は三人の女性と結婚しています。一人は人間、一人はエルフ族、もう一人はハーフエルフです」


 オーキッドに三人の奥さんがいるというのは知っていたが、詳細はでは知らなかった。

 全員厳密に言えば種族は違うみたいだけど……奥さん同士が険悪になったりはしないんだろうか?

 そんな事を考えて尋ねてみると、オーキッドは穏やかに微笑みを浮かべて首を振る。


「いえ、私の妻達は皆仲が良いですよ。それこそ、時には私が除け者にされてしまう事もあります……まぁ、それは心を持った存在ですし、合う相手、合わない相手というものはあるでしょうが……カイトのいうような嫉妬心がある者はいないと思います」

「やっぱり、それは……オーキッドが全員の事をちゃんと愛しているからかな?」

「……そ、そう言われると恥ずかしく思いますが、確かにその通りです。一応外面上正妻と側室には別れていますが……私は好意に順列をつける意味はないと思います」

「……成程」


 好意に順列を付ける意味はない。確かにそれはその通りなのかもしれないし、それが俺がいた世界との一番の違いなのかもしれない。

 この世界では、好きな相手の内で誰か一人……一番好きな相手というのを選ぶ必要が無い。皆好きだという考えが通用する寛容な世界だからこそ、好意に順列が付かず妻同士も険悪にならないって感じだろう。


「……とは言え、私もまだ若輩です。カイトにしっかりとしたアドバイスは出来ないかもしれません……なので、父上にも聞いてみましょう」

「ライズさんに?」

「ええ、父上は10人の妻を持っていますし、夫婦仲も良いので……私よりいいアドバイスが聞けると思います」


 ライズさん10人も妻がいるの!? す、すげぇ……いや、確かにイケメンだし王様だし、モテるのは当り前か……

 

 オーキッドはそう告げた後、机に置いてあった小さなベルを鳴らす。すると部屋に執事が入って来て、その執事にライズさんへの伝言を頼む。

 執事はすぐに一礼して部屋から出て行って、ものの10分程度で戻ってきた。


 ライズさんはありがたい事に、執務中でも良ければすぐにでも相談にのれると返事をしてくれたみたいで、オーキッドと一緒にライズさんの執務室に向かう事になった。













 広い王宮の廊下を進み、殆ど最奥近くの位置にあるライズさんの執務室に到着する。

 オーキッドがノックをして入室の許可を得て中に入ると、ライズさんは大量の書類が積まれた机に向かいペンを動かし、時折ハンコを押していた。


「失礼します。お忙しい所、すみません」

「ああ、いらっしゃいミヤマくん。執務中でロクなもてなしが出来なくて申し訳ない……それで? なにか、私に相談があるとか?」

「あ、はい。実は……」


 見るからに忙しそうなライズさんの姿を見て、申し訳なく感じつつ声をかけると、ライズさんは穏やかな微笑みを浮かべて歓迎してくれた。

 そしてそのまま話を聞いてくれるという事なので、俺は先程オーキッドにしたものと同じ話をしていく。


「……と、いう訳で、悩んでいまして……」

「……ふむ」


 俺が話終えると、ライズさんは動かしていたペンを止めて顔を上げる。

 そして顎に手を当て、少し考えるような表情を浮かべ、それを見たオーキッドが一歩進んで口を開く。


「父上は、どう思いますか?」

「……どう、というか……何故それを悩んでいるかが分からないな」

「……父上?」

「ああ、いや、すまない。別にミヤマくんの悩みが間違っているという訳じゃないんだ。文化の違う世界に来ている訳だし、そういった違いに悩むのは当然だと思う……ただ、今悩むべきは『別の内容』じゃないのかい?」

「……え?」


 優しげな口調で告げるライズさんの言葉を聞き首を傾げる。

 悩むべきは別の内容? どういう事だろうか?


「……ミヤマくん、君が優先して考えるべきなのは、君の居た世界とこの世界との違いではなく、君が、君自身が、その相手を『どう想っているのか』と『これから先どういう関係でいたいのか』……じゃないか?」

「ッ!?」


 この言葉を聞いて、頭をハンマーで殴られたような衝撃と共に、俺の返事をいつまででも待つと言ってくれたアイシスさんの顔が思い浮かんだ。

 ライズさんの言う通りだ。俺が今優先して考えるべきなのは、俺がアイシスさんをどう思っているかであるべき……


 茫然とする俺を見て、ライズさんは軽く自分の頭をかきながら苦笑する。


「……私にも経験はあるんだが、告白して返事を待つまでの間というのは、生きた心地がしないものだ。君に想いを寄せているのが誰かまでは知らないし、聞かないが……内心では、不安に感じてるんじゃないかな?」

「……」

「君が誠実なのはよく分かる。だけど、君はまだ若いんだ……時には強引に女性を引っ張ってあげるべきだと、私は思うよ。まぁ、こうして異世界との違いを相談に来るぐらいだ……君の中で、その女性への想いはもう、確かな形になりつつあるんじゃないのかな?」

「……はい」


 もしかしたら、俺は逃げていただけなのかもしれない。

 俺の世界はこの世界と常識が違う、それを免罪符に……心の中で大きくなりつつあるアイシスさんの存在から、目を逸らそうとしていたのかもしれない。

 そして自分の居た世界との違いを持ち出して相談する事で……誰かに、自分の想いを肯定してもらいたいと、背中を押して欲しいと……そう考えていたんだろう。


「……私は、ミヤマくんを応援するよ」

「……ライズさん」

「そうやって考えるって事は、君はもう自分の身の振り方も決めたのだろう? なら、君が良いと思う道を進むべきだ。君がその相手を愛しいと思うなら、共に歩きながら意識の齟齬は埋めていけばいいさ」

「はい!」


 俺の心の内を見透かしたように、穏やかながらも力強く背中を押してくれる言葉、それを本当にありがたく感じつつ頷く。

 この人に相談して良かった。そう感じている俺の前で、ライズさんは穏やかな表情のままで言葉を続ける。


「……リリアンヌを幸せにしてやってくれ」

「はい……え? リリアさん?」

「……おや? ち、違うのかい? わ、私はてっきり……」


 告げられた言葉に首を傾げる俺を見て、ライズさんはアテが外れたと言いたげな表情を浮かべる。

 もしかして、今までの話って、ずっとリリアさんの事だって思ったの?


「……えっと、リリアさんでは無いんですが……」

「……そ、そうか……」

「……父上が珍しく頼りがいのある感じだと思ったら……成程、リリア姉様の件だって思ってたんですね」

「い、いや、だって、リリアンヌは可愛いだろう! あの子と一つ屋根の下に暮らしておいて、恋心を抱かない男なんている筈が無い!」

「……父上」


 リリアさんが可愛らしいというのは心から同意できるが……うん、なんだろうこれは……さっきまでの頼りになる大人の男性の仮面がすっかりはがれてしまってる気が……


「……そ、そうか! やはり公爵という身分に委縮してしまうのだろう? だが、大丈夫だミヤマくん! 私は君の味方だ!」

「……い、いや、ですから……」

「……それとも、まさか……リリアンヌを……あの可愛いリリアンヌを、恋愛対象として見れないなんて事は……ないよね?」

「は、はは、はい!? りり、リリアさんは、とても素敵な女性だと思います」


 なんかスイッチ入っちゃったみたいだ……具体的には、シスコンスイッチとかそういうのがONになってる。

 

「そうだろう、そうだろう……リリアンヌも君の事は憎からず思っているみたいだし、これはあの子の花嫁衣装を見る日も近いか……」

「父上、父上……そういうのは、あまり周りが焦るものではないかと……」

「むっ、確かにそうだな。私があまり先走っても仕方ないか……しかし、リリアンヌ以上に可愛い娘など、存在しないだろう? そのリリアンヌを押しのけてミヤマくんに好意を寄せる相手とは一体……すまない、聞かないといったが、ミヤマくんに想いを寄せているのは誰なのか尋ねて良いかい?」

「え? あ、はい。アイシスさ……死王様です」

「「すみませんでした!」」

「なんでっ!? オーキッドまで!?」


 どうも完全にスイッチが入ってしまったらしく、喰い気味に尋ねてくるライズさんに、アイシスさんの事を告げると……何故かライズさんとオーキッド、二人揃って物凄く綺麗な土下座をした。

 

「みみ、ミヤマくん。先程の言葉を撤回する。わ、私は死王様はとても素晴らしい女性だと思う……まさに美の化身と言っていいだろう。ミヤマくんに相応しい相手だ!」

「……えっと……」


 別に誰が見ているという訳でもないのに、大慌てで弁明を始めるライズさん……よっぽどアイシスさんが怖いんだろう。見てて可哀想になるほど震えてる。

 というか別に失礼にあたるような事を言ってた感じではないと思うし、俺も別にアイシスさんに告げ口したりするつもりはない。


 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんとの件について、オーキッドとライズさんに相談したお陰で、考えるべき事はしっかりと分かった。それは、俺が、俺自身が――アイシスさんとどういう関係になりたいかだ。





???「仕方ないですね。豪華なディナーで黙っておいてあげ――ふぎゃっ!?」


何気に一話丸々女性が一人も出てないのは初……


糖度

今回(Lv2)⇒次回(Lv4)⇒次の次(Lv96)


それはそうと、少し悩んでいるのがアイシス編の後……順番どうしようかと、思ってます。

構想自体が出来上がっているのは……ジーク編、リリア編、アリス編、シロ編、リリウッド編、アイン編……むぅ……

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