恋人同士のデートってどうすればいいの!?
まどろみの中、ゆっくり目を覚まし……硬直した。
おかしい……なんか、いつもの目覚めと違う……って言うか、何でクロが俺の服掴んで寝てるの!?
ちょっ、ちょっと待て、状況を整理しよう。俺は昨日の夜、クロに告白して恋人同士になった。そこまでは良い、大変嬉しい事だ。
問題はその後長い話を終え、帰った筈のクロが朝起きたら俺の布団に居たという現実……まるで意味が分からない。
クロは俺の服を掴んだまま、すやすやと眠っている訳なんだけど……コイツの寝顔、ちょっと可愛すぎなんじゃなかろうか。
元々のあどけない顔立ちも相まって、眠っている姿は妖精かと思う程可愛らしく、しかも服装は大きめのTシャツみたいな服を着ているだけ。
大きめのシャツから覗く生足が大変美しく、ハッキリ言って……ドストライクである。
すっごい可愛いし、無防備だし、もう俺の理性は一瞬で限界寸前の状態になってしまう。
ちょ、ちょっとくらい……触っても、良いんじゃないかな? だってほら、恋人同士になった訳だし、クロ可愛いし……いやいや、待て待て! いくら恋人同士だろと、相手の了承も得ずにそんな事をする訳にはいかない! 親しき仲にも礼儀あり、冷静になれ俺!
「……く、クロ、えっと、朝だぞ……」
「……うにゅぅ……後『五ヶ月』……」
「長いわっ!」
くすぐったそうに体を動かしながら、クロは寝ぼけたような台詞を発する……てか、五ヶ月って……五分とかじゃないのか? ちょっと、人間の俺には長すぎるかな……
クロの体を優しく揺すると、クロはゆっくりと目を半開きにして、俺の方を向く。
「……んにゃ? ……あ~カイトくんだぁ~」
「ッ!?」
完全に寝ぼけている様子で、とろんとした目で甘ったるい声を発しながら、クロは俺の方に手を伸ばす。
行動の意図がすぐには分からず特に何のリアクションもしないでいると、クロの手は俺の首に回され、抵抗なんて全くできない力で引き寄せられた。
「ちぅっ……」
「んんっ!?」
「はむっ……ちゅっ……んちゅっ……」
「~~!?!?」
クロの唇が俺の唇に重なり、クロはそのまま何度も俺にキスをしてくる。
甘噛みするように上唇を挟まれたかと思えば、次の瞬間柔らかい舌が口の中に入り込んでくる。
頭の芯からとろけてしまいそうな程甘く、柔らかく、幸せすぎる感覚が唇から全身を支配していき、俺の顔が爆発しそうな勢いで赤くなっていく。
一瞬のような、それでいて永遠と思えるような、時間感覚が狂う程官能的な行為に身を任せていると、クロの半開きだった目が徐々に開いてきて、ゆっくりと俺から離れた。
それを残念と思ってしまったのは、不可抗力であり、致し方ない……俺だって男の子だし、好きな相手にキスされて抵抗なんて出来ない。
「……あれ? カイトくん? おはよ~」
「お、おお、おはよう!?」
「んん? あれ、なんか、すっごく幸せな事してたような……」
「そそ、そうかな? なな、何の事か、おお、俺にはよく……」
クロは完全に目が覚めたみたいで、可愛らしく首を傾げていたが、その動作を見ただけで俺はかなり動揺してしまった。
別に悪い事した訳じゃない筈なのに、物凄く落ち着かない……な、なんて言うか、改めて自分の恋愛経験値の低さを実感する。
後、クロ、そのブカブカのシャツで首を傾げるのは止めてくれ……肩からずり落ちそうだから……
ともあれ、このままではまずいと思った俺は、やや強引ながら話を切り替える事にする。
「と、というか……クロって、ねぼすけなの?」
「ん~寝たのって久しぶりだったからよく分かんないや」
クロのような高位魔族にとって、食事や睡眠は必須では無く趣味嗜好の範囲内みたいな感じらしい。
実際クロも寝たのは数百年ぶりだとか、そんな事を言っていた。
「カイトくんの腕の中があったかくて、幸せで……ついつい寝ちゃった」
「……」
何でそういう台詞を、頬染めながら言っちゃうかな!? もういい加減、俺の理性が抹殺されそうなんだけど、既に結構瀕死なんだけど!?
頭が沸騰しそうな恥ずかしさとむず痒さを感じていると、クロはふと思い出したように手を叩く。
「そうだ! 今日は、カイトくんとのデートだよね!」
「え? ああ、うん」
「早く帰って、お洒落してこなきゃ!? ボク、一旦戻るね!」
「りょ、了解」
クロはデートの支度をする為に一度戻ると慌てた様子で告げ、そのまま転移魔法で消える……かと思ったが、途中で魔法陣を消して、俺の方を向いて微笑む。
「忘れてた……」
「うん?」
「カイトくんカイトくん、ちょっと来て」
「どうした?」
手招きをするクロに首を傾げながら近付くと、クロは俺の服を握り、小さな身体で背伸びして俺の頬に唇を付けた。
「……へ?」
「おはようのチューがまだだった」
いや、それお前が覚えてないだけで、さっきたっぷりしたよ?
しかしそんな感想も、照れながらはにかむクロの笑顔の前では口から出ず、ただただ顔に熱が集まるのを感じた。
「それじゃ、また後でね!」
「……あ、あぁ」
そしてクロは可愛らしく手を振って、本当に嬉しそうな笑顔で去っていき、俺はそのままキスをされた頬に手を当て、しばらくクロが去っていった方向を見つめていた。
今回も待ち合わせをしてからスタートと言う事で、俺はクロとの待ち合わせ場所である噴水広場に来ていた。
思い返してみれば、始めてクロと出会ったのはここだ……あの時は俺も、異世界に来た戸惑いが大きくて、全然心に余裕が無かったと思う。
だけど、そんなクロとの関係も進展し今は晴れて恋人同士に……恋人、同士に……
ちょっと待てよ。よくよく考えたらこれ、付き合い始めて初めてのデートって事になるんだよな?
え? ど、どうしよう……や、やっぱり、恋人同士な訳だし、前デートした時はと違う感じじゃないと駄目だよな? でも、一体何をどうすればいいんだ?
情けない話ではあるが、当然の如く俺は童貞であり、今まで女性と付き合った事なんてない。
つまりクロが初めての彼女と言う訳になるんだけど……こ、恋人って何したらいいんだ? てか、恋人って一体、何なんだ!?
や、やばい、滅茶苦茶緊張してきた……ど、どんな風にクロと話せばいいんだろう? や、やっぱ、俺が男な訳だししっかりリードしないといけないよな。
でも、クロって俺より遥かに年上な訳だし、この世界にも詳しい。俺にリードできる事ってあるの?
い、一応デートコースとかは考えて来たけど、本当にこれで大丈夫だろうか? クロに楽しんでもらえるだろうか? 滅茶苦茶不安になってきた……リア充、俺にヒントをくれ!!
恋人同士という事を改めて意識して、だんだんと緊張が大きくなってきた俺は、何とか気を落ち着かせようと深呼吸をする。
しかし残念ながら時の流れは止まらないもので、状況は俺が落ち着くのを待ってはくれなかった。
「カイトくん! お待たせ~」
「ッ!?!?」
声が聞こえて振り返ると……そこには天使がいた。
いつもより女の子らしいフリルのついた上着に、私服のトレードマークなのか袖の無い黒いジャケットを身につけているクロだが……す、スカートだと……
そう、クロはいつものハーフパンツスタイルでは無く、プリーツスカートを履いており、女の子らしさがぐっと上がっていてそれはもう異様なほどに可愛らしく、眩しくすらあった。
心臓が大きく跳ねるのを実感しつつ、俺は目を離す事も出来ずにクロ見つめ、クロは俺の前まで来たところでようやく口を開く。
「……い、いや、俺も来たばっかりだから……後、えっと、その服」
「ちょっと、いつもとは違う感じにしたんだけど……変じゃないかな?」
「い、良いと思う……その、か、可愛い」
「あっ……えへへ、ありがとう! カイトくんも、いつもカッコいいけど……今日はさらにカッコいいよ!」
「あ、ああ、ありがとう」
互いに賞賛の言葉をかけあうやり取りが、酷くむず痒く落ち着かない。
こ、これが、本物のデートってやつか……い、今からこの調子で大丈夫かな?
拝啓、母さん、父さん――初めて彼女が出来て、恋人同士のデートが始まった……訳なんだけど、緊張で口は上手く回らないし、心臓もバクバク鳴ってるし、物凄く落ち着かない。って、いうか、本当に聞きたいんだけど――恋人同士のデートってどうすればいいの!?
シリアス先輩「うぼぁっ!?」
ろ、ロリコンだ! おまわりさ~ん!!
と言う訳でまずは軽くジャブです。デレデレ状態のクロ、可愛いです。




