挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

175/524

閑話・クロムエイナ③~望んだのは小さな幸せ~

 ボクは、創造神シャローヴァナル……シロの半分から生まれた。
 シロであり、シロじゃない存在……そんなボクには、生まれた時からずっと欲しかったものがある。
 それは別に特別なものでもなく、すごく単純なもので、ボクもすぐに手に入るって思ってた。

 アイン、リリウッド、マグナウェル、アイシス、メギド、シャルティアと出会った時は、それが手に入ったと思ってた。凄く幸せだった……でも、どこか本当に求めていたものとは違う気がした。
 高望みしすぎてるのかもしれない、妥協しなきゃいけないのかもしれない……でも、心に刺さった小さなトゲは少しずつ大きくなっていった。

 ボクはこの世界と共に生きてきて、この世界が本当に好きだった。
 この世界に生きる命が、見せてくれる風景が、徐々に成長し変わっていく姿が……愛おしくて仕方なかった。

 いつからだろう? 魔界の中で、ボク達が六王って呼ばれ始めたのは……本当に気付かないぐらい、いつの間にそんな呼び名が広がっていて、ボクは皆から冥王様って呼ばれるようになった。
 ……それが、どうしようもなく、嫌だった。
 お前は格上の存在なんだって言われてるみたいで、そう呼ばれる度に胸の奥に小さな痛みが走って苦しかった。

 そして、気付いてしまった……自分の本当の望みに……

 ボクは世界を愛した。誰の事も格下だなんて思った事は無い、皆対等だって思って、そのつもりで接してきた。
 だけど、ボクは……誰からも対等となんて見られてない。誰も、ボクの『隣』は立ってくれていない。

 大切な家族が居る……だけど、その家族達はボクを頂点として扱う。
 愛しい雛鳥がいる……だけどその雛鳥は、最後にはボクに頭を垂れる。

 なんで? どうして? ボクは、誰かに隣にいて欲しいだけなのに……別にボクと同じ力を持っていなくていい、ただボクを格上に見ないでくれたら、ボクの隣で共に笑い合ってくれれば……それだけでいいのに……
 対等に接してくれる存在が欲しい、隣に立ってくれる相手が欲しい……その願いを自覚すると、本当に今まで以上に苦しくなった。

 ……シロは……違う。シロはボクで、ボクはシロだから、そういう相手だとは思えなかった。
 そんな小さな悩みに、初めに気付いたのはシャルティアだった。

「……クロさん、貴女の悩みは何となく想像できます」
「……シャルティア……そ、そうだ。シャルティアなら……」
「ごめんなさい……それはきっと無理です。私は貴女が望む存在にはなれない」
「……どう……して……」

 シャルティアは不思議な子だった。別の世界からきた子で、成熟した精神とは裏腹に、自分の力をまともに扱えないちぐはぐな感じで、ボクが力の使い方を色々と教えて……家族になった。

「……たぶん、私がなまじ力を持つからでしょうね。私は心の中で一度、貴女を明確に格上と認識してしまった……貴女に敵うとは思えない」
「で、でも、ボクはそんな事……」
「貴女がそう思っていたとしても、私の中ではクロさんより自分が格下だという認識は消えない……そりゃ、表面上はいくらでも取り繕えますよ? だけど、それをしてしまえば……きっと貴女は今以上に傷ついてしまう」
「……」

 その言葉は、とても冷たく心に突き刺さった。
 シャルティアはそんなつもりで言ったんじゃない。ボクを気遣って言ってくれたんだってのは分かってる……でも、まるで、お前と本当の意味で対等に接する事が出来る存在なんていない。
 お前の強大な力を気にせずに対等に接してくれる存在なんて現れない……そんな風に言われてる気がした。

 でも、それでも……いいんじゃ、ないかな? ボクには大切な家族がいるし、いつも幸せに過ごせてる。
 これ以上を望む必要なんて……ない。今に満足すれば……それで……















 長い、本当に長い年月が経ち、ボクの周りにも今まで以上に色んな子が増えた。
 大切な家族、愛しい雛鳥……それで、十分な筈なのに、ボクはまだ願いを捨てられないでいる。
 かつての自分に似た雛鳥を見つけると、つい心の奥に『今度こそ』って考えが浮かんできてしまう。
 昔の自分に似た雛鳥を育てれば、ボクの隣に立ってくれるんじゃないかって……だけど、それが叶う事は無かった。

 周りにどんどん愛しい子が増えるのに、幸せな筈なのに……何故かふとした時、自分の近くに誰も居てくれないような、寒くて辛い感覚がした。
 愛しい子達が増えれば増える程、幸せだと思おうとすればするほど……それは、どんどん冷たくボクの心の奥底を凍えさせてきた。

 そして今、ボクの前には、愛しい雛鳥が暗い色の翼を広げて立っていた。
 その子はボクが時々浮かべていた寂しそうな表情を見て、それを間違った解釈をしてしまっていて……

「クロム様、貴女こそ世界の頂点に立つべき存在です!! 神界の神々などでは無く、貴女こそが!!」
「……『フィーア』……ボクは……」
「シャローヴァナルなどでは無い、真に世界の頂点に立つべきなのは、貴女なんです!! 私が、私達がきっと、貴女を世界の覇者にしてみせます!」
「違う……そんな事……ボクは望んでない!!」
「ッ!?」

 告げられた言葉は、ボクの望みから一番遠いものだった。
 世界の覇者? そんなものになれば、本当にボクは望みを叶える事なんて出来なくなると思った。
 だから、なんだろうか? ボクは己自身でも気付かない内に、苦しみを貯め込んでいたのかもしれない……気付いた時にはとてつもない魔力がボクから溢れ、沢山の子達がその魔力に当てられて倒れていた。

「……クロム……様……」
「ごめん、フィーア……でも、駄目だよ。他の子に迷惑をかけたりしちゃ……ね? そんなことしなくて良いから……」
「……でも……私は……貴女様の障害を……貴女様の表情に陰りなど……」
「ごめん、でも、本当になんでもないんだ……フィーアが気にする事じゃないから……」

 この時の事は、今でも後悔している。
 ボクが自分の願いを正直に教えて、フィーアにボクの望みはそんな事じゃないって、ちゃんと伝えていれば……フィーアが『魔王』と名乗って、人界に侵略する事も無かったのに……

 フィーアの一件があってから、ボクは自分の願いを諦めようって、そう思った。
 ボクが暗い顔をしていれば、フィーアみたいにそれを勘違いしちゃう子が出てくるかもしれない。だから、無理やりにでも笑い続ける事にした。

 そうだよ、ボクはこの世界が好きだ……その気持ちに偽りなんてない。
 だから、良いんだ……隣に誰も居なくても、周りに愛しい子達がいてくれるから……

 そう、思ってた……諦めたと、割り切れたんだと……思ってた。











 勇者祭……十年に一度、ヒカリちゃんの故郷から勇者役を招いて行う、この世界最大のお祭り……それが始まってしばらくった頃に、未練がましくもボクの願いはまた顔を出し始めた。
 勇者役の子達……異世界人は、好きだ……『ボクの事を知らない』から……

 正体を隠して近付けば、ボクにとって一番嬉しい……心から対等な言葉を投げかけてくれた。
 その瞬間はとても嬉しくて、幸せだった……でも、その子達も、この世界に慣れてボクの正体を知れば……ボクの力を見れば……揃って膝をついた。
 それまでの時間が幸せだったからこそ、そうなった時はどうしようもなく辛い。

 幸せな時間と、苦しい思い……それを何度も繰り返すうちに、ボクの願いは自分でも抑えられない程に大きくなってしまっていた。
 異世界人の子達ともっと長く話したい、もっと対等な言葉を聞きたい……だけど、勇者役の子達は忙しいから、正体を隠したままでは少ししか会話をする事が出来ない。

 結局少しも諦めきれていなかった想いは、ボクを突き動かし……あんな事をしてしまった。
 勇者召喚の魔法陣に細工をして、複数の異世界人が召喚されるようにした……そうすれば、勇者役の子以外とは、もっと長く話が出来るって思ったから……

 シャルティアにも迷惑をかけちゃって……もうこれっきりにしようと思った。もうこれを最後に、敵わない願いは捨ててしまおうって……心の奥底に残り続けた願いを魔力に込めて、召喚魔法陣を暴走させた。

 そして、ボクは……君に出会った。

 初めは、特別何かを思っていた訳じゃない。君を育てようって考えたのも、本当に君の為だった。
 だけど、君は、本当に変わった子だった。
 今までの勇者役の子達は、少しでもボクの力を見せると、少しずつ、本当に少しずつだけどボクを怖がった。

 でも、君はそんなこと全然なくて、いつも変わらない態度でボクを迎えてくれた。
 そして、君はボクの想像を簡単に越えた……シロが、もう一人のボクが君に興味を抱いたって知った時は、本当にビックリした。
 だって、シロが今まで興味を抱いた相手って……シャルティアとヒカリちゃんだけだったから……

 シロから興味を勝ち取った君なら、シロと対峙しても平然としている君なら、もしかしたらって思って……ボクは君に正体を伝える事にした。
 気にしてないように振舞っていたけど、本当は凄く……凄く怖かった。

 君がボクの正体を知れば、ボクから離れて行ってしまうんじゃないかって、凄く楽しくて幸せな毎日の時間が無くなるんじゃないかって……本当に怖かった。
 リリアちゃんの屋敷に行った時、君に話しかけられるまで心が張り裂けそうだった。君が敬語を使って話しかけてきたら、今までの無礼を謝罪するような事を言ってきたらって考えると、体が震えた。

「クロって、冥王だったんだな……」

 そんな少し呆れた声が、泣きそうなぐらい嬉しかった。
 君は、ボクの正体を知っても……ボクに対等に話しかけてくれた。嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
 だって、今までいなかったんだよ。そんな子は一人も……

「確かになんか、イメージと合わない気がする」

 そんな風にボクに言ってくれる子は……一人もいなかったんだよ。

 それからだと思う、君の事を強く意識し始めたのは……君と話す時間が今まで以上に楽しくなって、君の笑ってる顔を見ると、ボクまで幸せな気持ちになれた。

 君に……生まれて初めて……恋をした。

 だけど、君への想いが大きくなるにつれて、ボクの心に大きくのしかかった事があった。
 君は、勇者祭が終わったら……元の世界に、帰ってしまう……ボクの前から、居なくなってしまう……

 分かってる! 君にも元の世界に大切な人達がいる……お世話になったおじさんとおばさんがいるってのも聞いた。
 君の事を思うなら……この想いは諦めなくちゃいけない。君は元の世界に戻るべき……だから……

 ボクは長い年月の中で、自分に嘘をつくのに慣れ過ぎていた。
 本当はただ、怖かっただけ……どんどん大きくなる君への想い、それを表に出しちゃったら……ボクはもう戻れない。
 ボクはもう、君が居なくちゃ生きていけなくなってしまうって……それが、どうしようもなく怖かった。

 それを自覚した時点で君から離れられればよかったけど、君と過ごす時間が幸せすぎて、それすらも出来なかった。
 そして君は一歩一歩、確実にボクに近付いてきた。

 君が黄金の果実を差し出して来た時、心が大きく震えた。
 嬉しくて、嬉しくて、たまらなかった……だけど、それを受け取れば、ボクはもう……

 だからボクは君を拒絶した。
 全力で、本気で……殺意を込めて……ボクは君から離れられない、だから君の方から離れてもらえばって……
 勿論君を本当に殺す気なんてなかったし、傷を負わせる気もなかった。
 君の感応魔法はしっかり把握していたから、少しずつ、少しずつ、君の心に恐怖を宿らせるように……殺意を強めていった。

 だけど……だけど……君は……

「……クロ……今まで……ありがとう」

 それでも、ボクから、離れてはくれなかった……ボクの心を離してなんてくれなかった。
 そしてボクは……生まれて初めて、負けた。
 君こそが、ボクがずっと探し続けて、求め続けた……存在なんだって、確信した。









 長い話をずっと聞き続けてくれたカイトくんに、改めてお礼の言葉を伝える。
 もう夜も遅い時間だった事もあって、カイトくんは寝る支度を始め、ボクは帰る……振りだけして隠れておいた。

 そしてカイトくんが寝てから、ボクはカイトくんの部屋に戻って来て……カイトくんが眠る布団に潜り込む。
 ピッタリとくっついて、あったかいカイトくんの体温を全身で感じながら目を閉じる。

 幸せな感触と心地良い温もり……全身が包み込まれるような幸せを感じながら、愛しいカイトくんの胸に顔を埋める。

 カイトくん……大好き、愛してる。

 ボクは勇者祭の後、君がどうするかは……聞かないよ。だって、どっちでも、もう関係ないから……
 君がこの世界に残ってくれるなら嬉しい、でも、もし元の世界に戻るとしても……ボクは君についていく。
 愛し続けたこの世界を捨ててでも、それでも、ボクは君の隣を歩きたいから……


新事実:魔王の名前はフィーア、クロの雛鳥、クロの心を読み違え暴走した……要するにドジっ子である。

そしてこれにて閑話は終了……次回からはゲロ甘デートですね。その後はアイシス編と言った感じに、各ヒロインがメインになっていく感じです。

後幼女に添い寝された快人は死ね。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ