シャローヴァナルとの建国祭②
ラブラブソフトクリームというネーミングに関しては一度置いておくとして、店主をしているハートさんは恋愛を司る神であり、確かに適したはまり役と言えるのかもしれない。
ただ、それでも、それでもである。ひとつだけ突っ込みたいことがある。
「……ハートさんって、ハイドラ王国担当の神でしたよね?」
「やめませんか、そのお話は私の精神にとても効くので……ただ、あえてひとこと言わせていただくなら、この場においてシャローヴァナル様の願いを叶えるより優先すべきことなど存在しません」
ハイドラ王国に神殿を構えており、それなりに名を知られているだろうハートさんがこんなことをしていてもいいのだろうかと思って尋ねると、ハートさんはなんとも気まずそうな表情を浮かべつつもそれでいてハッキリとシロさん最優先であると言い切った。
さすがの覚悟である。シロさんの要望を聞いて一瞬でこんなピンク装飾いっぱいの屋台を用意していることも相まって、説得力が凄まじい。
「……そうですね。えっとじゃあ、ソフトクリームをひとつください」
ラブラブソフトクリームを注文して、果たして通常のソフトクリームと何が違うのかと思っていると、出てきたのは通常より大きめのコーンに乗ったピンク色のソフトクリームだった。
桃かイチゴだろうか? 結構綺麗で美味しそうだし、ふたりで舐めるという前提で邪魔にならないようにチョコチップのようなものはなく、ピンク系のソースでお洒落な雰囲気に仕上げている。さらに乗せているコーンも凝っているというか上から見るとハートの形になっていた。
ミニの棒状クッキーみたいなのも付いててなんかお洒落なカフェとかで出て来そうな感じだ……え? 凄いな。かなりしっかりしたカップル用のソフトクリームって感じだが、これ、さっきシロさんが要望呟いてから用意したの?
それともまさかこういう展開を予想して用意していた? ピンポイントでソフトクリームを? う~ん……わからん。
「ふむ、これはなかなかいいソフトクリームですね。恋愛神、いい仕事です。ご苦労様でした」
「っ!? こっ、光栄です!!」
シロさんが労いの言葉をかけると、ハートさんは先ほどまでの微妙そうな顔はどこに消えたのか、目に涙を潤ませて感極まったような表情を浮かべている。
滅茶苦茶嬉しそうというか、疲労が全部吹き飛んだような顔をしている。実際下級神であるハートさんにシロさんが直接声をかける機会というのは少なそうだし、褒めてもらったということもあって感動したのだろう。
涙を浮かべながら何度も頭を下げるハートさんに軽く挨拶をしたあとで、俺とシロさんは屋台から離れてソフトクリームを食べられる場所を探す。
だが、ここは結構大きな通りということもあってさすがにいい場所は……う~ん。なんか、妙に不自然に空いてるスペースがあるなぁ。なんらかの外的要因が加わらない限りできないであろう広さだなぁ。
「あそこがよさそうですね」
「……よさそうというか、用意されているというか……まぁ、そうですね」
いろいろと言いたいことはあったが、ソフトクリームが溶けてもいけないので用意されたであろうそのスペースに移動してシロさんと一緒にソフトクリームを食べることにする。
シロさんの要望は両側から同市にソフトクリームを舐めていくという形なのでそうするが……うわっ、これ想った以上に恥ずかしいというか、普通にキスしたりするより気恥ずかしさがある。
顔が近い上に、適度に離れているので普段以上にシロさんの顔を正面からよく見ている感じになるし、目もバッチリ合う……というか、相変わらず反則じみた顔の良さである。
「両側からソフトクリームを舐めていき、最終的にキスをする形ですね」
「……最後のやつ初耳なんですけど!?」
「いま思い付きました」
え? それ難易度高くない? ポッ〇ーゲームっぽい感じだが、棒状クッキーと違ってソフトクリームでそれやるのは難しいというか、この人混みの中でやるのは俺の社会的な死に等しいのでは? あっ、シロさん、もう舐め始めちゃった。
……これは覚悟を決めるしかないのか、とりあえず周囲の視線は考えないことにして必死に心を無にしてソフトクリームを舐め進め……最終的にシロさんの要望通りキスまでした。
きっと美味しかったであろうソフトクリームの味はまったく感じなかったし、背筋は冷たく顔は暑いというなんとも居たたまれない気持ちだった。いや、それでもやっぱりキスは気持ちがよかったというか、幸せではあったのだが……なんか、失ったものも多い気がする。
シリアス先輩「シンフォニアでもクロと似たようなことしたし、あとはアルクレシアでも恋人となんかやれば三国制覇だねっ☆ クソがっ!!」




