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俺の想像とは少し違っていたみたいだ

 しばらく馬車に揺られ、リリアさんと共に外に出ると、荘厳と感じられる大きな門が目の前にあった。


「普段も遠目には見えてましたけど、近くで見ると流石王城って感じですね」

「ええ、私にとっては馴染みある外観ですが、カイトさんにとっては物珍しいかもしれませんね」


 現在俺は国王からの謝罪を受ける為、王城へとやって来ていた。

 俺個人としては「ごめんなさい」「別に良いですよ」程度の軽い感じで終わらないかと、淡い期待を抱いていたんだけど……残念ながら全くそんな感じではない。


 大きな門が開かれると、左右に騎士らしき方々が綺麗に整列して道を作っており、その雰囲気は正に国賓を迎えるようなものと言っても過言では無かった。

 周囲の騎士達より一際綺麗な鎧に身を包んだ方が、俺とリリアさんを案内してくれる。


 正しく創作物の中で見てきたような光景に驚きつつも、廊下を進んでいくと、開けた大きな部屋……謁見の間へと辿り着く。

 中にはこの国の貴族らしい方々が勢揃いしており、何とも落ち着かない光景だ。

 ……ってあれ? なんか、この国に居る筈の無い方が見えたんだけど……き、気のせいかな?


 そして視線の先には、豪華な衣装に身を包みやや色の深い金の短髪を後ろに流している男性が居た。

 リリアさんと同じ金髪だが、瞳の色はリリアさんと違って赤い、イメージよりガッチリしてる感じの男性は、間違いなくこの国の王だろう。

 リリアさんから聞いた話だと、かなり年上の筈だけど……20代と言われても信じる程若々しい方だ。


「王宮へようこそ、ミヤマ殿。此度は、足を運んでいただき、ありがとうございます」

「あ、い、いえ、こちらこそ、招待いただきありがとうございます」


 俺がリリアさんと共に部屋の中央に辿り着くと、国王はゆっくりと玉座から立ち、俺と同じ高さまで降りてから口を開く。

 どこか重々しく威厳を感じる声に、思わず背筋を伸ばして挨拶を返す。


「シンフォニア王国、国王。ライズ・リア・シンフォニア18世と申します。どうかお見知りおきを……」

「あ、はい。み、宮間快人です」

「さて、簡単な挨拶のみで本題へと移る無礼をお許しください」

「は、はい!」


 多くの視線に晒されている空気もあってか、かなり緊張しながら言葉を返す。

 この人がリリアさんの兄で、ルナマリアさんの話にも度々登場していた国王陛下? なんか、少しイメージと違う気がする。


 俺の事が気に入らず、今回もリリウッドさんに言われて、仕方が無く謝罪の場を用意した……と、正直そんなイメージだったんだけど……どうも、そういう感じじゃない気がする。


 そんな事を考える俺の前で、国王陛下は地面に両膝をついた後、深く頭を下げながら口を開いた。


「以前、ミヤマ殿に招待状が届かなかった事は全て私の責、心からの謝罪を……本当に、申し訳ありませんでした」

「え? あ、はい……え、ええっと、か、顔を上げて下さい。俺の方は本当に気にしていませんし、謝罪もちゃんと受け取りました」


 う~ん、やっぱり何か想像していたのと違う。

 てっきり俺に招待状が届かなかったのは手違いだったとか、こういう事情があったとか長々と弁明の言葉があるのかと思ったが……国王陛下の謝罪は弁明も何もない真っ直ぐなもので、だからこそ誠意をしっかりと感じる事が出来た。


 ともかく俺の方は最初から気にしてなどいなかったし、国王陛下の謝罪に対して、それを受け入れる事を伝える。

 一応この場の主役である俺があっさり許すと告げている以上、話がこじれたりする事はなく、国王陛下はそのままもう一度深く頭を下げて、謝罪を終えた。
















「……意外でした。兄上が、あそこまで誠意ある謝罪をするとは……てっきり、手違いの方向で話を進めるかと思っていました」

「う~ん。俺もなんだか、聞いてたイメージと違う気はしましたけど……」

「馬鹿な兄上ですけど、一応は国王という事なんでしょうかね」


 リリアさんと共に広い廊下を歩きつつ言葉を交わす。

 今日俺とリリアさんは王宮に一泊する事になっており、用意してもらった部屋に向かっている最中だ。


 そしてその後で、リリアさんの両親……前国王夫妻に挨拶に行く事になっている。

 国王陛下の次は前国王陛下……何か偉い人とばかり会ってる気がして落ち着かないが、リリアさん曰く気さくで優しい両親らしい。


 しかしその道中で俺と話がしたいと、ある方の使者が現れた。

 相手が相手だったのでリリアさんもその話を聞いて迷う様な表情を浮かべ、素早く前国王夫妻に確認を取り、そちらは後ほどで大丈夫という事で、先に俺はその相手と話をする事になった。


 正直、その相手的に……俺は断りたい気持ちでいっぱいだったのだが、場が場だけに断るとリリアさんにも迷惑がかかってしまう。

 若干気が重くなるのを感じつつ、用意された部屋に移動して、ノックをして入室の許可が出てから中に入る。


「こんにちは、ミヤマ様。突然お呼び立てして申し訳ありません」

「あ、いえ、お久しぶりです。クリスさん」


 部屋に入った俺を出迎えてくれたのは、以前アルクレシア帝国で知り合ったクリスさんであり、俺が割と苦手にしている人物だった。

 俺への配慮なのか、例によって例の如く罠なのか、部屋の中にはクリスさん以外の人は居ない。


「ミヤマ様にもご予定があるでしょうし、気が引けたのですが……私は長くここへは滞在できませんので、時間のあるうちにミヤマ様とお会いしたかったんですよ」

「……そうなんですか?」

「ええ、想いを寄せる殿方に一目会いたいという乙女心が抑えきれませんでした」

「……」


 この人はよくもまぁ、いけしゃあしゃあと……本当に油断のならない方だ。

 手を差し出してきたクリスさんと握手を交わしながら、相変わらずのクリスさんに呆れていると、クリスさんはスッと自然な動きで俺に身を寄せてくる。


 青い髪が微かに揺れ、俺の体に触れないギリギリの距離まで近づいてきたクリスさんに、思わずドキッとしてしまう。


「どうでしょう? 今日はミヤマ様にお会いできると思い、普段はしない化粧も少ししてきたのですが……女らしく、見えるでしょうか?」

「あ、はは、はい。た、大変お綺麗だと思います」

「ありがとうございます。どうぞ、遠慮なく触れて頂いて構いませんよ……ミヤマ様が望むのであれば、二人きりで親睦を深める時間を作ります……ほら、そこにベッドもありますので、そちらでお話ししても……」

「遠慮しておきます」

「おや? また振られてしまいましたか、残念です」


 だから、会うたびに軽やかに色仕掛けに移行しようとするの止めてもらえませんかね!? 

 度々送られてくる手紙も歯の浮くようなラブレターだし、この人は本当に少しでも油断すると、あり地獄にでも引き込まれそうな相手だ。


 クリスさんは俺の言葉を聞いて、アッサリと身を離し苦笑する。

 俺やっぱこの人苦手だ。何となくやり辛いというか、俺が経験薄く苦手な行動を把握していて、そっちの方向で攻めてくるから非常に危ない。

 しかも行動が絶妙で、手紙に関しても直筆で書いてるから無視し辛いし、会う時はさりげなく二人きりしてきたりと……本当に油断すると、取り返しのつかない事になりそうだ。


「さて、ミヤマ様。話は変わりますが、先程の謁見の間での出来事、見学させていただきました」

「え? あ、はい」

「シンフォニア国王にも、困ったものですね。国王の身でありながら個人の感情を優先し、あまつさえミヤマ様に迷惑をかけるとは……ミヤマ様が気に入らないから等という理由で嫌がらせを行う等、許されざる無礼ですね」

「……」


 なんだろう? やっぱり妙な違和感を感じるというか、どうも釈然としない。


「あの国王の治める地では、ミヤマ様も気苦労が絶えないのではありませんか? もしよろしければ、我が国に……」

「……本当に、そうなんでしょうか?」

「……おや?」

「本当に国王陛下は、俺が気に入らないから……ただそれだけの理由で、嫌がらせをしてきたんでしょうか?」

「……」


 たぶん俺が今釈然としていないのは、俺の持つ感応魔法による影響が大きいと思う。

 先程の謝罪……アレは本当に心からの謝罪だった。

 国王陛下から感じる感情は、深く真摯な謝罪の気持ちと……後悔に同情? ともかく表面的な謝罪じゃなかったのは確かだと思う。


「何となく、ですけど……国王陛下は、今回の件が無くとも、いずれ俺には謝罪をするつもりだったんじゃないかって思うんです」

「……ほぅ……まぁアレも例の件は『焦っていた』のでしょうね。異世界人と言うのは、立場的に難しい存在ですし。恐らく衝動的に行動してしまった事は、本気で後悔していたのではないでしょうかね」


 勿論公式の場で行うか、個人的に行うかの差はあるだろうけど、国王陛下は元々俺に謝罪をするつもりだったんじゃないかと思う。

 実際クリスさんの言う通り後悔していたのか、その夜会の件以降、特に何か嫌がらせをしてきたりはしてない訳だし……どうにもルナマリアさんが話していたイメージとは違って見える。


「私の予想ではありますが、国王としての書状ではなく『個人の手紙』で直ぐに謝罪の文面を送って来たのでは?」

「……う~ん……あっ……それ、もしかすると宛名の確認すらなく倉庫に放り込まれてるかもしれません」

「おやまぁ……」


 あの件のすぐ後に手紙を送って来たのではないかとクリスさんは告げるが、俺はそんな手紙を見た覚えが無い。

 そこで思い至ったのが、毎月20通以上リリアさんに送られてくる手紙……もしかして国王陛下の個人名での手紙と言うだけで、そっちに混ざっているのかもしれない。

 と言うかリリアさんすらどこにしまっているか把握してない状態で、中なんて確認していない感じだったので、間違いなくそっちに混ざっているだろう……なんか、国王陛下がちょっと不憫になってきた。

 よくよく考えてみれば、国からの書状以外国王陛下の手紙がリリアさんの手元にすら届いてるのを見た事が無い。


 っとそんな事を考え、国王陛下を少し不憫に思っていると、クリスさんは微笑みを浮かべる。


「……流石、ミヤマ様と言うべきでしょうか? 人の本質を見抜く良い目をしていらっしゃる」

「え? それはどういう……」

「あの男は、言ってみれば『蛇』ですよ。私もそれなりに長い付き合いですが、アレで中々狡猾な男です……隙だらけに見えて、迂闊に踏み込めばこちらに毒がまわる。やり辛い相手とも言えます……まぁ、私はあの男は嫌いですし、あちらも同様みたいですけどね。女狐、蛇と呼び合う仲です」

「……」

「しかし妹君に対してだけは、馬鹿になる……いや、あえて愚行である事を受け入れ、その上で行動しているとも言えますね。必要となれば己を排斥して王位を子に譲る準備をしているみたいです」


 そう言ってクリスさんは微笑みを浮かべながら移動し、椅子に座り、手で俺に着席を勧めてくる。

 そして俺が席に着くのを確認すると、真っ直ぐに俺を見つめながら口を開く。


「……ミヤマ様なら直ぐに辿り着くでしょうが、ヒントだけは差し上げます。あの男が、リリアンヌ王女……失礼、リリア公爵でしたね。彼女によりつく男を排除し始めたのは、8年前からです」

「……8年前?」

「ええ、まぁ、その時は今ほど強行していませんでした。せいぜい牽制する位でしたね……しかし、4年前の件以降は、手段を選ばずリリア公爵に近付く男や『その他』を排除していたみたいです」


 8年前、リリアさんが14歳の時……うん? まてよ、何かその時の事で聞いてた気がする。

 思い出せ、確かこの世界に来たばかりの頃……ルナマリアさんが何かを……


――『婚約者候補』の精神も粉砕して、婚約の話は……


 婚約者候補……そうか、何か妙な引っ掛かりはコレか……

 当時のリリアさんには婚約者候補……つまり将来結婚するかもしれない男性の知り合いがいた。だけど、国王陛下がその相手を排除したりしたと言う話は聞かない。

 年齢的に既に国王陛下は今のライズさんに変わっていた筈だし、少なくとも以前は近付く男を全て排除していた訳ではないって事か……


 そしてクリスさん曰く、それが強行化したのは4年前から……4年前に何があったかは、考えるまでもなく分かる。

 第二師団が罠にはめられ、リリアさんが名前を変えて爵位を得た時期……


 拝啓、母さん、父さん――王宮を訪れて、国王陛下から謝罪を受けた後でクリスさんと再会した。彼女との話で違和感の正体はある程度何か分かった。やはりどうも、国王陛下の胸の内は――俺の想像とは少し違っていたみたいだ。















クリスはクリスで貴重な腹黒キャラ。


あ、貴方はまさか……シリアス先輩!? 次話で殺さなきゃ……

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シリアス先輩!
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