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閑話・アリス~幻影に宿る想い~

本日は複数回更新です。これは三話目なのでご注意を。

 私にとって、他者の生死なんて興味の湧くものではないです。

 優先すべきは世界の平穏であり、個ではない。この世界に不要だと判断すれば、一国の王であろうと退場頂く。

 クロさんに言わせれば、ドライだって事なんでしょうけど……私に言わせれば、クロさんや他の六王達が甘すぎるんすよ。


 不穏分子なんてのは、鍋の灰汁みたいに次から次えと際限なく沸いてくるもんなんすよ。

 だから世界の平和に維持する為に、誰かが灰汁取りをしなきゃいけない。


 ただ、私もやっぱり親しい相手には甘くなってしまうものです。

 勇者召喚を翌日に控えた日、私は部下達からもたらされた情報により、魔法陣の場所に向かいました。

 私が直接動くという事は、部下では対処しきれない事態……


「……なに、やってるんすか? クロさん?」

「……シャルティア……」

「それは勇者召喚の魔法陣ですよ? 貴女がそんなふざけた魔力を注ぎこんだら……暴走しちゃいます」

「……うん……ごめん」


 問いかける私の言葉に、悲しそうな表情を浮かべて振り返るクロさん。

 彼女が行っていたのは、召喚魔法陣への細工……クロさんが大量の魔力を注ぎ込んで、半暴走状態にして召喚を行う、そうなれば召喚されるのは一人では済まない。

 

「……クロさん。言いたくねぇすけど、人数を増やした所で『貴女の願いは』……」

「分かってる! どうせ、無理だって事は……」

「……」


 クロさんが何故こんな事をしようとしているのかは、正直痛い程分かります。

 だからこそ、私は迷ってしまいました。止めるべきか、見逃すべきか……

 クロさんは私にとって親みたいな存在ですし、育ててもらった大恩もあります……クロさんがずっと持ち続けて来た願いに気付きながら、自分ではそれを叶える事が出来ない事を辛くも感じる。


「……はぁ、今回だけにして下さいよ」

「……シャルティア?」

「一回ぐらいなら、残留魔力による暴走って事で説明できるでしょう……事故後の調整もこっちでやっときますよ」

「……ありがとう」

「でも、無理だと思いますよ。例え召喚の人数を増やした所で、貴女の願いを叶えてくれる人は現れないでしょう……まぁ、分かっててやってるんでしょうけど」


 それだけ告げて、私は召喚魔法陣がある部屋を後にしました。

 外に出て部下達に、暴走後の隠蔽工作の指示を出し、出来ればイレギュラーな事態は起って欲しくないって、そう思いながら翌日を待ちました。


 ええ、まぁ、結論から言うと……起っちゃったんですよね、イレギュラー……

 召喚魔法陣は初代勇者……ヒカリさんの件以降、シャローヴァナル様が調整して『ヒカリさんが召喚された時に近い年齢』の相手が召喚される仕組みになっています。

 ヒカリさんがこの世界に召喚されたのは17歳の時。だから、召喚魔法陣によって召喚されるのは、異世界の16~18歳くらいの人間になる筈です。


 だから、潜入させた部下からの報告で一人だけ21歳である事を聞いた時は、本当に驚愕しました。

 ミヤマ・カイト……シャローヴァナル様の術式による選定外の年齢であるイレギュラーな存在。

 私はすぐに、イレギュラーな存在であるミヤマ・カイトを調べました。


 彼が召喚された原因は、一目見て直ぐに分かりました。

 クロさんの魔力の欠片が宿ってましたんで、恐らく彼はクロさんの求めた存在になりえる資質を持っているのでしょう。

 だから本来召喚される筈だった、16~18歳の人間を一人押しのけ、この世界へやって来た。


 正直私は、彼の処遇にかなり迷いました。

 資質を持っている事と、実際に成せるかは別問題……私は彼が、クロさんと対峙できるような存在だとは、とても思えなかった。

 だから接触して測ってみる事にしました。

 叶わぬ希望を抱かせる事程、残酷な事はない。無理だと判断したなら、即座にクロさんから引き離す。

 そんな考えを抱きながら、私は人間に化けて彼に接触しました……




















「……はぁ、カイトさんは、今頃魔界っすか~つまらないっすね……って、あれ?」


 昼下がりの時間、カウンターに腰掛けながら呟いた言葉に、自分自身で驚きました。

 つまらない? 私は何を言ってるんでしょうか? それじゃ、まるでカイトさんが来なくて寂しいみたいじゃないですか……


 アリスと名乗ってカイトさんと交流を持ち始め、一月位が経ちました。

 初めは絶対に無理だろうと思っていましたけど、カイトさんは私の想像を遥かに超えた存在でした。

 シャローヴァナル様に興味を持たれ、アイシスさんの孤独を払った。

 本人は自覚して無いでしょうけど、それはとんでもない事……少なくとも私を驚愕させ、考えを改めさせるには十分でした。


 カイトさんなら、クロさんの願いを叶えられる可能性がある……私はそう判断して、裏で手を引き始めました。

 クロさんと本気で対峙するなら、何よりも心が強く無ければならない……そう、例えば、六王全てと対峙しても己を失わない位に……


 だからアレコレと試練を与えてみました。あの人の心が折れるかどうか、歪んでしまうか否か……だけど、カイトさんは揺るがなかった。

 動揺もする、混乱もする……だけどその根底は真っ直ぐなままで、メギドさんからも信頼を勝ち取ってしまった。


 そして私に対しても……

 正直たかが人間相手に、私の心がここまで乱されるとは思っていませんでした。

 カイトさんと話をするのが楽しい、馬鹿な私を真剣に心配してくれるカイトさんに叱られるのが嬉しい……カイトさんが居ない時間が、寂しい。


 はぁ、やれやれ……長生きはしてみるもんすね。まさか私がいっちょ前に、恋慕なんて感情を抱くとは……本当に、大したものですよ……





















 夕暮れの店内に、扉を開く音が聞こえ、小さな影が入ってくる。


「いらっしゃい、クロさん」

「うん」


 入って来たのはクロさん。

 クロさんには初めから、私がアリスと名乗ってカイトさんに接触している事は伝えてあるし、以前商談に来てくれた時も、ちゃんと私の思惑を理解して黙っていてくれました。


「……カイトくん。どうだった?」

「合格っすよ。文句無しです……まぁ、私的にはもう四つ目辺りで合格だったで、五つ目はおまけみたいなもんでしたけどね」

「……そっか」


 私が返した言葉を聞き、クロさんは複雑そうな表情を浮かべる。

 私がカイトさんの事を合格と告げた事の意味、勿論クロさんなら分かっている。


「……クロさん。カイトさんは、貴女が探し求めていた存在です」

「……そんなの、まだ……分かんないよ」

「貴女も本当に頑固っすね。まぁ、いいでしょう。カイトさんはきっと、そう遠くない内に……貴女の前に立ちますよ。そして、私や他の六王でも辿り着けなかった貴女の深奥に挑む」

「……ッ!?」


 今にも泣き出しそうな表情を浮かべるクロさん。

 彼女はずっと求めてきたものが有る……だけど、それはもう手に入らないと諦めていました。

 クロさんも、私も……でも、今、カイトさんは限りなくそれに近付きつつある。

 もしかしたら、カイトさんなら……そんな微かな希望は、きっとクロさんを今まで以上に苦しめているんでしょうね。

 あまりにもそれが現れるまで時間がかかりすぎました……長い年月が檻となって、突如差し出された奇跡を拒絶する。


「……シャルティア、もし、ボクが……『カイトくんを殺したら』……どうするの?」

「……別に、特別変わった事はしませんよ」


 静かに告げるクロさんの言葉に、私も静かな声で返す。


「貴女がもしカイトさんを殺したら……私は嘆き、悔み、怒り……死に物狂いで貴女に挑みかかって……力及ばず『死ぬ』だけです」

「……」

「別に特別な事じゃないっすよ。カイトさんが死んだら私も死ぬ、その程度の覚悟も無く恋をしたつもりはありません」

「……」


 決意を込めて告げる私の言葉に、クロさんは沈黙したまま何も言いません。

 クロさんも分かっている。もう、それが起こる日が遠くない事を……


 まぁ、私としては何としてもカイトさんに勝っていただいて……それからアプローチして、私の事も女としてみてもらえたら、何て思ってますけどね。

 まぁ、先の事をアレコレ考えるのは一端止めにしておきましょう。


 いずれその時がきたら、望む、望まないに関わらず……答えは出るのですから。


 カイトさん……貴方の事が愛おしいですよ。だから、どうか……何よりも、貴方にとって幸せな結末になりますように……



















クロ「……(ちょっとノリで言ってみただけなのに、滅茶苦茶真面目に返された!? どうしよう、いまさら冗談でしたとか言えない……)」



新情報?

・召喚魔法陣に細工した犯人はクロ

・快人は本来召喚されないはずだったが、男子学生と入れ替わる形で召喚

・快人が呼ばれたのはクロムエイナの願いに資質を持っていたから

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