万花の園②
万花の園は、ユグフレシスの近くにある場所で、その名の通り数多の花が咲き誇るとても美しい庭園という話ではある。
しかし、名前こそ有名なのだが、その万花の園がどんな場所かというのは世間的にはほぼ知られておらず、通常の方法ではたどり着けない幻の園とも呼ばれているらしい。
理由はまぁ、単純である。万花の園とは、端的に言えばロズミエルさんの家と所有する庭であり、極度の人見知りであるロズミエルさんは見ず知らずの人が入ってこないように、極めて強力な結界を施している。
六王幹部であり、伯爵級最上位の実力者であるロズミエルさんが割と本気で張った結界を突破するのは普通の人には不可能であり、ゆえにその場所は幻の場所と語られているとのことだ。
「……って感じにゴシップっぽい雑誌に書かれてたんだけど、間違いない?」
「うん。ロズミエルちゃんは、結界魔法がかなり得意だからね。近くに来てもその場所に気付けない認識阻害、気付いても視認できない視覚阻害、立ち入ることができない位相のずらしって感じにいくつもの結界を重ねてるから、自力で見つけられるのは本当に一握りだと思うよ」
「へぇ……」
いつものように遊びに来ていたクロに聞いてみると、やはり相当に幻の場所みたいだ。というか、見知らぬ人の排除に全力過ぎる……まぁ、ロズミエルさんの性格では仕方ないかもしれないが。
納得しつつベビーカステラをひとつ食べる。今日のは無難に美味しいベビーカステラであり、例によって急須のコーヒーと共に頂いている。
「……ああ、そういえば、ネピュラがイルネスさんと一緒に焼き物を作ったんだけど、結構いい出来だと思わない?」
「お~、綺麗な色だね。コレだけ綺麗に白色を出せるのは、腕がいい証拠だよ。ネピュラちゃんは相変わらず多彩だね」
「そうそう、なんか術式そのものの分割とかもやって、いろいろ工夫してるらしいよ」
「……ごめん、いまなんて?」
「え? いや、術式そのものの分割を……」
「術式を分割? 分割術式みたいに、あえて複数の術式に分けて成立させるんじゃなくて、分割したまま発動が成立するの?」
「……するらしいけど? なんかそのカップにも、温度の保存の術式があるとか……」
俺がそう話すと、クロはかなり真剣な表情でネピュラの作ったティーカップを見始める。ただならぬその雰囲気に沈黙していると、しばらくしてクロが呟くように告げる。
「……凄いな。術式を仕込むんじゃなくて、練り込むような発想……こんなにも分割しても、問題なく術式が発動? ほんの僅かでも分割の仕方を間違えれば、絶対発動しない。仮に思い付いても……普通なら、何十何百と試行錯誤して、どう分割するかを探らないととても不可能なはずなのに……完璧だ。凄い、これなら使用できる素材はある程度限られるとはいえ、いままでは魔水晶のサイズの問題で作れなかった魔法具も作れる」
「……」
「カイトくん、ちょっとネピュラちゃん呼んでもらっていいかな? いろいろ聞いてみたいんだ」
「分かった」
どうも俺が想像していた以上にとんでもない技術だったみたいで、クロの目が真剣そのものである。そういえば、イルネスさんも成立すれば魔法具制作に革命が起こるとか言ってたような……。
驚きつつもネピュラを呼ぶと、ネピュラはすぐに部屋に来てくれた。
「主様、お呼びですか?」
「うん。クロが、ネピュラの作ったカップの術式について聞きたいらしいんだ」
「ネピュラちゃん、急に呼んじゃってごめんね。このカップの術式分割の発想が画期的で、ぜひ詳しく教えて欲しいんだ。もちろん、無理にとは言わないし、この術式の権利はネピュラちゃんにあるから使用して魔法具を作る場合はロイヤリティとしてお金も払う」
「……なるほど! 構いませんよ、そして、お金も不要です! 妾は絶対者です。妾の持つ知識や権利は行使するにあたり、返礼をなど不要です……まぁ、もしどうしてもというのであれば、お金は主様に渡してください。妾は必要な都度、主様に頂くことにしますので……」
小さな体で胸を張りながら告げたあとで、ネピュラはクロに対して術式の分割について詳しく説明を始める。
ハッキリ言って話している内容がレベルが高すぎて、俺は途中からサッパリついていけなかったのだが、クロはかなり食い付いており相当凄い話が展開されているのは分かった。
「……なるほど、すごく参考になったよ。ネピュラちゃんの発想は型破りですごいね。こうして目にすると画期的だって分かるけど、これを最初に思い付くのが凄く難しいよ」
「う~ん。妾はまだ、この世界の常識に疎い所もありますので、そういった部分が結果として斬新な発想に結びついているのかもしれませんね」
「そっか……ともかく、いろいろ教えてくれてありがとう。おかげで新しい魔法具のアイディアがたくさん思い浮かんだよ」
「お力になれたならよかったです。新しい魔法具が出来るのを楽しみにしてますね」
ニコニコと笑顔で告げるネピュラは可愛らしく、また改めてネピュラの凄さがひとつ分かって、なんだか俺も鼻が高い思いである。
いや、凄いのはネピュラであって俺ではないので、俺が鼻高々というのもおかしいのだが……なんか、ネピュラが褒められると、俺も嬉しいので仕方がない。
シリアス先輩「この、クロですら驚く発想を見ても、やっぱりネピュラは凄いな~みたいな感じが、最高に親バカ発動してる感じがある」
???「ベルやリンもそうですか、カイトさんが親バカ発揮してる時は分かりやすいですからね」
シリアス先輩「そして絶対者は流石に気遣いの鬼……技術提供に対価はいらないと言いつつも、相手が逆に恐縮してしまう場合のための案も提示、快人が負い目とかを感じないようにお金は必要な都度快人から貰うと、実質預かっておいてもらうような言い回し……」




