ナイトマーケット⑩
入浴を終えて脱衣所でしっかりと体を拭く。巨大な風呂に相応しく、俺の家の脱衣所もかなりの広さである。それこそ銭湯並みのサイズはあるだろうし、洗面台なども複数あるし、風呂上りに一息つけるベンチもある。
それこそ冷蔵庫でも常備すれば、風呂上りの牛乳とかも可能だろう。まぁ、俺は別に風呂上りにそこまで牛乳を飲みたいとは思わないので用意はしていないが……。
今回はイルネスさんも居るので手早く服を着たあとで、髪などを乾かす。チラリとイルネスさんの方を見ると、イルネスさんは湯着を魔法で乾かしたあと、上に薄手のバスローブを羽織っていた。
なんだろう? 露出の範囲は大幅に減ったはずなのに、バスローブの隙間からチラチラと見える肌が妙に色っぽい気がする。
「いいお湯でしたねぇ」
「そうですね。結構満足感も高かったですね」
「カイト様ぁ、すぐにお部屋に戻られますかぁ?」
「ああいえ、少し長めに入ってましたし、一休みしてから戻ろうかと……」
別に部屋に戻ってから涼んでもいいのだが、風呂上りに脱衣所のベンチでのんびりするのもいいものだ。風を発生させる魔法具もあるので、風呂上がりの体を冷ましつつ一息つける。
冷蔵庫はないが、なにか飲みたいならマジックボックスから出して飲めばいいし、本当に戦闘の脱衣所ぐらいにはのんびりできると思う。
「なるほど~それでしたらぁ、少しご提案があるのですがぁ?」
「へ? 提案ですか?」
「はいぃ」
そういうと、イルネスさんは脱衣所に置いてある横長のベンチの端に腰かけ、自分の腿を軽く示しながら微笑みを浮かべた。
「カイト様さえお嫌でなければぁ、こちらで一休みしませんかぁ?」
「はえ? えっと、その、俺の勘違いだったら申し訳ないんですが……それは隣に座るとかそういう意味ではなく、えっと……イルネスさんの膝枕でとか……そういう意味合いで?」
「カイト様がぁ、お嫌でなければですがぁ」
あれ? なんだ? なんでこんな展開になってるんだ。膝枕してくれるって? え? なにがどうなってそういう流れに……。
「も、もちろん嫌とかではないですが……えっと、いいんですか?」
「はいぃ」
しかし、混乱する俺とは裏腹に、イルネスさんは自然体であり優し気に微笑んでいて、まったく気にしていないようだった。
ほ、本当にどうなっているんだろうか? 今日のイルネスさんは、なんだかいつもより積極的というか……普段も優しく甘やかしてくれる方ではあるが、今日はいつも以上にアレコレとしてくれるような。
も、もちろん、イルネスさんの膝枕が嫌などということはない。
「え、えっと、では……よろしくお願いします?」
そして、俺はいったいなにを言ってるんだ? つい流れで、ほぼ無意識で厚意に甘える返答をしてしまった。ちょっと今日の俺は失言が多いかもしれない。
するとイルネスさんは相変わらず優し気に微笑んだままで、軽く頷く。
「それではぁ、どうぞ~」
「あ、はい。し、失礼します!」
もうこうなってしまうと、ここから拒否するのも難しいので、素直に甘えることにしたのだが……えっと、イルネスさんのバスローブがはだけていて、その……このまま寝転がると、生足に頭を乗せる形になるんだけど……本当にイルネスさんはいいんだろうか?
そう考えてチラリとイルネスさんの様子を伺ってみるが、全然気にした様子もなく微笑んでいる。
ほ、本当にいいんだろうかと、戸惑いつつ恐る恐るイルネスさんの腿に頭を乗せると……驚くほど柔らかくスベスベした肌の感触と、風呂上がりの少し体温の高い温もりがダイレクトに伝わってきて、心臓が飛び跳ねるような思いだった。
そんな俺に対し、イルネスさんはどこからともなく扇子のようなものを取り出し、それを扇いで俺の顔に風を送りながら、残った片方の手を俺の頭に乗せて撫で始めた。
「少しでもぉ、リラックスできたなら~嬉しいのですがぁ」
「あ、ありがとうございます」
いや、これはヤバいかもしれない。なにがヤバいって、駄目になりそうというか癖になりそうというか……とてつもない心地よさである。
まずもってイルネスさんの膝枕の感触自体、とてつもなく心地よいのだが……それに加えて火照った体に当たる絶妙な加減の風、頭を撫でる優しい手つきに、こちらを見て穏やかに微笑むイルネスさんの表情。
なんというか、まるでこちらの全てを受け入れて抱きしめてくれるかのような、圧倒的な包容力と心地よさ……さっきまでの戸惑いはどこへいったやら、いつの間にかあまりの快適さに急激に眠気が襲ってきた。
「よろしければぁ、少しお休みになられてはぁ? 15分ほどしたらぁ、起こしますのでぇ」
「……それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「はいぃ」
こちらの気持ちを見透かしたかのような、抗いがたい魅力的な提案に頷いて目を閉じる。温もりの中にゆっくりと沈んでいくような心地よさと共に、意識が薄れていく。
そして、完全に寝てしまう直前……一瞬、ほんの微かになにか……柔らかくて、微かに湿ったナニカが、おでこに軽く触れた気がしたが、それを考えるより先に俺の意識はまどろみに沈んでいった。
シリアス先輩「はい終わり!! これで終わりだよね!! キリがいいよね!! 頼む、終わってくれ!!!!」
???「次回、ナイトマーケット⑪」
シリアス先輩「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!?」




