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全然知らないのだと

 クロとアリスの商談も一段落し、長居もアレだったので帰ろうと考えると、丁度そのタイミングでアリスが話しかけて来た。


「……カイトさん『前に頼まれた物』出来てますよ」

「もうっ!? 流石、仕事が早いな……」

「え? なになに?」


 アリスが話しかけて来た内容は、少し前にアリスに頼んだ仕事……流石に難しい条件も付けたし、もっと時間がかかるかと思っていたが、もう出来ているらしい。

 当然その俺達二人しか分からない会話に興味を持ったのか、クロは首を傾げながら近付いてきた。


「クロはちょっとそこで待ってて!」

「へ? あ、うん」

「……それで、アリス。例の物はどこに?」

「ここにありますよ。カイトさんの出した条件は、全部クリアしてるはずです」


 近付いて来ていたクロを止め、俺はアリスから小さな箱を受け取り、中を確認する。

 ……流石、としか言いようが無い。見事な出来だし……俺の出した要求をクリアしてくれたって事は、あの不安要素も無事解消できたって事だ。


「……助かったよ。それで、いくら?」

「流石の私もその素材の入手には苦労しました。って事で10000Rでどうですか?」

「分かった」


 物を考えるとかなり高額と言って良かったが、提示した要求を考えると妥当な所だ。

 そう考えた俺は、特に悩むことなくアリスに金貨を一枚手渡す。


 そしてもう一度アリスにお礼を言ってから、クロと一緒に店を後にした。


















「むぅぅぅ」

「……何で頬膨らましてるんだ?」

「……カイトくんに……除け者にされた……」

「拗ねるなって……」


 どうやら先程クロを除け者にした上でコソコソしていたのが気に入らないらしく、クロは可愛らしく頬を膨らませそっぽを向いてしまった。

 とは言えクロも本気で怒っている訳では無いみたいで、少し経つと直ぐに溜息を吐いて頬を元に戻した。


「……まぁ、カイトくんが言いたくないなら聞かないけど……」

「え? いや、別に言いたくないとかそういう訳じゃなくて……」

「うん?」


 俺の告げた言葉に首を傾げるクロを見て、俺は緊張を自覚しながら、先程アリスから買った箱を取り出し……それをクロに差し出した。


「……えっと、その、クロ……いつも、色々……ありがとう」

「え? ええ? か、カイトくん?」

「日頃のお礼と言うか何と言うか……良かったら、受け取って欲しい」

「……あっ、ありがとう……えと、開けても良い?」

「ああ」


 そう、俺がアリスに頼んでいたのは……クロに贈るプレゼントだった。

 この異世界に来てからずっと、本当に世話になっているクロに何かお礼がしたいと思って、色々考えた結果コレを贈ろうと思った。

 ただ以前クロが言っていた言葉が気にかかり、そのまま贈る訳にはいかないと思ったので……アリスに手直しを頼んでおいた。


 クロは俺から受け取った箱をゆっくり開け、中に入っている物を取り出して、驚いた様な表情を浮かべた。


「これって、もしかして……」

「うん。前に……えと、で、デートした時に、クロが気に入ってたネックレス。アリスに頼んで、伸縮性が凄い素材で作ってもらったから……魔獣の姿でもちぎれたりしないと思う」

「……カイト……くん」


 クロが箱から取り出したネックレスは、銀色の星がいくつも連なったデザインで、以前デートした時にクロが似合うかと聞いてきたものだ。

 その時は結局、クロは魔獣モードになると切れてしまいそうだという事で買わなかったが……実は俺が後でこっそり購入していた。


 そしてアリスに大きな姿になっても切れない様に出来るかと聞いてみると、特殊な素材を使えば大丈夫だと言われ、それを手に入れて作りなおして貰う様にお願いしていた。

 アリスの技術は見事なもので、パッと見た感じでは普通のネックレス……いや、細やかな細工が施されている分、より繊細で綺麗になっているが、伸縮性が優れているので、着用者にフィットする作りになっている。


 クロは俺から受け取ったネックレスをしばらく眺め、それを胸の前でギュッと握った後、微かに頬を染め動揺した様に瞳を揺らしながら俺を見つめて来た。


「……カイトくん……ボクは……」

「うん?」


 消え入りそうな程小さな声で何かを呟きかけたクロだが、直ぐにその言葉は止まり……クロは何か葛藤する様な表情を浮かべて、顔を伏せた。

 少し沈黙が流れた後、クロは顔を上げ、明るい笑顔を浮かべる。


「ごめん。何でも無い……ありがとう、カイトくん。凄く嬉しい……大事にするね」

「あ、うん」


 何を言いかけたのかは分からなかったが、どうやらそう簡単に踏み込んで良い話題では無さそうだった。

 少なくとも、どこかいつもと違う笑顔を浮かべるクロからは、これ以上何も聞かないでくれと言う切実な感情が感じ取れた。


「そうだ! カイトくん、折角一緒にお出かけしてるんだし、何かご飯でも食べようよ」

「ああ、そう言えば丁度昼時だな」

「うんうん。じゃあ、ボクのお勧めのお店にいこう!」

「お勧め? どんな料理の店?」

「えっとね~『ストライプフロッグの肉』を使った……」

「チェンジで」

「……え?」


 この世界に来て色々な物を食べて来た。

 ドラゴンの肉に、熊の肉に、タイラントワーム成る恐ろしい物の肉……だが、それでも、まだカエル肉は勘弁してほしい。

 いや、食用ガエルとかあるのは知ってるけど……やっぱ食べるには凄まじい勇気が居るから、もう少し時期を見て……


 拝啓、母さん、父さん――この世界に来てから、一番多く言葉を交わし、一番親しくしている相手。だけど、今日の事で実感した。まだ俺は、クロの心の内にある物を――全然知らないのだと。





















 魔界にある冥王クロムエイナの居城……自室でくつろいでいるクロムエイナの元を、ゼクスが訪れる。


「クロム様、明日の訪問の件で……おや?」

「うん? どうしたの?」

「いえ、随分と機嫌が良いみたいですな。何やらとても楽しそうに見えます」

「あはは、まぁ、少し……気分は良いかな」


 ゼクスの告げた言葉を否定する事は無く、クロムエイナは少女の様な微笑みを浮かべる。


「それは……ネックレスですか? クロム様がアクセサリーを付けるのは珍しいですな」

「うん。まぁ、凄く気に入ったからね……どう? 似合う?」

「ええ、とてもお似合いですよ。しかし、随分強力な状態保存の魔法をかけてるみたいですな」

「……うん。汚れたりしたら、嫌だからね」


 クロムエイナの胸元には、銀色に光る星のネックレスが煌いており、基本的にアクセサリーを付けないクロムエイナが、態々それを付けているという事は、本当に気に入っているという事を意味する。

 まるで宝物を扱う様に、胸元のネックレスを撫でるクロムエイナを見て、ゼクスも穏やかな微笑みを浮かべた。


「そうですか……っと、失礼。明日の打ち合わせに来たのでした」

「ああ、そうだね。事前に手紙を送った通り、10時位で大丈夫だと思うよ」

「ではその様にハミングバードを送っておきます」

「うん、よろしくね~後、サンプルは念の為に形状を変えたのをいくつか用意しておいて」

「畏まりました」


 リリアの屋敷を訪れる予定を軽く打ち合わせ、ゼクスが丁寧に頭を下げて退出していくのを見送った後、クロムエイナは胸元のネックレスに視線を向ける。

 微かに頬を染めて微笑むその表情は、まるで恋する乙女の様で……見た目相応に幼い印象を受ける。


「……ずるいよね。こんなの……嬉しいに、決まってるじゃん」


 誰にでもなく独り言を呟いた後、クロムエイナはもう一度ネックレスを撫でてから……その星の一つに軽く口付けをする。


「……カイトくん。君は、本当……だね……もしかしたら……ボクの……に……なって……かな?」


 聞き取れない程小さな声で呟いた後、クロムエイナは顔を上げて虚空を見つめる。

 嬉しさと寂しさが入り混じった様な表情には……彼女の抱える複雑な気持ちが表れている様で、そんな彼女の胸元には、愛しい人からの初めての贈り物が煌いていた。







































メインヒロイン(笑)がメインヒロインしてる……後やっぱり快人は、クロムエイナに対してだけは、色々積極的というか、好きだと言う感情が行動に表れていますね。

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