挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

109/523

賢帝の名は伊達では無いみたいだ

 アリスの一件があった後、クリスさんは俺に対して深く謝罪を行って来た。
 どうもクリスさんに俺に危害を加えようという考えは無く、あくまで普段通りに隠密へ自分の周囲を警戒させていたらしい。
 結果として俺を試す様な真似をしてしまい申し訳ないと、皇帝の身分でありながら地面に手をついて謝罪をしてきた。

 勿論俺の方は実害があった訳もでなく、すぐにクリスさんを許すと告げたのだが……中々頭を上げてくれなくて本当に困った。
 そして現在俺とアリスは、先程とは違う部屋に案内され……

「はぐっ、もぐっ……おかわり!」
「お前少しは遠慮しろ!」

 何故か豪華絢爛なディナーをご馳走になっていた。
 先程のアリスの行動が関係しているのか、広い食堂には応接室と比べて本当に最低限の使用人だけしかいない。
 アリスは遠慮の欠片も無くがっついており、まだ状況について行けてない俺は慌てながら注意を促す。

「何言ってるんですか、カイトさん。コレは正当な報酬ですよ! 私にはこのディナーを食べる権利があります!」
「……は? い、一体何を……」
「だから~私は『皇帝陛下の茶番』に付き合ってあげて、望み通りの動きをしたんですから……」
「え?」
「ええ、その通りですよ。アリス様には本当に感謝しております。どうぞお好きなだけお食べください」
「え? ええ? く、クリスさん!?」

 何だろう? 一体二人が何を言ってるのか分からない。
 首を傾げる俺を見て、アリスが食べていた物を飲み込み、こちらを向く。

「ほら、カイトさん。さっき私が言ったでしょ? この人の思考回路は、全部国の為、国をより良くする為なんすよ……そんな人物が、カイトさんと敵対するなんてリスクの高い選択を選ぶ筈が無いんです」
「……えっと」
「つまりこの人は、初めから『バレるつもりで』隠密を張らせてたんすよ。最初から応接室に張らせてるならともかく、城門からコソコソ付けさせるなんて、そうでも無けりゃやんないですよ」
「……は?」

 本当にどういう事だろうか?
 隠密を初めから見つかる事を前提で配置していた? 一体何の為に?

「私の予想ではありますけど……皇帝陛下自身は、初めっからカイトさんを国賓としてもてなし、丁重に接した上で、国家としてカイトさんと決して敵対しないって構図を作りたかったんでしょ?」
「……ええ、しかし……」
「納得しない者達が居た……じゃないっすか?」
「その通りです」

 アリスの言葉は真実みたいで、クリスさんも真剣な表情で頷く。

「まぁ、国家って言っても一枚岩じゃないっすからね。カイトさんと会った事があって、冥王様の事も知ってる皇帝陛下から見れば、カイトさんは決して軽視すべき相手では無い……でも、馬鹿な貴族の中には、カイトさんの事を『優しい冥王様に少し話しかけられただけで増長した生意気な若造』って考えてる連中もいたんでしょうね」
「……本当に、全てお見通しなのですね」
「まぁ、ある程度はっすけどね。そして皇帝陛下は他の貴族が馬鹿な行動を起こさない為に、カイトさんは敵対すべき相手では無いとそう思わせた上で、行動を抑制したかった。だから、あの構図が必要だったんですよ」
「あの構図?」
「……私がミヤマ様に頭を下げ、許しを乞うと言う構図です。噂が広まりやすい様に、応接室には使用人も多く配置しました……後は私が少し噂に手を加えれば『謀略を図った愚かな皇帝が、それをミヤマ様に看破され、地に伏して許しを乞うた』と広まってくれるでしょう。そうなれば愚かな考えを抱く者も減り、牽制もしやすくなりますし、私としてもミヤマ様側に立って意見がしやすくなります」

 アリスの言葉に付けくわえながら、クリスさんはまるで他人事のように淡々と話す。
 そんなクリスさんを見て、アリスは大きく溜息を吐きながら再び口を開く。

「……だから私はこの人嫌いなんですよ。この皇帝……流れ次第では、『自分が殺されるつもり』でしたからね」
「なっ!?」
「……」
「私が隠密を見破らなかった上で、用意した他の手が上手くいかなかった場合……最終的に自らの独断でカイトさんに危害を加え、冥王様か死王様辺りに殺される事で、カイトさんと敵対する事の愚かさを国に知らしめるつもりだったんでしょ?」
「……ええ、アルクレシア帝国の為に最善なのは、ミヤマ様と敵対せず友好的な関係を築く事……それを成す為なら、私の命など捨てて構わない。アリス様が何と言おうと、私は国のための道具です。私の命より国益の方が遥かに重い」
「……」

 背筋に寒気が走った。
 真剣な目に迷いの無い口調……本気だ。クリスさんは本気で、国の為に必要と思えば軽々と自分の命を差し出すつもりだ。

「ほら、言った通りでしょ? こう言う人なんですよ……国の為に働くお人形なんですよ」
「それは私にとって褒め言葉ですね。周囲の愚か者達を納得させる方法は、五つ程考えていましたが……アリス様があそこで動いてくれたおかげで、一番楽に抑える事が出来そうです。改めて、ありがとうございます」
「あ~はいはい」
「……」

 何と言うか、思わず圧倒されてしまった。
 国の為なら他の全てを犠牲にする覚悟、自分の命を天秤にかけてすら揺るがぬ意思……コレが一国を背負う王なのか……
 そう思っていると、クリスさんは俺の方を見て微かに笑みを浮かべてから、再び頭をかける。

「とは言え、皇帝ではなく私個人の意志としては……ミヤマ様を国内意思の統制の為に利用してしまい、申し訳なく思っています。改めて謝罪をさせて下さい」
「あ、いえ、そんな……」
「私に出来る償いなら何でもしましょう。思惑の全てを打ち明けて肯定したのは、私なりの誠意とお考え下さい。なので、是非これからもアルクレシア帝国と友好的であってください」
「わ、分かりました」

 クリスさんの皇帝としての覚悟を目の当たりにして、それ以上は何も言えなかった。
 殆ど同じ年齢の筈なのに、環境が違えばここまで達観した考えと行動を持てるようになるものなのかと……

「さて、固い話はここまでにしておきましょう。ミヤマ様、部屋を用意させますので、是非今日は泊まっていってください……ああ、ご安心ください。もう他に変な謀略を巡らせてはいませんので」
「あ、いや、でもそれだとリリアさんが心配を……」
「アルベルト公爵家には、私の方からハミングバードを飛ばしておきます」
「遠慮なんてしなくていいじゃないですか、カイトさん。これで豪華な朝食も――痛いっ!?」
「お前は欲望に素直すぎる」

 むぅ、何と言うか、完全にクリスさんのペースと言った感じで、そのままなし崩しに一泊することが決定してしまう。
 そしてクリスさんは仕事が残っているので一端席を外すと告げ、席を立って扉の方へ向かう……前に俺の方に近付き、小さな声で耳打ちをする。

「……後ほど、個人的にお話ししたい事……いえ、お耳に入れたい情報があります。後で私の部屋まで来て下さい」
「……分かりました」

 静かな声でそう告げた後、改めて出口の方に向かう。
 そしてクリスさんが扉の前に辿り着いた時、アリスが口を開いた。

「あ~皇帝陛下、ちょっと良いですか?」
「なんでしょう? アリス様」
「今回は、思惑に乗った方が後カイトさんにとっても有益だろうと判断しましたし協力もしました……でも、私は皇帝陛下の味方ではなく、カイトさんの味方です。今後、もし、国益の為にカイトさんを利用しようとしたら……覚悟して下さいね」
「……肝に銘じておきます」

 アリスの告げた言葉に短く答えた後、クリスさんは部屋から出て行った。

 拝啓、母さん、父さん――何と言うか、結局殆どクリスさんの掌の上だった気がする。国を背負う確かな覚悟に、自らも駒として策を巡らせる――賢帝の名は伊達では無いみたいだ。






























「お嬢様、アルクレシア帝国のクリス陛下よりハミングバードが!」
「……は?」
「なんでも、ミヤマ様が王城に一泊するとの事で……国賓として丁重に扱うので安心して欲しいと……」
「……」

 ルナマリアの告げた言葉を聞き、リリアは茫然とした表情で硬直する。
 そしてしばらく沈黙した後、手と口を震わせながら地の底から響く様な声を発する。

「……ルナ」
「は、はい!?」
「……説明して下さい……何がどうなったら……今朝方出かけたカイトさんが、アルクレシア帝国の国賓になってるですか……」
「……さ、さぁ……」
「あぁぁぁ! もうっ!? 何であの人は、普通に出かけて何事もなく帰って来てくれないんですか!? どうなってるんですか本当に!?」

 両手で頭をかかえ、リリアは涙目で悲痛な叫び声をあげる。

「……ルナ、ワイン……ワイン持って来て下さい」
「は? えと……」
「飲まなきゃやってらんないですよこんな状況!? カイトさんの……馬鹿あぁぁぁぁぁ!!」
















クリス陛下はそういうキャラ。
快人の靴を舐めるのが国にとって最善と考えれば、躊躇なく舐めるような人物です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ