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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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何者なんだろう?

 アルクレシア帝国の王城にて遭遇した、皇帝……クリス陛下は、何と以前クロとバーベキューをした際に、俺を運んでくれた馬車の御者さんだった。
 驚きの事実に茫然としている俺に向かって、クリス陛下は微笑みを浮かべながら口を開く。

「驚かれるのも当然でしょう。黙っていて申し訳ありませんでした」
「あ、いえ!?」
「私は昔冥王様にお世話になりまして、その冥王様が異世界人に興味を持ったと聞いて、是非一目私も会ってみたいと、無理を言って御者をやらせていただいたんですよ」
「そ、そうだったんですか……」
「……あの時は、ミヤマ様の事はごく普通の方だと思いましたが……私の目は曇っていたようですね。図らずも貴方を見下してしまった事、この場を借りて謝罪させていただきます」

 クリス陛下は丁重な言葉遣いで俺に話しかけた後、深々と頭を下げる。
 誠実な方だと思うが、一国の王に頭を下げられてしまった俺としては、何ともバツが悪い。

「あ、頭を上げてください。クリス陛下」
「では、失礼して……ミヤマ様、私の事に敬称は不要です。いや、むしろミヤマ様に敬称を使われていては、私が冥王様に叱られてしまいます」
「で、では、クリスさんと……」
「はい。改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 クリスさんは、皇帝陛下という身分ではあるが、非常に腰が低く礼儀正しい人だ。
 サファイアの様に美しい髪に、エメラルドの様な瞳……正しく王子様と言った感じの、線の細いイケメンだが、全然嫌味な感じは無い。

 クリスさんに促されて椅子に座ると、アリスもごく自然に俺の隣に座る。
 そこでふとクリスさんが、思い出した様にアリスの方を見た。
 そう言えば、あの騒がしいアリスが、王城に来てからはずっと黙ってたような……

「そちらの女性は、ミヤマ様のお連れですね。挨拶が遅れててしまい申し訳……」
「あ、別に挨拶とかいらないです」
「ッ!?」

 穏やかな微笑みを浮かべて話しかけて来たクリスさんに対し、アリスは……普段の彼女からは想像が出来ない様な冷たい声で答えた。
 そのあまりに冷ややかな態度に、クリスさんの後方に控えている騎士達がピクリと眉を動かすのが見えた。

「アリス? 一体、何を……」
「……私が交流を持ちたいと思うのは『交流する事に価値があると思う相手』だけです。なので、皇帝陛下様々と話す事は無いっすね~」
「なっ!?」

 軽い口調で告げられたその言葉を聞き、部屋の中の空気が緊迫する。
 それもその筈だ。今アリスは、自分にとって価値のある相手としか交流しないと告げ、その上でクリスさんと話す事は無いと言った……それはつまり……

「……つまり、貴女にとって、私は……価値の無い人間と、そういう事でしょうか?」
「そうですよ」
「ッ!? 貴様!!」

 言った……完全に言いきった。
 アリスは今、アルクレシア帝国の皇帝に対して、その存在に価値を感じないとハッキリ言ってのけた。
 緊迫した空気の中で、激高して剣に手をかける騎士達を、クリスさんが手で制す。

 クリスさんは怒っている風には見えないが、それでも瞳には驚きの感情が現れている。
 しかし当のアリスは特に気にした様子もなく、とこからともなく取り出した小型のナイフを手遊びの様に動かした後で机の上に置いていた。

「まぁ、価値観なんて人それぞれっすからね~私は、良く頭の中で他人に値を付ける癖があるんですけど……皇帝陛下は、まぁ、おまけして『銅貨一枚』くらいっすかね?」
「……ほぅ、それは随分安値を付けられてしまいましたね」
「無礼者が! 貴様が皇帝陛下の何を知っている!」
「……クリス・ディア・フォン・アルクレシア。前皇帝デュラン・ディア・フォン・アルクレシアの第三子として生まれ、10歳で国内の魔法学校を首席卒業。財務の道に進み当初は財務官を目指していたが、国の行く末を憂い、兄二人を蹴落として王位を継承した。賢帝と呼ばれる程の手腕を発揮し、政治において歴代随一とも呼び声が高い。現在24歳、趣味は乗馬、好きな著書は御旗に唄え……こんなもの、調べれば誰でにも分かる事ですよ」
「ッ!?」

 スラスラとクリスさんについての経歴を語りながら、アリスはもう一本ナイフを取り出して机の上に置く。
 普段とはまるで違うその異様な雰囲気に、俺は勿論クリスさんや……怒っていた騎士さえ言葉を失って茫然としていた。

「全ては国の為、国と民の為なら己がどんな汚名でも被るし、誰にだって頭を下げる。あくまで自分は国をよりよくする為の道具……立派な考えですよね~でも、つまらないんですよね」
「……つまらない?」
「私、自分を捨てるだとか、中身の無い奴に興味は無いんですよ。いや、別に皇帝陛下が悪いとかそういう事じゃないですよ。さっき言った通りご立派だと思いますし、賢帝の名に相応しい才人だと思います。でも、私は貴方に興味が無い……出来の良い人形にしか見えないんすよ」
「ッ!?」
「アリス! いくら何でも言い過ぎだ!」

 冷たく鋭い言葉を受け、クリスさんが茫然とし、俺もつい声を荒げてアリスに向かって叫ぶ。
 なぜアリスが突然こんな事を言い始めたのかは分からないが、明らかにいつもとは様子が違いすぎる。

 しかしアリスは気にした様子もなく、三本目のナイフを机の上に置いてから俺の方を向く。

「カイトさんは、相変わらず優しいですね~私、カイトさんの事は好きですし、出来るだけ言う事は聞いてあげたいんですけど……生憎と、今回ばかりは、そうもいかないっす……ねっ!」
「ッ!?」

 そう告げた後アリスは並べたナイフの柄に手刀を振り下ろし、その衝撃で三本のナイフが宙を舞う。
 そしてそれをアリスが空中で掴んだ……と思った瞬間には、ナイフはアリスの手から消え、壁に二か所、天井に一か所突き刺さる。

 いつ、ナイフを投げたのか、どうやって投げたのかさえ全く分からない早技。
 思わず言葉を失う俺の前で、アリスは冷たい声で告げる。

「友好的に招待しておきながら……『認識阻害魔法で兵を潜ませる様な輩』は、信用ならないんすよ」
「……え?」
「『城門』の所から付いて来てたでしょ? ほら、そこの三人……さっさと出て来て下さい。じゃないと……次は本当に当てますよ?」
「……」

 静かに告げるアリスの言葉……その言葉に従う様に、壁と天井の景色がノイズの様にブレ、全身黒い服に身を包んだ者達が現れた。
 城門からずっと付いて来てた? そうか、だから、アリスは城に入ってからずっと沈黙してたのか……
 でも、何で俺は気付け無かったんだろう? 感応魔法で接近は察知できる筈なのに……

「別にカイトさんが悪い訳じゃないっすよ。連中が来てる服は、外に魔力が漏れるのを遮断する素材ですから、気付けなくっても仕方ないですよ」
「……どうやって、気付いたのですか?」

 存在がばれた黒ずくめの三人は、素早くクリスさんの後ろに移動し一列に並ぶ。
 クリスさんは信じられないと言った表情を浮かべながらアリスに尋ねるが、アリスはそれに答える事は無く細い糸を引っ張る。
 どうやら投げたナイフに結び付けていたみたいで、天井の一本と壁の一本は素早くアリスの手元に戻ったが……壁に刺さったもう一本は、深く刺さってるみたいで戻ってきてなかった。

「あれ? ちょっと、勢い付けすぎましたかね~失敗、失敗」

 引っ張っても抜けない事を察して、アリスは頭をかきながら苦笑し、壁に刺さったナイフの元まで歩いていって、それを抜こうとする。

「あれ? 硬っ!? ぬ、ぬけな……ふぎゃっ!?」
「……」

 どうも想像以上に深く刺さっていた様で、アリスは力いっぱいそれを引っ張り……勢い余って尻餅をついた。
 何と言うか……肝心な所で締まらない奴だ。
 先程までの寒気すら感じる様子とは打って変わって、相変わらず抜けてるアリスを見て溜息を吐いた瞬間、静かな声が聞こえた。

「……今、油断しましたね?」
「「「ッ!?」」」

 尻餅を付いていた筈のアリスの姿が消え、声のした方を振り返ると……アリスはいつの間にか手に細身の剣を握っており、それを黒ずくめの三人の首元に添えていた。

「駄目じゃないっすか、気を抜いちゃ……貴方達、今、死にましたよ?」
「「「……」」」

 いつもより低い声……寒気すら感じる冷たい声で告げたアリスは、チラリを俺の方を見る。

「……本来は滅多にやらないんすけどねぇ~報酬が良くて、気分が乗った時だけですよ。護衛なんて仕事は……」

 冷たい声で剣を握ったまま、アリスはゆっくりとクリスさんや周囲の騎士達に視線を動かしていく。

「まぁ、今回カイトさんには随分稼がせてもらいましたし、サービスって事で……アルクレシア帝国に居る間は、私がカイトさんの護衛をします。って事でちょっと、一言だけ話し合いの前に言っておきたいんですよね」

 そう呟いた後で黒ずくめの方へ向き直るアリス。
 普段はどこか気の抜けた印象の彼女は今、無機質なオペラマスクも相まって……まるで暗殺者の様に見えた。

「……次、カイトさんの周りをちょろちょろしたら……殺しますよ?」
「「「……」」」

 それは恐ろしく自然で違和感の無い台詞だった。
 まるで今まで、いくつもの命を奪って来たかのように、当り前に告げる冷たい言葉……周囲から音が消え、静寂が空間を支配していく。

「な~んてね!」

 冷たい沈黙の中で、アリスは気の抜けた様な声を発し、突き付けていた剣を降ろす。
 そしてどこか……恐らくマジックボックスの中へその剣を消した後、俺の横の席に座り、ゆっくりと腕を組む。

「という訳で……豪華なディナーを所望しま――痛いっ!?」
「……」
「何で殴るんすか、カイトさん!?」
「いや、むしろ俺がツッコミたい……なんだその落差は!?」

 さっきまでのは何だったのかと思う程、一瞬でいつもの調子に戻ったアリスの頭に、つい反射的にゲンコツを叩き込んだ。

「しょうがないじゃないっすか! 私長時間真面目モードになると鳥肌立ちますし、適度な切り替えが必要なんすよ!」
「……長時間って、ほんの数分……」
「いやいや、もう一分以上とか本気でしんどいです。顔の筋肉が滅茶苦茶になりそうですよ。全身かっちこちですよ。という訳で、カイトさん優しくマッサージして下さ――ぎゃんっ!?」
「……」
「え? プレイ? そういう方向のプレイっすか!? いや、まぁ私は様々なシチュエーションに対応出来ますが、あんま痛いのは――もう一発っ!?」

 本当にさっきまでのは何だったのかという程、いやむしろさっきまでの分を取り戻す勢いでふざけ始めたアリスに、続けざまに拳を叩き込む。

 けど、良く考えてみれば、俺はアリスの事をよく知らないのかもしれない。
 馬鹿で、商才が無い雑貨屋の店主だが、色んな事を知っていたり、時折人が変わったかのような鋭い言葉を投げかけてくる事がある。
 修羅場をくぐって来た凄みとでもいうのだろうか……どうにも、俺が今まであってきた人達の中でも、ある意味物凄く異質な気がする。

 拝啓、母さん、父さん――普段とは違うアリスの一面を垣間見る事になったよ。まるで冷たい刃の様な鋭い気配、一体コイツは――何者なんだろう?

















裏の仕事人、アリスの実力が一部垣間見えました。
けど、これだけ実力があるのに……普段快人のゲンコツは避けずに喰らってる……成程、ドMか……
+注意+
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