閑話・感謝のプレゼント
アルクレシア帝国首都にある城の一室。皇帝用の執務室では、アルクレシア帝国皇帝であるクリスがひとり執務を行っていた。
いくつかの書類や報告書を確認し終え、一息ついたタイミングで声が聞こえてきた。
「あっ、終わった?」
「ッ!?」
突然の声にクリスが驚くのも無理はないだろう。この部屋は皇帝であるクリス専用の執務室であり、機密情報も多く扱う関係上、転移阻害などを含めた侵入者に対する対策は世界最高峰と言っていいレベルで厳重に施されている。
そこにクリスが気付かないうちに侵入できる者などそうはいないはずなのだ。
焦った様子で顔を上げたクリスだったが、ソファーに座っている人物を見て息を吐くと共に警戒を解いた。目の前にいる存在であれば、この部屋に気付かれずに来ることなど容易いだろうとそう思ったからだ。
「勝手にお邪魔してるよ~」
「ようこそいらっしゃいました、運命神様。ロクなお出迎えも出来ずに申し訳ない」
「気にしないで、急に来たのはこっちだしね。まぁ、ゆっくり雑談とかする気はないから、手早く本題に入るね」
いつの間にかソファーに座っていたフェイトは、クリスに対して緩い感じに告げつつ、今日ここを尋ねてきた目的を話し始めた。
「カイちゃんから聞いたんだけど、私があの観光地にいったってことを宣伝に使いたいんだよね?」
「……もし、都合が悪かったり、なんらかの条件があるのでしたら言ってくだされば……」
フェイトが快人と共に観光地を利用すること……運命神が訪れた観光地という形で宣伝に使用する旨は、事前に快人を通じて確認を取っており、フェイトからも許可をもらっていた。
気が変わったのだろうかと、少し不安げに尋ねるクリスに対してフェイトは軽く首を横に振る。
「いやいや、それに関しては別にいいんだけどさ……ぶっちゃけ、弱くない?」
「と、いいますと?」
「いや、リスリスはさ国の観光地、引いては国に箔が欲しいわけじゃん」
「リ、リスリス……え、ええ、仰る通りです」
「けどさ、神族総出で作って特別な素材で作られたシンフォニア王国の天空城だとか、私だけじゃなくて六王やシャローヴァナル様まで訪れたハイドラ王国のビーチと比べると、箔って意味じゃ弱いじゃん」
「……それは、その通りですが、贅沢も言えませんので」
たしかにフェイトの言う通り、シンフォニアは除くにしてもハイドラ王国の二番煎じと言われてしまえば、反論の余地はない。
ただ、クリスにしてみれば今回の件は棚からぼたもち……たまたま降って湧いた幸運と認識しているため、あまり高望みし過ぎるべきではないと考えていた。
「今回さ、本当に楽しかったんだよ。本当にいままでで一番最高の思い出ができたんだよ。そんな大満足の結果だったからさ、ちょっとサービスして上げようかと思ってね。祝福して上げれたら簡単だったんだけど、さすがに普通の貴族ならともかく、皇帝となると……アルクレシア帝国を担当する生命神のメンツもあるし、私がかってなことするわけにもいかないから、別のことをしようと思ってね」
「別のこと、ですか?」
「うん。そうだね……半径、5kmぐらいでいいかな? あの観光地から半径五キロの範囲に……私の『加護』あげようかなぁって思ってね」
「運命神様の加護を!?」
フェイトの言葉に、クリスは驚愕と共に思わず席を立った。
加護というのは人に対して行う祝福とは違い、土地……場所に対して行うものだ。アルクレシア帝国は作物が育ちにくい地域ながら、それでもある程度の収穫を確保できているのはアルクレシア帝国の国土に豊穣神による加護がかけられているからである。
加護は祝福と比べれば効果は大きくないが、土地そのものないしそこに住む多数の人に恩恵を与えてくれるものであり、国にとっては極めて重要なものだ。
しかし、基本的に加護というのはそれぞれの国に神殿を構える下級神が行うものであり、上級神以上が行ったという話は聞かない。
最高神であるフェイトが特定の土地に加護を行うというのは、まさに世界初と言っていい事態である。
「まぁ、そんな強い加護はかけないよ。精々訪れた人がしばらく運の巡りがよくなるとか、そんな感じかな……けど、下級神の加護は一定周期で掛けなおさないといけないけど、私の加護は一度かければ永続するからね。宣伝には十分じゃない?」
「そ、それはもう、こちらとしては願っても無いことですが……本当によろしいのですか?」
フェイトは軽く言っているが、これはとてつもない事態である。最高神の加護を得た地というだけでも宣伝効果は凄まじいが、それだけではなく訪れれば運気が上がる明確に効果のあるパワースポットともなれば、高価であっても利用したいという者は後を絶たないだろう。
シンフォニア王国やハイドラ王国に後れを取るアルクレシア帝国にとっては、これ以上ないほどの褒美だった。
「本当に今回は最高だったからね。特別にね。あっ、もちろん生命神には話を通してるから問題ないよ……まぁ、それで、普通に加護してはい終わり~でもよかったんだけど、欲しいでしょ箔? ってことで、天の月30日目の正午から15分だけ時間作って、現地で加護かけてあげるから、それ自体も宣伝したいならお好きにどうぞ~って感じかな、以上! 話し終わり!」
「あ、ありがとうございます!」
伝えたいことは伝え終えたとフェイトは話を切り上げると、空中に浮かべたクッションに乗り転移で去っていった。
フェイトが去ったしばらくの間、深く頭を下げたままでいたクリスは顔を上げてすぐに大急ぎで当日の手配を進め始めた。
シリアス先輩「そういうことなのか? そういうことなのか!? 明らかに上機嫌過ぎるし、最高だったとか言ってるし……あぁぁぁぁぁ、ま、また体が、砂糖に……」
???「大丈夫? ドクター呼ぶ?」
シリアス先輩「マジでやめろください」




