フェイトと旅行⑧
人里離れた貸し切りの高級観光地、アルクレシア帝国は全体的に気温の低い地域が多いこともあって比較的空気が乾燥している地域が多い。
空気が乾燥している。つまりは大気中の水蒸気が少ないことで大気の透過率が高くなるため、星がとても綺麗に見える。冬場などに星が綺麗なのは、それが要因だと……なんかテレビで見たような覚えがある。
まぁ、それはともかくとして、要するにこの観光地で見る星空はとても綺麗だということだ。俺にはシロさんの祝福があるのであまり関係ないが、ここは高級リゾートだけあってテラスには空調用の高級魔法具が設置されており、温度は快適でのんびり天体観測というのにも適している。
まぁ、残念ながら環境が天体観測に適していようと、いくら夜空の星が綺麗だろうと、見る側にそれを楽しむ余裕が無ければ本末転倒である。
「……」
「カイちゃん大丈夫? のぼせちゃった?」
「い、いや、のぼせた訳じゃないので、大丈夫ですよ。ちょっと体は火照ってますが、夜風が気持ちいですし……」
少し心配そうに尋ねてくるフェイトさんに微笑みながら言葉を返す。うん、本当にのぼせたりというわけではない。
ただ、風呂でのフェイトさんがあまりに無防備過ぎて、本当に振り回されっぱなしだったこともあって、ちょっと披露しているだけ……いや、嘘だ。風呂でのことが衝撃過ぎて、油断すると思考がそっちにばっかり傾くので、無理やり冷静になろうとしているせいで若干余裕がないだけだ。
まぁ、星を見ているうちに落ち着くだろう。
「……フェイトさん、なんか飲みますか?」
「あっ、それならこれ持って来たんだよ」
「ワイン? あれ? それって確か……白神祭の記念に作ったって言ってたものでしたっけ?」
フェイトさんが取り出したワインを見て、一瞬シャロ―グランデかなと思ったが、デザインが違った。しかし、そのデザインには見覚えがあり、白神祭の中層で販売していたワインに酷似しているように見えた。
「そうそう、といっても、こっちは改良版だね。来年以降の白神祭に向けて、さらに改良しているところ……なんだけど、これ実は担当してるの私なんだよ」
「え? そうなんですか?」
「うん。今回私は監修だけだったけど、来年以降の特産品に関しては時空神とその部下がインテリアとかそういう関係、生命神と部下が食べ物系、私のところが飲料系を担当することになって、改良してる途中のやつだね」
「へぇ、なるほど、考えてみれば当然ですけど、もう次に備えて準備を始めてるんですね」
勇者祭がある年以外毎年行うことに決まっている白神祭。当然と言えば当然だが、第一回が終わったばかりだが、もう次に向けて準備を進めているらしい。
フェイトさんはワイングラスを取り出して、俺に手渡しそこにワインを注ぎながら苦笑する。
「まぁ、仕事増えたのは面倒なんだけどさ、白神祭はやっぱり神族にとってかなりいい影響があったんだよね~」
「たしかに、俺たちの側からしても普段は知り合う機会のあまりない神族と知り合えたのはよかったですね」
今回で言えば、特に陽菜ちゃんと葵ちゃんかな? スカイさんとガイアさんと知り合えたことは、ふたりにとってとても大きいし、なんとなくそれぞれ相性がよさそうな感じだったから、今後もいい関係を築けそうな気がする。
「まぁ、そういうことで改良中なんだよ。シャロ―グランデには及ばないかもしれないけど、白神祭で売ってたやつよりは美味しくなってると思うよ」
「それは楽しみですね。フェイトさんも、一緒に……」
「そうだね、一緒に飲もうか」
俺の言葉を聞いてフェイトさんが新しいワイングラスを取り出したので、今度は俺がワインの瓶を持ってフェイトさんのグラスに注ぐ。
テラスで満天の星空を見ながらワインをいただく。なんとなく優雅な感じである。
「じゃ、かんぱ~い」
「乾杯……あっ、美味しいですね。あんまり渋くなくて飲みやすいです。俺渋みが強いワインはあんまり得意じゃないので……」
「おっ、高評価だ。じゃあ、この路線で行こうかな~超高級ワインはシャロ―グランデがあるし、飲みやすいワインって方向性で改良していこう」
つまみにチーズなどを取り出しつつ、フェイトさんと他愛のない雑談を交わしながらワインを飲む。
時折星を見たりしつつ、ゆっくりと時間が過ぎていくような……なんとも言えない、幸せなひと時である。
「ねぇ、カイちゃん?」
「なんですか?」
「なんかさ、こういうのいいよね。ゆ~っくり時間が流れてるような、別に特別なことしてるわけじゃないんだけど、なんかいいな~って感じ」
「丁度俺も同じようなことを考えてましたよ」
「あはは、じゃあ、一緒だ」
「ですね」
「こういう小さな嬉しさがあるのも、なんか幸せだね」
「ええ、同感です」
反射的に言葉を返したが、それ以上に柔らかく笑うフェイトさんがすごく綺麗で、夜空の星以上にそちらに目を奪われた。
シリアス先輩「そういえばさ、フェイトとの旅行が終わったら友好都市ヒカリに行く話になるの? シリアスあるかな?」
???「ないでしょうね。ただ、流れ的には、その前に『九人目の恋人』の話が入る予定ですね」
シリアス先輩「……うっそだろ、お前……デートのあとに新恋人編……とか、絶望しかないんだけど……ちなみに誰?」
???「まだ秘密ですね。ただ、コレだけでは分からないとは思いますが、ヒントだけは出しましょう『4』です」
シリアス先輩「滅茶苦茶わかりやすいんだけど!?」




