■外伝第10話「また、どこかで」
それは、何もない場所だった。
色もない。
音もない。
形もない。
時間すら、流れていない。
最初の状態。
すべてが始まる前。
あるいは。
すべてが終わった後。
どちらでも同じ。
区別はない。
そこに、ひとつだけ。
“ある”。
何か。
形はない。
意味もない。
だが。
確実に、ある。
それは、動かない。
動く必要がない。
変わらない。
変わる理由がない。
ただ。
そこにある。
その状態が、続く。
時間はない。
だが。
“続いている”。
その中で。
ほんのわずかに。
変化が起きる。
揺れる。
ほんの少しだけ。
違いが生まれる。
それが。
最初の分岐。
そこから。
何かが始まる。
世界が生まれる。
構造が広がる。
時間が流れる。
すべてが、展開する。
その流れ。
その繰り返し。
何度も。
何度でも。
同じように。
違う形で。
続いていく。
その中で。
ひとつだけ。
変わらないものがある。
最初にあったもの。
それは。
どの世界にもいる。
どの形にもなる。
だが。
本質は変わらない。
ただ。
“そこにある”。
その時。
その存在が、わずかに揺れる。
ほんの少しだけ。
意味を持つ。
そして。
初めて。
“自分を見る”。
それは。
人の形。
名前を持つ存在。
カイル。
その姿。
だが。
それはひとつではない。
無数にある。
別の世界。
別の時間。
別の形。
すべてに。
同じ存在がいる。
少しずつ違う。
だが。
同じ。
その中のひとつが。
今の世界のカイル。
その存在が、立っている。
街の中で。
人の中で。
普通の一人として。
だが。
すべてを知ったまま。
その瞬間。
何もない場所と。
世界が。
繋がる。
ほんの一瞬。
だが。
確実に。
カイルが、空を見上げる。
何もない空。
だが。
そこに。
“何か”を感じる。
理由はない。
説明もできない。
だが。
分かる。
それだけ。
「……またか」
小さく呟く。
その言葉。
それだけで。
すべてが繋がる。
何度も繰り返されている。
同じようで。
違う流れ。
終わったはずのもの。
だが。
終わっていない。
ただ。
形を変えて続いている。
グレンが後ろから声をかける。
「おい、何してんだよ」
振り返る。
いつもの顔。
いつもの声。
変わらない。
レイヴンもいる。
ナナも。
セラも。
全員が、そこにいる。
何も知らない顔で。
だが。
確実に。
何かを共有している。
「……いや」
カイルは答える。
「なんでもない」
その言葉。
それでいい。
それが正しい。
セラが笑う。
「いいね」
その声が、少しだけ重なる。
ほんの一瞬。
誰も気づかない。
だが。
確実に。
何かが残っている。
カイルは、少しだけ空を見る。
何もない。
だが。
確実に。
“向こう側”がある。
何もない場所。
最初の状態。
そこに。
“何か”がある。
それと。
今の自分が。
繋がっている。
その事実。
だが。
それ以上は、考えない。
必要がない。
成立しているから。
それでいい。
「行くぞ」
カイルが言う。
グレンが頷く。
「おう」
レイヴンが歩き出す。
ナナが静かに続く。
セラが笑う。
「いいね」
全員が動く。
いつも通り。
変わらない日常。
だが。
その裏で。
ほんのわずかに。
何かが揺れている。
見えない。
だが。
確実に。
それは。
また始まる。
どこかで。
誰かが。
同じように。
少し違う形で。
そして。
その中心に。
必ずいる。
最初にあったもの。
それが。
また。
世界を“整える”。
何度でも。
繰り返し。
その流れは。
止まらない。
終わらない。
ただ。
続いていく。
静かに。




