■第62話「観測の外」
夜だった。
だが。
それは“いつもの夜”ではない。
星はある。
月もある。
だが。
どこか、遠い。
光が届いていないような、薄い夜。
「……なあ」
グレンが空を見上げる。
「星、変じゃねえか?」
レイヴンも見上げる。
確かに、星はある。
だが。
“数が合わない”。
さっきまであった位置に、ない。
ないはずの場所に、ある。
「……増えてるな」
低く言う。
ナナが答える。
「違う」
「見えてるだけ」
「は?」
「今まで見えてなかったもの」
一拍。
「見えてる」
その言葉で、空気が変わる。
セラが笑う。
「いいね」
だが、その声は少しだけ震えている。
カイルは、空を見ていた。
何も言わない。
ただ、見ている。
(……なるほど)
理解する。
これは。
“開いている”。
その時だった。
星の一つが、動く。
ゆっくりと。
だが、確実に。
「……おい」
グレンが指をさす。
「あれ、動いてるぞ」
その星が、近づく。
距離の概念がない。
だが。
確実に“近い”。
ナナが言う。
「……違う」
「星じゃない」
一拍。
「観測点」
その言葉が、静かに落ちる。
星が、形を変える。
光が歪む。
そして。
“目”になる。
巨大な。
空に浮かぶ。
見ている。
完全に。
グレンが後ずさる。
「……おい」
「なんだよあれ」
レイヴンも、言葉を失う。
セラが笑う。
だが、声が出ない。
ナナが言う。
「……上位観測者」
その瞬間。
全員の体が、重くなる。
動きが、遅れる。
思考が、鈍る。
「……っ」
グレンが膝をつく。
「やばい……これ……」
レイヴンも歯を食いしばる。
「……圧が違う」
ナナが言う。
「観測強度が高すぎる」
一拍。
「存在が固定される」
つまり。
“見られるだけで、決まる”。
カイルは、立っている。
動かない。
だが。
空間が、歪む。
観測が、揺れる。
巨大な目が、わずかに動く。
「……不安定」
声が、落ちる。
直接、頭に響く。
「異端」
その言葉で、空間が震える。
カイルは、一歩踏み出す。
重い。
だが。
進む。
観測が、ズレる。
目が、揺れる。
「……観測不能」
その声に、初めて明確な変化がある。
グレンが顔を上げる。
「……今、揺れたよな」
レイヴンが笑う。
「やるじゃねえか」
ナナが言う。
「干渉してる」
セラが小さく笑う。
「いいね」
カイルは止まらない。
もう一歩。
踏み出す。
その瞬間。
星が、もう一つ動く。
さらにもう一つ。
空に、複数の“目”が現れる。
「……おい」
グレンが呟く。
「増えてるぞ」
ナナが言う。
「呼ばれてる」
「何がだ」
「上」
その言葉で、全員が理解する。
これは、一つじゃない。
複数。
しかも。
さらに上がいる。
レイヴンが小さく笑う。
「……いいな」
「完全に、相手にされてる」
セラが楽しそうに笑う。
「いいね」
だが、その笑いは少しだけ硬い。
巨大な目が、同時に言う。
「……記録開始」
「異端」
「対象昇格」
一拍。
「上位干渉許可」
その言葉で。
空が、完全に裂ける。
今までとは違う。
もっと深く。
もっと広く。
その“向こう側”が、見える。
そこには。
無数の“何か”がいる。
形はない。
だが。
確実に。
“こちらを見ている”。
グレンが声を失う。
「……なんだよ……これ……」
ナナが言う。
「……外」
その一言で、全てが決まる。
ここは世界の内側。
そして。
あれは、外側。
カイルは、その“外”を見る。
静かに。
だが。
確実に。
(……なるほど)
理解する。
世界は一つじゃない。
そして。
自分たちは、そこに干渉している。
目が、言う。
「……異常」
一拍。
「危険」
その言葉で、空間が震える。
だが。
カイルは、動く。
一歩。
その瞬間。
観測が、完全にズレる。
目が、歪む。
空が、揺れる。
ナナが言う。
「……通じてない」
レイヴンが笑う。
「やっぱりな」
セラが楽しそうに笑う。
「いいね」
グレンが呟く。
「……もうわけわかんねえよ」
だが。
止まらない。
世界も。
外も。
そして。
カイルも。




