表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
規格外の実力を持つ俺、学園で唯一の最低ランク〜誰にも理解されないまま無双してしまう〜  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/90

■第34話「管理という名の選択」

 ギルドの空気は、昨日までとはまるで違っていた。


 表面的には何も変わらない。依頼の掲示板には紙が貼られ、受付ではいつものように手続きが行われている。冒険者たちもそれぞれの目的で動いている。


 だが、そのすべてがどこか遠い。


 視線が集まる場所が、はっきりしているからだ。


「……なあ」


 グレンが小さく言う。


「これ、完全に浮いてるよな」


 カイルたちは、ギルドの奥の席にいた。


 いつもと同じ場所。


 だが、周囲との距離感が明らかに違う。


「そうだな」


 カイルは変わらない調子で答える。


「軽いなあ……」


 グレンはため息をついた。


 セラは楽しそうに周囲を見ている。


「いいね」


「どこがだよ」


「分かりやすい」


「何が」


「中心」


 その言葉に、グレンは言い返せなかった。


 ナナは静かに周囲を見ている。


「……来る」


 短く言う。


 その瞬間、ギルドの空気がわずかに変わる。


 入口ではない。


 奥。


 関係者しか使わない通路。


 そこから、数人が現れる。


 動きが違う。


 一般の冒険者ではない。


 そして、その中心にいる男。


 年齢は中年に差し掛かる頃だろうか。


 落ち着いた服装。


 だが、その一挙手一投足に無駄がない。


 場を支配する側の人間。


 レイヴンが小さく呟く。


「……上か」


「何のだよ」


 グレンが聞く。


「ギルドの」


 それで十分だった。


 男はゆっくりと近づいてくる。


 足音は大きくない。


 だが、不思議と耳に残る。


 周囲の冒険者たちが自然と距離を取る。


 命令されたわけではない。


 だが、そうしなければいけないと分かっている。


 男はカイルたちの前で止まった。


「初めて会うな」


 静かな声だった。


 だが、よく通る。


「ギルド本部所属、管理官の一人だ」


 名前は名乗らない。


 必要がないからだ。


 それだけで通じる立場。


 グレンが緊張で固まる。


「……管理官って」


 レイヴンは少しだけ顔をしかめた。


「珍しいな、こんなとこまで来るのは」


「珍しい状況だからな」


 男はあっさり答える。


 視線はすでにカイルに向いている。


「カイル」


 呼び捨てだった。


 だが、失礼ではない。


 ただの確認。


「そうだ」


 カイルは答える。


 男は軽く頷いた。


「話がある」


「何の」


「管理についてだ」


 その一言で、空気が変わる。


 グレンが思わず声を上げる。


「管理って……」


 男はそちらを見る。


 ほんの一瞬だけ。


 それだけで、グレンは言葉を失った。


 圧がある。


 だが、押しつけるものではない。


 “理解させる”圧だ。


「順を追って説明しよう」


 男は再びカイルを見る。


「まず前提として」


 指を一本立てる。


「お前は、すでに個人の範囲を超えている」


 王国と同じ結論。


 だが、言い方が違う。


「力の規模ではない」


「影響の話だ」


 続ける。


「お前が動けば、周囲が動く」


「それだけで、秩序に影響が出る」


 それは事実だった。


 今回の一件で、それは証明されている。


「だから、管理が必要になる」


 静かに言う。


 その言葉には、感情がない。


 ただの機能としての発言。


「王国と同じだな」


 カイルが言う。


 男はわずかに首を振った。


「似ているが違う」


「どう違う」


「向こうは囲う」


「こちらは調整する」


 その差は微妙で、だが大きい。


「具体的には?」


「行動の制限と、情報の共有」


 シンプルな内容。


 だが、それは縛りでもある。


 グレンが顔をしかめる。


「それって自由なくなるやつじゃねえか」


「完全にはな」


 男は否定しない。


「だが、その代わりに守る」


「何からだ」


 カイルが聞く。


「他の勢力からだ」


 即答だった。


 王国。


 裏組織。


 回収屋。


 すべてが対象になる。


「お前一人では対処しきれない部分を、こちらが引き受ける」


 それは、合理的な提案だった。


 レイヴンが口を開く。


「その代わりに、縛るってわけか」


「そうだ」


 男は否定しない。


 むしろ、それが当然だと言わんばかりだ。


「ギルドは中立じゃなかったのかよ」


 グレンが言う。


 男は少しだけ視線を動かす。


「中立だ」


 静かに言う。


「だからこそだ」


「どこにも属さないものが暴れることは、許容できない」


 その言葉は冷たかった。


 だが、筋は通っている。


 ナナが小さく言う。


「安定を優先してる」


「そうだ」


 男は頷く。


「それが役割だ」


 セラが笑う。


「いいね」


 男は一瞬だけそちらを見る。


 何も言わない。


 だが、評価しているのが分かる。


 カイルは少し考える。


 王国。


 裏。


 そしてギルド。


 それぞれ違う。


 だが、共通している部分もある。


「断ったら?」


 カイルが聞く。


 男は即答した。


「関与は続ける」


 グレンが顔をしかめる。


「それ断ってないじゃねえか」


「違う」


 男は静かに言う。


「強制はしない」


「だが、放置もしない」


 つまり。


 距離を保ちながら、関わり続ける。


 それがギルドのやり方。


「一番面倒だな」


 カイルが言う。


 男はわずかに口元を緩めた。


「そうかもしれない」


 否定しない。


「だが、一番安定する」


 それが結論だった。


 しばらく沈黙が続く。


 グレンは考え込んでいる。


 レイヴンは腕を組んでいる。


 セラは楽しそうにしている。


 ナナは静かに見ている。


 カイルは空を見上げる。


 天井だが、そんな気分だった。


(……なるほど)


 全部、違う。


 だが、全部正しい。


 選ばなければならない。


 だが。


「今はいい」


 カイルが言う。


 男は目を細める。


「保留か」


「そうだ」


 短い答え。


 男は一瞬だけ考えた。


 そして頷く。


「構わない」


「だが」


 少しだけ声を落とす。


「時間は有限だ」


 それは共通している。


 どの勢力も同じことを言う。


 男は踵を返す。


 数歩進んで、止まる。


「一つだけ」


 振り返らずに言う。


「お前が選ばなければ」


「状況が選ぶ」


 それだけ言って、去っていった。


 空気が少しだけ軽くなる。


 グレンが深く息を吐く。


「……無理だろこれ」


「何がだ」


「全部だよ!」


 レイヴンが笑う。


「楽しくなってきたな」


「どこがだよ」


 セラは満足そうに笑う。


「いいね」


 ナナが静かに言う。


「三つ」


「何がだ」


「勢力」


 王国。


 裏。


 ギルド。


「まだ増える」


 その言葉に、グレンは頭を抱えた。


 カイルは何も言わない。


 ただ、少しだけ考えていた。


(……面倒だな)


 だが。


 もう止まらない。


 世界は、完全に動き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ