第8話 アメリアの決意
エミリーに大見得を切ったはいいが、アメリアはどうしたものかと馬車に乗りながら策を考えていた。
――まずは、お父様に相談してみましょうか。
そう決めて、フィリップス邸に戻り、出迎えた執事のピーターに声をかけた。
「急用なの。お父様とお話がしたいわ」
ピーターは一礼して、ロバートのもとへと確認に向かった。
アメリアは一度エマと共に部屋に戻ると、すぐにピーターがやってきた。
「旦那様が執務室でお待ちです」
アメリアはピーターと共にロバートの執務室へと向かった。部屋に入ると応接のソファーに座ったロバートが出迎えた。
「急用となんだ? アメリア」
アメリアはロバートの正面に座り、部屋のドアが閉まっていることを確認してから話し出した。
「エミリー嬢にお会いしてきました」
それにロバートは眉間に皺を寄せた。
「会えたのか? どのようなご様子だった?」
「……とても衰弱されていて、ジュリアン殿下に怯えていらっしゃいました。ジュリアン殿下の一方的な好意のようです」
それにロバートは怪訝そうにした。
「一方的な好意……。それでずっとジョーンズ男爵家は沈黙を続けていたのか」
アメリアはうなずき、困ったような表情を見せた。
「私はジュリアン殿下の王の素質について疑念を抱いています」
「……同意だ。アメリアとの婚約を破棄した頃から、あの方のすることには違和感があった。しかし、次の王位について、第二王子はよい噂を聞かないし、第三王子に至ってはまだ八歳。幼すぎる」
アメリアはそれを聞いて、ふと第二王子の噂を思い出した。たしか彼は王都で遊び歩いているという噂だ。それにアメリアはルイスを思い出した。
「第二王子をお父様がよく思われていないのは、王都で遊び歩いている噂が原因でしょうか」
ロバートはうなずいた。
「そうだな。いくら側室の子で、王位を継がない身の上だとしても、王室の一員として他にやるべきことがあるだろう」
「ルイは以前、言っていました。よく街に顔を出し、領民の声を聞いていると。領民の声は大事だと言っていました。もし、第二王子も同じお考えなら……」
ロバートはあごに手をやり、ソファーにもたれた。
「……たしか下町の下水の整備を提案したのは、第二王子だと聞いたことがある。疫病が流行った時期だ」
考え込んだロバートをアメリアは見つめながら慎重に言った。
「もし、第二王子を王太子にできれば、ジュリアン殿下から私もエミリー嬢も解放されるのでは……」
ロバートはそれに顔をしかめた。
「その考えは危険すぎるぞ、アメリア。下手を打てば、反逆罪に問われてもおかしくない」
アメリアはロバートにすがるように言った。
「しかし、お父様だって、ジュリアン殿下に疑念を抱いていらっしゃる。王室が私にしたこと、すべてはフィリップス公爵家を軽んじる行為ではありませんか。――私はルイのもとに戻りたい……」
アメリアはあふれた涙を拭った。それを見ていたロバートはうなずいた。
「アメリアの気持ちはわかる。しかし、今のお前は、ジュリアン殿下の婚約者で、王城にいるわけだ。もし、フィリップス公爵家が第二王子を支持するようになれば、お前の立場が心配だ」
「私は大丈夫です。ジュリアン殿下の婚約者候補が他にいない今、私に対して危害を加えることはないでしょう。それに、今回の件は、他家から見てもフィリップス公爵家がジュリアン殿下から離れるきっかけとなってもおかしくはないと思いますが、いかがでしょうか?」
ロバートはブロンドの髪をかき上げた。深く悩んでいるようで、決めかねている様子が見て取れた。アメリアはもう一押しした。
「私は王城に戻り、第二王子と接触できないか検討してみましょう」
ロバートは深いため息をつき、娘の決意にうなずいた。
「わかった。くれぐれもジュリアン殿下に悟られないように」
アメリアはうなずき、部屋を退出した。
自室に戻るとエマが笑顔で出迎えた。アメリアは椅子に座り、エマに一通り話すと、エマは黙ったまま考え込んでいた。
「……この件、わたしにお任せいただけませんか?」
それにアメリアは隣に立つエマを見上げた。
「なにか伝手があるの?」
「お嬢様が王妃教育に勤しんでいる間、わたしは王城での人脈作りに励んでおりました」
アメリアは心配そうな顔でエマを見つめた。
「ジュリアン殿下に悟られぬようにできる?」
「お任せください、お嬢様」
エマはにっこりと微笑み、うなずいた。
そうして、アメリアとエマは王城へと戻っていた。
王城に戻ってから数日後。
この日も三時のお茶をジュリアンと過ごさなくてはならないアメリアは鬱々としていた。少しでも気分を晴らそうと、本を読んでいると、エマが部屋に戻ってきた。真剣な表情で、アメリアのそばに寄り、控えめな声で言った。
「第二王子と接触できる機会を設けました」
アメリアはエマを見上げ、微笑んだ。
「早かったわね、エマ。詳細を話してちょうだい」
それにエマは少しだけ困った表情をした。
「それが、王都のとある店での接触を打診されています」
アメリアの表情が曇った。
――たしかに王城で第二王子と話すのは危険だけれど……。
「問題は、私たちがどうやって街に出るかよね……」
エマはうなずいた。
「ご実家に帰る口実は、先日、使ってしまいましたし、お嬢様と私だけで街に行くというのはジュリアン殿下がお許しになるかどうか……」
「護衛をつけて行けと言われそうね……」
どうしたものかと思案していると、アメリアはエマの服に目をつけた。
「……侍女に扮して、王城を抜け出せないかしら?」
それにエマは首を横に振った。
「危険すぎます。ばれたらどうするんですか!」
「そのときは、街に遊びに行きたかったとかはぐらかすわ」
エマはそれでもアメリアの腕を掴んで首を横に振った。アメリアはエマの手に自身の手を重ねた。
「エマ、危ない橋だけど、せっかく第二王子と話せる機会なのよ。捨て置けないわ」
エマは困惑した顔をしていたが、覚悟を決めてうなずいた。
「二日後の十時にお店で待ち合わせです。十二時過ぎには昼食を運んでくるメイドが部屋に来ます。それまでには必ず帰らなければなりません」
アメリアは神妙にうなずいた。




