第四話 帝国戦決着 & エピローグ
「くっ……一体何が起こった!? な、なんだこれは……」
徐々に視界が戻ってくると、皇帝は自分の身体に起こった異変に愕然とする。
特注の鎧はサイズが合わず前が見えないし、何よりも重くてまともに動けない。
周りを見渡せば、帝国軍も皆同じように動けなくなっている。
一方でアラバスタ軍は――――
「皇帝を確保しろ!! 抵抗するなら容赦はするな! 大人しく投降するなら殺す必要はない」
か弱い女性――――の姿はどこにもなく、
筋骨隆々、屈強な三万の男たちが一斉に身動きの取れない帝国軍に襲い掛かる。
最前線にいた皇帝は抵抗する間も無くあっさりと捕らえられ、ろくに身動きが出来ず、逃げ出すことも出来ない帝国軍は大混乱の中、戦うこともなく降伏した。
「ふふ、貴方が噂の皇帝陛下ですわね? お可愛いこと」
聖女の魔法は単に性別を変えるだけではない。屈強なものほど、小さくか弱く、その反対に、か弱きものほど、屈強に変わるのだ。
それゆえ、屈強な帝国軍は、最弱のロリ集団となり、その逆にアラバスタ軍は、屈強な戦士集団へと変貌した。
アラバスタが正規軍を持たないのは、聖女がある限り必要がないだけのことなのだ、と皇帝は今更ながらに理解する。
「相手が悪かったな……すべては俺一人の責任だ。殺せ」
実質的な被害はほとんど出なかったこと。また皇帝が処刑されたこともあり、帝国の侵略は不問とされ、聖女の直轄地、聖国となることで国体は維持されることとなった。
「セイラさま、ラインハルトさま、ご婚約おめでとうございます!」
後日、正式に婚約が発表された二人に観衆から祝福と喜びの雨が降り注ぐ。
二人は聖都を埋め尽くさんばかりの人々の前で口づけを交わし、歓声の中幸せいっぱいの笑顔でパレードを行った。
「セイラさま、私だけこんなに幸せになって良いのでしょうか?」
パレードや一連の行事が終わり、私室に戻って来ると、ラインハルトは、不安そうにそうつぶやく。
セイラは意外な言葉を聞いたというように目を丸くすると、そっとラインハルトの耳元で囁く。
「それは違いますよラインハルト。貴方だけじゃない、私だってとっても幸せなんですからね。そして私たちを祝福してくれた人々だってきっと……ね」
そんなセイラをたまらず抱きしめるラインハルト。二人はしばし見つめ合うとどちらともなく唇を重ね合うのであった。
◇◇◇
「……なぜ俺を殺さなかった?」
「え~? だって皇帝ちゃん思ってたより悪い人じゃなかったし、何より可愛いから」
「可愛い言うなっ!!」
公には処刑されたとしている皇帝だったが、実はセイラのメイドに転身していた。
セイラの言う通り、彼が殺した先王と王太子は、悪逆非道の存在であり、その証拠に彼の行動は、国民から熱狂的に支持されていたのも事実。それもあって、混乱なく国内をすばやくまとめることが出来たのだ。
大臣たちのクーデターに関しても、暴走したのは彼らの独断であって、皇帝の命令はあくまで聖女の身柄保護が目的だったに過ぎない。
ちなみに、その大臣たちだが、女性なら死んでも行きたくない場所で死なない程度に働かされている。
「ねえ、ラインハルト、皇帝ちゃんに名前つけてあげてよ。長いし」
ストームブレイカーという本名は長いし、そもそも皇帝は死んだ事になっているので使えない。そしてなにより可愛くない。
「ええ……私が考えるのですか?」
セイラの無茶ぶりに頭を抱えるラインハルト。腐っても大国の皇帝なのだ。生真面目な彼には荷が重すぎる。
「うん、だって私が考えた名前、嫌だって言うから……」
そういって頬をふくらませるセイラ。
ちなみに彼女が考えた名前はストーカー。アラバスタでは一般的な名前だが、帝国では非常に不名誉な意味を持つ名前なので全力で拒否された。
「うーん、レイカ……なんてどうです? 東の民を思わせる黒髪ですし」
皇帝は黒髪が特徴である東の民の血を引く一族なので、違和感のない名前ではないかとラインハルトは説明する。
「ふん……誰がそんな女みたいな名前」
ラインハルトが考えた名前は案外悪くないと内心思った皇帝だったが、それを認めることはプライドが許さない。
「うん、良いね、レイカ。じゃあ、二択で。ストーカーとレイカ、嫌がっても勝手に呼ぶから早く決めてね」
「……レイカで」
一生変態犯罪者呼ばわりされるくらいなら、プライドなど安いものだ、と秒で折れる皇帝。
その後、レイカはセイラのメイドをこなしつつも、内政や外交の舞台でその手腕を存分に発揮、中原の平和と発展に大きく貢献することになる。
そして――――
「のうセイラ。いつになったら元に戻してくれるんじゃ?」
「そうですよ。この姿では相手に侮られてしまいます」
セイラに訴えてきたのは、アラバスタの国王と宰相。二人はセイラによって美少女にされていた。
「ちゃんと反省するまでです。あれほど私が反対したのに、あの男を大臣にしたんですからね」
「そ、そんなああああ!?」
二人は悲鳴を上げる。
「セイラさま? なぜ私まで……」
セイラの隣では、女性になったラインハルト、ラナが困惑している。
「だって、女の子になったラインハルトってとっても可愛いんですもの」
結婚しても苦労が絶えそうもないラインハルトであったが、その生涯は幸せそのものであったと伝えられている。
二人の治世は後世にも残るほど平和なものであり、二人の間に生まれた娘、そして孫娘もまた聖女としてこの国を支えることになるが、それはまた別のお話で。
おしまい。




