十七話【学校一の才女】
「あ、あの……」
「─────」
目の前に担任が唸りながら、俺らに近づいてきた。
俺と学はただ、その場に気まずく座っている。
「─────あの、先生。金曜のことは本当に……すいません」
「─────あのなぁ、弥。教頭先生がかなりお怒りだったぞ、お前に突き飛ばされたとかなんだとか」
それは、多分……俺が暴れて職員室に入った時の話だろう。
そう推測する。なにせ、無責任だけど、やらかした自分がこの件についてあまり鮮明に覚えてはいないのだ。
さぁ、学よ。共に怒られようじゃあないか。
「ああーーそれと、学。お前は珍しく遅刻だな……。まぁ、話はお前の両親から聞いているから問題ない。席に戻っていいぞ」
「分かりました」
だが、隣で床に正座していた学は一瞬で、担任に見逃された。
────独りになる。
「じゃ、すまんな学。そういうことだ! 俺には使命が残っているからな、アーハッハッハッハッ!!!!」
「─────」
学は一瞬にして許され、気持ちが良かったのか軽快に俺へとバイバイと笑って教室から去って行った。
俺は静かに、独りで、右こぶしに力を込めて、暴走を抑えている。
こんな事態になったのも、全ては俺のせい。
つまり、自業自得なのだ。
だから、逃げるとか言い訳とかはしない。
だから、本当にあの時の俺はどうかしていたと。
あの時の本当の心情を先生に伝えよう。
それが、俺に許された唯一の選択肢だ。
「すいません、先生。あの時の俺は、母さん……、優子先生がどこかに行ってしまったという話を聞いて─────どうかしていました。多分、焦っていたんだと思います」
「……」
「すいませんでした。……教頭先生にも、謝りに行きます」
と、そんな事を言っていると。
─────見当違いだよ、と言うような表情で担任が咳払いをかます。
「いいやだな、弥。その事については、今さっき最終確認として秋葉さんと話していたところだ……」
「え、は? 秋葉……さん?」
誰だソイツ、と思った後に顔を上げて気が付く。
顔を上げれば、先程まで担任が話していた女生徒と目が合った。
その女生徒の制服についていたバッジは一個上、二年生のもの。
そして、秋葉。その語句から、記憶を巡らせて気が付いたのだ。
そこに立っていた彼女が。
勉学、運動に長け。誰にでも優しく接する。
─────学校一の才女にして、学校一の美少女。
そして、この秋葉高理事の娘。
秋葉澪だということに。
「どうも、秋葉澪と申します。……金曜の出来事、柳沢先生から聞きました」
「え? あ、ああ。……そうですか」
秋葉澪は自身のストレートの黒髪を靡かせながら俺の方を向いて一礼し、話しかけてきた。話を聞きながら、確か彼女は、金曜の朝に俺の事を心配してくれたな、なんて事を思い返す。その黒の瞳はとても眩しい。
因みに柳沢というのは、うちの担任の名だ。
「それで、です。金曜の出来事については、私の父と。私からの了解で不問にさせていただきます」
「そ、それはありがたいです。……でも、何故そんな事を?」
いきなり、そんな事を告げられる。
「いいえ、ただ。……ある事情があっての事です」
「ある……事情? それって、一体どんな?」
「……悪いですが、それは話せない事です。機密情報、とでも言いましょうか」
「は、はぁ…………」
そうらしい。
俺が犯した金曜の罪を、不問にしてくれる。
……というのは、正直ありがたいお話だ。
だけど、理由が知りたい。
そう思って、俺は聞いたが、教えてはくれなかった─────。
彼女の表情を伺えば、険しいそのお姿がお目にかかる。
ああ、これは絶対に喋ってくれないやつだ。
……内心、そう確信する。
多分、彼女は口が堅いタイプの人間なのだろう。
それから流れた気まずい空気を、一瞬の苦笑いで通り抜けて。
俺は一礼し、では失礼します、とだけ告げて去ろうとした。
だがしかし─────。
「志摩弥。ちょっと待ってください」
彼女は、止めてきた。
既視感を覚える……。ああ、金曜の朝も止まれと言って来たような気がする。
だが先日の様に優しい声色ではなく、非常に冷たくて怖い。
その険しい声からは、畏怖すら感じるのだ。
まるで、別人の様な雰囲気。
「─────あの、なんでしょうか……」
俺は無意識に。静かに、彼女の気に触れないように声を出して返答した。
すると、彼女はただただ冷酷な眼差しでコチラを一瞥する。
ただただ、怖い。
何を考えているのか、分からない。
誰に対しても優しいというのは、今の彼女とはあまりにも大きくイメージがかけ離れていた。
彼女の”優しさ”の面影など、一ミリも見えやしないのだ。
「─────貴方、腹部をケガしていますが。……何かあったのでしょうか?」
彼女は、質問を質問で返してきた。
ぐぬぬ、中々やりおる。
そんな戯言を考えて、その後に返答。
……悪魔にやられました! なんて言えるはずもなく……。
俺は噓をついて、苦笑いをかます。
「いや、ぁ。あはは、ちょっと柔道とかの練習をしてたら……当たり所が悪くて」
「─────そう、ですか」
「ははは、そうなんですよ」
頭を掻いて、再び苦笑いした。
ああ、正直噓なんてつきたくないから辛い。
だけど、言ってもどうせ信じてもらえないし。
自分が馬鹿だとか思われるかもしれない。……ま、そんなのは建前で。
本音は、そんな事話して彼女が悪魔の事件に巻き込まれらどうするんだ─────っていう話である。
「それにしても酷いケガ。……私の家では専属の医者を雇っているので、診察してもらいましょうか?」
「え? いやいや、そんな大袈裟な。それほどのケガじゃないです、 ほら─────こんな、も、……ん」
わざとらしく笑いながら、俺は制服の上を開いて包帯ぐるぐる巻きの腹部を見せつけようとした。
お金持ち家系である彼女の家の、専属の医者に診察してもらうとか。
冗談じゃない。それだと俺が迷惑をかけてしまうだろうし、なにより気まずい。
─────だから、そんな大したケガじゃあないと証明しようとしたのに。
何故か、腹部は、アカク、濡れていた。
「……え?」
ぬちゃり。そんな粘着性の音と共に、ナニカが床に零れた。
視界が歪曲する。
立ちくらみが唐突にオレを襲った。
─────腹部がひんやりと、冷気を持つ。
「貴方……! やはり、それはかなりのケガじゃないですか!」
彼女の怒号が聞こえてきた。
本当の事を隠した事に対して怒っているのか。
それとも心配してくれて怒っているのか。
それとも、また別の理由で怒っているのか。
─────それは、不明。
「なんだ、これ……」
零れ落ちる液体が、自身の腹部から垂れている事に気がつく。
それは、真紅の液体。
それは、鉄血臭の液体。
それは、ヒドク冷たい液体。
─────それは、紛れもなく、己の血であった。
「あ……?」
それに気が付く頃には、既に己で立っている事も出来ずに。
その場で倒れ込む様に、膝をつく。
「柳沢先生……彼を私の─────ます、だから、早く手配お願いします」
「……あ、ああ。分かった、俺が呼んでこよう」
「え? ひ、ヒトが倒れてる⁉」
「おい大丈夫か弥よ……って。な、そのケガ。やばいじゃないか。ソレ、ちょっとしたケガなんてレベルじゃないな。校門での話は強がりだったという訳か……」
様々な声が、鼓膜内を飛び交う。
視界は既に薄暗く。
意識も、朦朧としている状態。
─────ダメ、だ。
「─────」
腹部が冷たくなり、そしてそれが全身へと伝播する。
そんな不思議な幻痛を錯覚しながら、俺の意識はぷつりと途切れるのだった。
◇◇◇
「─────」
声が出せない。体が、振動している。
否。これは俺の体の振動ではなく。
他のナニカが振動している。
「─────あ、起きましたか志摩弥……? 安静にしておいて下さい。貴方のその容態は、かなり深刻な状態ですので」
「─────」
秋葉澪。突然、ソイツに話しかけられた。
全身が痛い。……そして、動かない。
どこだろうか、ここは?
「ここは、柳沢先生から手配してもらった私の執事が運転する車の中です。ご安心ください、安全な場所ですよ」
「─────」
「取り敢えず、貴方は動こうとしないで。安静にしておいて下さい。あともう少しで、私の屋敷に到着しますので」
どうやら、ここは秋葉家の車の中らしい。
これから秋葉澪、彼女の屋敷に行くって……?
おいおい、そりゃ参ったな。
そんな事をぼんやりと思う。
だけど、体は不自由なようで、全く動かない。
─────そうして、時は流れ。
俺は秋葉家の屋敷へと辿り着いた。
虚ろな体感のまま、俺は複数人に運ばれて、大きな大きな屋敷の中へと入っていく。
◇◇◇
気が付けば、俺は見知らぬベットに横たわっていた。
……何故だろう。
過去を想起しながら思い出す。
「─────ん、どこだ。ここ」
ベットから起き上がり、辺りを見渡した。
都内の超高級ホテルを思わす、見た感じにお高そうな洋式の家具が様々点在しており。天井の明かりはシャンデリア。
フローリングの床には埃一つすら見当たらない。
全てが最上級の豪華仕立て。
……それが、この部屋の光景だった。
「は、はぁ?」
思わず言葉が詰まり、そんな事を口にする。
意味が分からない─────と思う矢先、記憶が蘇ってきた。
ああ、そうだ。と理解する。
そうだ。確か俺は、学校で腹部のキズがまた広がっちまって……。
学校で倒れて、秋葉澪。彼女の家に連れてこられたんだっけか。
専属の医者に診てもらうとか、なんだとか。
─────というか、これじゃ学校で授業が受けれないじゃないか。
ちとばかし、後悔する。
ま、あんな所で倒れたのも無力だった自分の責任だ。
その罪は、ちゃんと受けるべきだろうな。
それにしても腹部の傷がヒリヒリする。
痛い。─────が、前よりは幾分マシであった。
その事実を確認して、ホッと安堵の声を漏らす。
その時。
「傷、大分広がっていたようですよ。私の家の医者に診てもって、取り敢えず治療したのでそれ以上は広がらないはずです」
「そうなのか。……これ以上、酷くならないってなら安心だな─────って、先輩⁉」
俺の横には、秋葉澪がすらりと立っていた。
いつからいたのか。
今か、それとも最初からか、それとも俺が目覚めた時か。
それは分からない。
だけどただ俺は驚いて、腰を抜かして尻餅をついた。
「ぐえっ」
「それにしてもです志摩弥、その傷は……本当に、柔道で負ったケガなのですか? 私には、到底信じられない」
「え? いや、これは本当だよ先輩。……本当に」
彼女は座り込んだ俺を冷酷な眼差しで見つめながら、そんなコトを聞いてくるもんだから、少し冷や汗が出てくる。
俺はそれを隠しながら、その設定を貫き通す。
「本当ですか? ま、今は特に咎めませんが─────」
どうやら、見逃してくれたらしい。
ありがたい、と思う。
「ですが、最近の或間町は酷く物騒ですので。十分にお気を付けて下さい、自分の命というのは、世界に一つしかないものなので」
「うん、それぐらいは承知してるつもりだよ先輩」
「……成るほど、確かに貴方は─────馬鹿ですね」
「え、今なんて?」
「いえ、なんでもありません」
そう言うと彼女は俺から目を逸らして、部屋に備え付けられた窓を見た。
外はもう黄昏一色に染まっている。
もう夕方なのだ。そうして気が付く。今日の授業を俺は受けていない。と。
なにせ、遅刻して学校に行き、行ったそばから倒れてしまったのだから。
ああ、身の程を弁えないで悪魔なんかと戦ったから……こんな事になってしまったのだろう。
だけど、そのコトについては後悔していない。
だって、そのおかげで、ソフィアと話せている。
アイツが笑顔ならば、それでいい。
─────それにしても、不良少年だな俺は。
金曜は職員室で暴れて、無断で学校を抜け出して。
月曜は昼まで遅刻して学校に来たかと思えば、腹部から出血して即早退とか。
あまりにも問題児すぎるだろう。
取り敢えずと、俺は立ち上がった。
─────まだ、腹が痛い。
右腕も疼く。
「もうすぐで深い夜が近づいてきます。私が車を手配するので、それに乗って家まで送りましょう」
「え、いいのか、それ? 流石に俺も少し悪いなと思うんだけど先輩……」
「大丈夫です、心配には及びません。最も私は仕事があるので、ここで失礼しますが。後は、シルファ。貴方にお願いするわ」
そんな事を告げて、彼女は部屋から去って行った。
それと入れ替わるかのように、金髪で、メイド服で、何故か黒色の猫耳コスプレをした短髪の少女が部屋に入ってくる。
刹那。空気がひんやりと変化する。
「やっ、志摩弥殿! 私はシルファ、澪様のメイドだニャ!」
「……えーーと、さっぱり意味が分からないんだけど」
「? そのまんまだニャ!」
唐突の闖入者。
ニッコリとシルファを名乗る猫耳メイドは奇怪に笑い、俺に向かって眼をウイングしてきた。意味が分からない。なんだこの生物は……。
この状況には、呆れすら生まれてくる。どこの猫カフェだココハ。
そんな事を思いながら、彼女に気まずく返答する。
こういう時、どういう風に対応したらいいのか。俺には分からない。
困る……こういう雰囲気は。
「ま、取り敢えずこの私が志摩弥殿を家までお届けするニャ!」
「は、はははは。そりゃ……ありがたいけど」
それはありがたい。傷がこれ以上酷くならないとは言われているが、やはり心配だからな。だけど─────この子は、どうみても無免許ぽかった。
疑いの眼、とまではいかないが少しナニカある様に俺は彼女を一瞥する。
しかし、彼女はそんな事に気が付く素振りを見せず─────。
「じゃ、付いてくるニャ! この先に行けば、私の車があるのだニャ」
「あの、大丈夫ですか?」
「んニャ? ああ、私ならちゃんと免許を持ってるし、成人してるし、車もワイルドに乗りこなせるニャ! だから安心だニャ!」
「は、はぁ…………」
彼女は笑う。
……暖かい笑顔で。
俺は自分が寝ていた部屋から出て、長い廊下へ着く。
当たり前だが、ただの廊下にも埃一つなく、彩り豊かに彩色された壁や床は実にお金持ちの館を彷彿とさせる。
ま、お金持ちというのは事実なのだろうな。
長い廊下に出た後に、シルファの後へ続く。
明かりが広がるシャンデリアに照らされながら、ただ進み階段を通過して下に降りた。どうやら、俺が寝ていた部屋は二階だったようである。
そして階段を下りた先には、大きなエントランスホールが広がっていた。
「─────。随分と広いお屋敷だな」
あまりにも豪華で、華やかな風貌。それに感心して、俺は自然と声を漏らした。
あまりにも華やかで、あまりにも美しい。
本当にここは、金と美の顕現、というにふさわしい場所だ。
「お褒めの言葉、感謝だニャ!」
「……俺の方からも、感謝するよ、ありがとう。澪先輩にもそう言っておいてくれ。わざわざ学校で倒れた俺の事を診てくれたんだから」
「勿論だニャ!」
大きなエントランスホールを通り過ぎて、大きな扉を開く。
夕暮れの暁に染まった光が、一気にオレ達を照らしてくる。
どうやら、ここが玄関らしい。あまりにも一般人とスケールが違い過ぎて、声すら出てこない。頭の中が空っぽになり、ただ感動しているだけ。
一歩前に出れば、肌寒い風がオレを襲うと共に─────。
視界に、巨大な左右対称の庭園が目に入った。
これは、庭……だろうか?
「─────」
壮大。そのコトバに尽きる。
今まで見てきたその全ては、俺たち一般人を圧倒的に凌駕していた。
ふと過去に聞いた話を思い出す。確か秋葉家は、名家と呼ばれていたはずだと。
それも、秋葉家は多種多様の事業に取り組んでいて、銀行や学校などとサービスを展開している。この町、或間町どころか……ある程度、現代社会に詳しい人ならば普通に知っているというレベルの名家。
そして。秋葉という家系の他に水葉とか、色葉とか、色々な家系が集まって葉頭財閥とか言われているらしい。
どれも日本を代表する名家なのだそうだ。
っていう話を……前に、学から聞いたことがある。
実際に今回、この家を訪れて実感した。これが、金持ちの世界か。とな。
「じゃあ、乗るニャ!」
「え?」
気が付けば、目の前に一台の車が止まっていた。
車はあまり詳しくないから分からないが……スポーツカーっぽい。
目の前に止まるのはキラキラしている、紺碧色の車だった。
中で、運転席に座るのは─────。
ネコミミメイドのシルファ……?。
彼女はいつも間にか、グラサンを掛けてニッコリギラギラと歯を輝かせていた。
「やぁ、乗るニャんね!」
「お、おお。……感謝します」
「ほいニャ!」
俺はその車の助手席に座る。
いつそのグラサンを付けたのだろうか、そんな事を思った。
が、別に聞くほどの事でもないし。無視をした。
シートベルトを装着し、発進を待つ。
「じゃ、いくニャ!」
「……お願いします」
「いくぜニャ、我が渾身の神速! スーパーニャンコブースト……。ご覧あれだニャ!」
その瞬間。
彼女は意気揚々とアクセルを踏んで、急発進した。
─────は?
「え、ちょっ、と……はやす、ぎ、じゃあない、か……っ!!」
いきなりの重力に抗いながら、俺は問う。
だが彼女は聞く耳を持たずに、更にアクセルを踏む。
タイヤの摩擦音が脳内で加速した。
─────車は更に速度を上昇させて。
一瞬にして、この広い秋葉家の庭園を抜けて公道へ出る。
なんとも、暴力的で乱暴な運転だ。直ぐに酔ってしまいそう。
だが文句は言えないだろう、なにせ俺は家に送ってもらう立場なのだから。
「うえっ……ぷっ」
車は上下左右、様々な方向に揺れる。
それに耐えながら、俺は意識を安定させようと努力した。
─────車は揺れる。
吐きそうだ。今すぐにでも吐いてしまいそうだ。
だが、我慢する。
……。
……少しして、車は止まった。
顔を上げれば、それは交差点で、赤信号だった。
ふぅ、と一瞬の安堵に息を吐く。
横にいるネコミミメイドを一瞥すると。
彼女はニコニコしながら、ワイルドだぜぇ……とかほざいていた。
怖い。怖すぎる。彼女はなんなんだ、どっかのレーサーか?
「どうだニャ、私のドライブテクニックはニャ?」
「ええ? ……さ、最高です」
彼女の突然の問いに、全然本音ではない噓を吐てしまう。
ああ、気持ちが悪い。
車酔いしやすい体質なのだ、俺は。
……そんな自分を恨む、くそぉと弱々しく声を漏らす。
そんな中、彼女は更に俺に話掛けてきた。
「そういえば、気になった事があったんだけど。チミーはさ、なんでそんなケガしたの?」
─────その刹那。
今まで嫌なほど感じていた吐き気が吹き飛んだ。
そして、また別の意味での吐き気を覚える。
ナニカを感じた。
「……」
チミー。その言い方に、既視感が引っかかったのだ。
ケガ? なんでそんなケガ? そんな話は、どうでもいい。
どうでもよすぎる。
ただ、ただ、ただ─────。
……。
…………憶測が、脳内を交錯する。
どれだけ考えようと、答一つしか浮かんでこない。
目を見開いて、鳥肌が立ちながら。
彼女を直視する。
彼女は先程の笑みではなく、真面目な顔つきで─────。
更に、確信を突いてきた。
「もしかして、答えられないかニャ? チミー。いいや……SWさん」
「─────」
背筋が凍る。車酔いなんて感覚は麻痺して、忘れた。
ただ、それ以外の吐き気が……オレを襲う。
SW。それは紛れもなく、俺のGWWでの名前である。
そしてそれを知っていて、尚且つ─────俺の事をチミーなんて言うヤツは……。
ただ、一人だ。
俺は。呟く様に、喋った。
「お前は……あの、時の。あの部屋で、出会った─────」
そう。あの時の女。─────思い出す。
俺は静かに過去を回想した。
あの時の。スナイパーの女……なのか。
俺は思い出す。
……機密情報だとかなんだとか、それを知れば俺が死ぬかもしれないだとか。色々な戯言を吐いて、俺を狂わそうとしてきた女。
─────それが、俺の今。眼前に座る、この女だというのか?
「……そうだニャ。……なんて言うのは柄じゃないか」
彼女の口調がまた変化する。
─────なんなんだコイツは。
前にも、同じように口調が変わったりしていた。
可変的な存在。あまりにも、型に当てはまるコトのない化物。
……そんなコトバを、想起する。
「ま、質問には答えなくてもいいさ。君が本当に、あのゲームで出会った彼だったのか。確かめたくて、カマを掛けただけだからニャ?」
「お前って……さ。一体、何者なんだ?」
ふと聞く。
すると、彼女は奇妙に薄気味悪く笑って。
告げた。
「さぁね? 私にも分からないニャーねえ? 敢えていうのならば─────」
「─────」
「模索者、ってところ」
「は、はぁ?」
なんだそれ。と、思う。
だが、それを聞ける立場に─────多分、俺はいないだろう。
聞くべきことじゃあない。
「ま、まぁ、それはいいとしてさ。お前の、……えーと、シルファ……さんが言っていた機密情報ってのは、一体どういう事だったんだ?」
だから、違うことを彼女に問う。
「はてはて……それは何のことか?」
「とぼけるなよ……っ」
「んーーーー。ま、それはまた後で、気分が変わったんでね? ま、気が向いたら、メールかなんかで送ってあげようかな?」
「俺は、あんたにメアドを教えた覚えはない……」
「それは、どうかな?」
彼女は意味ありげに笑う。
笑う。と言っても、ただ冷笑を繰り返しているだけだが。
ただね、と彼女は続ける。
「ただね、SWくん……いいや、チミー、いいや、志摩弥。君に一つ教えてあげるのニャ!」
「─────教えてあげるコト?」
「そう。君が平穏な日常を送る一般人として過ごしたいと思うのならば……この戦いから引き返すのならば、今しかない。……ってね? 」
「は、それはどういう意味─────」
そう聞こうとしたが、気が付けば俺は車から放り出されていた。
「ぐえぇ⁉」
「ほら、君の家に着いたよ。じゃあね、志摩弥。もし君がまた私と邂逅するならば、その時こそ。─────君に、例の”機密情報”というものを教えてあげよう」
そうして。ニッコリとソイツは笑い、車を飛ばして消えていく。
気が付けば、俺は志摩家の目の前にいた。
これにてストックを使い切ったので、また書き溜めをする為に不定期投稿になりますがご了承ください。まだ物語は佳境にすら入っていませんが続きが気になるなと思ってくれたら是非、ブックマークなどよろしくお願い致します。
更新再開の目標日は、早ければ2月19日。遅くても頑張って2月26日ほどと予定してます。




