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十六話【新日常】

 目が覚める。

 ああ、いつものように今日は良い朝だ。

 ああ、今日は日曜日……か。

 ああ、良い朝だ。

 ああ、本当に、良い朝だ。

 思わず頭が痛くなりそうな程の陽光を視認して、ベットから起き上がろとして─────。


「っ、痛、い」

 腹に痛みを感じた。


 そうだ。と、静かに思い出す。

 昨日俺は、悪魔(ファクト)に殺されかけて……深夜に家に帰って、取り敢えずの応急処置をソフィアにしてもらったんだっけか。

 普通に死ぬレベルの怪我を負っていたのに、ソフィアは懸命に治療してくれた。


 まぁやってくれた事と言えば、家にあった包帯でグルグル巻きにして、なんかソフィアの”天使の羽”とかいう異物を無理やり口に入れされられた事ぐらいだが。

 ……大丈夫だよな?


「でも、これが、大丈夫な証だろ」

 自分の腹を見て、そう考える。


 自分の腹は包帯がグルグル巻きで、今やどんな状態か分からないが……。生きているということは、なんとか持ち堪えられたというコトだろう。

 カーテンから差し込む陽光に充てられて温かさを感じ、今の俺は生きているんだなと改めて実感した。


 あれは、あまりにも人外すぎた。

 生物という範疇を超えた存在。

 概念だった。


 そして、己の無力さに、本当に、心底、腹が立つ。

 あのショッピングモールでの戦い、そして、廃病院の後。駅付近でファクトと対峙した時、俺はただの人間に過ぎなかった。

 本当に、無力すぎて腹が立つ。


 俺はまだ、ソフィアになんの借りも返してやれてないのに、な。


「……はぁ」

「おっ! やっと起きたのね、ワタル。おはよう、良い朝ね」

「……ソフィアか。ああ、良い朝だな今日は。……それと、昨夜はありがとうな」


 自室の入り口の扉には、ソフィアが笑顔で立っていた。

 本当に空気が澄んでいて、良い朝だ。

 だがしかし、俺のコトバを聞いたソフィアは困惑の表情を露わにする。


 ─────。


「え? 昨夜? 一昨日じゃなくて?」

「……は? え? ソフィア? だって、昨日。俺はソフィアに家まで連れていってもらって、応急処置をしてくれたじゃあないか。ほら、この包帯とか」

 俺はソフィアに包帯でグルグル巻きになった腹を見せつける。


 すると、ソフィアは少し考えこんだ後。言った。


「いいえ、確かに私はワタルの応急処置をしたけれど、それは一昨日おとといの出来事よ」

「─────は?」


 厭な予感が通過する。

 背筋から、ゾワゾワと悪寒が迫ってくる。

 嚙み合わない、違和感。

 その恐怖に苛まれながら、俺は問う。


「あの、さ。今日って、何曜日だ?」

「……? 月曜日だけど。あっ、そっかワタル。確か、今日は学校? があるんだよね」

「─────」


 言葉が詰まる。

 そして、理解する。

 恐ろしい事実を、俺は飲み込んだ。


 念のために、俺はその事実を確認しようともう一度、聞いた。

 俺が寝たのは土曜日から日曜日に変わる直前の深夜。そして今は月曜日。


「もしかして俺さ。─────……あれから一日中寝てたり……?」

 そのコトバに、ソフィアはニッコリと笑って。


「うん! 日曜日のワタルはずっっっと寝てたよ! 起こすのも可哀想だから、ずっと寝かしてた!!」

 彼女は、肯定した。


 同時に、俺は事実が事実であることを知って─────。

 ベットから崩れ落ちる。


「うわぁぁぁぁああああああああ!!!!! なんて、なんて、勿体ない過ごし方をしたんだ、志摩弥(オレ)は!!!」

「……? 随分と有意義そうに寝てたよ、ワタル?」

「そんな訳あるか! 悪魔か!! お前は悪魔ソフィアか!!」

「はぁ? そ、そんな事全然ないんですけど!!!」


 あまりにも酷すぎる事実に絶望し、激痛にもがきながら俺は立ち上がった。


「ああ、最悪だよ。ってか……今、何時だ?」

「え? えーーーと、午前、十時、三十四分? かな」

「しかも、遅刻、か……」


 大きくため息を吐く。

 これじゃあ今から急いでもダメだ。

 とうに出席確認の時刻は過ぎている。


 髪をかきむしった後、よたよたと歩きながら階段を降りて居間に入った。

 あ-あ、と大きくため息をもう一度吐く。


「腹は馬鹿みたいに痛いから自力では学校に行けないし、徒歩で頑張ろうにも遅刻確定だし、もう嫌、だ……」

 頭を抱え込む。

 考えれば考える程、厭なコトが思い浮かんでくるのだ。


 というか、金曜日俺は何をやらかした?

 ……あまりにも色々な事を犯しすぎただろう。

 馬鹿だな、俺は。最悪にも程がある。

 勝手に職員室に入って、暴れた記憶が微かに残っているし……。


「ああ、どうするか」

「ワタル、困ってそうだね」

「ああ、随分と困っているよ俺は」

「じゃあ私が連れてってあげようか?」


 ……?

 背後にいたソフィアが俺の肩をぽんと叩いて、そんな事を告げた。

 何を言っているんだコイツはと、思う。世迷言はほどほどにしてほしいもんだな。


「意味が分からないんだが、ソフィア。まさかお前、真っ昼間から翼を広げるとか、そんな馬鹿みたいな事する訳じゃあないよな?」

「……そんな訳ないでしょ! 私だって人間社会の常識ぐらい、当たり前に把握しているわ……!」

「は、はぁ…………。そうなのか」


 信じられないが。

 まぁ確かに、正直な話だが。心のどこかでは、俺もソフィアのあの翼で飛んでいる姿を見るまで、彼女を天使だとは信じていなかったしな。

 それぐらい人間という存在に、彼女は溶け込んでいる。


「じゃあ、さ。俺をどうやって連れていくって言うんだ?」

「そ、そりゃあ……車でよ!!」

 彼女は仁王立ちをして、自慢げにそう言った。

 ……馬鹿か。


「えーーと、だな。その、天使さん? 知っているか? 俺たちの世界ではな、車に乗るには免許が必要なんだぞ?」


 そう言うと、俺はソフィアに頭をぽんと叩かれる。

 なんだ、コイツは。当たり前の事を言っただけなんだが……。

 なにか失策だったか?


「私だって、この世界に来てから数十年にもなるのよ。運転免許証ぐらい、持ってるに決まってるでしょ!!」

「そ、そうなんだ。そりゃ、知らなかった」


 ……コイツは運転免許証という存在を知らないと見越して、そう言ったんだったのだが。どうやらソフィアはちゃんと運転免許証を持っているらしい。

 驚いた。どうやって、合格したんだろうか。

 ……天使なのに。色々と気になる所がある。


 誰かから強奪したんじゃあないだろうな。


「ま。これは借り物だから、運転は一度もしたことないけど」

「……何を言っているんだお前、馬鹿か?」

「馬鹿じゃないんですけど」

「いーーーーや馬鹿だ、やっぱりお前。天使から悪魔に改名した方がいいんじゃないか?」

「……だから、悪魔じゃないってええええええ!!!!!」


 そんな冗談を交わしながら、仕方がなく俺は二階に上がって制服に着替える。

 運転免許証が借り物とか。馬鹿だ。

 天性の馬鹿である。


「アイツ、頭死んでるんだろうか」

 心配だと呟きながら、着ていたジャージを脱いで着替えを済ます。


 ◇◇◇


 母さんがいない。

 その事実は、気づかないようにしている。

 果たして、何処に行ったのか。

 それはあまりにも気になる事だが。詮索はしない。

 その方が、不思議と”良い”と思ったから。


「はぁ…………しょうがない、よな。俺も、頑張ろう」

 そう言って、腹の痛み耐えながら一階に降りて玄関に向かう。


「あれ? ワタル⁉ もしかして、学校に行くの?」

「ん……? あ、うん。そうだよ、遅刻でも。ちゃんと行かなくちゃだからな、学校は……」

「そ、そういうもんなのかな。学校って……」

「……?」


 彼女からどことなく寂しさの様な雰囲気を感じ取った。

 いいや、気のせいだろう。……それにしても、腹が痛い。

 ソフィアは少し目を逸らして、疑問形のコトバをぶつけた後。俺にナニカを手渡してきた。


「これは……」

「スマホは……入ってないけど、ほら!!」


 それは、学校のカバンだった。

 確か、土曜日の朝頃に学が持ってくれたんだっけか。

 俺はそれを”ありがとう”と言って、受け取る。

 中には筆記用具や、教科書、参考書などが内包してある。


「お腹、痛くないの?」

「痛い、痛いけど。仕方がないさ、これは俺が馬鹿だったから出来た傷だ。それに、これ以上悪化しない様に運動は気を付けるからさ」

「う、うん……」

「じゃあ、行ってくる」


 ソフィアにそう言って、、引き戸を開いて外に出た。

 外はいつもの様に寒く、ずっといれば風邪をひいてしまいそうである。

 風で周りの木々は揺れて、踊っている。

 それは実に、愉快な光景だ。


 ひっそりと感傷に浸れる、身近で神秘的な光景。

 それが、コレだ。


「ふぅ……腹が痛いけど、頑張ろう」

 そう意気込んで、志摩家を後にする。


 トコトコとゆっくりと歩き始めた。

 周りはまだ木々だらけ、自然の緑で一杯だ。

 ここから住宅地に行き、東方面に行けば学校に着く。


 いつも自転車で走るルートを確認しながら、ゆったりと歩き続けた。

 森を抜けて、住宅地へ入る。

 自転車で四十分程度だから、徒歩では一時間半もあれば着くだろう。

 その頃には……もう昼食の時間になっているだろうな。

 そう思う。


 昼食の事を想起すると、自然と腹がぐぅと音を奏でた。

 今日は起きてから何も口にしてないからな、腹が減るのも生物としては当然の節理である。


「お腹が空いたけど……ああそうだ。お金、持ってないんだった」


 コンビニで何か調達しようとしたけども、断念。

 それは時間を浪費するだけだし、なによりショッピングモールのガチャでお金を使ってしまったものだから、今の自分はかなり絶望的な金欠であったから。

 買えるものは限られてくるし、やめておこう。

 という判断だ。


 ああ、空腹過ぎて満身創痍。

 そんな事を想いながら、空を見上げていると。

 ─────唐突に、誰かが話しかけてきた。


「……初めまして。君が、志摩弥(しま わたる)クンかな?」

「ッ⁉」


 唐突のそのコトバに、驚いて一歩後退する。

 気が付けば、眼前に一人の男が立っていた。

 黒髪黒目で、スーツ姿。


 至って普通のサラリーマン。

 ……否。気配は、常人とは全くもって異なっていた。


「そうだけど。あんたは……誰だ」

「ふむ、始めの返答から敵対意識アリと。これは確かに、素質がある。私も、そう思うね。……流石、天明サマだ」

「おい、聞いてる……だ、ろ」


 そのスーツ姿の男は、非常に胡散(うさん)らしい。

 昼間間近のこの時間帯に、制服姿の高校生に話しかけるスーツ姿の男とか、怪しすぎるにも程がある。普通の不審者だ。

 だけど、不思議と恐怖はない。

 感覚が麻痺しているのだろう。


 ─────なにせ、俺はコイツより怖いバケモノを知っているのだ。


 スーツ姿の男はニッコリと笑い、幻妖(げんように)に告げる。

 何か、知らない方がいい事をわざと告げるかのように。


「……良い、これも余興の前戯としては良い。教えてやろう。……私の名前は『黒土真壁(くろづち まかべ)』だ。ただの普通の会社員さ。ちとばかし、暇ができたのでね。未来の闖入者との邂逅を済ませておこう思ったのさ」

「未来の闖入者……との、邂逅? どういう意味だ」

「ふむ。どうもクエスチョンが多い無知な少年だね君は。そして、言葉遣いも荒い。……身の程をわきまえていない、とはまさにキミの事だ。そうだね、優しい私が一つ。君に二つ忠告しておこう。まず『無知は罪である』とね」

「─────」


 その男のコトバは、意味がまるで理解できなかった。

 そのコトバ、会話ははあまりにも突発的なもので。

 意味ありげだが、大して深い意味もなさそうな感じである。

 本当に意味が分からない。

 だけど、コイツが一般人ではない。……それだけは、感じ取れた。


「ふはは、さぞ悩むといい無知なる少年。私はそういう君の表情が見たかったので、来ただけさ。これから宴は盛り上がる、君もさぞ楽しめるだろう」

「……それは、どういう意味だ」

「さぁね、言ったはずだ。クエスチョンが多い、とね。私はそれに答える必要はない。なにせ、そんな事をしたら、楽しみが減ってしまう。……おっと、お話はこれで終わりにしておこう。いや、ああ、それと─────」

 男はぽんと俺の肩を叩く。

 男の瞳は、ソフィアとはまるで正反対で虚ろで腐っていた。

 その瞳には、未来すら感じれない。


「罪あるものに、救いなし。

 自身の立ち位置をわきまえず、天へ歯向かう者には罰下る。

 ……これは、私の家の家訓でね。覚えておくといい、そしてこれがもう一つの忠告だ。志摩弥」

 そして、真壁という男はそう言い残して俺の背後へと歩き去って行ったのだった。


 ─────アイツは一体、何者だ。


 そんな事を思う。


「……変なヤツだな」

 厭な記憶は切り捨てておくべきだ。

 取り敢えず学校に向かわなければ。

 俺はそう思って足早に学校に向かうのだった。


 ◇◇◇


 死神の丘を登り、ぜぇぜぇと息を荒々しく立てながら秋葉高の正門に着く。

 目の前にそびえ立つは何の変哲もない、いつもの俺たちの学校だ。


「さて、行きますか……」

 どう言い逃れしようか。

 先生達に怒られる未来を予め予測しておいて、そこから逃れる術を探す。

 そんな無謀なコトを考えながら、俺が正門を通過しようとすると─────。


「おおおお!! そこの奴、すまん!! どけ!!! 急いでるんだぁぁああああ!!!!!!!!!!!!!」

「─────って⁉」

 いきなり突っ込んできた奴と、俺はぶつかってしまった。


 怒号。その音が鼓膜に到達する頃には、俺は既に体勢を崩して倒れかけている。


 ─────ころ、ぶ。


「あ……っ!」

「あっ……!」

 俺とソイツ。それはほぼ同時に、同じ音を上げた。


 そして。

『バッターーン!!!』

 と鈍い音がこの場に響く。


「い、つ……っ」


 俺は尻餅をつき、その場に座り込んでしまう。その勢い、自身の荷重は腹辺りにのしかかって、痛みを増大させた。─────痛い。

 気絶するかと錯覚するほどの激痛。


 だが、大丈夫。

 俺は、激痛には慣れているのだから。

 痛みに耐えながら、ぶつかったヤツの顔を拝もうと上を向く。


 ─────すると。


「すいません……って。あ、あれ……学?」

「すまんすま……お? なんだ、弥じゃねーか。というか、なんだそのケガ?」

 そこに立っていたのは、青髪でムキムキの男。

 俺の竹馬の友であり、厨二病で、優等生の、土佐学であった。


 珍しい。

 そんな事を考えると同時に、学が差し伸べてきた手を借りて立ち上がる。

 腹痛はまだ残っているが、許容範囲。


「……このケガは、ちょっとした事故だよ。それにしても珍しいな、優等生(まなぶ)も遅刻だなんて」

「事故……ねぇ。まぁいい。それと、俺が遅刻した理由はだな……俺、金曜に話しただろ? 教科書とか参考書をなくしたって」

「ん? あ、ああ。そうだな」

 すると、生真面目に学は遅刻の理由を話し始めた。

 今日の学は、どことなく気だるそうに見える。


「土日に家族総出で家を探し回ったんだが、見つからなくてだな……今朝も兄に協力してもらって探していたんだが。探している最中に、俺の兄がドジ踏んで階段踏み外してだな、そのまま勢い余って床に激突! ……てなわけで、骨折しちまったらしくて。俺が一緒に病院まで運んでたら、いつの間にかこんな時間になってしまっていた……というワケだ」

「は、はぁ…………」

「というワケで、色々あった後の今は滅茶苦茶げんなり中て感じだ!!」


 なるほど、と頷いた。

 妙に学が疲れを纏っているのは、その所為か。

 なんとも不幸なもんだな、学も、学の兄も。


「で、肝心の教科書類は見つかったのか?」

「ん? あ、いいや。それが残念、見つかってないんだ。……ったく、これからは勉学は出来ないていうのに」

「なんで勉強が出来ないんだ? ……受験勉強の対策なら、まだ全然時間があるだろ」

「そうにもいかなんだ、それが、なにせ俺は多忙の身であり、忘れ去られし自己記憶を探さなければならないしな。それが、ヒーローマナブとしての役目、いや……宿命!!!!」

「はいはい、そうですか」


 空返事をする。

 そのネタ、引きずり過ぎだろうと思ったりしながら。

 すると、その雰囲気に学も気付いたのか、話題を切り替えてきた。


「はぁ……つまらん、か。ま、それよりも聞きたい事があったんだしな」

「聞きたい……こと? 俺に?」

「ああ、そうだ。お前さ、金曜日暴れて学校抜け出しただろ? あの後、どうしてたんだ? やっぱり、カラオケとかゲーセンとかにでも行っていたのか? ふざけるにも、大概にしろ。って教頭が叫んでいる姿、廊下で見たぜ」

「─────」

 悪寒が増大する。


 もうこれでは……更に強く怒られる未来しか見えなかった。

 絶望する。もう俺に、選択肢は残されているいない。

 ただ、謝るというコトしか出来ないのだ。

 ……でも、それが、正しい行為だろう。


 言い逃れは、良くないだろうしな。


「いいや、母さんのコトを探し回ってたよ。一日中ね。結局、見つからなかったけどな……」

「あ。……そりゃ、悪い事を聞いたな。すまん」

「いいや、良いんだ。別にまださ、”ソウ”と決まったワケじゃあないし」

 それは、静かに、冷静に対応する。

 そう返答した。


「……取り敢えず、学校に行こうぜ弥。俺も一緒に、怒られてやんよ」

「……はぁ。それは、とてもありがたい」


 そんなため息を吐いて、俺は学と共に校舎へと足を運んだ。


 ◇◇◇


 学校は賑わいが制している。

 昼休みだからか、かなりのうるささだ。

 男子も、女子も、それぞれ仲のいいグループで笑い、話している姿が多々見られる。

 至って、普通。


「─────さて、と」

 脳を空っぽに。クリアにする。

 そして、一年三組の教室へと入った。


「しつれいしまーーーーす」

「……しつれい、しま、す」

 俺と学、二人共中腰小声で、恐る恐る教室内部へと潜入。


 怒られる覚悟は出来ているが、まだ怖い。

 だからゆっくりと入って、まず先制攻撃を取り先に謝る。

 怒鳴られる覚悟は出来ていないのだ。

 だから、まず奇襲怒鳴られ攻撃を食らわない為にも、俺たちは教卓で飯を食べる担任にバレないように進まなければならない。


 恐る恐る侵入する。

 俊敏。それは、過去に存在したニンジャの様に音を立てず。

 影を見せず、ひっそりと空気に溶け込んで侵入する。


「そーーっと、そーーーーっとだぞ」

「ああ、分かっている、それぐらい分かっている学」


 俺は学に注意を食らいながら、ゆっくりと教室に侵入したのち。

 教卓へと、歩み寄る。

 担任は今、誰かと話している最中であった。

 大丈夫……これなら! 安堵の息を漏らす。


 しかし。

 ふとした瞬間。それは、不意に。

 ─────俺は、担任と目が合う。


「あ」

「─────来たか、悪ガキ共」

 その瞬間。耳鳴りの様に鼓膜へ担任の声が反響したのち。

 全身が凍結するかと思うほどの悪寒が、背中を襲った。

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