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有毒宝石  作者: 桜芽鵺葉
11/13

クリスマス


12月。

そろそろクリスマスということで、この街はまばゆいイルミネーションで飾り付けられています。

今の時間はまだ夕方になる前ですが、冬は日が落ちるのが早い為、もう街並木はライトアップされています。

学校帰りの少女は、それらを視界の端で見ながら綺麗だと思いました。


少女はクリスマスが大好きです。

プレゼントが貰えて、美味しい料理が食べれて。

それに、クリスマスイルミネーションを見ると楽しい気分になります。50メートルを超える大きな大きなツリーや、高いところから眺めた夜の景色…そこまで考えて、少女は不思議に思いました。そんなに大きな大きなツリーなんて、少女の住む街にはないのですから。


「誰と見に行ったのかしら」


クリスマスだから見にいこうよと誰かに言われて巨大なツリーを見た事も、誰かが少女を驚かすために用意した可愛いケーキの美味しさも、ずっとずっと欲しかったプレゼントを誰かから貰えた嬉しさも、ぜんぶぜんぶ覚えてるのに、それが誰だったのか少女には分かりません。


けれど、分からないなら仕方ありません。

分からないことを考えるのを少女はやめました。楽しかった気持ちだけで幸せなのです。


----------


気を取り直して、帰る足を進めた時。

少女はライトアップされてる木々の間で黒い兎を見かけたような気がしました。

一瞬の事でしたが、黒い兎はスーツを着ていました。


普通、兎はスーツを着ません。

少女は息が苦しくなった気がしました。

焦燥感が湧き上がり、何故だかそれを探さなきゃいけないと思いました。


少女は木々をじっと見ます。

木々は変わらずにライトアップされてます。

兎なんてどこにも見当たりません。


一本の木が「ぐにゃり」と揺れました。

木はずっと少女に見られて恥ずかしくなってしまったのか、ぐるぐるに巻かれた飾り付けを投げ出して、地面にずぶずぶと潜ろうとしています。ずぶずぶ。ずぶずぶ。


その木を心配するように他の木々たちも地面にずぶずぶと潜っていきます。

みんなが沈むなら…と、後に続くように、建物も信号機も噴水も山も空も、ずぶずぶと潜っていきます。ずぶずぶずぶずぶ。


残されたのは少女と、飾り付けられていたイルミネーションだけになってしまいました。


少女は、地面に投げ出されたイルミネーションに近づきます。


イルミネーションは先ほど生えたばかりのたくさんの足を器用に使いこなし、カササササとどこかへ行ってしまいました。


「クリスマスツリーを見に行こうよ!」


いつのまにか隣に居た黒兎が言います。


「うん!」


少女は嬉しそうにそれに答えました。

なんだか久しぶりに会った気がしました。

ずっと一緒なのに変なの、と少女は心の中で言いました。


一人と一匹は楽園へ行きます。


楽園はテーマパークで、黒兎と少女がよく一緒に遊ぶ場所です。

今はクリスマスシーズンなので、大きな大きなツリーが飾られています。


楽園の中にある売店で、黒兎が「見て!扇風機だよ!」と小さな扇風機を少女に差し出します。

少女はその小さな扇風機を首から下げてスイッチを入れました。扇風機の部分から寒い風が吹きます。風に合わせて扇風機からぴかぴかと明かりがつきます。


「私は要らないわ」


寒い冬に寒くなりたくない少女は、スイッチを消して扇風機を黒兎に返しました。


黒兎は扇風機を受け取り「使い方が違うよ」と扇風機のスイッチを付けて、空中に置きました。


扇風機は置かれた場所で風を流してます。

扇風機は重力の影響を受けません。

空中に浮いた扇風機はぴかぴかと光ります。


「映えだね!写真を撮るといいよ!」


「扇風機は映えなくていいの」


「そうなの?」


「そうなの。夏になったらにしましょう?」


黒兎は頷いて扇風機を棚に戻しました。


そして一人と一匹は楽園の中にあるゲームセンターに向かいます。ゲームセンターにはコインを入れたら遊べるゲームがたくさんあります。


黒兎がコインを入れる穴に入ろうとするので、少女はそれを止めます。

そして少女はコインを入れる穴に自分の頭を入れようとします。

けれども。一人と一匹はコインではなかったので、中には入れませんでした。


「それはお金を入れるとこだよ!」


「そうね、お金をいれましょう」


少女は青白く光り輝く硬貨を1枚取り出して、穴に入れました。

厳かなクラシック音楽が流れ、ゲームが始まります。ゲーム機は一枚の紙を出しました。

アンケートのようです。


このゲーム機はアンケートの結果によって、未来を占うゲーム機なのです。

少女は一生懸命悩みながらアンケートに記入します。そして、書き終えたアンケートをゲーム機に戻しました。


アンケートはガラス越しのゲーム機の中に入りました。内部の雑巾がアンケートを擦ります。雑巾は水に濡れているので、アンケートはぐちゃぐちゃにインクが滲んで破けて行きました。


「何を書いても未来は変わらないから大丈夫だよ」


ゲーム機を見ている少女に黒兎が言います。

少女は、未来が変わろうが変わらなかろうがどちらでも構わないけど、アンケートを書いた時間が無駄になったことは残念と思いました。

占いの結果が表示されるのを待たずに、一人と一匹はゲームセンターから出ました。


そしてジェットコースターの列に並び、少女が座ると、黒兎は少女の後ろに座りました。

ジェットコースターは勢いよく発車します。


ジェットコースターの悲鳴が鳴り響く中、少女は、後ろに座ってる黒兎へ、振り向かずに前を向いたまま「だいっきらい!」と言いました。少女の声はジェットコースターの悲鳴でかき消されます。後ろに座った黒兎には届きません。


2時間ほどして、ジェットコースターは少女の家で停止します。

少女はジェットコースターから降りました。

黒兎は「たのしかったね!」とジェットコースターの中から手をパタパタします。

少女は「うん、またあそんでくれる?」と黒兎に手を振りながら聞きました。

ジェットコースターは勢いよく悲鳴をあげながら発車して、もう見えなくなったから、少女は黒兎がどんな返事を自分に言ったのかはわかりませんでした。


----------


帰宅して、布団に入った少女は、幸せな気持ちでいっぱいです。

今日はとても良い日でした。

何か楽しいことがあったような気持ちです。

ただ、いつものようにまっすぐ学校から家に帰っただけなのに、まるでどこかで遊んだようで。

そんなに楽しいことがあったかしら…と今日の事を思い返します。


少女は何も思い出せなないけど、思い出せないものは仕方ないので、幸せな気持ちで眠りにつきました。



「クリスマス」おわり


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