機械とお嬢様
私の家にエレベーターができた。
二階に上がるため、エレベーターに乗ろうと思った。
エレベーターは中に入ると明かりが灯る。
私は乗り込んでから、上へ上がるボタンを押した。
「上へあがります」
エレベーターが私に話しかけた。
「上には何があるの?」
私はエレベーターに訊ねた。
エレベーターは答えない。
私は悔しくなった。
エレベーターが話しかけたから、私は答えたというのに、エレベーターは私の質問に応える気は全く無いのだ。なんでエレベーターごときに無視をされなくてはならないのか。私は無言でふてくされる。
もういい。
次にエレベーターが話しかけてきたとしても、答えるものか。私は悪くない。エレベーターが悪い。
エレベーター内はしばし無言となる。
「…」
私から話しかける気はない。
でも、エレベーターが万が一謝ったのなら、許してあげないこともない。私はエレベーターにも慈悲深いのだ。
そう決意しても、エレベーターは何も言わない。
ただ、ぐんぐんぐんぐん上に上がっていく。
エレベーターは止まらない。
エレベーターはガラス張りだから、外の景色が見える。もうここは私の家の二階じゃない。下を見ようとしたけど、私の比較的大きな家の屋根すら見えない。
「(どうしよう…)」
エレベーターは何を考えてるかわからない。
私はこのまま宇宙へ行くのだろうか。
エレベーターのガラスは宇宙に耐えれないと思う。
それとも、このまま高いところから落とされるのだろうか。私は落下に耐えれないと思う。
そもそも、エレベーターにそこまで怨まれる覚えがない。私たちは初対面だし、私はエレベーターのことを無視してない。今怒ってるのは私であるべきだ。
私が考えてる間もエレベーターはぐんぐん上にいく。
…仕方ない。
私が大人の対応をしてあげるか。
私はエレベーターを無視するのをやめた。
「こんなにあがってどうするの?」
エレベーターは答えない。
10ぷん待つ。
エレベーターは答えない。
「なんで無視するの!」
私はエレベーターで地団駄を踏む。
エレベーターは動じない。
私の身体が痛いだけだった。
私は頑張った。
「上になにがあるの?」「どうして上にいくの?」「そろそろ止まらない?」「私白米が食べたいわ」「おなかが空っぽなの」「お姉様が心配してるわ」「ねぇ家に帰りたくない?」「もし地上に戻してくれたなら、私の持ってるしゃもじをあげてもいいわ」
なんとかエレベーターと意思疎通を試みて。
エレベーターはなにひとつ反応しなかったけれど。
私はエレベーターの床に座り込む。
エレベーターは止まらない。
家に帰りたい。
こんなの嫌だ。
私はしゃもじをエレベーターに投げつけた。
鞄はエレベーターの数字の2のボタンに当たる。
「二階へまいります」
エレベーターが私に言う。
エレベーターは下へ下へと下がる。
そして私の家の二階でぴたりと停止する。
「二階です。開くドアにご注意ください」
「ありがとう…」
むかつく奴だったがちゃんと帰してくれた。
私は水に流してあげることにした。
「ドアが閉まります」
エレベーターは私に答えた。
淡々と偉そうな奴だ。
何か言ってやらなきゃ気が済まない。
私は「宇宙に行きたいなら一人で行ってよね」とエレベーターに告げる。
エレベーターは答えない。
二階に居たお姉様にエレベーターの話をしたら「あなたは小さいからまだわからないのかもしれないけど、エレベーターは生き物じゃないから私たちとはおはなしできないのよ」と諭された。
なんだ。
エレベーターは生きてないのか。
ボタンにしか反応できない哀れな奴だ。
私は姉様の隣に座り込む。
やがて夕飯の時間になり、お嬢様がお帰りになられた。
お嬢様は、私のお姉様にたっぷりと水を注ぎ、コンロの上の姉様に真っ赤な火を付ける。
私は一合のお米を口に注がれ、お嬢様の綺麗な指でほっぺを一回触れて頂けた。私は「炊飯を開始します」とお嬢様に告げる。
「機械とお嬢様」おわり




