第14話 監視任務
ガレンとの報告を終えた翌日から、俺は第十二層への往復を繰り返すようになった。亀裂の監視――地味な任務だが、荷物持ちとして培った地道さが、こういう場面では役に立つ。
「繋がれ」
座標点を使えば、移動はほとんど苦にならない。これまで何時間もかけていた道のりが、今は数秒で済んでしまう。
亀裂のある場所に到着すると、前回見た時よりも、薄紫色の光がわずかに強くなっているのが分かった。
「……広がってる、よな」
亀裂の幅自体はそれほど変わっていない。だが、漏れ出す光の量と、空間の歪み具合が、明らかに増している気がした。
慎重に距離を取りながら、観察を続ける。すると、亀裂の奥から、また低い唸り声が聞こえてきた。前回よりも、はっきりとした声だった。
「……起きているのか」
近づきすぎないよう注意しながら、座標点を使って亀裂の様子を多角的に確認する。これまで使えなかった視点――時空魔法の応用で、少し離れた場所から「覗き見る」ようなことができるようになっていた。
「これは……目、か?」
亀裂の奥、薄紫の光の中に、巨大な何かの一部が見えた。目のような形をした、不気味な輝き。はっきりとした姿は見えないが、確かに何かが「そこにいる」という気配が、強くなっている。
「ガレンに、すぐ報告しないと」
俺は座標点を確認し、地上へ戻る準備をした。だが、戻ろうとした瞬間、亀裂の奥から、これまでにない強い反応があった。
『……時空の血……』
声だった。頭の中に直接響くような、低く、重い声。アーシェルの声とは全く違う、もっと異質で、もっと危険な響きがあった。
「な……」
『そなたか……我を封じた者の、力を継ぐ者』
「お前は……何だ」
『我は、時空の歪みより生まれた者。アーシェルが、その全てをかけて封じた、災厄』
声が直接、思考に流れ込んでくる。逃げるべきだと分かっていたが、足が動かなかった。
『そなたが力を継いだことで、封印は薄れていく。もう少しで、我は外に出られる』
「そんなこと、させない」
『止められるか? そなたは、まだアーシェルの欠片にすぎぬ』
亀裂の光が一際強くなり、地面が激しく振動した。これ以上ここに留まるのは危険だと、本能が告げていた。
「繋がれ!」
俺は急いで座標点を使い、地上へと続く線を辿った。視界が滑らかに切り替わり、第十二層の入口付近に戻ってくる。
息を整えながら、今聞いた声の意味を考える。災厄が、自分の存在を認識している。封印が薄れていることも、はっきりと自覚しているようだった。
「思っていたより、状況は悪い……」
ギルドへ急ぐ足取りは、これまで以上に速かった。報告すべきことが、また一つ増えていた。
街に戻り、ガレンのもとへ向かう。第十二層の奥で目覚めかけている災厄――それが、確実に自分の存在を意識し始めている。荷物持ちだった頃には想像もできなかった事態が、急速に動き始めていた。
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