6月2週目。八郎の国造り。とにかく膨大な借金を銭を生み出す装置を早く作り継続させる。
薩摩五万石。
帳面合わせが進む中、八郎は新しく加わった国人衆、商人衆、武士たちを前に数字を書き出していた。
「まず確認です」
「今回加わった領地ですが、市はいくつぐらいありますか?」
元領主の家臣が答える。
「大きいもの、小さいもの合わせれば……三十ほどかと」
「寺や神社は?」
「それも三十ほどございます」
八郎は小さく頷いた。
「なら、そこからですね」
周りは首をかしげる。
「城ではなく?」
「兵ではなく?」
八郎は苦笑した。
「先に銭を回さないと、城も兵も維持できません」
八郎は帳面に数字を書く。
「今までの実績で考えます」
「市一つあたり、飯屋を動かせば仕入れが発生します」
「三十の市を動かせれば――」
「ざっくり毎週九十万文ぐらいの仕入れが作れます」
商家衆がざわついた。
「九十万……」
「つまり?」
「はい」
八郎が頷く。
「商家衆や農家の証文を、その仕入れで消せます」
「今回、新領地側の商家衆の借金は四百五十万文ぐらい」
「全部一瞬は無理です」
「でも」
「毎週九十万文ずつ消せれば、数週間でかなり楽になります」
新しく加わった庄屋たちは顔を見合わせた。
「何十年も苦しんだ証文が……」
「数週間……?」
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「ただ」
八郎は釘を刺す。
「魔法ではありません」
「飯を作る人」
「材料を作る人」
「運ぶ人」
「売る人」
「全部必要です」
「だから仕事を作るんです」
次に別の数字を書く。
「利益です」
「市の飯屋の利益」
「毎週九万文ぐらいを目標にします」
「一年なら――」
「九万×四週×十二ヶ月」
「四百万文以上です」
武士たちが反応した。
「では我らの借金も……?」
「少しずつです」
八郎は即答した。
「お侍さん方の借金は現金が多いです」
「米や魚の仕入れだけでは消せません」
「だから時間がかかります」
武士たちは少し落ち込む。
しかし八郎は続けた。
「でも」
「原因は分かっています」
「おそらく」
「城の収入自体は大きく間違っていません」
「前の領主様も、全部間違えていたわけではないと思います」
元領主たちが顔を上げる。
「問題は」
「お侍さん方を維持するための予算が足りていなかったことです」
「給金が遅れる」
「でも武具は必要」
「付き合いも必要」
「だから個人で借りる」
「それが積もったんです」
武士たちは黙った。
心当たりがありすぎた。
「うちも同じでした」
「帳面を見るまで分かりませんでした」
「だから責めるだけでは直りません」
「ただ」
「人数と仕事は調整します」
「戦だけする武士を大量に抱える余裕はありません」
「警備」
「市の管理」
「物流」
「道の整備」
「訓練」
「情報集め」
「仕事を分けます」
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和尚が笑う。
「侍を商家の番頭みたいに使う気か」
「違います」
八郎は首を振る。
「領地を守る仕事です」
そしてもう一つ書いた。
「現物払い」
「これはすぐできます」
「どういうことです?」
武士が尋ねる。
「銭は足りません」
「でも米はあります」
「飯屋を回せば米の流れもできます」
「だから」
「基本は銭で払います」
「でも」
「今日食べる米がない」
「家族が困っている」
「そういう場合は言ってください」
「給金分を米で先払いできます」
武士たちは目を丸くした。
「米ならすぐ?」
「はい」
「帳面につけます」
「銭払い分から引きます」
ある下級武士がぽつりと言った。
「それだけでも助かります……」
「銭がない日より」
「米がない日の方が怖いですから」
八郎の言葉に、その場の空気が変わった。
さらに続ける。
「ただ、これだけでは足りません」
「新しい稼ぎも必要です」
「交易」
「特産品」
「湯浴み」
「新しい料理」
「焼酎」
「芋」
「全部試します」
「失敗もします」
「でも増やさないと」
「五万石は支えられません」
和尚が笑った。
「五万石を手に入れて」
「最初にやることが借金整理と飯屋増設」
「ほんに変な領主じゃ」
八郎はため息をついた。
「だから領主じゃなくて飯屋です」
「借金だらけの飯屋です」
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商人が笑う。
「その飯屋が、一週間で三十九万文消したんですがな」
八郎は帳面を見る。
「まだまだです」
「城の借金」
「武士の借金」
「新領地の借金」
「山ほどあります」
「順繰りです」
「急に消える魔法なんてありません」
「一つずつ仕事に変えて消します」
その場にいた者たちは頷いた。
刀で取った五万石ではない。
飯を作り。
市を動かし。
帳面を合わせる五万石。
八郎の国造りは、今日も銭勘定から始まっていた。




