表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/115

メンヘラオジサン博之42歳。死んで八郎として生まれ変わる。情報皆無。日本語だけはわかるwww八男で八郎ってwww

俺の人生、何だったんだろうな。

 四十二歳。

 独身。

 会社員。

 それなりに働いて、それなりに頑張ってきたつもりだった。

 でも、気づけば心は限界だった。

 仕事もうまくいかない。

 将来も見えない。

 周りは家庭を持ち、子供を育て、人生を進めているように見える。

 俺だけが同じ場所で止まっている気がした。

「疲れたな……」

 そんなことを呟きながら、夜道を歩いていた。

 別にどこかに行きたかったわけじゃない。

 ただ家に帰る気にもなれず、ふらふら歩いていただけだった。

 その時だった。

 まぶしい光。

 大きな音。

 体に走る衝撃。

 ああ。

 車か。

 そんなことを思った瞬間、俺の四十二年の人生は終わった。

 ……はずだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(……ん?)

 意識がある。

 おかしい。

 死んだはずだ。

 いや、そもそも死んだ人間が「死んだはず」なんて考えられるのか?

 ゆっくり目を開ける。

 だが、視界がおかしい。

 ぼんやりしている。

 目の前には男女がいた。

 若い。

 二人とも二十代半ばぐらいだろうか。

 男は日に焼けた顔で、女は疲れた顔をしながらも優しく笑っていた。

(誰や、この人ら)

 そう思った瞬間。

「よう頑張ったな」

 男が女に声をかけた。

「元気な男の子ですよ」

 近くにいた年配の女性が笑う。

 男は俺を見た。

「しかし、これで八人目か」

(八人目?)

 何の話だ。

「また男の子でしたね」

 女が苦笑する。

 男も頭をかいた。

「まあ、働き手が増えるのはありがたいことや」

 働き手?

 子供を見て最初にそれ?

 いや、昔なら普通なのか?

「でも一人ぐらい女の子でもよかったですね」

 女が笑う。

「何を言う。まだわしらも若い。また授かるかもしれん」

「ふふ。あなたは本当に男の子を作るのがお上手ですね」

「そんなこと言うな」

 男は照れたように笑った。

「わしだって娘を抱いてみたいと思っておる」

 何だこの会話。

 妙に現実感がある。

 そして、俺はある違和感に気づいた。

(待て……俺、抱かれてる?)

 体を動かそうとする。

 動かない。

 いや、動く。

 でも力が入らない。

 目の前に小さな手が見えた。

 小さい。

 あまりにも小さい。

(嘘やろ)

 赤ん坊。

 俺は赤ん坊になっていた。

 四十二歳のおっさんだった俺が。

 生まれたばかりの赤ん坊に。

「さて、名前じゃが」

 男が言う。

「八人目だからな」

 少し考える。

 いや、考えた時間は数秒だった。

「八郎でよかろう」

(軽っ!)

 思わず心の中で突っ込んだ。

 俺の新しい人生の名前、そんな決め方なんか。

 でも、男も女も嬉しそうだった。

「八郎」

 母親らしき女性が俺を抱きながら呼ぶ。

「元気に育つんですよ」

(八郎……)

 どうやら、それが俺の名前らしい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しばらくして分かったことがある。

 まず、ここは日本だ。

 言葉が分かる。

 多少言い回しは古い気もするが、日本語なのは間違いない。

 問題は時代だった。

(近未来……では絶対ないな)

 家を見る。

 木。

 土。

 紙。

 電気はない。

 照明もない。

 スマホどころか、機械らしいものが一切ない。

(古民家風とかじゃないよな)

 最初はそう思った。

 でも違う。

 これは本物だ。

 生活そのものが古い。

 そして俺は気づいた。

 記憶がある。

 令和の記憶。

 会社員だったこと。

 四十二歳だったこと。

 色々悩んでいたこと。

 そして現代で得た知識。

(これは残ってるんやな)

 ただ、不安もあった。

 赤ん坊の体だ。

 この記憶がいつまで残るか分からない。

 成長するにつれて消えるかもしれない。

 夢だったと思う日が来るかもしれない。

(忘れる前に、何とかせなあかんな)

 でも。

 今できることは何もない。

 歩けない。

 話せない。

 飯すら自分で食えない。

 できることは、寝ること。

 母親の乳を飲むこと。

 周りの話を聞くこと。

 情報を集めること。

 それだけだった。

(まあ、焦ってもしゃあないか)

 前の人生。

 いつも焦っていた。

 仕事。

 お金。

 将来。

 評価。

 ずっと何かに追われていた。

 でも今は違う。

 何も持っていない。

 だからこそ、これから全部作れる。

(八郎、か)

 悪くない。

 四十二歳の博之としての人生は終わった。

 なら。

 この新しい人生。

 八郎として、もう一度やってみよう。

 母親の腕の中。

 俺はゆっくり目を閉じた。

 こうして俺の二度目の人生が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ