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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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奴隷

 運命というものを、俺は信じていない。俺達が努力して掴み取った結果を、神が「運命」なんて言葉で自分のものにすることに納得できないのだ。例えどんな酷い結果になったとしても、神を恨むより自らを恨んだ方がよっぽど楽ではないか、そうとも思う。



 襲撃と密談の夜が明け、宵闇が黎明に優しく変わりゆく頃、俺達は情報屋の本部に戻って来ていた。とても疲労感の溜まる一夜だった。個人的には、三歳ぐらい老けた気分である。

 自分達が進めてた作戦が、何かの作戦の一部だったというのは、自らの意思で動いていると思っていた将棋の駒になったのかと思うくらい滑稽な気分である。恥ずかしい。


 もちろん全然寝ていないのだが、熱気のようなもので眠気が押し消されてしまったらしく、全く眠くない。それはジンも同様のようで、何となく雑談をして過ごす雰囲気になっていた。


「にしても、マキナさんは、古代種(エンシェント)なんでしょうか?」


 また知らない単語である。裏町用語なら聞きやすいが、この世界の常識であれば聞くのはおかしいであろう。何でかわからないけど、元勇者って言い出し辛いんだよな。

 ちなみにジンは、俺以外に「様」を使いたくないとか言って、マキナを「さん」付けで読んでいる。別に何とも言われなかったので大丈夫だろう。


「古代種?」


 まあとりあえず、分からないことは聞いてみることにする。そういう姿勢が大事だって、誰かが言ってた気がするし。


「存じませんか。古代種とは、神代や古代に存在した種族の血が濃いものたちの総称です。半精人(ハイエルフ)であったり、鍛冶種族(エルダードワーフ)だったりという者が存在します。彼らは、総じて長命という特徴を持っています」


 なるほど?分かったようで全然分からないような話だが、まあ今すぐ理解しなくても大丈夫だろう。神代や古代なんていう物々しい単語が出てきたからびびったが。

 でも、何でマキナが古代種だって話になるんだろうか。俺の疑問を察したようで、ジンが口を開く。


「マキナさんは、裏町の創始者、とおっしゃっていました。ですが、裏町ができたのは、今から約六百年前です」


 わざわざそんな荒唐無稽な嘘をつくとは考え辛いんですよね。彼はそう言って、困ったように微笑んだ。そりゃ困る。俺も困る。大して歳が変わらないと思ってた奴が、最低六百歳とか思ってしまったらな。


「人に近い見た目で、半世紀以上生きる長命。あまり詳しくないですが、始祖人(グランドヒューム)ではないでしょうか」


 始祖、か。もうちょっとネーミングのしようがあったと思う。全然始祖じゃないのに、始祖って言われる奴の身にもなれという感じだな。


「そろそろお休みになった方が良いかと」


 俺がうとうととしてきたのを察したのだろうか。彼は会話を切り上げた。いそいそと片付けをする彼を横目に、俺は、沼に沈んでいくような深い深い睡眠についていた。



「おはようございます」


 起きると、ジンとの初対面の構図で彼が俺を覗き込んでいた。なかなか起きないので心配いたしました。という彼の言葉を聞く限り、かなりの時間寝ていたのだと思う。日を跨ぐほどではないと思うが、一応聞いておくことにする。


「どれくらい寝ていましたか?」


「二日間です。今は、戦いから二日後の朝ですね」


 うん、聞き間違いだろうか?今、二日間って聞こえた気がするのだが。信じられん。いや、まあ彼が嘘つく理由もないし本当なんだろうけど。そんな感じは全くしないんだがな。


「今日は、「奴隷』を見に行きましょう」


 ジンが言う。マキナとの話し合いで、決まったことの一つなのだ。一応言っておくが、もちろん買うわけじゃない。助けるんだ。

 今回マーディッシュ商会に拐われた子供達は全員で四十人。何とも欲張りなことだ。大した技能のない奴隷なんてそんなに買い手がいるのか?

 この世界の常識はどうにも分からん。あと三年くらい過ごしたら馴染むと思うけど。今はまだ戸惑うことだらけである。


 助ける、というのはどういうことかというと、その言葉の通り、マーディッシュから解放するということである。だが、今はまだ出来ない。勝手なことをしたら多分マキナに殺されると思うし。これは比喩ではない。彼なら本気でやりかねん。


 ということで、俺とジンはマーディッシュ商会の内部構造なんかを確認するために、客に装って出かけることに決めた。別に変装とかはしていない。情報屋の特性として、顔をほとんどの人が知らないってのがあるしな。

 使用人を買うために奴隷を見にきた兄弟、という設定である。まあまあ裕福な感じを出すために良い服を着ているが、動きづらくで少し落ち着かない。

 裏町のいい服は、自分の威光を相手に知らしめるためのものだから、やたらと装飾品とかがついてて動きづらいのである。


「航様、行きましょう」


 ジンの言葉と共に歩き始める。裏町の構造上、格の高い組織ほど中心部に位置することになる。そのため、ちょっと長く歩かなければいけない。

 疲れるほどではないがめんどくさい。そんな絶妙な感じである。


 歩いていくと、だんだんと建物が豪華になっていき、道も舗装され始めた。弱肉強食、ということだろうか。強いものが弱いものを搾取する、俺から見れば歪んでいるが、それこそがこの世の真理である。

 そんなことを考えていると、いつのまにか目的地にたどり着いていた。入り口から凝った金細工が施されており、圧倒的な財力を感じさせる。建物からも、威圧感というか、そんなものが溢れているように感じられた。


 俺達が扉をくぐり抜けると、店員らしき人物が近づいてくる。会話をする前から謙った態度に見えるのは、決して気のせいではないはずだ。大方こっちがかなり金を持っていると思っているんだろうな。

 担当者になった男性店員に「最近入った孤児」とだけ要望を伝え、孤児たちがいる場所に、案内してもらう。普通は、買い手は客間に通され、着飾った奴隷が来るらしいのだが、それじゃあ今回の作戦の意味がない。

 ここまできて無駄というのは絶対に嫌なので、ごり押ししてなんとか案内してもらうことに成功した。


 一人一人、しっかりと確認していき、四十人いるかどうか確認する。顔とかの照合はジンがやるだろ。多分だけど。

 そして、最後に、一人の少女に目を向ける。四十人目だ。彼女は何てことない普通の子供のように見えた。だが、彼女と目があった瞬間、俺は彼女から目を離すことができなくなってしまった。

 俺は、運命を信じていない。だけど不覚にも、今、この瞬間、運命は存在している、そう思ってしまったのだ。


 もちろん、恋とかそんな浮ついた感情じゃない。そんなものは封印した。だけど、彼女の周囲の全てを食いちぎってやろうかと考えているような、そんな眼差しは、好ましく思えた。

 飢えと渇きを憎しみと怒りで満たしているような少女、何だか自分と似ている気がして、放っておけなかったのかもしれない。

 俺は、気がつけば彼女に手を伸ばしていた。

何とか投稿できました。明日は一話投稿にします。

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