仮面
二連続主人公以外の視点ですね、一人称が「僕」になっているので、ちょっと慣れませんでした。
人間とは、どんなに親しい者にも本当の自分を見せることのない生き物だ。全てを曝け出すなど、到底できることではない。たとえ、どんなに親しく、近しい者であったとしても、全てを知られて自分が丸裸になってしまうのを最も嫌うのが人間なのだから。
「秘密なんてない」なんて嘯く者達が、気持ち悪くて仕方がなかった。現実味がなく、うわべだけで夢物語を語っているから。しかも、そういう者達に限って隠した仮面を持っている。いや、そのこと自体は別にいいんだ。ただ、「仮面」が一つしかないなんてほざいている奴を見るのがなんだか嫌でたまらないだけで。虫唾が走る、とさえ言ってもいいほどに。
だからだろうか、この集団と共に過ごすのは、心地よかった。フレンドリーなようで、冷たい僕たちだからこそ気が合ったし、楽だった。かえって互いを大事にできた。それが、僕たちにとって最良の距離感だった。
気色の悪い同調意識を押し付けていないこの空間がたまらなく好きだった。皮肉なことに、高校に入って、絶縁状態だった滝とまた喋るようになり、新たに東と出会った今の方が、人に心を開いていると言えると思う。
だから、咄嗟に動けなかった。皆が急に東に敵意を向け始めた時、彼は関わるなと言うような、諦めた表情をしていたから。これ以上自分に踏み込むなって、寂しい表情が物語っていたから。それに従うなんて馬鹿なことをしてしまったんだ。
でも、僕は今、それを猛烈に後悔している。もちろんのことながら、僕だけじゃなく滝も。
あの時、誰に何と言われようと、たとえ東から嫌われようと、クラスに刃向かうべきだったんだ。それが無駄足に終わってしまったとしても、僕たちは味方だってそう東に思ってもらえればよかったんだから。そうしておけば、少なくとも彼は、あんな悲しい顔にはならなかった。
だから、これは当然の報いで、愚かな僕達に神が下した天罰なんだ。
あの後、三十九人になった僕らは、何事も無かったかのように日常に戻った。非日常なこの世界の、日常に。ごくごく普通の、今まで通りの日々に。だけど僕には、誰も罪悪感を感じている素振りすら見せなかったのが不思議に思えた。
だって、そんなはずないじゃないか。東は、今までずっと頑張ってきた。彼がいなかったら、小鬼戦で誰かが負傷してたっておかしくなかった。必死に、必死にやっていたのに。
なのに、何でそんな普通の顔ができるんだ?僕も含めて、この場の全員が同罪だ。裁かれるべきだろう。東に何をされたって文句は言えない。なのに、何で、どうして………
一週間。何事もなく過ぎた。僕達に見えているほんのわずかな範囲では、の話だけれど。だからこそ、僕はその静けさが不安だった。綺麗なものの裏には必ず汚いものがついて回る。表裏一体、この世の法則だ。その裏を見せられていないというのは、かなり不安になるものがあった。
その不安は的中、儚い平和は終わりを告げた。平穏というのは続かないもので、委員長が爆発した。それは、彼女にとっては必然で、今のクラスメイトにとっては異常事態だった。
「何で、東君がいなくなったの」
僕なりに考えたことだけれど、東の能力は、多分相手に嫌悪感を抱かせるようなものに変化したんだと思う。僕には効いていないみたいだったけど。あと、滝にも。
でも、ある程度効果は限られる。東と目を合わせた者しか、彼に対する嫌悪感を抱いていない。そして、委員長は、ああなった後の東に会っていない。だから、委員長は東に対して、未だにクラスメイトに向ける愛情を向けている。大切なクラスの一員だと思ってる。
僕にとっては喜ばしいことだけれど、やっぱりそれは周囲との軋轢に繋がった。周囲は上手いこと言って東失踪の事実を隠していたみたいだけれど、あの馬鹿みたいに仲間思いな委員長相手に、秘密をずっと持ち続けられるわけもない。
委員長は、とことん仲間思いだ。だから、妥協しなかった。爆発した。彼女自身のために行われたことが、何より彼女を傷つけ、クラスを分断した。皮肉なものだ。
そうして、東擁護側に着いたのは僕、滝、委員長。たった三人ぽっち。弱い弱いマイノリティ。派閥みたいなものができてしまった瞬間、また前と同じことの繰り返しになるのは目に見えていた。人間は一度やったことへの心理的ハードルが著しく下がる。
僕達三人の追放は不可避かと思えた。と、思っていたのだが、実際には二度目の追放は起きなかった。ただ、クラスが、限界まで拗れる結果になっただけで。
みんなが無駄に大人になったと言うべきか、表だったトラブルは起こらなかった。だけれど、水面下の情勢は非常に不安定だった。今となっては、追放か軋轢、どっちが良かったのかなど分かるはずもない。
ただ、現実には静かに分断が進んだと言う事実があるだけである。
それは、もちろんのこと良い結果を産まなかった。何があったか、それを今語るのは、あまりに野暮で無粋というものだろう。
いつかきっと、僕はこのことを話すだろう。今はまだ、顔も名前も知らぬ誰かに話すのだろう。でもそれは、遠く遠く先の話だ。少なくとも今じゃない。今はまだ、それを話すことを免罪符にしたくないから。
それが起こったのは、皮肉にも東が追放されてから、ちょうど半年だった。とだけ述べておこうと思う。
人は誰しも仮面をつけている。それは、そういうものだ。それに嫌悪感を抱くのは圧倒的に間違っている。その仮面を剥ごうとしてはいけない、絶対に。
人に素顔を見られるのは自分だって嫌だろう?だから仮面を壊すんじゃない。絶対的に正しい教え。それが、僕にとっての日常。でも………
いつか、誰かに自分の素顔を見せられたらいいな、なんて叶わない妄想をしながらほとんどの人が人生を終える。馬鹿馬鹿しい夢だ。相手の仮面を素顔だと無理やり思い込んで日常を過ごすのが、最も効率的。最も楽で簡単な道。それで不都合が起こるわけでもないのに。
でも、そんな相手を手に入れる一握りに、僕もなりたい。愚かながらも、そう心の底から思っている。
本日から新章です。
出来るだけ毎日投稿を続けますが、二話投稿したり、投稿できなかったり、まちまちになると思います。
先にご了承いただけると幸いです。




