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20/25

20th Stage 明けました! 今年の抱負は〝身バレ〞しない!!

いつもご覧くださり、ありがとうございます!


本日中に活動報告で今後の投稿の日程についてご報告しますので、よろしければそちらもご覧くださいますと幸いです。


 

「――あのコレクションに、私が行ってもいいの!?」


 ジュリエットが来日した日の夜。

 私たち三人は、朱里さんの行き着けと言う和食の割烹処へ来ていた。


 着物を着た仲居さんについて行き、通されたのは、完全個室に分けられたお座敷。

 やがて出てきたのは、御膳の上に盛り付けられた海鮮や山の幸の数々だった。家で再現しようと思ったら、かなりの食材費になるのは一見しただけで理解できる。


 私がゆっくり味わいながら食事をしていると、ジュリエットの口から来年の二月の暮れからパリで開かれる某有名コレクションの名前が上がた。


 なんと、そのコレクションに、ローズモンドのブランドが出品するというのだ。


 ジュリエットは湯呑みのお茶を啜ってから頷く。


「ええ。勿論、スタッフとしてね。少し早いけれど、うちも人手は欲しいから、よければ今月か来月に一度アトリエにきて欲しいんだけど……」

「勿論、行くわ!」


 私は立ち上がりそうな勢いで答えた。けれど、私はここでひとつの事実に気が付く。

 そして、その判断を最終的に下せる私の保護者――朱里さんに視線を向けた。


 朱里さんは、揚げ出し豆腐を食べようとしているところだった。


「……朱里さん。私、行ってきても、いいですか?」


 単刀直入に朱里さんへ訊ねる。

 そして揚げ出し豆腐を咀嚼した朱里さんが、口を開いた。


「紫がそうしたいのなら、私は止めないわよ」

「朱里さん! ありが――」

「――ただし」


 私の感謝の言葉は、最後まで紡ぐことが出来なかった。


「あなたが私としている賭けを最後まで通せたらの話よ」


 卒業式は、来年の三月。

 冬休みを間に挟んでいるとはいえ、残りの三ヶ月、気を抜く訳にはますます行かなかったというわけだ。


「……はい。勿論です」


 そのあとの食事は、あまり記憶に残っていない。

 ただ、期待と不安が今まで以上に大きくなっていたことに、代わりはなかった。




 そして、あっという間に大晦日を迎え、カウントダウンがTVのどの局からも告げられる。

 除夜の鐘が鳴り、ついに新しい年が幕を開けた。


 元旦。

 多くの人が休みを取る中、宮園プロダクションの社長である朱里さんだけは違っていた。


「それじゃ、後はお好きになさい」

「……はい。お仕事、頑張ってください」


 何でも、仕事始め一発目で行われる契約の最終確認をしたいとのこと。

 そのため、元旦早々、マンションの仕事部屋に籠ると朱里さんより宣言されたのだった。


 ぱたんと、閉められた仕事部屋の扉を前にして、私は何をしようかと思案する。


(……そうだわ!)


 私はジュリエットが年始明けにフランスへ帰ると言っていたことを思い出し、二人で初詣に出掛けないかと誘うことにした。


 行き先は、港区増上寺。

 朱里さんのマンションから車で数分。


 ジュリエットが止まっているホテルからも近いということで選んだものの、参道から境内に続く初詣客の数は尋常ではなかった。


「……うう、やっぱり人が多い……」


 山門の前から本堂へと真っ直ぐ伸びる参道に並ぶ、長蛇の列。

 この列の中に並んで本堂へと辿り着くのは、果たして何時間後になるのだろう。


 固まる私の顔をジュリエットが覗き込んだ。


「まだ治ってなかったのね。その人混みが苦手なところ。〝紫苑〞だとそんなことないのに……」

「ジュリエット!」


 こんなに人通りがあるところで、何を言い出すよっ。


「あら、ゴメンゴメン」


 苦笑で返すジュリエット。

 そう。私は本来、人前に付くことが苦手だった。


 二時間頃。


「やっと入れた……」


 山門から参道に並ぶ列に加わること約二時間。

 やっとの思いでご本堂へと辿り着いた。


「お寺は、お参りの仕方が神社とは違うのよね?」


  小声で訊ねてきたジュリエットに、私は頷く。


「うん。柏手じゃなくて、合掌ね」


 ジュリエットの疑問に答えながら、私はふと自分の初詣が数年振りだという事実に気付いた。


 ここ数年、私は《Vision》の〝紫苑〞として活動していたため、正月は特番番組に出演させてもらうことが多く、個人的な初詣には行っていなかったことを思い出す。


 そして、係の人の声に従いながら通されたご本堂。

 特設された賽銭箱に賽銭を投げ入れ、私たちは合掌し、新年の感謝を伝える。


 以前にどこかで、神仏には願い事をしない、なんて聞いたことがあるけれど。それでも、願わずにはいられなかった。


 神頼み。仏頼み。何でもいい。

 今の私の願い。それは、


 ――今年こそ、身バレしませんようにっ!


 その一つだけだった。




「……」


 次の日の朝。

 ベッドの上で目を覚ました私は、ついさっきまで視ていた夢について考えていた。


 夢を視た。


 〝紫苑〞の時の、何てことのない、日常の夢を。


 周りには、朱里さんや捺花さん、そして《Vision》のメンバーがいた。


 その中で、〝私〞は……


(私は、なんて思ったんだろう……?)


 場面は思い出せるのに、自分がどう思っていたのかが思い出せなかった。


 リビングへ向かうと、ジュリエットがソファの上で寝ていた。

 昨日私が寝る前にローテーブルの上で見た缶やつまみは綺麗に片付けられているものの、おそらく昨日、深酒をしたのだろう。


 一方、彼女と一緒に飲んでいたと思われる朱里さんは、ダイニングテーブルで優雅にコーヒーカップを口に運んでいた。


 新年二日目にしていつも通り早起きな朱里さんは、午前七時の現時点で、身だしなみは既に整っていた。

 ただ自宅ということで、フォーマルな服装ではなく、上はラフなクリーム色のブラウス、下はジーパンという組み合わせだった。


「おはようございます。朱里さん」

「おはよう。紫。どうだった? 初夢は」

「……あまり、覚えてないです」


 結局、懐かしい光景、とまでしか思い付かなかった。


「今日は午前と午後に二件ずつ来訪があるから、お茶の準備をお願いね」

「わかりました」


 有名プロダクションの社長である朱里さんには、新年二日目の今日から取引先相手より新年の挨拶が来ることになっていた。


 私は訪れる人たちにお茶を出し、その際に「社長のお嬢さんですか?」「いいえ、姪です」と聞かれて答えるまでがワンセットで、対応したのだった。


 そんな中での、最後の来客。

 リビングのソファの前のローテーブルへ、私はお盆に乗せたお茶を置いた。


「どうぞ」


 これで今日の仕事は大方終了。後は、朱里さん宛に来ていた年賀状を、会社名称順にファイリングする仕事が残っていた。


「恐縮です……って、君は!」


 いきなり声を張られ、私は肩を震わせた。

 相手は四十代の男性で、すらりとした体格。朱里さんからちらりと聞いた話では、カメラマンをしているとのことだった。


「もしかして紫ちゃんかっ!?」

「はい。えっと……」


 自分の膝を叩きながら、男性は笑う。


「俺のこと覚えてないのも無理はないな。確か最後に会ったのは、君のご両親の三回忌だったから。あの時の君は、まだ小学生の低学年だったもんな」


 そう言うということは、少なくとも私の両親どちらかと交流があり、私も会ったことがある口振りだった。

 私は記憶を辿り、かつて父が仲良くしていたというカメラマンの人の名前に辿り着く。


「もしかして、石崎さんですかっ!?」

「ああ。そうだよ」


 笑いながら頷く石崎さん。


 石崎いしざき直文なおふみさん。

 記憶の中の石崎さんはまだ三十代だったこともあり、少し目許や口許に皺が出来ていた。それでも、その笑い方と声は昔と何ら変わっていない。


「……そうか。あれから十年か。大人になったな、紫ちゃん」

「あ、ありがとうございます」


 幼い頃の私を知り、かつ何度か遊んでもらった覚えもあり、私はたちまち恥ずかしい気持ちに駆られた。


「そうだ! この前、古いフィルムを現像したんだが、君たち家族が写る写真があったんだ。良ければ、今度持って来るよ」

「本当ですか! 嬉しいです!」


 私は家族三人で撮った写真が数えるほどしかなかったことを石崎さんに伝えた。


「私と母のツーショットは、何枚もあるんですけど……」


 私の言葉を聞いて、石崎さんが頷く。


「そうそう! 朱鷺花のやつ、モデルなんて仕事してるのに、カメラに写るのは苦手って言ってたな」


 石崎さんの思出話に花が咲く。そしてそれを聞いている私と朱里さんも、懐かしい気持ちで聞いていた。


「そう言えば、〝顔が映らないなら〞って理由で、引退した後に一度、急遽レンジャーもののスタントを引き受けてくれたことがあってね。いやぁ、あの時はほんとに助かったよ」


 運動が得意だった父は、戦隊もののスタントをやったことがあったらしい。

 それはモデル時代にも何度かあったようで、朱里さんも頭を悩まされたと続ける。


「いくらモデルにとって怪我が一番の命取りだって何度説得しても、〝子どもたちを笑顔に出来るのなら、モデルを辞めるぐらいの怪我をしても悔いはない〞って言って聞かなくてね」


 朱里さんが微笑みながら言う。

 朱里さんがそんな顔をするのは、とても珍しかった。


「それじゃあ、今度その写真を送るから」


 帰り際、石崎さんはそう約束してくれた。


 扉が閉まり、今日の来訪はもうないと思ったその時。

 朱里さんのスマホが鳴った。


 画面を一度見て、直ぐに電話に出る朱里さん。

 いつもそうなんですね。


「はい。もしもし、宮園です」


 一点気になったのは、なぜかスピーカーにして電話に出たところだった。

 そのお陰で、電話口の向こうの声が私にも聞こえてくる。


『あかりん社長~。やっほ~☆』


(こ、この声は……)


「あら、お疲れ様。収録は終わったの?」


 次に電話口に出た声は、黄架だった。


『はい。ちょうど今、終わったところです。

 それで、みんなと話していたんですが、今から新年のご挨拶に伺っても宜しいでしょうか?』


(――はぁっ!?)


 私は声を抑えるので精一杯だった。


「ええ。勿論よ、いらっしゃい」


あろうことか、朱里さんは快諾してしまった。


『ありがとうございます! 実は今、車ですぐそこまで来ているところなので、二十分以内には付けるかと思います』


そして、電話が切れた。


「朱里さん!? 何で〝いいよ〞って言っちゃうんですか!?」


(私がここにいるのに!!)


「ここに居たくないなら、出て行ってもいいのよ?」


 そうは言っても、このマンションのエレベーターは一機のみで、この階は二十四階。

 防犯上の作りで他の階には降りられないようになっていることから、エントランスからエレベーターの前までで鉢合わせする可能性が高かった。


 そうこうしている内に、刻一刻と時間は過ぎていた。


「なぁに? 朝から廊下で……」


 ジュリエットが起きてきた。

私の部屋のベッドを貸して寝ていたジュリエットが、起きてきた。


「おはよう、ジュリエット。もう昼の十三時よ」


朱里さんが告げる。


寝惚けているのだろう。ジュリエットの金髪には寝癖がついていた。

そして私は、現状を打開する唯一の方法を閃く。


(……こうなったらっ!)


 私は意を決してジュリエットに向き直った。


「ジュリエット! お願いがあるの!」

「……お願い? 私は朝ごはんは和食でお願い……」

「お願いがあるのはこっち!」


 まずは彼女をしっかり目覚めさせる必要があった。


【2020/9/1:追記】

橙羽:……うーん。

 藍:何そんなに悩んでるの? 橙羽。

橙羽:あかりん社長のとこに持ってくお土産、何がいいかなって考えてるの。

 藍:ああ! 「ほんの気持ちですが……」って挨拶しながら渡すやつね!

   それで、今のところの候補は?

橙羽:塩辛か和菓子。

 藍:極端だね! 確かに、社長は辛いの好きだって前に言ってたっけ。

   俺は和菓子の方が嬉しいけど! 黄架もそう思うでしょう?

黄架:もうっ! 二人ともいい加減に真面目な次回予告してよ!

   スタッフさんに怒られるの、僕なんだけど!!

   次回『21st Stage 断固拒否!? メンバーの本音!!』

橙羽:お楽しみにね♪♪

 藍:黄架、お土産は和菓子にしようよ!

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