表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《Vision》を越えて!  作者: 都辻空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

21st Stage 断固拒否!? メンバーの本音!!

いつもご覧いただきありがとうございます!

いよいよ物語も終盤……

 

 玄関の方から、《Vision》のメンバーが朱里さんへ新年の挨拶をしている声が聞こえてきた。


「社長、明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いします!」

「ええ。おめでとう。こちらこそ、本年も宜しくね」


 その挨拶で終わることを私は心から願っていた。

 けれど朱里さんは、新年早々に耳を疑うようなことを口にする。


「外は寒かったでしょう? せっかくだから上がっていきなさい。お茶でも淹れるわ」


 そしてメンバーの歓喜の声が聞こえた。


(……やっぱりそういう人ですよね、朱里さんは!)


 いくつもの足音がリビングへ近づいてくる。私は静かに息を飲んでその瞬間を待った。


 かちゃり。


 リビングに最初に入ってきたのは、緋織だった。

 その目と、視線が合う。


 見開かれた緋織の目。


「え……っ? し――」

「わー! 紫苑だ~!」


 けれど緋織の言葉は、後ろから来た橙羽に上書きされた。そして次々に《Vision》のメンバーがリビングへと入ってくる。


「お久しぶりです! 紫苑くん」

「……うん。久しぶり」


 黄架が笑顔で話しかけてきたので、〝私〞もそれに答えた。

 大丈夫。上手く笑えているはず。


「背、縮んだか?」

「そんな訳ないだろ。みんなが伸びたんじゃない?」


 自身の背と手で比べる翡翠みどりの言葉に、一瞬で鳥肌が立った。

 けれど、当人は笑いながら言っていたので、特段怪しまれてはいないようだ。


(そうだっ! 靴履いてない!!)


 スタジオでの練習でも特注のスニーカーを履いていたから、なおのこと違和感を持たれてしまったのかもしれない。


「……」

「……」


 残る二人の反応は別々だったものの、その目は確かに〝私〞に向けられていた。


 黙る青史郎と、苦笑する藍。


 先日、青史郎と会った時、二人で会ったということは黙っていてほしいと頼んでいた。他のメンバーの反応から察するに、その約束を守ってくれているようだ。


 一方の藍は宮園紫(わたし)と接点がない以上、特別あの後どこかで話をしたと言うことはなかった。ただ、学園の廊下ですれ違う時に何度か視線を交わすことがあったけれど、それぐらいだった。


「そうしたら紫苑、お茶の準備を手伝ってくれる?」

「……はい、社長」


 〝紫苑(この姿)〞の時は、朱里さんのことを『社長』と呼んでいた。

 私は朱里さんより、メンバーから渡されたのであろう土産の紙袋をもらい、台所へと向かう。


 その〝私〞の後ろ姿を、メンバーは唖然と見つめていた。

 背後でヒソヒソと小さな話し声が聞こえて来く。


「なあ……あいつ、いつもと雰囲気違くね?」

「そうかな? 僕にはいつもの紫苑に見えるよ」


 翡翠の問いに藍が答えていた。


(ありがとう、藍!)


 藍に心の中で感謝を述べつつ、〝私〞は先ほど鏡で確認した〝紫苑〞の姿を思い出して胸を張る。

 引退したとはいえ、本場のメイク術を身に付けていたジュリエットの早業のお陰で、私はメンバーが来る僅かな間に〝紫苑〞となることが出来たのだ。彼女の腕は衰えていない。


「私も手伝います」


 最後にリビングに入ってきた捺花さんが、後ろから着いて来た。


「……ありがとうございます」


 一瞬合った捺花さんの眼差しは、謝罪の色を含んでいるように感じる。


『あの六人を止められなくてごめんなさい』


 そう言っているようだった。


 〝私〞は微笑んで、捺花さんを見つめる。

 大方、突発的な橙羽の思い付きにメンバーのみんなが賛同した形になったのだろう。


 台所はリビングから少し離れていたため、〝私〞はお茶の用意をしながら捺花さんに思いを伝えた。一応小声で。


「大丈夫ですよ、捺花さん」

「でも、せっかくのお正月だったのに……」


 お盆に人数分の湯呑みを揃え、茶葉を急須に入れる捺花さんの前に置いた。

 朱里さんから渡された紙袋の中身は和菓子で有名な某老舗の芋羊羹で、それを切り分けて小皿に乗せる。


「……それはみんなもそうですよ。()が何か言える立場じゃない」


 本当なら、〝紫苑(この姿)〞でメンバー全員の前に経つことはもうしなくなかった。


 けれど、宮園プロダクションの社長である朱里さんとは関係がないと言っている以上、〝宮園紫わたし〞のままで彼らの前に現れるのはリスクが大きすぎた。

 万が一にでも家の中で鉢合わせした場合、どうやったって取り繕うことが出来ない。


 だから〝宮園紫()〞がここにいることは、なんとしてでも隠したかった。


「ねえ、紫苑は、この前の青ちゃんの報道知ってる?」


 〝私〞と捺花さんがリビングへ戻ると、ソファにはメンバーが座っていた。

 そして〝私〞が橙羽の前に湯呑みを置くと、その言葉が投げられる。


「ちょっと、橙羽」


 嗜める口調の黄架の声を聞かず、橙羽は続けた。


「紫苑の時よりも大きく報道されてたよね~」

「……」


 橙羽に苦笑を返し、〝私〞は立ち上がる。


 相変わらず、選んでいないようで選んでいる言葉。

 橙羽はいつもメンバーのことをよく見ていた。当然、〝紫苑(私)〞のことも。


 だから例えどんな些細なことだとしても〝紫苑〞が〝誰か〞と比べられるのが無意識に嫌がっていると言うことに気付いていたらしい。


「はやく、紫苑も戻っておいでよ~」

「そうですよ。僕たちだって、待ってますからね」


 黄架が他のメンバーにも同意を求めた。

 翡翠、藍、青史郎がそれぞれの顔を見合わせながら口々に言葉を告げる。


「そうだな……確かに、急にいなくなった理由は聞きたいけど、俺的にはお前がいないってだけで、こいつらがどれだけバカやるのか目の当たりにしているし……」

「俺は、紫苑がいつ戻ってきても大歓迎だよ!」

「……お前には、借りがあるからな……」


 言葉は違えど、メンバー三人の想いは温かかった。


 私は彼らの言葉を聞いて、今朝視た夢を思い出す。偶然か必然か、夢の中で抱いたような感情が込み上げてくるのがわかった。

 けれど〝私〞が言葉を紡ごうと口を開いた、その時。

 

「――俺は認めない」


 聞こえてきたのは、一切の感情を殺した声だった。

 〝私〞を遮ってそう口にしたのは、他でもない《Vision》最後の一人。


「緋織……」


 ソファの端に座っていた緋織は、〝私〞のことを見向きもせず、淡々と続けた。


「みんなは優しすぎだよ。何で簡単にそう思えるの?


 あれだけ俺たちや会社プロダクションに迷惑掛けておいて、今さら〝ごめん、やっぱり、もう一度《Vision》として活動したい〞って?


 お前がいなくなってから、一体どれだけ経ってると思ってるんだよ。今さらそんなこと言われても、どの面下げて〝戻りたい〞って言ってるのか、逆に俺が聞きたいんだけど?」


「ちょっと、緋織くん。それは言い過ぎだよ……っ」


 緋織の隣に座っていた黄架が、焦りを帯びた声を上げた。

 他のメンバーは、普段の彼とは思えない態度に、それぞれの心境で沈黙を貫いている。


「……」


 けれどこんな修羅場の状況下でありながら、〝私〞は傷付く――否、失望することなくその言葉を投げた本人の緋織を見ていた。


 ――思っていた通りの言葉だ。


(そう、だよね……)


 そしていつか貰った言葉を思い出す。


『宮園さんがその人たちのことを大切だって思ってるくらい、その人たちも宮園さんのことを大切だって思ってるはずだよ』


 その言葉を贈ってくれたのは、他ならない緋織だ。

 けれど、それを向けたのは紫(私)であって〝紫苑(私)〞ではない。


 反対に、今向けられた言葉は、間違いなく〝紫苑(私)〞へと向けられたものだった。

 その事実は、どうしたって変えられない。


 〝私〞が彼らの許へ戻りたいなんて思うこと自体がおこがましいのだ。


 〝紫苑〞はいつだって、《Vision》のこと、ファンのことを第一に考える人だった。

 〝紫苑〞はいつだって、持てる力を全力で出し切って、努力を惜しまない人だった。

 〝紫苑〞はいつだって、〝誰かのために〞という理由で、何かを途中で投げ出さない人だった。

 〝紫苑〞は――


 〝紫苑(私の理想)〞は、もう、どこにもいないのだから。

 

「……っ。何か言ったらどうなんだよっ! 紫苑!!」


 緋織がソファから立ち上がった。

 すると緋織の視線が高くなり、〝私〞は彼を少しだけ見上げる形になる。


 緋織が〝私〞に向かってくるのを止めようと、リビングの端から私たちの間に入ろうとした捺花さんを、朱里さんが止めていた。

 その光景を横目で捉えたあと、私は一度だけ目を閉じ深呼吸を小さくする。


「……緋織の――」


 声に私の感情が乗らないように気を付けて、口を開いた。


「緋織の言っていることは、正しいよ。僕はもう、アイドルでいる資格がない」

「……っ!?」


 〝私〞の言葉が予想外だったのか、その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべている。

 緋織に至っては、先ほどこの部屋で会った時と同様に目を見開いていた。


「……それじゃあ、僕はお先に失礼しますね」


 その場の全員に対して会釈をする。

 振り向き様に、もう一つ伝えていなかったことを口にした。


「……遅くなったけど、新年明けましておめでとう。本年が、みんなにより良い年でありますように」


 〝私〞はその場にいた誰かが沈黙という選択以外を選ぶ前に、マンションの部屋から飛び出した。


 ――これでよかったのだ。


 〝宮園紫=紫苑〞ということもバレずに済んだし、今〝紫苑(私)〞思っていることも(一方的ではあるけれど)伝えられたのだから。


 新年早々薄着で外へ出てしまったものの、胸の奥から込み上げてくる熱のお陰で、しばらくは寒いと感じなかった。


 緋織:……。

青史郎:(ボソッ)緋織?

 緋織:ご、ごめん! マイク、もう回ってる?

青史郎:しっかりしろ。再来月にはライブも控えているんだからな。

 緋織:うん。ありがとう、青史郎。やっぱり青史郎は頼りになるよ。

    俺、《Vision》のリーダーとして、これまで以上に

    みんなに夢を与えられるよう、頑張るから! 改めてよろしくな、青史郎。

青史郎:あ、ああ……こちらこそ、よろしくな。

    (絶対あいつに言われたこと引き摺ってるだろ、これは……)

 緋織:次回『22nd Stage とうとうバレた!? 〝紫苑〞の正体!!』

    お楽しみに!

青史郎:……《Visionアイドル》は夢を与える存在、か……

 緋織:……青史郎?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ